風の吹く先へ   作:暇潰しと思いつきの人

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熱冷めやらぬ。というわけでいつもの見切り発車。
ダイワスカーレットに一目惚れしたので書いてます。
グラスワンダーも大好きです。
競馬知識を収集しながらやっていくので、都度ガバガバかもしれませんが、生暖かく見守って頂ければと思います。


第1R 再会-リスタート-

――昔から、夢に見ていた事がある。

 

『トゥインクル・シリーズ』を、自分がトレーニングした『ウマ娘』が勝つのを見る事だ。

 幼少の頃からそんな夢を見る様になったのは、どうしてだったかは覚えていない。

 ただ、確実にそう目指すに影響を受けた相手がいる。

 

『一番! アタシが絶対に、一番のウマ娘になってやるんだから!』

 

 そう宣言した幼馴染。やや赤みかかった栗色の髪を揺らして、俺に向かってそう言ったのは、いつの事だっただろう。

 

 それは子供の頃の、色褪せない夢。

 

『だったら、俺は一番のトレーナーになってやる』

 

 負けず嫌いだったわけではない。張り合ったわけでもない。

 だが、彼女に対してだけは、そう返さなくちゃいけないと思った。

 それが、それだけが――俺を熱くさせてくれる、唯一の夢だったから。

 

 

「おい。おーい」

 

 夕暮れに染まる練習場に、誰かの声が聞こえてくる。

 声のした方へと顔を向ければ、髪を後ろに結んでいる男性――“先輩”がそこに居た。

 俺が自分に気付いたのを確認した彼は、口に棒付きのキャンディをくわえ直す。

 

「どうした、ぼーっとして。そろそろ撤収するぞー」

「すんません、先輩。ちょっと考え事してて」

 

 用具を右腕の脇に挟みながら返答した俺に、先輩は首を傾げてみせる。

 

「レース馬鹿のお前が、考え事ねぇ」

「なんスか」

「……いや、なんでもねえよ」

 

 事もなしげに先輩はそう言って、振り向く。意味ありげな言葉に引っかかりを覚えるが、一息を入れて用具が落ちないようにしっかりと抱えなおす。

 そしてふと練習場のトラックに目を戻せば、そこには複数人のウマ娘たちが練習から引き上げる姿が見えた。

 それぞれジャージ姿だが、ひとりだけ『ウマ娘トレーニングセンター学園』――『トレセン学園』の制服に身を包んでいる姿が見えた。

 

「……」

 

 呟く前に、言葉を飲み込む。言っても仕方ない。それこそ、女々しいだけの話なのだから。

 

「グラスワンダー、だったか。お前さん、随分入れ込んでたみたいだからな。悔しいか」

「先輩!? な、何を……おおっ!?」

 

 片付けに集中しようと前を向くと、いつの間にか立ち止まっていた先輩が居た。

 彼が口から出した言葉に、俺はたじろいで用具を脇から落としかける。

 

「お前が俺の助手になる前――トレセン学園(ここ)に着任したての頃に熱心してたもんな」

「……いや、もう過ぎた事ですよ」

 

 過ぎた事。ああ、そうだ。過ぎた事なのだ。

 彼女が俺の誘いを断って『チームリギル』に入ったのも、怪我をした後の姿を目で追って見てしまう原因も――。

 あの頃は必死だったというものあるけれど、どうも青苦い味を思い出してしまう。

 そっぽを向いて見せたのは、意地の悪い先輩へのささやかな抵抗。

 なのだが、そんな事などお見通しと言わんばかりに、この人は俺の肩をポンポンと叩いた。

 

「ま、そうやって言えてる内は大丈夫だな」

「わざとらしく煽るのやめてください」

 

 わざわざ言わなくてもう言い事を口に出すのは、この人の悪い癖だ。

 ジト目で睨みつけてみても、先輩はどこ吹く風と再び前を歩き始める。

 その先には、俺がトレーナー助手をしている『チームスピカ』に所属しているウマ娘、『ゴールドシップ』が仁王立ちしていた。

 

「戻って来ないと思ってたら、何やってんだ二人とも」

「こいつが女々しくしていたんでな、つい」

「俺のせいっすか!?」

 

 呆れ顔というか、興味の薄そうな表情で言ったゴールドシップの言葉。先輩が茶化してきたので、声を荒らげて抗議をする。

 確かに女々しい事には、変わりないだろうけど……。

 

