個性『ラッキー☆ドスケベ』   作: junk

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【前回のあらすじ】
富・名声・力、この世のすべてを手に入れた男、NO.1ヒーロー・オールマイト。彼が放った一言は出久を海に駆り立てた。「私の個性か? 欲しけりゃくれてやる! 片せ! 海岸のゴミを!」出久は雄英を目指し夢を追いつづける。世はまさに超常世界!!!



File.2 偶像崇拝

 ――――――少女が祈りを捧げていた。

 

 ただ座って祈っている。彼女の行動を端的に言うならそれだけだが、集中力が常人のそれとはまるで違う。全身から汗が噴き出る汗、極限にまで研ぎ澄まされた所作、一切の雑念がない心。ただ祈るという動作の中に、彼女の全てが現れていた。

 この事からも分かる通り、彼女は熱心な信者である。というより、その信仰はもはや盲信と言えた。太陽が昇るのは神様のおかげ、空が青いのも神様のおかげ、人が生きているのも鳥が空を飛べるのもなにもかも神様のおかげ――そう信じて疑わない。

 

 『狂信者』。

 彼女を表すのにこれ以上ふさわしい言葉はないだろう。

 

 しかし同時に、彼女は名高いヴィランでもある。実のところ彼女が信仰する神は所謂邪神であり、教団もカルト宗教の部類に入る。よって邪悪な教えを忠実に遂行する彼女は、必然的にヴィランとなったのだ。

 

 彼女は産まれた時からこの宗教にどっぷり浸かっていた。理由はシンプル、両親がこの教団の教祖なのだ。両親の教育により彼女は、普通の子供が国語や算数を習うように、教団の教えを受けた。まるで地面に捨てられたスポンジが泥水を吸い込むが如く。

 しかしいかに子供がスポンジの様な吸収能力を持っているとしても、小さな少女が残酷な教えを身につけられるものだろうか? 普通なら精神に異常をきたしてしまうのではないだろうか?

 ――否。

 彼女は普通の子供よりを遥かに上回るスピードで学習していった。

 地頭の良さや英才教育によりもの――ではない。彼女の『個性』に起因する。彼女の特殊過ぎる『個性』が教団のあらゆる邪悪を、未だ幼い少女の身体に刻み込んだのだ。

 

 この教団の教えは基本的に“人を殺すこと”に集約している。中世ならともかく、現代ではあまり流行りそうにない。そもそもヒーローが活躍する現代において人を殺して捕まらずに逃げることは難しく、また一般人も『個性』を持っているためターゲットも限られてくる。

 しかし――しかし。これもまたやはり、彼女が持つ唯一無二の『個性』が全て解決した。

 それだけでなく、彼女の『個性』は神懸かり速度で信者を増やし教団を飛躍的に大きくした。最初は小さく、凡百に埋もれていた教団も今となってはこの国指折りの宗教組織となっていた。

 

 『偶像崇拝』それが彼女の『個性』。

 

 自身に向けられた“こうあって欲しい”という願いを体現する『個性』である。

 両親が“教団の教えを身につけて欲しい”と願えばその通りになり、信者達が“奇跡を起こして欲しい”と願えば奇跡が起きる。更に『偶像崇拝』は“彼女自身の願い”さえも叶えてしまう。

 もし彼女が普通の女の子であれば、“もっと可愛くなりたい”や“気になる男の子と仲良くなりたい”などの願いを叶えていたことだろう。両親が“良い子に育って欲しい”と思えば、彼女は誰にでも優しい女の子になっていたことだろう。

 

 しかし彼女は邪教に祈った。

 そして周りの人間もまた、彼女が狂信者であることを願った。

 

 『偶像崇拝』は願いを叶える個性だが、もちろん限界はある。それは『個性』の限界というより、人の願いの限界。願いが強ければ強いほど力を増す『偶像崇拝』だが、人ひとりの願いは脆く儚い。同じことを常に願い続けるのは難しく、また強く願い続けるのは更に難しいからだ。

 一見強力そうに見える『偶像崇拝』だが、実は使い熟すのにはかなりの精神力を必要とするのである。

 ――が、彼女は別だ。

 狂信者であるが故にほぼ無限に願い――否、祈り続けることが出来る。更に彼女が他のことをしていたとしても、無数にいる信者達が祈ってくれる。恐らくは『偶像崇拝』を使う者として彼女ほど相応しいものはいないだろう。もっとも、正しい方向にとは限らないが。

