個性『ラッキー☆ドスケベ』   作: junk

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File.1 超感覚

 ――――――ビルの上にひとりの女が立っていた。

 

 一七〇センチ程の大柄な身体ではあるものの、しかし少女としての幼さを感じさせる魅惑的な肉付き。よく鍛えられた身体は筋肉質だが、薄っすらと脂肪を残しており、少女特有のむしゃぶりつきたくなる様な柔らかさを感じさせた。見方によっては下品とも言えるほどの豊満なバストは、薄いコスチュームをたっぷりと押し上げている――ちょっと激しく動けば零れ落ちてしまいそうだ。

 

 彼女のコスチュームは藍色と漆黒を基調としていた。藍色のシャツの生地は薄く、肌とブラジャーが透けている。また布面積もほとんどないため、肩とお臍が大胆に露出していた。股下数センチまでしかない漆黒のスカートは最早服としての機能をほとんど果たせておらず、藍色のレースの下着がほとんど丸見えになっている有り様。唯一まともに機能を果たしているのは黒い厚手のブーツと、絶対領域を作り出している藍色のニーソックスだけだろう。

 

 外側がブラック、内側がブルー。髪もまた彼女のコスチュームと同様に藍色と漆黒であった。濡れた様に艶やかロングヘアーは、サラサラと風によって形を変えている。

 

 顔立ちは一言で表すなら『氷』だ。まるで白亜の彫刻で出来ているかの様な、美しいのは間違いないが冷たい印象を受ける。視線が合った者を凍りつかせる様な視線、流し目。しかし冷たい氷の印象も、彼女が無表情でいればの話だ。彼女の顔には厭らしい笑みが張り付き、頬が紅潮していた。男なら誰でもむさぼりたくなる様な桜色の唇からも、絶えず熱い吐息が溢れている。そして何より瞳だ。瞳が例えようもないほどに淫靡に濡れている。

 

 その美しさは最早『個性』による物にさえ思えたが、勿論違う。生来のものだ。そして彼女の『個性』はそんな生温い物ではない。

 彼女が立つ長高層ビルの真下では人々が平和そうに歩いていた。

 とはいえ普通の人間では、ここまで距離が離れていれば見えないだろう。しかし彼女には全て見えていたし、足音さえも聞こえていた。

 

「――うふふっ!」

 

 まるで獲物を捉えた蛇の様に、彼女の視線が定まる。

 そして――跳んだ。

 高層ビルの上から、跳んだ。

 彼女のロングヘアーが風の抵抗を受けて激しくたなびく。服が完全にめくれほとんど全裸に近い格好になっていた。

 彼女の『個性』が着地の衝撃を和らげてくれるのかと問われれば、それもまた違う。ましてや空を飛べる類の物ではない。にも関わらず、彼女は自らを傷つけることなく着地する。

 答えは単純な『技』。

 普通の人間でも少し高い所から降りる際、身構えることでダメージを軽減することが出来る。彼女がしたことは究極的にはそれと同じだ。尤もその完成度は比較にならないが。『武』に生涯を捧げた者にのみ出来る技、境地――そこに彼女は達しているのだ。

 

 彼女は片手を天にかざした。

 そこに前もって投げておいた、七尺はあろうかという長刀が飛来する。これこそ彼女の愛刀、名を『雪走り』。鉄であれ金であれ人であれなんであれ、まるで雪の様に斬ることから名付けられた刀。刃も柄も雪の様に白い。

 

 30メートルを越すビルからの着地、人目を集めるには十分な演目だった。ヒーローか、あるいは『個性』を使った大道芸であろうか……興味深げに集まる人々。

 ――ああっ、これだけの人を斬ったらどれだけ楽しいのでしょうかねえ。

 集まる群衆を前に彼女はゾクゾクと身を震わせた。白い肌が上気し、赤みを帯びる。息遣いも荒くなっていた。蠱惑的な肢体を我慢出来ないと言わんばかりに娼婦の様にくねる。男に媚びるような女体の動き、どう見ても彼女は発情しきっていた。

 

「お姉さん、すごい! 今のどうやったの!?」

 

 一人の少年が近づいてくる。

 年は小学生高学年か、あるいは中学生くらいだろうか。

 少女は笑い、そして刀を抜いた。

 ――と、同時に彼女は刀を鞘に納めていた。

 刀を振らなかったのだろうか?