「まあ、いつもどおりだろ」

「まあ、いつもどおりだな」

「……二人してやめてください」

 

 そう言っても、先輩もゴールドシップもやめてはくれないのだろう。

 だが、こうやってやいやいとやっていると、沈んだ気持ちも浮かび上がってくる。

 頑張ろうという気持ちが湧き上がってくるのだから、悪い気がしないのは確かだ。

 ……だからって、あまり茶化されるのは好ましくないけど。

 

「ほら、さっさと帰るぞ。明日もまた部員募集しなくちゃいけないんだから」

 

 ゴールドシップがそう言ったのを皮切りに、俺と先輩も着いていく形で部室へと足を向ける。

 

 

 ――部員募集。そう、この『チームスピカ』には部員が居ない。現状だと()()()()()()()()()()()()()()()なのである。

 俺も本当ならば自分のチームを持つべきトレーナーのひとりではあるのだが、わけあって助手という形で先輩の所で世話になっている。それもまあ、紆余曲折という所で今思い出すものでもないだろう。

 

(……現実は、厳しいけど)

 

 夢を見て、夢を追い続けて、夢に手を掛けた所で、それがスタートラインでしかないことを知った。

 そして、そこから先もどれだけ厳しい世界であるのかも、知る事となった。

 だったら、今出来る事を全力でやる。俺がここでやれることを、先輩の下で――。

 

 

 とある日。

 雲ひとつない快晴。昼下がりの誰ひとり居ない、倉庫の様な飾り気のない部室に俺は居た。

 外装こそ質素だが、この部屋の中にはわりと道具が揃っている。

 大掛かりなものは流石に置けていないわけだが、この部屋を清潔に保つのも助手である俺の仕事だ。

 昼飯を少し早めに済ませた俺は、掃除用具を一通り揃えて仁王立ちをしていた。

 

「本当なら、先輩にも手伝って欲しい所なんだけど」

 

 ぼやいた所で、あの人が手伝ってくれるはずもない。何かと言い訳で煙に巻いて、用事があると逃げるに決まっている。今日もチラシ配ってくると言って、そそくさと出て行った。

 そこは最初から諦めている。が、

 

「……ひとりだと、やっぱりなあ」

 

 愚痴のひとつくらいは零しても、バチは当たらないだろう。

 ゴールドシップは気まぐれで手伝ってくれることもあるが、それも気まぐれで放棄する事もある。

 本当にマイペースなウマ娘、というのが俺から見た彼女の評価だ。

 先輩も先輩で好きにさせているのは、甘さではないのだろう。俺から特別あれこれ言うのは、出しゃばりというものだ。

 

 それにしても、部員か。この前にも言っていたけど……。

 

「こんなチラシで、入ってくるもんかね」

 

 色々と考えつつ掃除が一区切り着いた所で、俺は机の上に置いてあった一枚のチラシを手に取って呟いた。

 

『ナウイあなた チームスピカに入れば バッチグー!!』

 

 宣伝文句がカラフルに描かれているプリント用紙。これは先輩が手ずから作成したものだ。

 これを見せられたのは以前、ゴールドシップのトレーニングが終わってこの部室に戻った時だっただろうか。

 俺と彼女で、「センスがない」と異口同音に感想をもらしたことを鮮明に覚えている。

 とは言え、何でか知らないが再びやる気を出してくれたことを俺は裏で喜んだ。

 

 俺が助手として『チームスピカ』に来た時、率直な言い方をすれば先輩は不貞腐れていた。

 

『ちゃんと指導してくれない』『放任主義ではなく指導放棄』

 

 などと散々な言われようの噂は耳にしていたから、それが効いたのだろうと思っている。

 

 先輩のトレーニングは、ウマ娘たちの性格を尊重したものだ。自主性を重んじると言えば聞こえは良いが、これを行えるのは『一握りの才能』を持ったウマ娘くらいだろうと、俺は思っている。そしてそれが噛み合わなかった。だから、スピカからは部員が次々と消えていった。当時のことを俺はあまり知らないから、推察でしかないけど。

 

 それでもゴールドシップだけは残っていた。残った理由は未だに聞かせてはくれない。正味、邪推になってしまうが、何だかんだで彼女は優しいから、そういう理由も絡んでいるのだろう。