 

「ふぅ……」

 

 今日の分の祈りを終え、立ち上がる。

 

「聖女様、こちらを」

「ありがとうございます。あなたに神のご加護があらんことを」

 

 側近からタオルを受け取る。

 聖女とはもちろん、今祈っていた少女だ。両親は教祖であり、彼女は聖女なのである。聖女にとって祈りとは激しい運動などであり、疲れもするし汗もかく。

 シミはおろか産毛さえない赤子顔負けの皮膚の上を一筋の汗が伝う。それを見た側近はごくり、と生唾を呑んだ。“聖女は美しくあって欲しい”という願いのせいか、はたまた原来のものか……聖女は美しい。

 

 男の手のひらより少し大きいくらいしかない小さな顔は美しいの枠にとどまらず、金髪碧眼であることも相まって、もはや輝いている様にさえ見える。

 身長は平均的な男の胸のあたりまでしかなく、抱き締めには最適な高さだ。しかし小柄な身長とは不釣り合いに胸は大きい。汗をかいていることもあって分厚い法衣の上からでもくっきり形がわかる。ヒップも同じく、法衣を押し上げてからでもかと存在を主張していた。

 見た目自体が聖域の様に神聖な彼女は、同時に男の肉欲を激しくくすぐるいやらしさも兼ね備えている。

 およそ聖処女らしからなぬ――いや、聖女とはあるいはこうあるものなのかもしれない。何故なら少なくとも、彼女には人を惹きつけて止まない魅力があるのだから。

 

「さて、礼拝のお時間ですね」

「はい。既に信者の方々は待機しております」

「では行きましょうか。今日も迷える仔羊を神の身元へ導かなくては」

 

 部屋を出て講堂へと向かう。

 そこでは信者達が待っているはずだった。

 しかし……。

 

「……これは?」

 

 信者達はいることにはいた。

 しかしその誰もが気絶させられている。

 まるで自分が気絶していることにさえ気がついてないかの様に、全員がその場で倒れている。

 信者の中には個性を持った者も多い。

 素人のしわざではない。

 

「――くふふっ」

 

 笑い声が聞こえた。

 見ればひとりの美少女が座っている。極限まで布面積のないコスチュームに身の丈に合わない大太刀、何よりおへそに刻まれたハート形のタトゥー、これほど特徴的なかっこうをしている人間はそう多くない。側近は直ぐに彼女の正体を言い当てた。

 

「お前は!? ラブジュース・スノウ!」

「知っているのか側近!」

「えっ?」

「お気になさらず。いつもの発作です」

 

 聖女は『個性』により変な返しをしてしまうことがある。

 テンプレな会話を“願い”の亜種として受信してしまうのだ。

 「ぬるぽ」と言われたら「ガッ」と言ってしまうのだ。

 

「名前をラブジュース・スノウ。彼女は有名な『ヴィラン狩り』です。ヒーローではない、しかしヴィランを倒す者。ヒーローよりも手段を選ばない分厄介です」

「なるほど……」

 

 聖女のヴィラン名は『イビル・ホーリィ』。

 先述した通り聖女は有名なヴィランでもあるのだ。

 ヒーローに狙われる可能性は十二分にある。

 

「ここにいた人達には眠ってもらいました。あなたを倒すのに邪魔でしょうから……しかしご安心を。もちろん殺してはいません、後遺症も残らないでしょう」

「倒す? 私を? 何故……?」

「惚けているのですか『イビル・ホーリィ』。だとしたら大した演技です」

 

 演技などではない、聖女は本当に分からなかった。

 たしかに人は殺した。教えに従わない男の家族を目の前で焼いた事もある。テロ紛いの事もしょっちゅうだ。今日の礼拝でも男の子を焼き、両親にその肉を食わせる予定だった。

 しかしそれも全て神のため。

 教典によれば悪ではない。

 

「お下がりください聖女様、どうやら話が通じない狂人の様です」

「話が通じないのはそっちだと思いますけど」

 

 側近が前に出る。

 彼の『個性』は全身から棘を出す個性。長さは最大で約二メートル、硬さはガラス程度なら軽々破壊出来るほど。極めつけは目に見えない微小なサイズの針による不可視の攻撃。地味ながら対人戦においては強力な個性である。

 

