十二月十日、午後十三時四分。
桜島沿岸、避難エリア。
淡路島
「ど、どこだここ…」
「ここは神の世界、ティアマトに対抗せし
「面倒な説明はよく分からん、だが…アンタの目を見れば一大事なのは伝わる。俺はどうすればいい?」
人の目を見て相手の気持ちを
「貴様の持つラフムとしての性質は淡水、同じく淡水を司る我とは相性が極めて高い。故に神の力を貴様に注ぎ急激に進化させる事で我が力を現世で行使出来る様にする。言わば強制的なラフムの進化を起こす」
「そうすれば仮面ライダーは勝てるんだな?」
「確証は無いが、やれる事は全てやる。衡壱がその命を以て教えてくれた事だ」
淡路島が頷くと、自らの体を掌握せんとするアプスを受け入れる。
淡路島の体を借りる事によって人の力、ラフムの力、神の力を併せ持ったアプスは長年居続けた神界を後にして仮面ライダーの救援へと急ぐ。
――
「貴様らが見せてくれた人の可能性、その大いなる力を我は信じる。力を貸すぞ、楓!」
アプス、そして彼の中に在る淡路島の応援を受け、インテグラは気張る。
「ありがとうございますッ、アプス島さん!!」
「混ぜるな!!」
渾身の一撃を阻害され憤ったティアマトは全身から弾丸の様に体の一部である水飛沫を飛ばす。
無差別に街を破壊し、その被害をライダー達が食い止める。
「なりふり構わずかよ…楓! そろそろ仕留めろ!」
バーンの指示にインテグラが頷く。実際、彼には時間が残されていなかった。
仮面ライダーインテグラに変身していられる時間には制限があるのだ。
変身可能時間、二分半。次回変身までのインターバル、二十四時間。
インテグラとして戦闘が可能なのも残り三十秒余り。
「…これで決める!」
《Elemental Power・Active》
「ウイニング!」
そう叫ぶと、かつて長官がくれた勝利《インテグラ》の力と共に走る。
そして目一杯の力でインテグラドライバーの上部レバーを押した。
インテグラの能力を更に引き上げる為の機構が作動し、待機音が流れる。
その間に引き金を二度引く。
《Integra・Crush》
全身に走る虹色のラインが輝きを増し、上空へと推進する。
ティアマトよりも高い場所へと飛ぶと、足を向けて飛び蹴りの姿勢を作る。
「いくぞティアマト!」
ティアマトは腕を槍状にして発射しようとするが、アプスラフムの打ち出した水壁によって防がれる。
「我もこの体を借りるのには刻限がある、急げ!」
「はい!!」
尚もティアマトの攻撃が止まらないが、霹靂、アイアスが受け止める事でインテグラの道を切り開く。
「はああああッ!!」
インテグラから放出される虹色の粒子が螺旋を描き、ティアマトの胸を穿つ。
「インテグラライダー…キーーーーーーーーーック!!!」
その蹴りはティアマトを打破すると共に、長良
「ティアマトラフム…いや、平弐さん。これで終わりです」
「まだだ! この力が…ラフムが無ければこの世界は進化し得ない…それに―――」
「これから現れる新たなる脅威、の事でしょう?」
何故知っているんだ、と言いたげな平弐にインテグラは変身解除して虹色の瞳を指差す。
「そうか、インテグラ…君はその力で未来の情報を見たんだね。ならば分かる筈だ、”あの方”の前で人類を生存させる為にはラフムの力が必要だったのだと」
「そうですね、不可抗力によって生まれた者だとしても”あれ”は人類による神の力への接触を許しはしないでしょう。ですが―――僕はラフムになんてなりたくなかった」
平弐が言葉を失う。
ラフムになる事で人が幸せになると、そう信じて来た彼に突き付けられた楓の意見は平弐に強く心に刺さった。
「あなたはラフムになりたくないと、今の幸せを手放したくないと、そう言う人の声は聴いて来たんですか? ラフムになる事でしか救われなかったあなたにとっての仲間で固まって自分の意見を変える機会を失って思考停止していたんじゃないですか」
「……」
「ラフムなんていなければ僕の家族は、親友は殺されなかった。僕が連日戦うなんて日々も無かった。あなた達の勝手な意見で多くの人の幸せと自由を奪った事は理解すべきでした。例え人類の生存戦略であったとしても…あなたのした事はこれから来る災厄と何も変わらなかったんです」
僕は、と平弐が返す。
「僕は、それでも世界を守ると決めたんだ! 例え僕が、人々が怪物になったとしても!」
「だったら今度は、ラフムが人に戻れる様に僕が戦います」
楓の決意に平弐が目を見開いた。
「ラフムを…人に……」
「はい、僕の力ならこの世からラフムを失くす事だって出来ます」
楓は虹色の瞳を輝かせ語る。
「僕はあなたのやって来た事を許さない。けれど、あなたの決断があったからこそ今の僕…いえ、今の僕達がいます。だから、あなたの全てを否定したまま倒したくは無い」
「敵に情けを掛けるか」
