「午後十一時三十九分! コードネーム”タックルラフム”出現を確認! 場所は埼玉県所沢市県道四号線! 機動隊は直ちに急行せよ!」
十月十五日。夜も更けた時分に起こった突然の事態にバディも焦りを催す。同じく楓もそろそろ眠ろうかと思っていた頃の連絡だったので不満もやぶさかでは無かった。
楓は帰宅する際に藤村からライドツールを受け取っていた。それを思い出し咄嗟にライドツールを収納しているアタッシュケースを手に取る。
自宅であるマンションの入り口に出ると、藤村の乗る指揮車両が止まっていた。
ドアを開けて藤村が顔を覗かせる。
「迎えに来たわ! 乗って!」
楓が指揮車両に乗るとすぐさま藤村が状況を伝える。
「さっき携帯に送信しておいた通り、埼玉県にラフムが出たわ。猪の様な身体的特徴を持ったラフムで、突進攻撃を仕掛けて来る様ね」
「まさしく
「そう。君の俊敏な攻撃で迎え撃って欲しいの」
「……了解です」
楓は鈍重に呟くと、車に乗る。すぐに発進するとライドツールが収納されたアタッシュケースを開き、中のロインクロス、バレットナックル、ブートトリガーを取り出し、装着する。
「それと、霧島君。新しく制作した”イートリッジホルダー”よ。受け取って」
そう言って藤村は指揮車両のダッシュボードからイートリッジを格納する小型のケースを渡す。楓はケースを見て、ベルトに装着する。
「ああ、こうやって付ける、と」
「バッチリよ。中には取り敢えずウイニングとロック、そして”ライドサイクロン”のイ―トリッジを入れてあるわ」
ケースを開いて楓が確認する。その中にある見覚えの無いイ―トリッジ。
”Ridecyclone”と英字で表記された今までのイートリッジとは異なる雰囲気を持ったアイテムに興味を示す。
「これは、何ですか?」
「それは”ライドサイクロン”と呼称しているバイク型機動マシンの呼び出し用の簡易イ―トリッジ。霧島君のウイニングを解析して得られた情報を元にようやく完成したんだ!」
「ところで…何でバイク?」
と、楓がその質問をした所藤村が嬉々として立ち上がり説明しようとしらたが、車が信号で停車し、藤村が横転する。
「アァオ!!」
「藤村さん! 大丈夫すか!?」
「何でバイクかって……」
頭を抱えながらも話を続ける藤村の熱意と言うのか何なのか、形容しがたいその意気込みに楓は息を飲む。
「何でバイクかってそれはカッコいいし実用的だからなのよ!」
は、はあ、と楓が硬直しつつ答える。だが利便性、汎用性が高いのはその通りだ。
「速度ならライドサイクロンの方が出るわ。とにもかくにも、今から停車させるから外で発進させてみて」
藤村の言う通りに、楓は下車すると、持ち出していたアタッシュケースを開き、ライドツールを装着する。
《Account・Winning》
ロインクロスの起動を知らせる音声を確認すると、バレットナックルとイ―トリッジホルダーをロインクロスの横へ装着してブートトリガーを引き抜く。
左手でウイニングのイートリッジをホルダーから取り出すと、起動させる。
《Winning》
イートリッジの起動を確認するとロインクロス中央部分へ挿入する。
「変身」
楓が静かにそう言って、ブートトリガーをロインクロスにセットする。と、そこから電子音声が響き渡る。
《Change・Winning》
ライドシステムによって強化装甲が転送され、楓の全身に装着される。
最後に、緑の鎧が体を包んで、展開する。
エネルギーが排出されると、藤村達の目の前には仮面ライダーが立っていた。
「国道四号線へ向かいましょう、霧島君」
「了解です」
藤村の指示を受けて彼は、先程渡された人工イートリッジをホルダーから取り出す。
ライドサイクロンと銘打たれたそのイートリッジのスイッチを押す。
《Cyclone》
起動音が鳴り響くと、楓はウイニングのイートリッジを取り外す。
待機音声の聞こえる中、今度はサイクロンイートリッジをロインクロスに装填し、ブートトリガーの引き金を引く。
《Ride・Cyclone》
ロインクロスに装填され、その能力を本領発揮させたそのイートリッジから粒子がバイクの形を形成する。
「…これがライドサイクロン!?」
目の前の大型バイクに楓は驚きと興奮を合わせた様に感嘆する。
「こんな大きなバイク…普通二輪免許で乗れますか?」
「大丈夫だから! 取り敢えずそれに乗って向かいましょう。私もそっちのデータが欲しいし」
藤村が笑いながらそう言う。それに安心し、楓はバイクのエンジンをかける。
どうやら起動する為に鍵では無くブートトリガーを使用する様だ。
ハンドルの上にある穴にブートトリガーを差し込む。するとエンジンが駆動し始める。
「行けます!」
「オーケー、それじゃあ埼玉方面へ今すぐ向かうわよ!」
藤村の指示を聞くと、指揮車両の後を追う様にライドサイクロンは走り出した。
――
「ーーーーーッ!!」
深夜の県道に異形の雄叫びがこだまする。
しかしそれをかき消す様にして、バイクのエンジン音が聞こえて来る。
「ッ!?」
タックルラフムと呼称される猪型の怪物はバイクの音に耳を立て音の方向へ振り向く。
と、そこには逆光に照らされた仮面ライダーの姿があった。
「ラフム…お前達の好きにはさせない!」
仮面ライダー…楓はラフムを指差し、勇ましく叫んだ。
「正義を叫びライドする仮面の―――」
”決め台詞”をまだ完全に言っていない楓に向かってタックルラフムが突進する。
間一髪で避けた楓はラフムに対し怒りを吐露する。
「何すんだよ! こっちがカッコよく決めようとしてんのに!」
楓が目の前のラフムに言うが、それを無視してラフムは再びこちらへ突進する。
今度はその突進を食らってしまう。
後方へ弾き飛ばされた楓は、思い切り体を打った為に怯んでしまった。
その隙にタックルラフムはもう一撃と言わんばかりに楓の方向へまた突進を仕掛ける。
ライダーの機動性が有利になると思いきや、タックルラフムは非常に俊敏であった。
「こんなのが続いたら、流石のライドシステムでも…」
「イートリッジを交換して!」
藤村から通信が入る。―――イートリッジの交換。
彼女の言葉で、過去の情報を辿る。
イートリッジがロインクロスに能力を与える物であり、先程のライドストライカーの起動方法。
「成程、イートリッジの使い方、結構分かって来たぞ!」
楓はタックルラフムの上空からの落下激突を回避し、イートリッジホルダーからイートリッジを取り出す。
”ロック”のイートリッジ。初戦で撃破したラフムの成分から回収した物。それを今、使う。
《Rock》
ロックイートリッジを起動させるとウイニングイートリッジを取り外し、ロインクロスに取り付ける。そして、ブートトリガーの引き金を引く。
《Form・change・Rock》
その電子音声と共に、土色の鎧が生成されて宙に浮かぶ。
と、ウイニングの鎧が粒子となって飛散し土色の鎧が楓に覆い被さる。
それはまさしく”ロックの鎧”。それは正しく剛健なる装い。
フォームチェンジした仮面ライダーはその重厚なアーマーに身を固め敵を迎え撃つ。
「仮面ライダー・ロックフォーム」。
そう呼称されるのが相応しいだろう。