「行くぞ!」

「私はもうイきましたよ」

 

 しかし今日は相手が悪かった。

 容易く側近の左腕と右腕が斬り落とされた。自慢の不可視の針も『超感覚』を持つ彼女からすれば丸見えである。

 

「ぐ――ぐわあああああああ!」

「さっ、雑魚は放っておいて。次はあなたです」

 

 地面に倒れた側近を戦いの邪魔にならない様に蹴り飛ばした。

 そして改めて構え直す。

 しかしイビル・ホーリィは構えるどころか側近に近寄り、あろうかとか斬り落とされた断面に手を突っ込んだ。

 

「いっ――」

「お静かに」

「むぐっ!」

 

 頭で叫びそうになる側近の口に布を噛ませる。

 

「神のご加護をここに」

 

 一瞬、イビル・ホーリィの体が光った。

 そこから先は神話の世界。

 まるで巻き戻しが起きたかの様に、側近の腕と足が再生した。

 

「これが神のご加護です。ラブジュース・スノウさん、あなたも教団に入りませんか?」

「お断りします。それに神のご加護ではなく、あなたの『個性』の力では?」

「そうですか。つまりあなたは我々の神を馬鹿にしてると、そういうのですね」

「全く言ってませんが」

「いいでしょう。その報いを受けてもらいます」

「狂信者というのは話が早くて助かりますね。とっとと戦いましょう。といっても――」

 

 ラブジュース・スノウの姿がかき消える。

 

「――話以外は遅い様ですが」

 

 人類最高峰の運動能力を持つラブジュース・スノウ。

 更には『個性』により高速の中でも的確に相手の弱点を見極めることが出来る。

 そして稀代の斬れ味を持つ名刀先走り……この三つを持ってラブジュース・スノウは無敵を誇っている。

 彼女はイビル・ホーリィの首元目掛けて全力で刀を振った。これを無傷でしのいだのは彼女のご主人様ただ一人である。

 

 ――今ここに、二人目が生まれた。

 

 弾かれた訳でもかわされた訳でも、ましてや反撃を受けた訳でもない。

 単純に刃が通らなかった。

 まるで切れ味の悪い包丁でスポンジを切ろうとした時の様に、ただ押し付けているだけだ。

 

「聖女とは一変の穢れもない者、なればわたくしに穢れたるその様な下賎な攻撃が通じる道理がどこにございましょうか」

 

 イビル・ホーリィの皮膚は特別硬くはない。むしろ普通の人よりかなり柔らかい部類だろう。

 しかし皮膚の上から『偶像崇拝』の力で“いかなる攻撃も無効化する”という概念が張り付いている。

 

「そして悪とは常に聖なる攻撃に弱いものです」

 

 イビル・ホーリィが取り出したのは一冊の本――邪教の教えが書かれた聖書、その原典である。

 これを開くことはルーティーンであり、即座に強い“祈り”を生み出すことが出来る。

 ラブジュース・スノウが刀で戦う様に、彼女は聖書を使って戦うのだ。

 

「主は仰られました。神及びその信奉者を侮辱する者は必ずその報いを受けるだろうと」

 

 無造作に振るった拳。

 イビル・ホーリィは素人であり、武の心得などまるでない。達人の域に身を置くラブジュース・スノウが避けられない道理などなかった。

 しかし、

 

「っ!?」

 

 ラブジュース・スノウの身体が何かの力によって引き寄せられる。

 抵抗しようとしても出来ない。

 ガードの姿勢を取ることもできず、あまつさえ弱点をさらけ出してしまう。

 無防備な腹部にイビル・ホーリィの拳が深々と突き刺さった。

 

「(こ、これは――! 攻撃が急所に!)」

 

 尋常ならざる痛みが身体中を駆け回る。

 “聖女の攻撃はいかなる悪をも滅する”という願いの元繰り出されるイビル・ホーリィの攻撃は不可避であり、しかも必ず急所に当たる。

 

「これが神のお導きです」

 

 地面に倒れたラブジュース・スノウの整った顔面を踏み付ける。

 イビル・ホーリィの顔には歪んだ笑みが張り付いていた。

 足を少し持ち上げ――踏みつける。

 

「がっ!」

 

 踏みつける。

 

「ぐぅ!」

 

 踏みつける。

 

「かはっ!!!」

 

 踏みつける、踏みつける……。

 

