仮面ライダーインテグラ   作:虎ノ門ブチアナ

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 三月二十三日。

 

 楓は大学から特別な単位を取得した。

 それはティアマトと言う脅威から世界を守った大きな功績を称える為に、彼の通っていた大学の理事長が直々に認定したものであった。

 九月頃から殆ど大学へ通えておらず、休学手続もままならかった彼ではあったが、時間を見つけては課題に取り組んでいたのだ。そうした努力もあってか、彼が今後も大学で学び続けられる様な施行がなされたのだ。

 

 彼を祝う様に勇太郎は楓の肩を叩く。

 

「良かったじゃねぇか、お前ホントにここで勉強したいって言ってたもんな」

「ありがとう、でも…勇太郎は良かったの?」

 

 勇太郎は清々しい表情で頷いた。

 彼は来年付で退学するのだ。

 

「俺は楓といたくてココに来ただけだ。今は俺自身のやりてぇ事を見つけたから、そっちをな」

 

 そう言ってはにかむと勇太郎は一眼レフカメラを見せびらかした。

 以前から世話になっていた写真サークルとの交友で、様々な世界を知りたいと言う気持ちが湧いたのだ。

 このカメラを手に勇太郎は世界を渡り、多くの空を見るのだと言う。

 

「俺の見て来た世界は随分と狭いもんだって思ってな…何の意味があるかはわかんねーけど、旅するぜ、旅!」

「意味なんて今は考えなくて良いじゃん、自分がそうしたいって思った事をやるだけで十分だよ」

 

 だよな! と勇太郎が返すとお互い笑い合う。

 

「そう言えば雷電君はバディに残るんだっけ」

「ああ、アイツは世界を守りたいってんで高校行きながら機動隊で訓練だってよ」

 

 彼らが語る少年、暁雷電はかつて敵として彼らに立ちはだかった。しかし、家族の命と己の心を守る為に正義の戦士として立ち上がった勇ましき者である。

 多くの戦いと交流を経て彼は自身の力で傷付けてしまった妹の治療を成功させた。あれ以来憑き物が落ちた様に快活な学生生活を送っていた。

 

「大護さんは…相変わらずか」

 

 楓と勇太郎が微笑む。

 バディ機動隊としてライダーよりも先に戦い続けて来た大護はその常人離れした身体能力で多くの困難を打ち破って来た。

 ラフムでは無くとも、彼がいなければ敗北していた戦闘も多くあった。大護がいたからこそ人類は勝利出来たと言っても過言では無い。

 そんな大護はバディ機動隊長の任を継続して、日夜残存ラフムの対処に当たっている。しかし彼の生活の中で少し変化した事がある。

 最近、バディ総合指揮官となった藤村と共にいる時間が増えたのだ。お互い全く異性との付き合いが無かったものの、今までの戦いが二人の距離を近付けたのだろう。

 

「いつも思うが大護さんと藤村さんの関係…じれってーよな。俺ちょっとやら」

「あ~、そこは金剛さんが一番(くすぶ)ってると思うからあの人に任せておこうよ」

 

 気が先走った勇太郎は頭を掻いて苦笑いをする。

 藤村の兄、金剛は現在バディ長官の任を継いで対ラフム用防衛網の構築と世界中との協力が可能なプラン策定を行っている。そしてそれと並行して藤村の兄、そして大護の戦友として二人の間を仲介するキューピッドにまでなった。毎日多忙である彼だが、非常に充実している様子である。

 

「皆平和を満喫してる感じだな…しかし楓、ティアマトを倒した後に言ってたアレは本当なのか?」

「アレ…そうだね、”これから再び脅威が訪れる”と言う話だよね」

 

 二人の顔が少し曇る。

 

 かつて平弐からも語られていた情報、それは即ち―――人類が対抗し得ない程の敵が来訪する未来を知らせるものであった。

 