 凶行を済んでの所で思い留まったのだろうか?

 否、違う。

 彼女は刀を振った。

 ただし、常人には決して見えない速度で。

 少年がその場に倒れ臥す。傷口からは血の一滴さえ零れない。速く、鋭く。斬り裂いた刀身には一切の汚れなし。故に『雪走り』――刀の持つもう一つの由来である。

 

「あは――あははははははっ!」

 

 ……笑う。

 その笑みは狂気としか言いようがなく、彼女の精神が常軌を逸していることを確信させるのに十分だった。

 

 少女は通称『ブラッディー・スノウ』と呼ばれるヴィランである。

 ブラッディー・スノウはステインの様に思想を持ったヴィランではない、ただ人を斬るのが好きなのだ。

 ヴィランというより狂人、殺人鬼。

 

 

 

 剣の名門に産まれた彼女は幼い時より刀を振っていた。

 最初は純粋な気持ちだった。技を磨くため、人を助けるため。彼女は刀を振っていたのだ。

 しかし一人での稽古には限界がある。模擬戦や試合もしなくてはならない。高みを目指していた少女は他の道場の子供と手合わせする機会が増やすようになった。

 彼女は強かった。同世代はもちろん、大人の男にさえ引けを取らないほどに。向かうところ負け知らず。少女の名は直ぐに知れ渡った。少女が中学生になる頃には、わざわざ遠方から訪ねて来る者さえいたほどだ。

 そして試合で相手を倒すたび、彼女の中に暗い愉悦が産まれたのだ。

 彼女自身もそのことには気付いていたが、己のを律し、また一人刀を振っていた。

 

 転機が訪れたのは二年前。

 

 少女はヴィランに襲われた。しかし少女の技の冴え渡り、また『個性』も強力無比な物である。直ぐにヴィランを組み伏せた。

 稽古用に持っていた少女の刀がうめくヴィランの首筋に添えられる。ヴィランは最後の抵抗を見せる――こともなく、みっともない命乞いをした。

 その瞬間、少女の身体に正体不明の電流が走った。

 男の命が自らの手の中にある。他人の生命与奪を握っている。それは最高の愉悦だった。

 刀を添えたのはあくまで脅しのつもりだったが、果たして、少女は男を殺した。後から来たヒーローには正当防衛を主張した。まだ中学生だった少女の訴えは、当然のように通った。

 

 人を殺した。

 否、斬った。

 彼女はその感触に取り憑かれた。

 そして幸いにも、彼女には力があった。

 

 彼女は世間からはヴィランと呼ばれているが、正確には違う。

 強盗だとか世間の目を集めるだとか、そんなことには何の興味もない。ただ人を斬りたいだけなのだ。もし法律が変わって人を斬っても良い世の中になれば、彼女は明日から普通に学校に行って、普通の生活をして、普通にご飯を食べて、普通に恋バナなんかをして、普通に人を斬るだろう。

 しかし人は斬ってはいけないのが社会のルール。

 よって彼女はその一点のみで社会を逸脱し、ヴィランとなっている。

 

「ブラッディー・スノウだな!」

「覚悟しろ!」

「市民の皆さんは落ち着いて避難を!」

 

 ヒーローが三人、何処からか湧いてきた。

 二人がブラッディー・スノウの前に立ち、その間に残った一人が避難誘導をしている。

 素早い連携、三人はチームの様だ。

 

「んぅー?」

 

 ブラッディー・スノウは人差し指を顎に当てて、可愛らしく小首を傾げた。

 その仕草は無垢な少女そのものだが、ヒーロー達は油断しない。

 目の前のヴィランが凶悪かつ強力だと知っているのだ。

 やがてブラッディー・スノウはポンと手を叩いた。

 

「ああ、思い出しました。確か『ガン・マッチ』の御三方ですね?」

「そうだ! 俺はリーダーのバレット!」

「同じくスナイプ!」

 

 そう言ってバレットは、両手を地面と平行に突き出す独特の構えを取った。

 彼の『個性』は『銃化』。

 指を銃に変え、弾を撃つ事が出来る。

 銃弾は彼の血液が凝縮した物であり、ほとんど水の様に柔らかい弾から石の様に硬い弾まで自由自在。ただしあまり撃ち過ぎると貧血で倒れてしまうから注意が必要だ。

 今は一〇本の指全てに最高硬化した弾丸を詰め込んである、バレットの本気の構えだ。

 

