ラブライブ!if-モシモノ世界、カガヤク未来-   作:あさと

8 / 23
8話 「勇気をだして」

新入生歓迎会が終わった後、ユイトは病院に

来ていた。

 

「素晴らしい、この半年でほぼ完治していますね、これならもう一度マウンドに立てますよ」

 

「そうですか...」

 

中学の時、肘を痛め、それから治療を続けていたユイト。

彼の肘は、二年間何もしていなかったからか、「μ`s」のファーストライブが終わった今日、ついに完治していた。

ただ、彼は現在、スクールアイドル

「μ`s」の作詞家として活動している。

このタイミングでの肘の回復に対し、

ユイトは複雑な心境だった。

 

 

心字池 ゆらりゆらりと おぼろ月

 

夏の俳句コンクールに向け、俳句を書いてみるも、納得がいくものは書けなかった。

その原因は、彼の心の中にあった。

 

このタイミングで肘の回復。そして、肘が治ったのは喜ばしいことだったが、彼は怪我をした時の恐怖によって、ボールを投げることができなくなっていた。

 

公園の壁に向かって腕を振り下ろしても、ボールは、目の前の地面に打ち付けられるだけだった。

もうボールは投げられない。

俳句一筋で生きて行こう。

自分でも、そう諦めようとした。

 

それでもユイトは

学校帰り、だれもいない公園で、恐怖と闘っていた。

毎日公園の壁に向かってボールを投げた。

始めはやはりボールを投げることすらままならなかった。

それでも彼は公園に向かった。

そこに彼を向かわせたもの、それは、

μ'sと初めて会った時の、彼女たちの後ろ姿だった。

 

彼もまた、夢を諦めきれていなかった。

 

ファーストライブから二週間。

彼女らの勇気に押されてか、辛うじてボールは投げられるようになった。

と言っても、以前のような球速もコントロールも、戻ることはなかった。

 

そんな時だった。

九人しかいない野球部のピッチャーが

肘を痛め、戦線を離脱。

そのため、どこからか肘が治ったことを知った部員がユイトに助っ人として

投手をして欲しいと頼み込んできた。

 

「無理だな」

もうマウンドには立ちたくない。

そう口にしようとした時、μ`sの三人の姿が脳裏に浮かんだ。

「考えてみる、明日まで待ってくれ」

ユイトは、そう答えていた。

 

帰り道、ユイトは訳もなく、神社に向かっていた。

今日はμ`sの姿はなかった。

そして、静かな境内に座り景色を眺めていると、

「どうしたん?そんな顔して?」

「副会長!?」

そこには、

巫女さんの姿をした生徒副会長

東條希が居た。

 

「悩みがあるんなら、

ウチに話してみ?」

 

その言葉に、ユイトは、溜まっていた不安を吐き出さずにはいられなかった。

 

 

助っ人として、投手を頼まれたこと。

そして、『待ってくれ』とは言ったものの、今の自分には

投手はできないこと。

三人が頑張っているのに、自分は何もできない悔しさを

ユイトは希に話した。

 

「そうかー。

μ’sの作詞家さんも大変なんやな」

 

「...どうしてそのことを!?」

 

「ヒ・ミ・ツ!

だけど、

ウチは風間君も、立派なμ’sの一員やと思う。

いい曲やったで、START:DASH!!」

 

「ライブ、来てくれたんですか!?」

 

「もちろんや!ウチはμ`sのこと応援してるからな!」

 

ユイトは、その言葉が、我が身のように嬉しかった。

 

 

 

「♪諦めちゃダメなんだ

その日が絶対来る

 

ってな。

ウチは、自分に正直に、

自分のやりたいこと、やらなきゃならないと思うことをやればええと思う。

諦めちゃだめだぞ」

 

「...ありがとうございます!」

ユイトは、神社からかけ出していた。

 

そして、

「...当たれ!...当たれよ!ちくしょう!」

(……諦めてたまるか!)

公園の壁の的に向かってユイトはひたすらボールを投げていた。

 

 

「...先輩...私も...勇気を出さなきゃ...でも...」

そんながむしゃらなユイトを見つめる、一つの影があった。

 

 

 

 

 

 

翌日

 

ユイトは、決めた。

 

 

「俺、投げるよ」

答えを聞きにきた部員に、そう告げた。

「ありがとう、じゃあ一応テストをするからあとでグラウンドにきてくれ」

 

 

「分かった」

ユイトは、しっかりと首を縦に振った。

 

そして彼は、二年振りのグラウンドへ

向かった。

 

きつくスパイクの紐をしめる。

 

グラウンドの入り口。

大きく深呼吸をする。

その時、

 

「風間くーん!!」

穂乃果、海末、ことりが、駆け寄ってきた。

 

「♪だって可能性感じたんだ

そうだ…ススメ!