 その敵の名は”ムンム”。かつてアプス、ティアマトを補佐し、共に世界のはじまりに携わった神である。

 ムンムは補佐していた二柱がエア、マルドゥックと呼ばれる神に処された後、主神となったマルドゥックの命令で新たなる生命を観測する任に就いていた。

 しかし、その最中(さなか)で地球人類が神の力を欲し、享受すると言う分を弁えない(おご)りを働いていると何者かの伝達により知ったのだ。

 思い上がった人類にムンムは激怒し、人類の敵として天誅を下さんと宇宙から戻って来ようとしていると言うのだ。

 

 それを知った平弐は全人類をラフムとする事でムンムの攻撃に対抗しながら神への従属を示す事で戦いを治めようとしていたのだ。

 だが結果として平弐の計画は失敗し人類の多くがムンムへの抵抗力を持たないまま現在に至った。

 

「ムンムはもうすぐ来る。だからこそ平弐さんは急いでいたんだ」

「もうすぐって…もしかして年内に来るってのか?」

「いや……ハッキリとは分からないけど、もっと近い内かも知れない」

 

 楓が不安そうに空を仰ぎ見ると、二人の携帯電話が一斉に鳴り響く。

 その瞬間、全てを理解した二人は一気に汗を噴き出した。

 

「この連絡は機動隊全員に繋げているわ。至急最寄りのバディ基地及び自衛隊駐屯地へ向かって頂戴…コードネーム、ムンムのお出ましよ」

 

 連絡の内容は案の定ムンムの到来を告げる藤村からの指令であった。

 意を決した二人はお互いに頷くと近くに停めていたライドサイクロンに乗り、改修されたバディ本部へと急行する準備を始める。

 駐車場に残っていた人々に下がる様指示すると、持ち歩いていたアタッシュケースからライドツールを取り出す。

 

「コイツだけは肌身離さず持ってないとだな!」

「うん!」

 

《Account・Winning》

《Account・Burn》

 

「変身!」

 

《Change・Cyclone》

 

 仮面ライダーウイニング、バーン・サイクロンフォーム。

 専用バイクと合体した高速機動形態で二人の戦士が空を駆ける。

 

――

 

「霧島楓、火島勇太郎、到着しました」

 

 東京都千代田区大手町、バディ本部。

 仮設作戦室に辿り着いた楓、勇太郎に加えて雷電、大護、藤村もそこに集っていた。

 

「ようやく来たわね、早速状況を説明するわよ」

 

 藤村の口から事態の詳細が告げられる。

 宇宙から到来したムンムは直径八百メートル程の隕石型物体となって地球に飛来して来ており、推定目標地点である北太平洋への到達時刻は現在より約三時間後、午後十七時十五分と予想された。

 それまでにライダー及び対空迎撃システムを以て隕石の軌道を変えて回避させる事が当面の目的と指定された。

 

「この隕石の様なモノを壊せるかどうかは分からない、だからずらしてしまうしか無いわ。これより一時間半後、皆を大気圏内ギリギリに射出して迎撃を行って貰うわ」

「それって俺含めてアイアスも出るって事か? あの装備で火力が足りんすか?」

「そこは既に折り込み済みよ。アイアス部隊は特殊強襲用火力支援型装備を搭載して出撃して貰う予定だから宜しくね」

 

 藤村の提案に大護は少し呆れながらも決意を固める。人の身で宇宙に限りなく近い場所へ飛ぶ事になろうとは予想もしていなかったが、人々の為に戦う気合を入れる。

 

「ティアマト崩壊から三ヶ月以上経過して、その間に各国からの支援でここまでの戦力を揃える事が出来た訳だけど、恐らく今日が正念場…ここにいないメンバーを含め、死なない程度に命を賭けて戦いましょう」

「了解!」

 

 面々が声を張ると、早速迎撃までの準備が開始される。

 最初に行われたのは住民の安全な場所への避難であった。緊急番組を各局で放送し日本全国での避難行動を開始、多くの行政機関での避難誘導と、人々のラフムへの恐怖感や警戒心から速やかに避難が完了した。

 次にバディ機動隊の全国に配置された各支部、自衛隊各駐屯地からの射出用意。

 海上自衛隊のイージス艦、”こんごう””きりしま””みょうこう””ちょうかい””あたご””あしがら””まや””はぐろ”による対空迎撃態勢。

 航空自衛隊の地対空誘導弾ペトリオットによる隕石破片からの防衛措置。

 これらに続いて海外でも同様の対空防衛手段が構築され、盤石な体制を整えた。

 