 スナイプの方の能力は、指ではじいた物が狙い通りの場所に飛んでいく『個性』である。

 半径一キロ以内なら五センチ台の的を射抜ける精密さもさることながら、威力もまた申し分ない。

 中距離と遠距離を得意とする二人、刀を主体とするブラッディー・スノウでは分が悪い相手だろう。

 

「まあどうでもいいです」

 

 しかしブラッディー・スノウは取り合わない。

 逃げ惑う市民の群れに突っ込み――虐殺。鮮血を撒き散らした。

 

「き、貴様あああああぁっ!」

 

 バレットは激昂した。

 全ての指からありったけの弾が放たれる。

 市民の中にいるブラッディー・スノウだけをピンポイントで狙い撃つ、凄まじい精度。加えて弾には“回転”が掛かっている。一発でも当たれば内臓か骨に致命傷を負うだろう。

 しかしブラッディー・スノウには通用しない。

 事も無げに全ての弾を叩き斬る。

 

「私、人が斬りたいだけで血を斬る趣味は無いのですが……」

 

 困った様にブラッディー・スノウが言った。

 しかし顔には被虐的な笑みが溢れている。

 まるで発情した犬のように赤い舌を出して、はあはあと鼻息を荒くしていた。

 

「く、狂ってやがる!」

 

 あまりの絶技に驚愕したバレットであったが、しかし狙い通りでもあった。

 本命はスナイプによる狙撃なのだ。

 スナイプの必殺技『無音多角狙撃』はカーブを描いた弾が敵の背後から迫り撃ち抜く技であり、また火薬を使わないが故に無音である。

 正に一撃必殺!

 今も麻酔弾がブラッディー・スノウの背後から迫り――果たして、斬り落とされた。そちらを見向きもせず、当然のように。

 

「なっ!?」

「馬鹿な、あり得な――」

 

 それ以上の言葉は続かない。

 続けられない。

 一瞬にして近づいたブラッディー・スノウの刀が振り降ろされた。

 単純に速いのもあるが、それだけではない。彼女は二人の死角に入り込んでいる。よって視認出来ないのだ。

 スナイプの身体が頭のてっぺんから股下まで斬り裂かれた。

 二つに別れた死体が地面に落ちる前に、バレットの首も斬り飛ばされる。ブラッディー・スノウは落ちた頭部を掴み……最後の一人ガトリングに向かって投げた。

 恐ろしい速度で射出された頭はガトリングの頭にピンポイントで当たり、脳震盪を引き起こさせた。脳の揺れが収まる前にブラッディー・スノウが近づき、一閃。

 ガトリングの上半身が下半身と斬り離される。

 

「きゃああああああああああ!」

 

 誰とも言わず悲鳴が上がる。

 ヒーローが倒された事で混乱は更に熱を上げていた。

 逃げ出す群衆、急行するヒーロー。

 全てが遅い。

 彼女の前では遅すぎる。

 民間人もヒーローも関係ない、ブラッディー・スノウが刀を振る度に人が死んでいった。

 

 

 

 彼女の『個性』は『超感覚』。

 視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚そして第六感に至るまで、あらゆる感覚が強化されている。

 その強化倍率は実に常人の三〇倍。

 つまり普通の人間が視力を一とするなら、彼女は三〇。普通の人間が五〇メートル先の音が聞こえるなら、彼女は一五〇〇先の音が聞こえる計算になる。

 また時間感覚が強化されたことにより、彼女の体感時間は他人の三〇倍となっている。つまり彼女の中では他人の動きはほぼ止まっているに等しく、故に、相手の動きを見てから最適な動きが出来るのだ。

 極端に露出度の高いコスチュームを纏っているのも伊達や酔狂ではなく、空気の流れを感じるための趣向だ。これにより目に見えない攻撃や無音の奇襲も全て、ブラッディー・スノウは感知することが出来る。

 奇襲は通じず、更に肉弾戦は無敵。

  ブラッディー・スノウを止めたいのなら、オールマイトでも引っ張ってこないと足りないだろう。

 

「……ぁ。あああ………ぅ」

 