「アハハハハハハハハハ!!!」

 

 顔面が崩れて地面と同化するまで、何度も何度も。

 

「むっ」

 

 足首が掴まれた。

 そのまま持ち上げられ、地面に叩きつけられる。

 無論ダメージはないが……体勢は崩れた。その隙にラブジュース・スノウは距離を取る。

 

「痛いのは好きですがあなたから痛めつけられるのは腹が立ちますね。それに私は“あの方”の所有物、あなた程度がおいそれと手を出していい存在ではありません」

 

 血の味がする。

 口の中が切れたらしい。

 ラブジュース・スノウは血塊を勢いよく吐き出した。

 

 そんなラブジュース・スノウを尻目に、イビル・ホーリィは次の一節を読み上げる。

 

「神は仰られました。この世には一種類の人間しかいない、即ち神を信奉する者である。それ以外は畜生以下の有象無象。分け隔てなく“下”である」

「“下”品なことも嫌いではありませんねぇ」

「わたくしは嫌いです。下品なあなたを上品に殺して差し上げましょう」

 

 言うが早いが、イビル・ホーリィが突っ込んで来た。

 自身の『個性』に絶対の自信があるが故の、ノーガードでの特攻。

 

「(『偶像崇拝』は一見無敵――だけど、いくつか隙は見つけた)」

 

 対してラブジュースは先走りを納刀、素手で構えた。

 必ず急所に当たるイビル・ホーリィの攻撃は避けようとすると眼球などに当たり致命傷になる恐れがある。

 そこでラブジュース・スノウは自ら急所で受けた。無論、ただ受けるわけではない。

 

「(ここ!)」

 

 触れた瞬間、身体を捩ってダメージを流す。

 『超感覚』により極限まで圧縮された体内時間と彼女の身体能力、そして武への理解が織り成した絶技である。

 それでも痛いは痛いが、さっきよりだいぶマシだ。

 

「はっ!」

 

 そして正拳突き。

 イビル・ホーリィの身体に深々と突き刺さる。

 予想通り避けようとする素振りさえ見せなかった。

 

「ですから、そんな攻撃は無駄だと――」

「ええ。“攻撃は通らない”でしたね。それなら攻撃せずにダメージを与えればいい」

 

 そして『超感覚』は戦いの中でも考える時間を作ってくれる。

 ラブジュース・スノウは既に『偶像崇拝』を攻略しつつあった。

 

「――こはっ!」

 

 突如イビル・ホーリィが苦しみ出した。

 答えは先ほどの正拳突きにある。

 ラブジュース・スノウは正拳突きの後、指先でイビル・ホーリィの肺をマッサージしたのである。心臓マッサージの要領だ。肺は急激に稼働し、多量の呼吸を始めた。当然イビル・ホーリィはむせる。

 

「もしくはあなた自身に攻撃してもらう、とか。聖女同士がぶつかったらどっちが勝つんでしょうかねぇ」

 

 イビル・ホーリィの頭部を掴み、彼女自身の膝に叩きつける。

 鼻の骨が折れる音がした。

 

「あなたの『個性』の弱点、それは“意識外からの攻撃”です。思い浮かばなかったことは祈れない、違いますか?」

 

 その通りであった。

 信者達は“聖女様が攻撃されて痛む所を見たくない”と思うかもしれないが、“聖女様がマッサージを受けて苦しまないように”とは思わない。

 

 たたらを踏みながらもイビル・ホーリィは聖書を開いた。

 

「か、神は仰られました! 信じる者は全て救われる! あらゆる困難は私達ではなく、心なき者に降りかかる! “聖別”を今ここに!」

 

 ぐにゃりと、空間が歪んだ。

 ――否。

 そうではない。

 太陽光が歪んだのだ。

 あたり一帯の太陽光が歪み、暗闇が覆い尽くす。

 歪んだ太陽光は収束し――ラブジュース・スノウに降り注いだ。

 光であるが故に回避は不可能であり、その熱量は鋼鉄をも溶かす。まさに絶体絶命のひっさつわ――

 

 一閃。

 

 先走りを振った。

 収束した太陽光が切り裂かれる。

 

「そ、そんな馬鹿な……」

「“聖別”、神の審判。それがまさかこんなちょっと眩しい程度の技なわけありませんよねぇ。想像出来ない物には祈れない――どうやら信仰心が足りなかったみたいね」

 