 なお、仮面ライダーインテグラへの変身は想定外の事態が発生した際の緊急的最終プランとした。

 

――

 

「午後十五時二十八分…各員、指定の時刻となりました。それぞれ射出準備は出来ていますでしょうか」

 

 戦闘指揮官としてこんごうに乗艦した藤村に代わり千歳がオペレーションを担当する。

 彼女の指揮の下各員の射出準備が進められる。

 着々と準備が進行する中で千歳の回線が切り替えられ、楓との個人通話モードとなった。

 

「楓さん、今回もどうか無理の無い様に」

「心配してくれてどうもありがとうございます。でも僕なら大丈夫です、必ず勝って戻りますから」

「なんと言えば良いのか、そう言う所がいつも心配なんです。危ないです」

 

 ふふ、と楓が笑うと、通信先の千歳からの心配を心に刻み付ける。

 

「僕の事を考えてくれる人なんかいないってずっと思っていたのに……」

「楓さん?」

「いえ、何でも無いです」

 

 楓が誤魔化すと、指定の時間を迎え射出される。

 一方の千歳はまた想いを伝え切れず、もどかしい気持ちのまま楓の無事を願う。

 

――

 

 午後十五時三十分。

 北太平洋海上、高度百キロメートル付近。

 

 各地から派遣されたアイアス部隊、総勢百五十名とライダー達が一同に会す。

 

「あれが(くだん)の火力支援型…まさしくフルアーマーって感じだな」

 

 そう評すバーンの言う通り、アイアスが宇宙に程近い空間での火力支援を行うに当たって用意されたその大型装備は、全身に火器を搭載した要塞の様な形状となっていた。大護のアイアスも当該装備を使用し、ライドサイクロン無しでの空中戦を可能としていた。

 

「火島先輩、俺達も行きましょう」

 

 霹靂が告げると、ライドシステムにより転送されて来たゴズテンノウイートリッジを手に取る。

 彼の言葉に頷いたバーンとウイニングも最強形態への強化変身を行う。

 以前バーンが強化変身する為に用いていたニューウイニングイートリッジは金剛によるデータ解析後人口イートリッジとして複製された。長官の託した勝利の願いを手に、二人がその姿を変化させる。

 

《Change…God・Tame・Node》

 

《Change・Burn・Voltex》

《AddChange・Winning! Transcendence・Elemental!》

 

《True Power・Further Change・Winning…”Catharsis”》

 

「よし…! これであの隕石を…破壊する!!」

「動かすだけだぞ楓!」

 

 ウイニングカタルシスによる一応の宣言と共に、一斉に火力攻撃が開始される。

 現代兵器が持ちうる総力を以て隕石を軌道変更し始める。

 

「ムンム、起動修正率二十パーセント!」

 

 千歳により攻撃が有効である事が知らされる。

 それを知った面々は更に出力を上げる。

 

「…! ムンムが速度を上げているわ! それに…軌道も戻って来ている!?」

 

 状況を観測していた藤村が動揺する。

 予想よりも海上への到達速度が一時間早まっているのだ。

 

「急いで頂戴、皆!」

 

 それを聞いたアイアス部隊が総攻撃を開始する。

 ミサイル、実弾兵装、熱線の応酬を仕掛けて隕石の表面を削りながら軌道を変えようと図るが、全く動じない。

 

「ダメだ、全然効かねぇ!!」

「だったら壊すしか…ねぇのかよ!!」

 

 半ば投げ槍になったバーンが自らの性質を含んだ熱を浴びせて隕石の融解を試みるが、隕石は破砕する様相を見せない。

 

「全ッ然ブッ壊れねぇぞ!! どーすんだ!?」

 

 全員の視線がカタルシスに向けられる。

 

 余りにも頑強な隕石を前に、カタルシスは打開策を考える。

 その間にも凄天霹靂が隕石へと連打を与える。

 

《God・ThunderCrush》

 

「この隕石野郎…ッ! そろそろ砕けろ!!」

 

 凄天霹靂の渾身の叫びに楓はある事を思い出した。

 

(その言葉どこかで…そう! 僕が最初に戦った…ロックラフム……それだ!!)

