汚泥の中、儚き光   作:Masty_Zaki

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終わりから始まり

 暗黒の紅が天空に満ちていた。

 道があった。コンクリートで舗装された道路。

 罅割れ、陥没し、崩落し、道路としての機能を失った、一直線の残骸。

 生物の息吹を感じさせない、何もかもが死を迎えた世界の中で、ただ僅かに吹く大気の流れだけが、この風景を動かす一つの要因だった。

 

 そう、これは、終わりを迎えるはずだった世界の話。

 

 先へと続き、未来へと歩みを進めていく世界で、少女は答えを見出し、その世界に残り、守ることを決意した。

 世界は続く。少女たちが守るために戦い続ける限り。

 これから記されるのは、そのような光溢れる世界ではない。

 終わってしまった世界。終わるはずだった世界。崩壊した世界。闇と絶望に堕とされた世界。

 ここには何もない。罅割れた大地と、倒壊した建築物と、焼失して炭と化したナニカ。

 きっとそうなる前、ここは人々の悲鳴と怒号に塗り潰されていただろう。怪物がその力を存分に振るい、無力な人間たちが逃げ惑う。時には我が身を助けるために隣の同胞を蹴落とし、犠牲にしただろう。その裏切り空しく、いずれ逃げる場所もなくなり、怪物の炎に焼かれて死ぬのだ。

 さらに言えば、そうなるもっと前、ここは人通りが豊かで、仕事に勤しむ者や移動に急ぐ者で、絶えず人の生活音に満ちあふれていたに違いない。

 しかし今ではそれも、遠い昔の話である。

 この世界は、人類が文化的な生活を営むには、既に血と泥に塗れすぎてしまっていた。

 

 ――かつてこの世界にいた、十数人の希望のせいで。

 

 希望が消え、絶望へと暗転し、人類へと牙を剥いた。

 人類にとっての正義の使者だった彼女たちは、いつの間にか守るべき者たちを雑草のごとく刈り取る死の宣告者に成り果ててしまっていた。

 刃を突きつけられた彼ら彼女らの視界に最後に映ったのは、彼女たちの笑顔。狂気に満ちた笑顔。楽しそうな笑顔だった。

 そんな、『希望』が生存者を殺す、狂った時間もいつの間にか終わりを告げて。

 残ったのはこの惨状。

 悲鳴も怒号も絶叫も全て風にさらわれ消し去られてしまった破滅の空間。時間など既に、全ての生物が消え去った時点で停止してしまっている。

 この破壊され尽くした空間は、既に時間の概念を失わせるほどに荒廃していた。

 

 ――足音が、聞こえた。

 

 音が生まれる。そこからこの世界の時間は動く。生物の存在しなかった風景に、生命の鼓動が走る。

 柔らかい音だ。靴を履いているような、固い音ではなかった。ペチ、ペチ、と叩くような音。恐らくは、裸足で歩く音。

 倒壊したビルの隙間から、その正体は姿を現した。

 少女だ。まだ若い、幼い少女の姿。所々裂け目の入った布きれ一枚を身に纏い、とぼとぼと足を進める少女がいた。

 色素の薄い灰色の髪は肩まで伸びているものの、決して綺麗とは言えない荒れ方をしている。

 ごく普通の生活をしていればなめらかで美しかったであろう柔肌も、所々裂け、血を流し、痣をつくっている箇所が数カ所見受けられた。

 そんな満身創痍の少女が、誰もいない道を、生命の存在しなかった道を歩く。

 風景に音を与えることで、生命を与えることで、時間は動き始める。

 果たして動き出す時間は、明るい未来と、より暗い結末と、どちらへ流れていくのか。

 

 歩く少女の足は小刻みに震えている。ずっと歩き続けていたのだろう、裸足の足の裏は幾重に傷つき、互いにかばい合うようにして歩いていたせいで、余計に傷が深くひどくなっている。

 そんな激痛を抱えながら長時間地面を踏みしめながら道を辿っていたというのか。

 痛みを堪え、疲労に耐えようと食いしばる歯の力も弱々しく、ライトブルーの瞳も焦点が合わず、その光を失いかけていた。

 どこに向かえばいいのか、恐らく少女自身も理解していない。

 おぼつかない足取り、その足音も、もはや一定ではない。

 そしてついに、少女はアスファルトの亀裂に足を挟み、慣性に重心が耐えきれず前へと転倒した。

 朦朧とする意識が、心臓が握りつぶされるような悪寒に一瞬引き戻される中で、傷ついた左腕を前へ、上へと突き出す。それでも視界は、無情にも地面へと沈んでゆく。

 

「――あぶないっ」

 

 声がした。満身創痍の少女とは別の声。

 地面に叩きつけられるはずだった肢体は、その声の主の差し出す両腕によって、優しく抱きかかえられていた。

 シャットダウンしつつある意識をかき集めて繋ぎ止めつつ、力を振り絞ってその腕の主の顔を一目見ようと首を捻る。

 腰まで伸びる栗色のロングヘア、優しげな眼差しはこちらを見て、信じられないような表情をしていた。

 満身創痍の少女は、その顔をよく知っていた。そしてその顔から連想される名前も、そして肩書きもよく知っている。

 その両腕に支えられている安堵感から、少女はそっと意識を手放した。力を失った首が、頭を支えきれなくなってくてんと落ちる。

 

「わわっ」

 

 脊髄を傷つけないように、慌てて手で頭を支える。

 その少女を、全身傷だらけで、独りぼっちでこの道を歩いていた少女を助けた女性の名は。

 

 

 ――――星月みき――星守である。

 

 




文章書くのも結構間が空いているのでリハビリ程度に短文をば。
バトガはなんかもう一個よくわからんもの投稿してるけどとりあえず終盤までのシナリオができてるこちらを優先して進めます。
なお更新速度は亀どころかナメクジな模様。
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