ちなみに8/23に誕生日を迎えました。
べ、別に祝って欲しくなんかないんだからね。
部室にて。
「……ということで、ライブを昼と夜の2回に分けて行おうと思うんですが、どうですかね?」
文化祭ライブにおいて、ターゲットである中学生に出来るだけ多く来てもらうため、ユイトはライブを2回行うという結論を出した。
音ノ木坂は私立高校のため、ナイターなどの照明設備も充実している、さらにユイトは現在野球部に助っ人として入っており、融通がきくためそれらをある程度自由に使うことが出来る。
そして、生徒会長である絵里、副会長の希がμ'sに入ったため、ユイトは運営側にも間接的にある程度口出し出来る様になっていた。
そのため、今年の文化祭のテーマは「音ノ木坂」にしてもらった。
地域と学校、それは直接は関係のないものなのかもしれない。しかし、改めて、地域を知ることで、長い歴史があるだけあって、そこに深く根付いているこの学校の良さを発見できるのではないか、さらに都市化が進み、穂むらのような老舗店舗は少なくなってきている今、もう1度音ノ木坂というものを生徒と住民が考え直す機会が必要であると考えた。
そして、最後の切り札。それは、ライブを動画投稿サイトで生放送する、ということ。そこで知名度を広げることで、ラブライブ!の順位も上がることが期待できる。
「そうね……確かに名案ではあるわ……」
「だけど……生放送……緊張しますぅ……」
絵里と花陽は言葉を濁す。
全員、一応賛成したものの、ただでさえビッグイベントなのにも関わらず、生放送、となるとやはり大きな緊張を抱かずにはいられない。
「まあ、そんなに気負わなくていいですよ、気楽に行きましょう」
「でも……やはり、この学校の存続は次の文化祭にかかっていることに違いはないわ」
にこの言葉に、押し黙る一同。
μ'sが結成された1番の目的、それは、オトノキを廃校から救うこと。
つまり、次の文化祭が正念場と言っていい。
120人入学希望者を集めなければいけない。
10人にとって、それは相当なプレッシャーだった。
「とにかく、私たちは最高のパフォーマンスをできるように、練習を頑張りましょう!」
その海未の言葉で、張り詰めていた空気は、いい意味でピリッとした空気に変わる。
「凛も頑張るにゃー!」
「穂乃果も頑張りたいと思います!!」
「そうや、ウチ、ダンスは意外と得意なんよー」
「希、ダンスなんてできたの?」
「失礼やなぁえりちーは、ウチ、ダンス習ってたんよー」
「……ハラショー!!」
盛り上がる9人を見届け、ユイトはグラウンドへ向かった。
ここ数日は練習に出れていなかかったが、彼も現在は野球部の一員であり、仮にもエースである。
3日後には、順調に勝ち進んできた地方予選の準決勝が行われる。
こちらはこちらで、大勝負である。
ビシィィッ!!
今日も、ユイトのボールを受けた捕手のミットは、乾いた爽快な音を出す。
「今日は、スライダーのかかりがいいぞ」
「ああ……」
返球とともにかけられらた言葉に反応しながらも、やはり屋上からかすかに風に乗って聴こえる音楽に耳を傾けてしまうユイトがいた。
3日後。
今日は予選の準決勝。ここまで来たなら勝たねばならない。
音ノ木坂の為にも。
キュッとキツく靴紐を締めるユイト。
円陣を組み、気持ちを一つにする。
助っ人であるユイトも、試合になれば立派な仲間だ。それだけに責任も重い。
「ストライクスリー!バッターアウト!」
主審の声に、ベンチと会場が湧く。
立ち上がりは順調なユイト。
「ユイト、がんばってくださーい!」
「ファイトだよーっ!」
μ'sのみんなも、文化祭が迫る中時間を割いて応援にきていた。
「よし、これで1点入ったわね」
真姫が思わず、小さくガッツポーズをする。
3回の音ノ木坂の攻撃、打線がつながり、1点を奪った。
「まだ油断はできないニコ……」
「ニコ?」
凛は素に戻ったにこの言葉を聞き逃してはいなかった。