 

 カタルシスが動き出すと、先程バーンが攻撃した地点へと連撃を加える。

 

「みんな! ここに集中攻撃を! 一点だけに火力を集めて脆くしていくんだ!!」

 

 その言葉を聞いた面々が更に強力な攻撃を与えていく。

 続けてバーン、凄天霹靂が止めを刺さんと力を最大解放させる。

 

《God・ThunderImpact!!》

《Elemental・Break・Against》

 

「外部から視認したムンムの破壊率、五パーセントです!」

 

 千歳が知らせてくれた情報はごく僅かな数字であったものの、その場にいる全員に希望を見せた。

 

「アイアス部隊!! もっと押せェェエェエエ!!」

「アイアス部隊による全弾掃射を確認、破壊率七、九…十五パーセント!」

「まだまだァ!!」

 

《Catharsis・Break・Against》

 

「砕けろォォォォ!!」

 

 全身全霊の力を込めたカタルシスの一蹴りが炸裂する。

 そこから入り始めた亀裂へ風の力を一気に注ぐ。と、落下の衝撃による風圧と重なってそこから段々と亀裂が広がっていった。

 

「! ムンム、破壊率が急激に上昇、このまま…割れます!」

 

 千歳の言葉と同時に、これまでびくともしていなかった隕石が砕け、破片が散っていく。

 

「よっしゃぁ!! こっからは破片の片付けだ! 地上及び海上の対空防衛部隊、見えているな!?」

「武蔵機動隊長、こちらは海上自衛隊、イージス艦こんごう艦長の日江井(ひえい)です。これより自衛隊による対空射撃を開始します。隕石付近のライダーに退避指示を出して下さい」

 

 遥か下方に見えるイージス艦群がそれぞれ移動を開始し、発砲準備を始める。

 大護は機動隊員に退避を命じ、隕石の処理を自衛隊の仲間達に任せる。

 

「楓達も一旦退避だ、お疲れさん!」

「……」

 

 機動隊がその場を離れる中、カタルシスだけがその場に留まっていた。

 不思議に思ったバーンが彼に近付くと、ある事に気付いた。

 

「…! そうか、まさか本体か!?」

 

 バーンが叫ぶと同時に、砕けていく隕石の中心部から強い光が溢れた。

 その光の中から現れたのは、楓と似た姿の存在であった。

 

「あれは…楓か!?」

「そうだけど、そうじゃない。あれこそが…ムンム、さん? の本体だ」

 

 そう呟いたカタルシスは変身解除してムンムへと近付く。

 

「あっ、おい楓!!」

「こっからは僕の出番らしい! 待ってて勇太郎、絶対帰って来るから!」

「……帰って来なかったらブン殴ってやる!」

 

 勇太郎に見送られ、楓はムンムの元へ辿り着く。一方の勇太郎は一旦距離を置いて各地の破片解体に向かった。

 

「…ここからは神の領域―――ならば人として、神の力を使う!」

 

《Integra・Driver》

 

 

「これで最後だ、出し惜しみナシで行く―――最終変身ッ!!」

 

《F―――INAL・Change》

《I.N.T.E.G.R.A!!》

 

 

 極彩色の戦士、仮面ライダーインテグラがその体を輝かせながらムンム本体へと突撃する。

 

「この力で、この可能性で! まだ見る未来を切り拓く!!」

 

――

 

「―――ここが、ムンムさんの世界…」

 

 と、その場に人影を発見しインテグラが接近する。

 

()れがラフムを超越したヒトとしての可能性、インテグラ…ですか」

「…あなたが、ムンムさん」

如何(いか)にも、僕が霧と生命の神、ムンムです」

 

 今までの想定とは全く異なった人物であったムンムに、インテグラは混乱する。

 

「あっ随分と丁寧な方だった…」

「先程は僕の一存により国家的危機を起こしてしまい失礼しました。これも人類の持つ力を見たかった故」

 