 ワイヤーでイビル・ホーリィの首を縛る。

 必死にもがいて抜け出そうとするが、肉に食い込んで掴めない。

 

「攻撃を受けないというのは、必ずしも良いことだとは限りませんよ」

 

 酸素を求めて開いた口に、ラブジュース・スノウは先走りを差し込んだ。

 内臓も管も切れない。

 切れないが、圧迫はされる。

 喉から腸まで異物を差し込まれ、イビル・ホーリィは呼吸困難に陥った。

 

「……こ、ぉえ………」

 

 目から光が失われていく。

 もがく回数も少なくなっていき……やがて絶命した。

 一応脈を測って絶命を確認したラブジュース・スノウは先走りを抜き取り、少し払って汚れを落とした。

 

「せ、聖女様!」

 

 動かなくなったイビル・ホーリィの身体に側近が駆けつけてくる。

 殺すかどうか迷ったが……今回ご主人様から受けた命令は「イビル・ホーリィの討伐」のみ。

 戦いはしたのに人を斬れなかったこの疼きは、ご主人様に癒してもらうことにしよう……ラブジュース・スノウはこの場を立ち去ろうとした。

 

「油断、しましたね」

「!」

 

 側近――否、イビル・ホーリィ!!!

 何故!?

 考える間も無く背中に激痛が走る。

 

「(脊髄がイかれた……!)」

 

 『超感覚』により己の状況を正しく認識したラブジュース・スノウは、脊髄が粉砕骨折し暫くの間立てないことを悟る。

 ……しかしそんなことはどうでもよかった。頭の中に湧いた疑問がほかの全てを埋め尽くしたからだ。

 確かに、確かにさっきは死んでいたはずなのだ。しかし今目の前にいるのは間違いなくイビル・ホーリィである。

 何故、どうして……。

 

「この世で最も分かりやすい“奇跡”はなんだと思いますか?」

「ま、まさか……」

「そのまさかです」

 

 ラブジュース・スノウの考えが当たっているとすれば、イビル・ホーリィは正に無敵ということなる!

 

「あなたが挙げた弱点などとうに知っていました、自分の『個性』なのだから当然です。

 ですが直す必要はありませんわ……何故なら信者が聖女に望むこととは“奇跡”なのですから」

 

 結論。

 

「確かにわたくしは死んでいました。しかし、復活したのです。“死者蘇生”、それが神の“奇跡”。

 神は仰られました。信じる者は救われる――と」

 

 絶望的だった。

 意識外からの攻撃をしようと、敵の攻撃をいなそうと、相手が“不死”ならば意味がない。

 勝ちの条件がない。

 ただし、ラブジュース・スノウにはだが。

 

「ふ――ふふふ」

「何がおかしいのですか?」

「いやね、滑稽だと思ったんですよ。イビル・ホーリィ、あなたは何も分かってない」

 

 ラブジュース・スノウは立ち上がる。

 先走りを杖にして動かない体に鞭を打ち、無理矢理に立つ。

 天に向かって指を指す。

 絶望はしない。

 何故なら――おへその淫紋が熱く疼いていた。

 来る。

 ご主人様が、来る。

 

「神とは! この世にあの方ただ一人!!

 そして奇跡とは! あの方の『個性』に他ならない!!!」

 

 天に向けた指をイビル・ホーリィに突きつける。

 

「つまりお前が信仰してるのはただの妄想なんだよ、イカレ女。ドゥー・ユー・アンダスタン?」

 

 まあ、私はイキ女ですけどね。

 

「上手いこと言ったつもりか」

 

 頭に置かれた手のひらから温もり――否、快楽を感じる。

 存在自体が暖かい太陽のよう――否、アダルトグッズのよう。

 絶対的な安心感だ。

 ラブジュース・スノウはちょっとイキながら気を失った。

 

 

   ◇

 

 

 黒いコスチュームに黒いマント。

 その姿はヒーローと呼ぶ他ない。

 しかしイビル・ホーリィは彼の存在を全く知らなかった。だが側近は知っていたらしい。

 

「お前は……まさか!」

「知っているのか側近!」

「え、ええ……聖女様、ヴィランにも二種類の者がいるのはご存知でしょうか」

「私のログには何もないな」

「知らないということですね。片方は何か目的のある信念あるヴィラン、もう片方はただ暴れたい奴らの集まりです。

 信念あるヴィラン達はオール・フォー・ワンというヴィランが頂点に立ち、組織としてまとめ上げてきました。

 しかしもう片方はそれぞれ独立して暴れるばかり――だったのですが、六年前にあるヴィランが無法者達を全員傘下に置いたのです」

 