 一人の少年が倒れているのをブラッディー・スノウの視覚が捉えた。

 逃げる大人に踏まれて足を怪我しているらしい。涙目になって震えている。ブラッディー・スノウは近寄り――手を差し伸べた。

 

「えっ?」

 

 少年が困惑するのも無理ないが、しかしブラッディー・スノウは子供が好きなのだ。少なくとも泣いている少年を見たら、手を差し伸べるくらいには。

 

「ボク、大丈夫?」

「あ、あの。うん、でも、足が痛くて」

「そっか、そっか。踏まれちゃったんだね、かわいそうに。救急車が来るの、待てる?」

「……うん、待てる」

「よし、偉い子だ!」

 

 ブラッディー・スノウは立ち上がった少年を見て、満足そうに笑った。

 そして刀に手をかける。

 

「……ぇ?」

 

 子供は好きだ。

 泣いてたら助かる。

 だけど斬るのはもっと好きだ。

 心はちっとも痛まない。それよりもずっと大きな快楽が埋め尽くしてくれる。他が入り込む余地はない。

 

「い、嫌だよお姉ちゃん! 助けて!」

「うん、助けてあげるよ。私は子供が好きだから」

 

 刀の切っ先が少年の目の前に向けられる。

 ここに来て漸く少年は理解した。

 目の前の少女は言葉が通じない。助けを求めても、話し合いをしても無駄なのだ。

 

「助けて、誰か助けて!」

 

 ブラッディー・スノウの刀が、遂に振り降ろされる!

 

「助けてヒーロー!」

ヒーロー()を呼んだか、少年」

 

 ヒュン!

 ブラッディー・スノウの刀は空を斬った。

 久しく味わっていなかった空振りの感触。

 人を斬れなかった……大きな落胆を胸に、ブラッディー・スノウは声の主の方を振り返った。

 

 ブラッディー・スノウの『超感覚』は、刀が振り降ろされる直前に言葉を聞いた。内容から察するに、言葉の主が少年を助けたのだろう。それは間違いない。しかし解せないことがひとつあった。少年はそこを一歩も動いていないのだ。誰かが割って入って刀を止めた訳でも、少年を助け出した訳でもない。

 ブラッディー・スノウが勝手に攻撃を外したのだ。

 無論、こんなことは初めてだ。熟練の腕を持つブラッディー・スノウが防がれるならともかく、攻撃を外すなどそうあることではない。

 

「私が来たからにはもう安心だ、少年」

 

 声をする方を見る。

 ――男が立っていた。

 ヒーロー、なのだろう。漆黒のマントを身に纏ったその姿は、そう呼ぶ他ない。

 しかし分からない。あの男が一体なんという名前のヒーローなのか。ヒーローはなにかとメディアに露出する人種だ。だがブラッディー・スノウには彼に関する知識が一つもなかった。

 

「何をしたんですか、あなた。私の斬撃が外れてしまいました。お陰で斬れなかったじゃないですか」

 

 口を動かしながらも、ブラッディー・スノウは再び刀を振った。

 近くの地面が大きくえぐれるが、やはり少年には傷一つつかない。

 またも空振りだ。

 一度ならず二度までも、こうなると偶然という線は消えてくる。

 しかしなにをしたのか、具体的なことは何一つ分からない。

 あまりに不可解。

 

「何をしたか、当ててみるがいい」

「……そうします」

「ふん、かかって来い」

 

 ブラッディー・スノウはその場からかき消えた。

 瞬間移動?

 時間停止?

 ――否。

 ただの超高速移動である。彼女が本気になればただの移動でさえ人の目には捉えられないのだ。

 

(……まったく反応出来ていない。大口を叩いておいてこの程度ですか!)

 

 人外の速度で刀を振り下ろす――前に。

 なんと偶然に、ブラッディー・スノウは小石に足を取られてずっこけた。慌てて立ち上がろうとして、今度は何故か落ちていたワックスがよく染み込んだ雑巾に手を滑らせてしまい――男に突っ込んだ。しかも男の顔に乳を当てる体勢で。どうしてそうなったのかまったく分からない。

 

「……んひぃ!?」

 

 男に触れた瞬間、正体不明の電流が体を駆け抜ける。

 電撃系の『個性』!?