「な、何でもないわよ、点があと2個は必要だなーみたいな?」
「まったく、見苦しいわよ、にこ。素直になりなさい」
にこと凛のやり取りを聞いていた絵里がにこに告げる。
「分かったニコ……」
「素直になったにこちゃん可愛いにゃ~」
「凛、語尾に特徴があるキャラはあたしで十分ニコ。真似するんじゃないニコ」
「にこにーひどいにゃ~」
「まったく、冗談よ」
「にこちゃんと凛ちゃん、いつの間に仲良くなったんだね」
「花陽、おにぎりを食べながらしゃべるのはやめるニコ……」
μ'sの中の空気も和み、にこたちが一瞬試合から目を離したその時……
「きゃぁぁぁぁっ!!」
初めに悲鳴をあげたのは海未だった。
見ると。マウンドの上にユイトが膝を付いている。
すぐそばに転がる白球。
相手打者の打った打球が、一直線にユイトの右腕を襲った。いわゆるピッチャーライナーである。
しかし、どうもユイトの様子がおかしい、右ひじを抑え、立ち上がれない様子だ。
「クソっ……」
ユイトは痛む右肘を抑えながらつぶやく。
また自分のせいでチームに迷惑をかけてしまうのか……。
溢れるのは悔しさだった。
ユイトは痛みと悔しさで立ち上がることができなかった。
その時。
「おい、大丈夫か?」
ふと左肩を叩かれる。
ユイトが顔を上げる。
「おまえは……」
ユイトが驚くのも無理は無かった。
そこにいたのは、音ノ木坂の本当のエースだったからである。
「ピッチャー交代だ。やっとリハビリを終えて、駆けつけたぜ。俺が投げるのは次の試合からの予定だったがな」
「すまない……」
ユイトは悔しさでいっぱいだった。
自責の念に押しつぶされそうになる彼の周りに、残りの8人のメンバーも集まる。
「謝るなよ、俺たちがここまでこれたのはお前のおかげだ」
「みんな、お前に感謝してるんだ」
「ユイト、今までありがとう」
「……みんな」
真のエース。彼の背番号は10番。
彼が肩を貸し、ユイトを起き上がらせる。
「ほら見ろ、あいつらを」
彼は客席のμ'sを指差した。
「俺はネットであいつらの存在を知った。お前の存在も。次はお前があいつらを輝かせる番だ。音ノ木坂を、頼んだぞ」
彼はユイトにそう告げた。彼は続ける。
「それぞれが、自分の好きな場所で、好きな事で頑張る。新しいゴールに向かってな。それはとても素晴らしい事だ。だから俺はあいつらを応援する」
ユイトは無言で頷いた。
肩を借りてベンチに戻り、マウンドへかけて行く、オトノキ野球部の「10人目」のメンバーのその背中に、彼は小さくつぶやいた。
「……ありがとう」
試合の結果は、
1-0
リードを守り抜き、ついに音ノ木坂は決勝まで駒を進めた。
しかし、それを喜ぶ間も無く、文化祭が迫ってきていた。
ユイトは思う所があり、新曲のサビの歌詞を少し変更した。
これで、後に伝説となる
「僕らのLIVE 君とのLIFE」
が完全に出来上がった。
9人は練習を重ね……文化祭は明日に迫っていた。
練習の帰り、橙色の夕日が照らす中、穂乃果、ことり、海未が帰路についていた。
「明日は……本番だね」
いつもの穂乃果からは考えもつかない、弱々しい声。
「穂乃果ちゃん、緊張してる?」
心配そうに穂乃果の顔をを覗き込むことり。
「凄くしてる……でも、一番怖いのは、明日失敗して、何もかもがダメになっちゃうこと……」
「何を言っているのです。私達は9人です。それにユイトもいます。モナやシンイチ、手伝ってくれる仲間もいます」
海未がそんな穂乃果にピシャリと告げる。
「だけど……私のせいで、みんなを巻き込んじゃって……失敗したら……」
「違うよ穂乃果ちゃん!私達をここまで連れてきてくれたのは穂乃果ちゃんなんだよ。
穂乃果ちゃん、ありがとう!」
「私も、ありがとう。その一言に尽きます。そして、私たちのことも、信じて下さいね」
偽りのない真っ直ぐな2人の言葉に、揺れる穂乃果の心。
「…………うんっ!」
一瞬の沈黙の後、穂乃果は晴れ晴れとした顔で答えた。
穂乃果のその声は、夕空に遠くこだました。