 ヴィラン名『オール・フォー・アウト』。

 伝説的なヴィランである。

 ヴィランの表側の頂点をオール・フォー・ワンだとすれば裏側の頂点は間違いなく彼女だろう。

 

「そしてヒーローにも表と裏があります。

 表の象徴がオールマイトだとすれば、彼はまさしく裏の象徴。

 オールマイトがオール・フォー・ワンと相打った様に、彼とオール・フォー・アウトも相打ちになり、互いに姿を消したのです」

「なるほど……大したお方のようですね。ヒーロー名はなんと仰るので?」

 

 やはり◯◯・フォー・オールという感じだろうか。

 

「連続アクメ快楽堕ちさせるマンです」

「連続アクメ快楽堕ちさせるマン!?」

 

 連続アクメ快楽堕ちさせるマン!!

 ヒーロー名は連続アクメ快楽堕ちさせるマン!!!

 

「そうだ、俺が連続アクメ快楽堕ちさせるマンだ」

 

 確認!

 

「と、ところであなたは神を信じますか?」

 

 こんな時でもイビル・ホーリィは宗教の勧誘を忘れない。

 これには流石の側近も感心した。

 

「すまないがそういう話はNGだ。えっちな物と宗教が混じると色んな方面に敵を作る」

 

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンらしい配慮であった。

 

「まあそれはそれとして、だ。随分と私の雌犬を可愛がってくれたようだな」

「雌犬を可愛がると言われるとあらぬ誤解を受けそうですが、ええ、その通りです。概ね間違ってませんよ。もっともわたくしではなく、神のご意思ですが」

「なるほど。あのラブジュース・スノウを倒すとは噂通りの『個性』の様だな」

 

 こちらの『個性』は把握されてる、と。

 いやそもそもラブジュース・スノウとの戦いを観られていたかもしれない。

 一応警戒はした方がいいだろう……イビル・ホーリィは聖書を広げた。

 

「神は仰られました。汝、剣によってではなく信仰に寄って敵を打ち果たさん。倒した相手にこそ剣を突き立てよ」

 

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンの身体が地面に倒れる。

 イビル・ホーリィはその背に向けて拳を叩きつけた。

 『偶像崇拝』によって聖言は叶えられ、敵は死ぬはずであった。

 しかし、通らない。

 ラブジュース・スノウの剣技がイビル・ホーリィに通じなかった時のように。

 

「な、何故!?」

「簡単な話だ」

 

 背を向けていた連続アクメ快楽堕ちさせるマンが仰向けになる。

 

「お前の『個性』よりも俺の『個性』の方が強い」

 

 馬鹿な。

 『偶像崇拝』は人々の願いを束ねる『個性』、たった一人の『個性』に負けるはずがない。

 

「ところで――騎乗位の体勢だな」

「っ!?」

 

 慌てて逃げようとするが、不運!

 偶然に足元に落ちていたインド原産バナナの皮がっ!!

 

 イビル・ホーリィは少し腰を浮かした後、再度連続アクメ快楽堕ちさせるマンの上に落ちてしまう。当然に起きる微振動がイビル・ホーリィの股間を刺激した。それはまるで愛撫の様だった。イビル・ホーリィは小さな悲鳴を上げそうになったが、なんとか堪える。代わりに声として出れなかったナニカが身体の中に残った。

 

「ふぅーっ。……ふっく! ひんっ!」

 

 まだ終わってない。

 下から圧迫される感覚。女の子の柔らかい肌とは根本的に違う逞しい肉体が布を隔てても伝わってくる。逃げる様に子宮が上へ上へと逃げてくる。それを追ってくる。快楽が、追ってくる。カラダのお肉を締めてもゴリゴリ削りながら登ってくる。快楽が通った後は肉壁がピクピク蕩けていた。

 やがてそれが脳内へたどり着いた瞬間、大量の脳内麻薬が出た。

 

 たったの一撃で分からされてしまった。『個性』と『個性』の差、雄と雌の差。屈服した脳が危ない物質をドバドバと分泌している。身体も情けないくらいに受け入れてしまって、お腹の奥には切なさと熱が溜まっている。