 ブラッディー・スノウは慌てて距離を取る。

 

「今のは一体……」

「まだ分からないか、俺の『個性』が」

「ええ、まあ」

「ではヒントをやろう。周りをよく見るがいい」

 

 周りなど見なくとも、ブラッディー・スノウは超直感で周りを捉えている。

 先程と何も変わらない――否、違う。

 死体がない。建物も破壊されていない。まるで最初から何もなかったかのように、何も壊されていない。民衆はパニックを引き起こしているが、それだけだ。

 

「ど、どうして!?」

「これが俺の『個性』だ」

 

 先程も述べたが、ブラッディー・スノウの『個性』は周りの空間を全て認識している。

 故に何かしらの力が加われば気がつくはずなのだ。

 もしかして幻覚……?

 いや、違う……とその可能性を否定する。幻覚にかかってもやはり、己の『個性』で見破れるはずなのだ。事実前に戦った幻覚使いは倒せた。

 それじゃあこの男の『個性』は一体なに?

 因果律の操作?

 時間移動?

 過去改変?

 

「いいや、違う。俺の『個性』はそんな矮小なものではない」

 

 思考を見透かした様な男の言葉。

 ブラッディー・スノウは一歩引いた。追って男が一歩進む。

 

「お前は最初から“斬っていなかった”のだ。先程の少年にやった様に、空振りしていたのだよ」

「な、何を言って……そんなの嘘です! 私の手にはちゃんと斬った感触がありました!」

「それは“偶然に”そう錯覚しただけだ。そしてその錯覚に“偶然に”気がつかなかった。それが事実だ。ここまで言えば分かっただろう、俺の『個性』の正体が」

 

 そんなはずがない。

 そう思いたかった。

 しかしそれ以外思い浮かばないのも事実。

 ブラッディー・スノウは答え合わせをするかの様に、自分の予想を告げた。

 

「まさか、五感のしは――」

「そう、俺の『個性』は『ラッキー☆ドスケベ』だ」

「『ラッキー☆ドスケベ』ですって!?」

 

 復唱。

 

「その通り。エロにグロい展開や人死には不要、故に俺の『個性』が働き誰も死ななかったのだ」

「そんな、嘘……」

「本当だ」

 

 男の言葉を裏付ける様に、周りでは誰も死んでいない。

 事実を受け入れられない少女、それを見下す男。静寂を破ったのは、先程助けられた少年であった。

 

「も、もしかして――あなたは『連続アクメ快楽堕ちさせるマン』!」

 

 連続アクメ快楽堕ちさせるマン!

 連続アクメ快楽堕ちさせるマン! それこそが彼のヒーロー・ネームである!

 女ヴィラン相手に無敵を誇るヒーロー!

 己の『個性』により堕としたヴィランは数知れず!

 しかしその戦いぶりがあまりにあんまりなため政府には認定されていない非公認のヒーロー!

 表の象徴がオールマイトであるとするなら、彼はまさしく裏の象徴! 生ける伝説! 早い話がただの性犯罪者であるッ!

 

「そう、俺が連続アクメ快楽堕ちさせるマンだ」

「連続アクメ快楽堕ちさせるマン、ですか……?」

 

 ブラッディー・スノウが訝しげに連続アクメ快楽堕ちさせるマンを睨む。

 無理もない。

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンは非公認のヒーロー、知名度もまた低いのだ。何より放送コードに引っかかるため、絶対に公共の電波には乗らない。

 

「ふざけたことをっ――!」

 

 SRAAAASH!

 せめて擬音だけでも原作らしくという配慮の元、ブラッディー・スノウが斬りかかる!

 しかし!

 偶然にも!!

 BANANAの皮がッ!!!

 ブラッディー・スノウは「いやバナナの皮に足を滑らせても絶対にそうはならないだろ」というフィギュアスケート選手も真っ青な意味不明すぎる軌道を描きながら、股から連続アクメ快楽堕ちさせるマンの顔面に突っ込んだ。

 しかもおっぱいが手の位置に、顔が股間の位置に来ている。

 

「――んくっ!」

 

 再度、正体不明の電撃が身体を駆け抜ける。

 しかも先程よりも強く。

 ブラッディー・スノウは謎の電撃攻撃の正体を理解した。

 即ち、快楽。

 人を斬った時に感じる、否、人を斬ることでしか感じれなかったそれを何故か連続アクメ快楽堕ちさせるマンからは大量に感じてしまう。

 