 自らと似た風貌の神はそう言うと、インテグラの姿をまじまじと見る。

 その様子に楓は警戒を解かず、力込めて身構える。

 

「…あの、なぜそんなジロジロ見てるんですか?」

「いえ、運命が違えば僕は君の力となっていた訳ですから、少し気になって」

「力と、なっていた…?」

 

 ムンムの発言に楓が眉をしかめる。

 

「あぁ、君は天命の書板を壊したと言っていましたが、もしかして閲覧はしていないんですね」

「確かに…! アプスさんからの言葉位でしか把握してなかったです…まぁ決められた未来なんてどうでも良かったので」

「あれには異なる未来の可能性も書かれておりまして…実はあなたがラフムとしての進化を遂げた際には、ムンムラフムとなっていたんですよ」

 

 フランクに語られた真実に、楓は唖然とする。全く考えもしていなかった部分で、ティアマトが恐れた驚異と自分が繋がっていた事に驚く他無かった。

 

「君がインテグラとして多くのモノとの統合を果たした事で進化する必要が無くなった上、僕までインテグラの影響で君に近しい精神性になってしまいました。恐ろしい力ですね」

「……」

「大丈夫、神の揺籃(ようらん)、つまり隕石は飛来させましたが君達に敵意はありません、と言うより無くしました」

 

 ムンムがそう告げると、その場に幻影を作り、世界の様子を映し出す。

 

「色々と告げ口をされここまで来ましたが、人類の可能性は遥かに凄まじい。神々の力に頼り切らず、人類としての在り方を望み、ここまで戦って来た…それだけで生命を司る者としては大変評価に値します」

「…じゃあ、ティアマトの計画が成功してラフムだけの世界になっていたら?」

「その時は私は人類と敵対していた事でしょう。ティアマト様を味方に付けた人類には勝てるか分かりませんが」

 

 インテグラが息をつく。ティアマトに勝利した事で、隕石を落として来る様なムンム(相手)と対決せずに済んだのだ。

 

「あなたと和解出来る様で本当に良かったです。戦いなんて無いに越した事は無いですからね」

「そうですね、あなたの精神性に近しくなった今の僕ならその言葉、深く共感できます」

 

 ムンムが笑っていると、何かを思い出した様に言い放った。

 

「そう言えば、宇宙を観測していた僕に地球人類の事様(ことさま)を告げた者についてお話せねばなりません」

「一体誰が宇宙にいたハズのあなたに…?」

 

CD(シー・ディー)です」

 

 インテグラが凍り付く。かつて平弐からも語られた”万能”と呼ばれし者。衡壱と平弐にラフムとしての力を与えた謎の人物…。

 

「CD、又の名を”カンケルデータ”。この世を牛耳り、蝕む、世界に蔓延る(がん)。かつて人類にラフムの力を与えたのも彼の思惑でしょう」

「カンケル、データ…」

「加えて彼は僕を扇動して人類と対決させようとしていた訳です。何が目的かは存じ上げませんが、その身に宿す大いなる力を悪しき事に使わんとしている事は明白です…彼の者の到来に備えておいて下さい」

 

 インテグラが息を呑むと、全てを語り終えたムンムは宇宙へと高度を上げ始めた。

 

「伝えるべき事は伝えました、僕はもう行きます……尊き人類よ、宇宙にて新たな生命を見つけた時、また会いましょう」

 

 インテグラは変身解除すると、笑顔で手を振った。

 

「…ムンムさん……さようなら!」

 

 楓からの挨拶を受け取ったムンムは、最後に手の平から生み出した光を楓に託すと、そのまま宇宙へと凄まじい速度で消えていった。

 

「これは…?」

 

 楓が光を覗き込むと、光の内部へと吸い込まれていく感覚に襲われた。

 

――

 

 次に楓が目を開いた時には、そこはかつて家族と住んでいた自宅にいた。

 ウインドにより襲撃され、今では見る影も無くなっていた筈の場所だったが、懐かしいその場所に楓は多くの思いを馳せながら佇んでいた。

 

「―――楓」

 