 

「(……あ………これダメなやつだ………女の子じゃ絶対に勝てない……………)」

 

 ぼんやりとした頭の中でそう思った。

 こんなの知らない。信仰だけで生きてきたイビル・ホーリィはこんな物があるなんて知りもしなかった。

 こんな……心の底から屈服したくなる快楽なんて。

 

 しかしどこかに残っていた僅かな理性が、信者達からのメッセージを受信した『個性』がイビル・ホーリィを呼び覚ました。

 絶頂の果てに子鹿の様に震えている脚をなんとか動かして、連続アクメ快楽堕ちさせるマンから逃げる。

 距離をとる、ではなく、逃げた。

 

「ほう、流石だ。俺の騎乗位から逃げられた女は他にオール・フォー・アウトだけだぞ」

「そ、そうですか……イ゛ッ! ざ、雑魚ばかり――ふぅ、んぅ! お相手してきた、よう、ようでしゅね!」

 

 なんとか虚勢を張ったが限界なのが見え見えだった。

 しかしそれも仕方のない事だとイビル・ホーリィは考える。こんな『個性』、女なら誰でも屈したくなる。

 今だって信者達からの“穢れなき聖女”の願いを受けてなんとか持っているようなものだ。

 

 お腹の奥に溜まった物と信仰心がギリギリのせめぎ合いをしていた。

 

「ところでお前の『個性』、実はひとつとんでもない弱点がある。なんだと思う?」

「さ、さぁ? にゃんでしょうか?」

 

 嫌な予感がする。

 だけどどこかで、その先を期待しているような……。

 

「俺に屈せ」

「へあ?」

 

 パチン!

 頭の中で何かが爆ぜた。

 

「――――んきゃああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あっっっ!!!」

 

 女の子が絶対にしてはいけない無様な声が出た。

 けれど、彼女を責める者はひとりもいないだろう。

 

「お前の『個性』は敵である俺の願いも受信してしまう。それに――気づいているか?」

「気づいてます! こんなの嫌でも気づきます! やめて、やめさせて! むりっ! もっ、むりだから! 重ぃ゛っ! これ重すぎ!」

 

 信者達の数は正確な所は分からないが、少なくとも1万は下らないだろう。

 その信者達全員が偶然にえっちな事を考え始めた……聖女をオカズにして。

 つまり、ラブジュース・スノウの攻撃を容易く防ぎ、死者をも蘇らせる『個性』が全て“快楽”となってイビル・ホーリィを襲ったのである。

 

「ん゛んぅ! しぎゅ! しぎゅうがとまらない! イグっ! ふぎぃ、ふぎいいいぃっっ! あ、あ、あ、……イヤっ! イヤイヤ! これ以上入って来ないで! もう行き止まりだから! わたくしのなか、それ以上――イヤっ、入って来ないでええええ! これやめさせてっ!」

 

 頭の中を快楽が真っ白に染める。お腹の奥にあった熱も爆発して意図も簡単に子宮を溶かした。それだけでは終わらず、手足の末端まで犯し尽くされる。バタバタ動いても止まってくれない。今まで信仰ばかりで何も知らなかったイビル・ホーリィのカラダは一瞬にして開発され尽くした。

 

「そういえばお前さっき面白い事をしていたな。攻撃が全て急所に当たるとかなんとか」

「へっ!? し、してませんっ! そんなことしへぇましぇん!」

「俺がやるとどうなるか……試してみるか」

 

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンのデコピンがイビル・ホーリィを弾く。

 イビル・ホーリィの『個性』は攻撃が急所に必中する。

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンの『個性』は更にその上――当てた場所を急所に変える。

 途端にアタマが性感帯になった。

 

「あちゅい! アタマがあちゅい! やげぢゃう! のーみそ、焼ける! どまらない゛ぃ! 波が止まらないのおおおおっっっ! 快楽重すぎィて、止まらないいいい! 神しゃま助けてえ!!!」

 

 最初の波が反射して返ってくる。勢いは止まるどころか、新しい快楽が二度、三度と波打った。アタマの中では絶対に人が感じちゃいけない快感がこれでもかと押し寄せてる。歯を食いしばって耐えようとしても無駄だった。直ぐに顔がだらしなくなってしまう。カラダは完全に堕ちていた。欲しがりな子宮が次を寄越せと下に降りてくる。