「ぁ、ひ……ふっ、ふっ! ふぅぅッ………!」

 

 しかし屈しない。

 歯を食いしばりながら呼吸を早めて快感を外に流す。

 必然的に下品な低音のハウリングボイスになってしまうが、そんなことを気にしている余裕はない。

 

「こ、この程度、ですか? なんだ口ほどにもありませ――お゛っ!」

 

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンの攻撃は終わっていなかった。

 蠱惑的な乳房を無遠慮に掴んだのだ。その瞬間、ブラッディー・スノウの口から下品な声が吹き出る。頭の奥でチカチカと光がはじけた。身体が弓なりに反り返ってしまう。しかし連続アクメ快楽堕ちさせるマンが掴んでいる豊満な乳肉だけはその場に留まり悶えていた。

 

「まだまだ、こんなものじゃないぞ」

「ま、待って! 待って下さい! い、今は本当にダメなの、波が引いてないから! ダメだから! ――――イギィッッッッ!」

 

 再び、連続アクメ快楽堕ちさせるマンの手が乱暴に巨乳を揉みしだく。

 ブラッディー・スノウのことなど少しも労っていない荒々しい愛撫、それが故に強烈な“雄”を感じさせた。熱い衝動が乳から脊髄を通って脳を刺激する、その衝撃が今度は脳から全身に送り返された。全身に感じる甘い痺れ、まるで身体中が性感帯になったようだ。とりわけお腹の奥がきゅうきゅうと切ない。なにかを欲して、激しく飢えている。

 

「ぁ、あつひ……、子宮があじゅひ! やらぁ……お゛っ! あっ、ん゛ぅ、あひゅ! …………ひうっ! んくっ、ほおおおおを!」

 

 無様な声を上げてしまう。

 しかしそれも無理からぬことだった。乳房はもちろん、首筋、脇、太もも――連続アクメ快楽堕ちさせるマンの『個性』により、彼が触れる場所は“偶然に”全てブラッディー・スノウの弱点となってしまうのだから。

 

「は、はなじで! はなじでええぇっ! これ以上はほ、ほんどうにムリ………ム゛リ゛だからぁ! ごわれるう゛うぅ! ごわれじゃう゛ッ!」

「いいだろう」

 

 意外な程にあっけなく連続アクメ快楽堕ちさせるマンはブラッディー・スノウを手放した。

 距離を取ろうとするが、腰が砕けてしまって足取りが覚束ない。そして何より身体が、雌としての反応が連続アクメ快楽堕ちさせるマンから離れることを拒否していた。

 

「はあ、はあ……くっ! 私は、負けませんっ!」

 

 それでも、刀を構える。

 無論、快楽の波は引いていない。それどころか絶頂を覚え込まされた身体は上り詰めたまま返って来ない。身体はもう、以前の様には戻れなくなってしまっていた。

 脚はまるで産まれたての子鹿の様にガクガクと震え、舌がおねだりをするように疼き、顔は惚けきってだらしない。更には眼にハートマークが浮かんでしまう始末だったが、それでも構えは堂に入っていた。これには流石の連続アクメ快楽堕ちさせるマンも感心する。なんと強い精神力だろうか。

 

「私は、負けない! 連続アクメ快楽堕ちさせるマンなんかに絶対負けないっ!」

 

 ブラッディー・スノウが咆哮する。

 自分に言い聞かせるように。

 なるほど、面白い。

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンもまた受けて立つと、構えを取った。

 果たして、どちらが勝つのか――二人の戦いが始まる!

 

 

   ◇

 

 

「ごめんなしゃい、ごめんなしゃいいィ! 私がバカでしたぁっ! だからもう許しへえ! …………ンギィ!? 感度三〇倍、すご……すぎ、るぅ!」

 

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンが手を離すと、ブラッディー・スノウはその場に崩れ落ちた。身体はピクピクと痙攣しており、たまに腰が跳ねるばかりで立ち上がれそうにない。

 顔は二度と元に戻らないのではないかというほどダラシないアクメ顔になっていた。開いた口からは唾液と、呂律の回らない喘ぎ声だけが出ている。

 露出したお臍の下には赤いハートマークの淫紋が浮かび上がっていた。これは連続アクメ快楽堕ちさせるマンの『個性』に屈服した証、奴隷の調印。これがある限りどんな命令であろうとブラッディー・スノウは服従してしまう。

