ラフムとなった人間は、対外的要因によって倒されると、元のラフムの力を凝縮したイートリッジと、元の人間に分離する。
元の人間はその後二週間近く昏睡し、目覚めるとラフムだった時の記憶を失っている。
これらの事が現状の調査で分かった。そして、これら以外の、さらなる情報を掴む為にバディでは調査や研究を日夜行ってきた。
しかし、上記の事柄以上の情報が獲得出来ず、ラフムに対する理解は進まなかった。
―――が。
敵性ラフムの変身者である男が目を覚ました事によって事態は一変した。
新たなラフムの、そしてティアマトの手掛かりを得る可能性が生まれたのだ。
「―――と言う訳です。覚えている限りで良いので二週間前からの出来事を教えて下さい」
バディ最下層の聴取室。そこでロックラフムに変身していた男、
「そう言われましても、先日現場からの帰りに変な黒い鎧の男に襲われた事までしか覚えていませんけど…」
現在聴取を取り行っている研究員が身を乗り出してその時の事を教えて下さい! と食い気味に問う。
「分かりました……今私は土木作業員をしているのですが、その作業現場からの帰り、午後七時位でしょうか…足立区の千住の辺りを歩いていると、突然後ろから男に覆い被され、ビックリして後ろを向くと、そいつは笑いながら私に薬物を嗅がせてきました。酷い臭いでしたよ」
巌は茶を飲んで息を継いでから、続きを話す。
「それで、私は眠ってしまい、気付いたらここに…その他の事は何も分かりません。一体私に何が起きたのか私にもさっぱり……」
そう言うと巌は頭を抱え押し黙った。
「分かりました。混乱している中で申し訳ありませんでした。後は他の者の誘導に従って、お休み下さい」
研究員がそう伝えると巌ははい、と物憂げに答えると聴取室を後にする。
――
「霧島君、今のを見て何か思う所とかはある?」
モニター越しに先程の聴取を見ていた藤村が楓に問う。
「はい、今の話だけで分かった事は色々とあります。一つは手口の違い。さっきの男性は男に襲われてラフムになったと推測出来ますが、僕の場合は直接ラフムに襲われ、ラフムになった…恐らくラフムになる過程は異なるプロセスがあるのでしょう。二つ目は、謎の”黒い鎧の男”。コイツが一体何なのか、一切分からないんですが、彼がティアマトに関係している事は間違いが無さそうです」
やはりそれだけね、と藤村が溜め息混じりに言う。その言葉に楓も眉をひそめる。
「後は例のフロッグとシソーラス、二体の”喋るラフム”が目覚めてくれればもっと多くの情報を掴めるかも知れないけれど…」
藤村の独り言に楓がどうでしょうね、と返す。半ば反論する様に割り入った楓に藤村はえ? と問う。
「アイツらが喋れていたと言う事は、既に自我があったと言う事になりますよね?第一、僕だって言わせてみれば”喋るラフム”でしょ。もしかしたらラフムの時の記憶があるかも知れません」
「すると、彼らは意図して人を殺害している、と?」
藤村が口元に手を当てて問う。それに対して楓は黙って頷く。
「そんな奴らが素直に聴取を受けてくれるか…って事ね」
藤村がその可能性に不安を覚える。と、ラフムの出現を伝えるサイレンが研究室に響き渡る
「―――午後十四時十三分、東京都千代田区神田駿河台、御茶ノ水駅にラフム出現!機動隊は直ちに出動せよ!」
「こんな時にもラフムは現れるのね」
藤村は調整が完了したライドツールを収納したアタッシュケースを楓に渡す。
「これ以上誰も傷付かない様にお願いね、霧島君」
「はい!」
楓が決意の満ちた声で返事をする。
バディ地下駐車場。楓を含めた機動隊がバイクに搭乗する。
楓もライドサイクロンに乗ろうとした時、インカムから藤村の指示が聞こえてくる。
「霧島君、今回は昼過ぎで人の多い場所よ、現地で変身すると正体がバレるわ。まだ公表前だからここで変身して頂戴」
「? バレると何かまずいんですか?こないだだって公道で変身したし」
楓の能天気な問いに藤村は少し溜め息を吐いて急いで、と返す。