 

「ほう、これは面白い。もう少しやってやろうか?」

「も、もう堪忍した下さい……お願いします………負け癖ついちゃいまふ……わたくしのよわよわ子宮に負け癖ついちゃいまふから…………一度死んでもまた屈服しちゃう様になっちゃう……………どうか、どうかお願いしまふ……………」

 

 なんとか波が収まった後、全身を痙攣させながらイビル・ホーリィは懇願していた。

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンは何も言わない。ただ黙って見下ろしている。

 その眼に恐怖したイビル・ホーリィが取った行動は“祈り”であった。

 神にだけしていたそれをこの男に対して自然としていた。

 

「もう二度と市民を傷つけないと違うか?」

「誓いましゅ!」

「信者を増やさないか?」

「増やしません!」

「信仰を捨てるか」

「……っ! しょしょれは!」

「それは、なんだ?」

 

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンがデコピンの構えをする。

 イビル・ホーリィは目を白黒させた。彼女の理性は必死で争っているのに、カラダは媚びてしまっている。涎がダラダラ出て、お腹の奥がもう乾いていた。こんなカラダではもうどうすることも出来ない。

 答えはもう決まっていた。

 

「はい、捨てます。信仰を捨てます!」

 

 肉体が弾け飛んだ。

 もちろん比喩だ。実際に弾け飛んだ訳ではない。ただそう錯覚してしまうくらいの快楽が弾け飛んだのだ。アタマがポワポワしてカラダと分離していた。何も分からない。ただ奇妙な安心感と、おへそのあたりの疼きだけを感じていた。

 気がついた時には、奴隷の証である淫紋が刻まれていた。

 

 これにて一件落着!

 ……とはならない。

 この先どうなるかは分からないが、少なくとも過去、彼女はヴィランだったし邪悪な信者達を作ってしまった。被害者も数多くいる。

 償いをしなくてはならない。

 しかしイビル・ホーリィに迷いはなかった。

 

 このお方に着いていく。

 

 それだけは確かなことだった。

 かつて神に捧げていた信仰心がそっくりそのまま連続アクメ快楽堕ちさせるマンに向かっていたのだ。

 

「ところで、そこにいる男」

「は、はい!」

 

 側近に声をかける。

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンの『個性』を見てか、はたまた同じ男として憧れるものがあったのか、彼は直立不動の姿勢を取った。

 

「演技はいい。それよりお前の飼い主に伝えておけ。次はお前だとな」

 

 側近の顔付きが変わる。

 先程までのおどけた様子は一切なく、ただ仕事だけを遂行する者の顔へと。

 

「……必ず伝えておきましょう。我が真なる主人オール・フォー・アウトに『ラッキー☆ドスケベ』の持ち主が帰ってきたと」

「ああ、それでいい」

 

 側近は闇の中へと消えた。

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンもまた、イビル・ホーリィとラブジュース・スノウを担いで夜の街へと消えて行った。

 それから彼がどうしたのか………それは誰にも分からない。

 

 しかし、確かなことがひとつ。

 決戦の時は近い!

 そしてもうひとつ!

 この事件以来ラブジュース・スノウの他にもうひとりの少女が連続アクメ快楽堕ちさせるマンの傍らに控えるようになった。

 彼女の名前は『アクメ・パーリィ』!

 ショッキング・ピンクの法衣に似た何かを纏った正義の、否! 性技の少女である!

 薄い本を片手に太陽光を曲げて敵を溶かしたり生き返ったりするぞ!

 

 三人の物語は終わらない――否、始まったばかり!

 イケ、連続アクメ快楽堕ちさせるマン!

 イかせろ、連続アクメ快楽堕ちさせるマン!

 今日も新たな女を快楽堕ちさせるために!

 何処までも!

 世界が平和になるその日まで!






【次回予告】
やめて! 連続アクメ快楽堕ちさせるマンの個性で、脳みそを焼き払われたら、神経で繋がってる子宮まで燃え尽きちゃう!
お願い、イかないでオール・フォー・アウト!
あんたが今ここで倒れたら、シリアスな感じの話とか原作へのリスペクトはどうなっちゃうの?
希望はまだ残ってる。ここを耐えれば、連続アクメ快楽堕ちさせるマンに勝てるんだから!

次回『城之内 死す』 デュエルスタンバイ!

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