 

 意外にも勝負はあっけなく着いた。

 ブラッディー・スノウが“うっかり”自らの『個性』で、感度を三〇倍に引き上げてしまったのだ。

 痛恨のミス。

 そこが勝負の分け目だった。

 比喩ではなく、全身性感帯になったブラッディー・スノウに連続アクメ快楽堕ちさせるマンの攻撃を防ぐ手段はなかった。

 

「ブラッディー・スノウ」

「………ふぁ……い………んひぃ……」

 

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンがブラッディー・スノウに手を差し伸べる。すると当然のように彼女の身体は連続アクメ快楽堕ちさせるマンに奉仕を始めた。指をペロペロと舐めとり、時には喉の奥にまで自ら誘う。それはまるで犬、ご主人様に媚び諂う雌犬そのものであった。

 残虐極まりないブラッディー・スノウは最早どこにもいないのだ。

 

「二度と人を斬らないと約束出来るか?」

「しょ……しょれ、は………」

「出来ないなら、最初からやり直すぞ」

「へぇ!? それはも゛、やだあ!」

「じゃあ誓うか?」

「ひゃい! ぢ、ぢかいまず! 二度と人は斬りません!」

「そうか。それならいい」

 

 ブラッディー・スノウの言葉に呼応して淫紋が僅かに光る。契約を結んだ証だ。もし契約を破れば、脳が焼き切れる寸前の快楽がブラッディー・スノウを襲う。そもそもブラッディー・スノウにはご主人様である連続アクメ快楽堕ちさせるマンに逆らう気など毛頭ないが。

 

 これにて一件落着!

 正義のヒーロー連続アクメ快楽堕ちさせるマンが勝ったのだ!

 

 ……とはならない。

 ブラッディー・スノウは更生したとはいえ、前科者だ。大犯罪者である。このままでは逮捕されてしまうだろう。最悪死刑になるかもしれない。それは連続アクメ快楽堕ちさせるマンの主義に反する。えっちな小説に無駄に重い話はいらないのだ!

 また『個性』によって奴隷の刻印が刻まれた者は定期的に連続アクメ快楽堕ちさせるマンの体液を摂取しなければ身体が疼き――死んでしまう。

 つまりブラッディー・スノウは今後一生、連続アクメ快楽堕ちさせるマンの側にいなければならない。

 よって連続アクメ快楽堕ちさせるマンはブラッディー・スノウを担ぎ上げ、その場を立ち去ろうとした。

 

「あ、あの!」

 

 それに待ったをかける者がいた。

 先ほどの少年である。

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンは足を止めたものの、振り向くことはしなかった。

 

「僕も、なれるかな!? おじさんみたいなヒーローに!」

「ああ、なれるさ。君はヒーローになれる」

「……っ!」

 

 即答。

 その言葉がどれだけ少年にとって嬉しかったか。

 ――何故ならヒーローを目指した者はみな、その時点でヒーローなのだから。最後にそう言い残して、連続アクメ快楽堕ちさせるマンは今度こそその場を後にした。

 彼の活躍は少年の心に深く刻み込まれた。少年はいつか彼のような、立派なヒーローになることだろう。

 

 

 

 余談ではあるが…………。

 この事件以降、連続アクメ快楽堕ちさせるマンの傍には、ひとりの少女の姿が見られるようになった。

 純白とピンクを基調としたユニフォームに身を包んだ少女の名前は『ラブジュース・スノウ』。名刀『先走り』を縦横無尽に降る、正義のヒロインである。

 二人の物語は終わらない――否、始まったばかり!

 イケ、連続アクメ快楽堕ちさせるマン!

 イかせろ、連続アクメ快楽堕ちさせるマン!

 今日も新たな女を快楽堕ちさせるために!

 何処までも!

 世界が平和になるその日まで!







流石に感度三〇〇〇倍は書けなかったよ……。
私には三〇倍が限界でした。やっぱり対魔忍さんは凄え。
それと書いてから思ったのですが、主人公の『個性』である『ラッキー☆ドスケベ』は言葉のニュアンス的にはラブラバの個性『愛』みたいなものではないでしょうか。
しかもラブジュース・スノウとラブラバって似てるし、これはもうラブラバは淫乱と言ってよいのではないだろうか。ボブは訝しんだ。
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