「よし……終わった!」
新曲を書き終えたユイトが
ぺンを置いたころには、さっきまで聞こえていたはずの、野球部のボールを打つカキンという気持ちのよい音や、
陸上部の体操の元気なかけ声は消え、
既に日は沈み、外は暗くなっていた。
「みんなもう帰ったかな…」
六人がダンス練習をしていた屋上からも、
いつもの元気な声は聞こえてこない。
「真姫に歌詞渡そうと思ったんだけどなぁ…」
帰りの仕度をし、教室の電気を消して
まだ電気のついている廊下へ出る。
「あ……」
教室のドアを開けたすぐ横に、
壁によりかかって小さな寝息を立てている
真姫がいた。
どうやらずっと待たせてしまっていたようだった。
「あーあ、寝ちゃってるよ…」
そう言って、ユイトは肩をたたいて真姫を起
こそうとする……が。
「…そうだ!」
ケータイをバッグから取り出し、
「いつもバカにされてるから、小林の為に、
寝顔の一枚くらいもらっても罪
にはならないはず…あいつ真姫が
可愛いみたいなこと言ってたしなぁ」
カメラモードのケータイを彼女へ向ける。
「…まてまて…それじゃあただの変態だ…
さすがにマズイ…」
そう言って、真姫に向けたケータイを
とじようとした時…。
「ハックション!!!」
何の前ぶれも無く、
ユイトは盛大なくしゃみをした。
「うーん…」
その音で真姫が目覚めかける。
それを見てユイトはあわてて
ケータイをしまう。
「…お、おはようございます西木野さん…」
目を擦りながら起き上がる真姫に
ユイトが声をかける。
「...ん....おはよう...!?...ユイト!?」
目の前のにいる俺を見て驚く真姫。
「うそ!?寝ちゃってたの...!?あんた、まさかヘンなこと
してないわよね!?」
「ギクっ!い、いや、何もしてませんよ...ははは...」
どうやら気づいていなかったようだ。
胸を撫で下ろすユイト。
「そうだ、これ書き終わったから。
待っててくれてありがとな」
「な、何言ってんのよ!!べ、別にあんたのために待ってたわけじゃないんだからね!」
真姫はユイトの手から紙をひったくり、顔を朱に染めて階段を駆け下りていった。
「俺もそろそろ帰らないと…」
ユイトも廊下の電気を消し、学校を後にした。
ユイトは、雲ひとつない空で輝く月を眺めながら、帰路についていた。
明日は、野球部に顔を出しておかないと…。
そんなことを考えながら、民家の明かりがこぼれる夜道を歩く、
その時、
カタ、と音を立ててポケットから何かがコンクリートに落ちた。
「ん…」
その正体は、ユイトのケータイであった。
真姫から隠すため、急いでポケットに入れたため、ポケットの途中で引っかかって
不安定な状態にあったみたいだ。
拾い上げ、ケータイの無事を確認するため、画面を開くと、
そこには、真姫の寝顔が写っていた。
どうやら、くしゃみをしたはずみで撮影ボタンを押してしまっていたようだ。
ユイトは一瞬考えてから、「保存」ボタンを押したのであった。
翌朝
「ユイト!起きなさい!…起きなさいって言ってんの!!」
「ん…まだ五時半だって…てか美少女が朝起こしに来てくれるなんて…
それなんてエロゲ…」
「起きなさいッ!」
「ぐェッッ!!!」
ありのまま今起こったことを話すぜ。
どうやら俺、風間ユイトは学校に登校してすぐ
机に突っ伏して、
朝学活が始まるのをハッピィな夢を見ながら待とうと
していたところ、
マキ・ニシキノに延髄チョップを食らわせられたようだ。
「まあ冗談はこれくらいにして、西木野さん
なんの用でしょうか」
なぜかとても疲れた顔をした真姫に尋ねる。
「はぁ...曲が完成したから伝えにきたの」
そう言った真姫の目の下はうっすらと黒くなっている。
「まさか…徹夜して曲を…?」
「はぁ!?こ、この天才の真姫ちゃんが徹夜なんて
するわけないでしょっ!?」
「はいはい…ありがとな」
「…一週間後にまずはにこ先輩とあんたに
新曲を披露してあげるから、首を洗って待ってなさい!」
そう言って、真姫は教室を出て行った。
「おいユイト…今の誰だ?まさか彼女か?」
呆然とするクラスメイトを代表して、
親友の小林がユイトに尋ねる。
「違いますよ…勘違いしないでくださいね!」
そう言って、海末に助けを求めるため視線を向けると…。
何故か思いっきり睨まれました…。
バシィッ!!
ユイトの手から放たれたボールは、
吸いこまれるように、乾いた音を立てて
キャッチャーの持つミットに突き刺る。
「いい球だ、130km/hくらい出てるんじゃないか?」
そう言ってキャッチャーはユイトにボールを返す。
放課後、ユイトは助っ人として呼ばれた
野球部で、投げ込んでいる。
時折屋上から聞こえてくる新曲に耳を傾けながら、来週に迫る、夏の甲子園への予選に向け、
ユイトはひたすらボールを投げていた。
またまた感想をいただきました。
たくさんの感想ありがとうございます。
いやーうれしいです!
やはり読者の方があってこその小説だと思いますので、これからもよろしくお願いします。