「平弐さん、あなたは”敵”と言うにはあまりにも優しすぎた。長官と戦いたくないと言う気持ちがあったから部下に計画を任せたんでしょう?」
平弐が目を背ける。確かに兄と戦う事に忌避感はあったが、自分の手を汚したくないと言う弱さを認めたくは無かった。
「戦争の無い世界を作りたかったんですよね」
「そうだ、僕は…兄さんや、父さん母さん、仲間達と幸せに暮らせる世界を守りたかった…! 辛い出来事を未来に持ち込みたくなかったんだ……!」
自分の願いの原初を思い出し、平弐は涙を流す。
傷付き傷付ける、哀しみしか生まない戦争を、起きてしまった過ちをもう繰り返す訳には行かない。その強い思いが平弐にここまでさせたのだ。
そして、彼は気付いた。ティアマトとして人々を殺し、一方的にラフムへと変えて来た自分の愚かさを。
戦争をしていた時代と何も変わらず、他者から奪っていく恐るべき力の誇示。それこそが平弐のやって来た事だったのだ。
「そうか、そうか…どれだけ正当化しても、都合を付けても…僕の行ってしまったそれは……僕が嫌った最悪の世界と何も、変わらなかったんだね」
自身の過ちを理解し、罪悪感と責任感で平弐の頭が一杯になる。その手で顔を覆って後悔と自己否定を繰り返す。
「僕は…自分のエゴで失敗してしまったのか……多くの命を奪った事を厭わずに、何てことを……そうだ、僕を、僕を殺してくれ! 仮面ライダー!」
「それは出来ません。あなたの罪から逃れたい気持ちを叶える訳にはいかない…それに、あなたが戦争と言う過去を乗り越える為にエヌマ・エリシュを計画した様に、僕もラフムの誕生と言う過去を乗り越えて見せます」
そうか、と平弐が呟くと、涙と共に頷いた。
「霧島、楓君だったか。君は僕らの犯した過ちから多くの人を守る為に戦い続けるんだね?」
「はい、あなたや、あなたのお兄さんがそうして来た様に、僕もこれからを生きる人々の自由を守る為に戦います」
「それは孤独なものかも知れない、誰も勝てない強敵が立ちはだかっても君は戦い続けるのだと言うのなら、これから君はとても険しい道のりを進む事になるんだ」
「僕は決して孤独にはなりません。共に戦ってくれる仲間が僕にはいます」
思い出される沢山の仲間達の笑顔、そして最後に平弐の事も思い浮かべる。
「あなたの犯してしまった罪を無駄なものにしない為にも、どうか、平弐さんの力を借りたいんです」
その発言に平弐は耳を疑う。
「僕の力を…借りるだと…?」
楓は静かに、微笑みながら頷く。
「だが、僕はここまでの罪を清算しなくてはならない。君をはじめ、多くの人々に与えてしまった苦しみを償う必要がある」
そう言うと平弐は楓の肩に触れて、神妙な面持ちを向ける。
「君の力で僕を神の世界へ連れて行って欲しい。そこで僕は神罰を受ける」
「…分かりました。あなたの罪が神々に許された時、絶対に人々の、世界の自由を守る為に力を貸して下さい」
ああ、と強く平弐が頷くと、彼の魂が神界へと導かれる。
「いとも容易く神の世界へと往くか…霧島君、君の力はもう既に神の域に届いているのでは無いか?」
「多分。でも、僕は人間として戦い続けるし、神様になんてなるつもりはありません」
そう言うと楓は平弐の背中を押し、自らは神の世界から離れる。
「さようなら、平弐さん」
「ああ。頼めた義理では無いだろうが、これからの未来をよろしく。あと、僕の仲間達、バミューダとそう呼んでいたね。彼らの事も任せたよ」
平弐の姿がどんどんと消えていく。それは神の世界との繋がりが希薄になっていっている事を表していた。
「もう少し早く、君と出会えていれば…何か違ったのかな」
たった一言の吐露が、平弐の最後の言葉となった。
気付いた時、楓は現実に戻っていた。
ベルトと共にインテグラの鎧が消滅し、人の姿に戻った楓を仲間達が取り囲む。
「楓…やったのか!?」
「勇太郎…それにみんな……」
ティアマトのいなくなったその場所で、楓は勝利を実感した。
「やった、やりました…僕らは、ティアマトラフムに勝利しました!!」
楓の報告を受け、それを聞いていた多くの人が歓声を上げる。
「ところでティアマトは一体どこに行ったんだ?」
「ティアマト…平弐さんは自らの罪を償う為に神の世界で罰を受けに行きました」
「スマン、良くわからん」
質問しといて答えに困惑する大護に、一同が大笑いする。
その笑顔が、平和の訪れを予感させていた。
――
十二月十一日。
国家直属異形成怪物対抗部隊バディの活躍により、特殊武装テロ組織”ティアマト”の鎮圧に成功と発表。人類を強制的に肉体改造した怪人、ラフムによる暴走事件が世界中に認知され、それに対する決定的な対抗策についても協議される事となった。
ティアマトの残党や今まで暴走していたラフムの攻撃による影響により、ラフムは未だ残存している。しかし、人々は恐れない。
この世界には、仮面ライダーがいるのだから―――。