後悔したくない 目の前に僕らの道がある……」

 

三人が歌い出す。

 

 

「この曲は...?」

 

「『ススメ→トゥモロウ』っていう曲で、海末ちゃんが風間くんのために

書いたんだよ!」

 

「もう!ことり!」

海末が頬を赤らめる。

そしてユイトに向き直り、告げる。

「野球部は頼みましたよ、風間くん!」

 

「分かった...!」

μ`sの三人の応援を背に、ユイトはマウンドへ駆け出した。

 

 

「よし、来い!」

 

準備万端のキャッチャーを見る。

 

そして、ボールを握る。

 

「...!」

 

やはり、ケガを負ったあの時の記憶が脳裏に蘇る。

 

足が、手が震える。

やっぱり...ダメだ。

μ`sのみんなは、学校のために精一杯頑張っているというのに、

俺はなんてカッコ悪いんだろう。

もう......嫌だ。

 

ユイトがマウンドを

降りようとしたその時。

 

 

 

 

「先輩!諦めちゃだめです!」

バックネット裏から声がした。

一年生の小泉花陽が、バックネット裏で叫んでいた。

 

「話は花陽さんから聞いています!」

 

「諦めちゃダメだよ!」

 

「自信をもって!」

 

そして、海末、穂乃果、ことり。

 

「わ、私、

....帰り道にいつもあの公園通るんです。だから、分かるんです!

先輩が、もう一度、

頑張ろうとしてたこと!

もう一度、立ち上がろうとしてたこと!」

 

 

 

 

「みんな……!」

 

 

「あと、先輩のせいで公園の壁へこんじゃってましたよ…」

 

「…あとで直します」

壁を直す術を僕は知らないが。

 

気づけば、自然と体の震えは止まっていた。

そして、キャッチャーを見据える。

もう、怖くはない。

 

腕を振り上げ、美しいフォームで腕を

振り下ろす。

 

バシッ!!と乾いた、心地よい音がした。

ボールは、キャッチャーの持つミットに突き刺さっていた。

 

ユイトの頭の上には、

雲一つない青空が広がっていた。

 

 

マウンドに、心地よい風が吹き抜けた。

 

 

ユイトは、背中に「1」番を付け、

学校を背負って戦うことになった。

 

 

「ユイト、お前また投げるんだって?」

休み時間、小林が声をかけてきた。

「ああ、」

 

「今年こそ、音ノ木坂を甲子園に連れて行ってくれよ!」

 

実際は一回戦突破するのも厳しいというレベルだが、

ユイトは、力強くうなずいた。

小林の言葉が、嬉しかった故に。

 

そして、右の拳を静かに握り締めた。

 

 

 

 

 

放課後、屋上で練習しているμ'sに新曲の相談をしに行ったところ...。

 

「あれ...」

 

どうやら、先客がいるようだった。

屋上には、μ'sの三人と、真姫とオレンジのショートヘアーの少女、そして、

花陽がいた。

 

「あとは花陽、あなただけですよ」

海末が優しく花陽に声をかけた。

「花陽ちゃんはどうするの?」

アイドルになることをまだ迷っている花陽に、ことりが問う。

 

「かよちんがんばれ!」

「ビシッと言いなさいよ」

 

悩む花陽の後ろでは、オレンジのショートヘアーの子と、真姫が見守っている。

 

(やっぱり私アイドルなんて無理だよ…

私なんてアルパカの飼育係で十分……

でも、でも、やっぱり私も……

夢を諦めたくないっ!)

「…私、ダンスも歌も

全然できないけど...アイドルへの想いは、誰にも負けません!

 

だから...だから私をμ'sに入れてください!」

 

オドオドしていた以前と違う、

真っ直ぐな瞳をした花陽が、そこには居た。

 

(先輩のお陰で、私も勇気を出すことが

できました。風間先輩、本当にありがとうございました。)

 

 

「凛ちゃん!真姫ちゃん!花陽ちゃん!

......μ'sへようこそ!!」

そう言って、穂乃果が三人に抱きついた。

 

μ'sに三人の新たなメンバーが加わった。

 

 

ユイトは、屋上に出ることなく、ドアに背を向け、

階段を降りて行った。

 

そして一句

 

夏の夕 屋上に咲く

太陽の花(ヒマワリ) か

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、アドバイスなどいただければ嬉しいです。
宜しくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。