「あなたが仮面ライダーだと世間に知れればティアマトが必ずあなたを、そして近くの人を狙うわ」
確かに、と楓は呟く。
「了解しました。正体がバレないよう努めます」
そう言うと、楓は急いで準備を始める。
ライドサイクロンの後部にはライドツールアタッシュをマウントするスペースがある。そこへアタッシュケースをマウントすると、蓋を開けてツールを取り出す。
《Account・Winning》
ロインクロスの起動、認証音が鳴る。
《Winning》
イートリッジの起動音。そしてロインクロスに装填。ブートトリガーを取り外し、顔の横に近付ける。
「変身!!」
楓の叫びと共にブートトリガーをロインクロスへセット、引き金を引く。
《Change・Winning》
ロインクロスから粒子が発生し、楓の体を包み込む。
素体スーツが生成されると、次に強化装甲が粒子から造られ、装着される。
変身が完了すると、センシングアイとブーストアイ、二つの眼を構成するセンサーが発光する。
「仮面ライダー、霧島楓。出撃します!」
ライドサイクロンにまたがった仮面ライダーは御茶ノ水へ急行する。
――
午後十四時二十二分。御茶ノ水駅前、聖橋。
そこに現れたラフムはペイルラフム。淡水魚の様な姿の水中を泳ぐラフム。現在その姿を捉えているのはバディの調査部門と”協力者”のみ。彼らの立案により被害が出る前に神田川で敵を倒す作戦が敢行された。
警察と自衛隊が神田川沿いに駐留。発見された場所である御茶ノ水では鉄道会社と連携し、車内トラブルによる電車の遅延と称して御茶ノ水駅を通るJR総武線と中央線、東京メトロ丸ノ内線を運行停止。近隣の路線も遅延とする。
駅や付近の橋にもバディ機動隊員が動員され、まさしく鉄壁の布陣が出来上がる。
一方楓は、随時送信されるペイルラフムの移動データを基に川沿いから追い掛ける。
と、それからしばらくしてついにペイルの移動データが自分の真横に迫る。
「ラフムと対敵します!」
楓はそう伝えると、ホルダーから”フロッグ”のイートリッジを取り出す。
「水中戦闘なら蛙だ!」
《Frog》
ロインクロスからウイニングイートリッジを取り外し、フロッグを装填する。そしてもう一度ブートトリガーの引き金を引く。
《Form・Change・Frog》
その電子音と共にライダーは自身の搭乗するライドサイクロンと共に神田川へ飛び出す。
仮面ライダーの強化装甲が取り外され、粒子となって消える。
すると上空に集まる粒子が蛙を模した強化装甲を形成し、装着される。
水の跳ねる鈍い音が響くと、神田川の水中にペイルラフムと仮面ライダー・フロッグフォームが対峙する。
「ほう…お前が例の仮面ライダー。相手させてもらう」
ペイルラフムが体中のヒレを動かしながら言う。
「ラフム…! お前らを許さない!」
一方のライダーは足裏に装備されているフィンを回転させ始め、駆動を開始する。
「私は許しを乞う為にやっている訳では無い。私には使命がある」
「―――使命?」
水中に浮遊しながらライダーとラフムは会話を続ける。
ペイルラフムの冷静な挙動に楓は少し興味を持ち、使命とは何か問い質した。
ペイルラフムの語る”使命”とは。
病床の恋人を治療する事。彼女の病気を治す為に必要な金をティアマトの使者と名乗る男が出すと言ったのだった。
「…その為に、私は戦わなければいけないのだ」
ペイルの語った戦う理由。それを聞くと楓は溜め息を吐く。
「はぁ、何かと思えば泣き落としか。毎度毎度凶悪な事を考えるよ」
「まさに問答無用か、仮面ライダー!」
悲痛な声色でペイルが叫び、こちらへ向かって来る。
「来るかッ!」
フロッグフォームの足裏にあるフィンが高速回転し、ライダーが水中を自在に動き回る。
ペイルが胸部の体皮を開き、あばらから魚雷の様な体の一部を飛ばして来る。一方ライダーは体の向きを柔軟に変えながら回避していく。
「そんな攻撃効くか! 今度は…こっちの番だッ!!」
濁る水中に楓の声が響き渡る。