 そんな先輩が、やる気を見せたのがつい最近。そしてチラシを作って、『トゥインクル・シリーズ』への条件である部員集めに活発になったのもつい最近。

 何があったかは知らないけれど、スピカの部員が増えてくれれば、こんなに嬉しい事はない。本格的に、俺の助手としての仕事も始まる。

 個人的には自分でもチラシを作ってと思うが、俺も俺でセンスがないのでとりあえず先輩任せだ。

 

 ……人のこと言えないな、これは。

 

 そんな風に自嘲気味に苦笑していれば、扉を開けて誰かが入ってきた。

 制服姿のゴールドシップだった。

 

「およ、なんだカッツ。お前ひとりか」

「俺一人だ。なんだ、悪いか」

「悪かねえよ。……おーおー、ピッカピカだ。悪いね、いつもやってもらっちゃって」

 

 言いながらゴールドシップは、肩掛けのスクールバッグを部室の奥にある机の上に置いた。

 ちなみに、『カッツ』というのは俺の渾名である。これは俺の『成田カツアキ』という名前から来ている。命名元は先輩だ。

 

「そういう労いしてくれんのは良いけど、たまにはちゃんと手伝ってくれよ。みんなの部室だろ?」

「気が向いたらね」

 

 定型文で返された。

 

「というか、この部室に長居するのって基本的にカッツだけだろ? スピカのトレーナー助手なんだから、頑張れよ」

 

 そして正論が付け加えられた。

 

 いや、わかってる。現状、みんな=三人で、使う機会が多いのは俺である事くらいわかってる。

 そして助手というのは、そういった雑務をこなしてこそなのだ。トレーナーやウマ娘達がしっかりと気兼ねなくトレーニングと指導に励める環境を保つ。

 要は、縁の下の力持ち。れっきとした仕事のひとつである事くらい、理解はしている。

 理解はしているが、完全にそれを飲み込めていないのだ。

 

「……ま、人数増えればそういう手伝いしてくれる奴のひとりやふたり増えるだろ。それまでの辛抱だって」

「さいですかねえ」

「さいですよ」

 

 最後には気を遣わせてしまった様で、そんな慰めの言葉を頂いてしまう。

 それに対する返答は、自分でも分かるくらいに腑抜けたものだった。

 

 それからゴールドシップがジャージに着替えるとの事で外に出る。

 彼女が部室に来たという事はつまり、他のトレセン学園のウマ娘たちもトレーニングの為に己がチームの部室や練習場へと向かう時間という事。

 ちょっと遠目を見遣れば、既に体操服に着替えたウマ娘達が馬場や練習場へと向かう姿が見て取れた。

 掃除って何だかんだで時間持っていくものだよね、と心の中で誰に言うでもなくひとりごちる。

 

「どうした、カッツ。部室の前を陣取って」

 

 そうしていれば、どこからともなく歩いてきた先輩に声をかけられた。

 

「ゴールドシップが中で着替えてるんスよ。っていうか、今まで何処行ってたんですか」

「ビラ配り。まだチーム決めて無さそうな奴が居そうな場所を中心にな」

 

 例の宣伝文句が書かれたプリント用紙を取り出して言う先輩を、俺は目を白黒させながら見る。

 

「……マジスか」

「マジマジ大マジ。つーか、そう言って出てったろ。お前に掃除任せた時に」

「いつものだと思ってました」

「……人望ねえな、俺も」

 

 いや、だって、ねえ?

 

 確かに、最近のやる気は以前とは比べ物にならない。

 しかし、これまでの事はこれまでのこと。すぐに払拭出来るものではないのだ。

 

「身から出た錆は辛いねえ」

「それで、どうでしたか」

 

 そんな事より、俺が聞くべき事は勧誘の手応えである。

 先輩は棒付きの蹄鉄飴を口にくわえながらニッカリと笑みを浮かべ、

 

「全然だっ!」

 

 胸を張ってそう言い放った。

 思わず脱力してずっこけそうになるのを堪える。

 

「先輩?」

「いや、仕方ないだろ。俺たちは実際、実績も成績もないチームなんだぜ?」

「そうかもしれないっスけど」

 

 だからって思わせ振りな態度を取るのは、どうなのだろうと怪訝に表情を歪ませる。

 