 自らの名を呼ぶのは、殺された筈の両親であった。

 彼らの姿を見た時、楓は全てを悟った。

 

(生命の神、ムンムさん。最後に僕の為に力を使ってくれたんだ)

 

「立派になったね、楓」

「なんだか大人っぽくなったんじゃないかしら?」

 

 両親が笑うと、楓は少し俯いて目を擦った。

 

「父さん、母さん……僕、いっぱい色んな人に出会って、辛い事も嬉しい事もあって、それで、自分に出来る事を必死にやったんだ」

「偉いね楓、誰かの為に頑張ってくれていた事、ずっと見てたんだから」

 

 父に頭を撫でられ、久し振りの気持ちに浸る。

 

「でもね楓、お母さんはずっと心配してたのよ。いつも無理をして、自分の事を考えられて無かったから…」

「ごめんなさい……」

「自分の気持ちをちゃんと伝えるのよ、楓は昔から気持ちを溜め込む子だったんだし、今度はもっと素直に自分をぶつけちゃいなさい」

 

 母からの言葉を受けた楓は目から鱗が落ちる感覚を覚えた。

 と同時に、似た心配の仕方をする人がいる事を思い出して少し笑みが零れた。

 

「ありがとう……」

 

 心から発した言葉と共に楓が両親を抱き締めると、二人も楓を抱いて、消え去った。

 

 ムンムの力により果たされた両親の魂との邂逅を遂げ、満足した気分で楓は上空から落下していた。

 気が付いた時、先程までと同じ場所にいたのだ。

 体の力も入らず、ただ強風を受けながら体を揺らすのみであった。

 

(そうだった…ここまで多くのモノを喪失して、ずっと苦しいと思ってた。この風みたいに強い圧力に押し負けちゃう時もあったけど……そう、多くのモノを獲得、していたんだ)

 

「楓ーーーーッ!!」

「霧島先輩!!」

「楓!」

 

 三人の仲間達が楓を抱え、地上へと降下する。

 迎撃を中止し待機していたイージス艦きりしまに着艦すると、ゆっくりと体を降ろされる。

 

「楓! 久し振りだな」

 

 遠くから自分を呼ぶ声に気が付いた楓は声の方へと視線を向ける。

 そこにはかつて赤羽台で共に戦ってくれた自衛隊員、上川と下関の姿があった。

 

「上川さんに下関さん…! 確かお二人は陸自の配置じゃ―――」

「俺達は試験射隊って事でこの”きりしま”で色々と迎撃用装備の実戦に当たってたんだわ! ほら、あの光線! アレもバディで培われた技術の結晶だ」

「アンタらのこれまで戦って来た事が今、俺達自衛隊でも役に立ってる。ホントにありがたいぜ」

 

 二人からの激励を受けた楓は艦内を歩き始める。

 自らの苗字と同じ名を持つ(ふね)にどこか感慨深さを覚えながら艦壁に触れる。

 

「勇太郎」

「? どうした、楓」

 

 何食わぬ顔で答える親友に、楓は今の自分の思いの丈を語る。

 

 今まで自分を弱いと一蹴し卑下していたが、仮面ライダーとして戦って来た事でその弱さが決して悪い事では無いと気付けた事。

 自分の弱さを認められないプライドが、戦い続ける気力になった事。

 誰にも悩みを言えない臆病さが、誰かに助けを求めても良いと思える成長になった事。

 勇太郎を妬む卑しさが、彼の弱さに寄り添う優しさになった事。

 家族と親友を失った喪失感が、新たな仲間達との出会いで心を満たされた事。

 

「色々あったけど……僕、仮面ライダーになれて良かった」

「―――だな!」

 

 楓と勇太郎は笑う。自分達の運命を変えた”変身”に感謝を込めて。

 

 

 

 彼が視てる未来はひとつだけだった。

 神の力で得られる永遠など少しも欲しくはないと誓った。

 一秒、一瞬が愛おしいと尊んだ。

 守りたいと願う人々がいる世界に彼も生きている。

 

 正義を叫びライドする仮面の戦士、その名をまさしく…仮面ライダー。

 

 

『仮面ライダーインテグラ』完

 

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