「こういうのは地道にやるしかないのさ。いつか、チラシを見たウマ娘が来てくれるかもしれないだろ?」

「……あのチラシで、ですか」

 

 更に視線を冷ややかにして、俺は先輩を見る。

 そうしていれば「多分な!」という何とも頼り甲斐のない言葉が、彼の口から飛び出して来た。

 いくら何でも、楽観視し過ぎではないだろうかと思う。

 

 しかしてその反面、先輩の『地道にやるしかない』という言葉は理解せざるを得ない。

 先輩の言う通り、『チームスピカ』には実績も実力もない状態だ。まさに一からのスタート。そんなチームに加わってくれるウマ娘を、俺達は地道に探さなくてはならない。

 核心は突けるのに、どうも昔からこの人はこうなのだ。

 

「……ま、一頭、候補は居るんだけどな」

「へ?」

 

 先輩が何か呟いた様だが上手く聞き取れず、素っ頓狂な声で返してしまう。

 先輩はすぐになんでもねえよ、と言葉を継いで会話を終わらせる。

 なんだか聞き捨てならない様なことを言った様な気がするのだが、

 

「カッツ、もう良いぞー。って、トレーナー。あんたも戻ってきたのか」

「着替え長いぞゴールドシップ。さっそく中でミーティングだ」

「え、トレーニングじゃねえの?」

 

 それも着替え終わったゴールドシップの登場で、聞き出す空気ではなくなってしまった。

 ……なーんか、企んでる様な気がする。

 

「何やってんだカッツ、早く中入れー」

「あ、ああ。今行くから急かすなって」

 

 釈然としないもやもやを抱えたまま、ゴールドシップの呼び声に答えて俺も部室へと入る。

 そうして始めるミーティング。具体的にはどうすれば部員を集められるか、というものを中心としたものだった。

 ゴールドシップから本気なのかふざけているのかわからない案。果報は寝て待てと言わんばかりにしている先輩。

 

「……」

 

 一方で、俺は特に案が思い浮かばず口を噤んだ状態だ。

 こういう時に切り替えなければと思うが、先輩がさっき何を言ったのか気になって集中出来ていない。

 ああくそっ、こういう所だぞ。なんの為に助手やってんだ俺は。

 

「調子悪そうだな、カッツ。お前も何か、案があったら言ってみろ」

「やっぱ特典とかあると良いと思うんだけどなー。助手がいるチームって少ないだろうし」

「ゴールドシップ、お前は俺をなんだと思ってんだ」

 

 俺の考えていることなど知る由もないゴールドシップの言葉に、ジト目を向けて返す。

 しかし、先輩に心配される程まで考え込んでしまっているのは、正直失態だ。

 いや、元はと言えば先輩が原因なのだが。

 

「ま、無理に出す必要は無いぞ。チラシの効果ってのは、じわじわとしたもんだ。急いてことを仕損じたら元も子もないしな」

「……はあ」

 

 気にしすぎてこうなっている点で、俺は既に赤点物なのだが……先輩の言ったことはとりあえず置いておくことにしよう。

 息と一緒に悩みを吐き出し、深呼吸をして頭を切り替えるよう努める。

 今は仕事。仕事の時間だ。ぶっちゃけ、後で聞けば良いのだから。

 そう心の中で自分に言い聞かせ、改めて勘案を練ろうとしたその時だった。

 普段ならば俺たち以外に誰も入って来ないはずの部室の扉が、開かれたのは。

 

「な……ッ」

 

 開いて中に入って来たのは、二頭のウマ娘だった。

 一頭は、右目を隠すように伸びている前髪に特徴的な流星模様のあるウマ娘。

 外ハネの髪型や綺麗に整った顔立ちがボーイッシュな雰囲気を際立たせている。

 

「このチラシイカすよなー」

 

 そんな言葉を彼女が発したもんだから、後ろでゴールドシップの有り得ないものを見た時の様な、唸り声に似た何かが聞こえた。

 先輩も先輩で硬直している。というか、俺も俺でツッコミを入れる余裕なんてものはありはしない。

 

「あんたもわかってるじゃない」

 

 そう言ったウマ娘を見て、動くに動けなくなったからだ。

 やや赤みかかった長い栗毛を、青いファーシュシュで大きなツインテールに結っているウマ娘。

 ティアラ型のシルバーの髪飾り、ツインテールの左に真紅のリボン。喋った時にチラリと見えた八重歯。

 間違いない。そして間違いであって欲しかった。

 

「な、な……スカーレット!?」

「は!? カツアキ!!?」

 

 ようやく出せた声と言葉と、多分表情も驚愕に染まっていて。

 俺の声でようやく気付いたのか、彼女も同じ様に目を見開いて言葉を発する。

 

『ダイワスカーレット』

 

 子供の頃、俺に大きな影響を与えてくれた幼馴染の姿が、そこにあった。

 

「何であんたが此処に居んのよ!? いや、そもそもあんたトレーナーやってたんじゃないの!?」

「一応トレーナーやっとるわ! お前こそなんだ!? トレセンに入学してたなら言えよ!? 祝ってやったのに!」

 

 一度堰を切ればお互いに洪水が如く、言葉が口から流れ出てくる。

 それこそ思い浮かぶ言葉をピンからキリまで。荒らげた声でまくし立てる様に、悪態から褒め言葉っぽい何かを一斉に。

 ぐぬぬと両手を合わせて力比べの様なポーズになってしまった所で、先輩の咳払いが聞こえて来た。

 それでようやく、俺たちは我にかえる。

 

「ゴホンッ。……なんだ、知り合いかお前ら」

「仲良いな」

 

 引き気味な空気の中、ゴールドシップの淡々とした感想が物静かになった部室に、妙に大きく聞こえた。

 この空気を作ってしまったのは、間違いなく俺とスカーレットである。

 彼女は蒼褪めた顔色をしていた。やらかしたと思っているのだろう。俺も思っている。

 

「す、すんません。取り乱しちゃって」

「ごめんなさい……」

 

 頭を下げ、二人して謝る。

 

「良いって良いって。ほら、頭を上げて。寧ろ、活きの良いウマ娘は大歓迎ってな。まさかそれが、カッツの知り合いとは思わなかったが」

 

 快活にそう言った先輩の顔を頭を上げてから見れば、物凄くウキウキとした表情だった。

 そして、後ろに居るゴールドシップに横顔を向けてサムズアップを決めた。

 

「ああ、スカーレットが言ってた人ってその人か。良かったじゃねーか、やっと見つけられて」

「う、ウオッカ!?」

 

 ――やっと見つけられて。そんな気になる言葉を発したウマ娘の名前は、ウオッカというらしい。

 そして慌てるスカーレットの姿を見て、してやったりといった表情を浮かべている。

 ちゃんと友達作れているようで何よりだ、と少し安心した。

 

「それはそれとして。……チラシ見て来ました! ウオッカって言います! オレをチームスピカに入れてください!」

「あっ、ちょ……! ダイワスカーレットです! アタシも、チームスピカに入れてください!」

「「お願いしますっ!!」」

 

 そんな親心の様なものを感じている俺を尻目に、ウオッカとスカーレットが先輩に向けて勢いよく頭を下げる。

 息が合っているのか、最後には二人の声が重なった。

 彼女たちの姿を見て、先輩が俺とゴールドシップに目配せをしてくる。

 ゴールドシップは腰に手を当てて小さく頷き、そして俺もまたそれに頷いて返した。

 

「よっし! それじゃあ二人はこれから入部届けを書いて提出だ!」

「ようこそ! チームスピカへ!」

「ようこそ、チームスピカへ」

 

 そして三人でそれぞれ、歓迎の言葉を彼女たちへとかける。

 ウオッカとスカーレットは頭を上げて、それから力強く、

 

「「はいっ!!」」

 

 そう返事をしてくれた。

 

 これが、俺の再会。ダイワスカーレットとの、なんだか呆気のない再会だった。

 そして、俺は改めてスタートを切る事になる。

 チームスピカ。トレーナーに加え、トレーナー助手の俺。

 所属はゴールドシップ、ウオッカ、ダイワスカーレットの三頭。

『トゥインクル・シリーズ』参加条件の部員数まで、あと二人。

 

「あ、カッツ。新入部員の指導。お前に任せるから。フォローはするからよろしくな」

「はぁぁあ!?」

 

 そして、先輩の無茶ぶりが最後に聞こえた。

 

 


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