仮面ライダーインテグラ   作:虎ノ門ブチアナ

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#10 怒涛

 反撃と言わんばかりに楓がロインクロスに装着されたブートトリガーを外し、腰のベルトの右側に搭載されている射撃武装、バレットナックルに装着し直し、ペイルに銃口を向ける。

 濁った川の水の中で相手を狙うのは難しい。が、相手との距離は近く、狙い撃つと言う程でも無い。

 

「…当たれ!」

 

 が、バレットナックルによる銃撃はいとも容易くペイルに避けられる。

 そして、水泡が消えた先に見えたペイルの顔は笑っている様にも、悲しんでいる様にも見えた。

 それが渡には気に食わなかった。怪物に心なんて、と心外に思ったからだ。しかしそんな気迷いが楓の動きを鈍くした。

 無尽蔵に発射されるペイルの”体内魚雷”がライダーの体に命中し続ける。

 魚雷による絨毯爆撃によってライダーは後方へ大きく流され、ピンチに陥る。

 

「馬鹿を見たな仮面ライダー! お前もこれで―――」

 

 止めを刺そうとするペイルの魚雷をかわし、ライダーは一撃のパンチをお見舞いする。が、水中でのそんな攻撃に力があるとは言えない。ペイルは何も食らわなかった様な声色で楓に言葉を返す。

 

「お前がラフムにどんな感情を抱いているかは到底測り知れまい。だが、こうやって会話しているんだ、ラフムにだって心はあるのさ! お前の様にな!」

 

ペイルが楓を指差し、叫ぶ。それは誰でも無い人の感情。

怪物になり果てたとて残った心。

 

 自分と同じだ。楓はそう思った。異形に形を変えたこの身に宿る魂は同じ。

 ペイルラフムは恋人を助ける為に戦っている。ラフムになっても誰かを助ける為に戦う自分と同じ。

 今目の前で相対している怪物が自分の様に見えた。

 

「…ペイル……お前の事、信じるよ」

 

 決意を固めた様に楓は静かに言った。その言葉の意味を理解したのか否か、ペイルはむ、と唸った。

 

「ティアマトは”人”のいるべき組織じゃない。一緒にバディへ行こう。バディで恋人さんを助けるんだ」

 

 ペイルの肩を掴み楓が説き付ける。

 語りかける楓にペイルはありがとう、と告げると水中から上を見上げた。

 それにつられて同じ様に楓も上を向く。濁った水から見える晴天の空は少し黒ずんでいたが、眩しかった。

 と、上空からペイルを影で覆う様に蝶の様な翅を持つラフムが飛来して来た。

 

「どうやらここでお別れだ、仮面ライダー。裏切り者は処分される、と言った所だ」

「そんなッ!」

 

 楓が手を伸ばす間も無くペイルは楓の体を突き飛ばし、自分から離れさせる。そしてその瞬間に上空のラフムが持っていた特殊な機関銃によって銃撃された後、川に流されたライドサイクロンまで機関銃で破壊され、その爆発にペイルが巻き込まれた。

 

「ペイル! ペイル!!」

 

辺りに溢れる泡飛沫を払い、ペイルの行方を楓は探す。

と、泡の中から人の手が見える。楓はその手を掴み、

水上に顔を出す。

 

「大丈夫か!?」

 

 楓が必死にペイルであろう男を呼ぶ。それに答える様に男が唸っていたので、楓は安心すると、川岸まで男を運ぶ。

 男の安全を確保し、バディの救護班を要請し、ふぅ、と溜め息を吐く。

 一息吐いた後に楓は、上空に飛んでいるままのラフムを見つめる。

 

「お前がペイルを……」

 

 ”誰かの為に戦おうとしたラフムと、誰かを傷付ける為に戦うラフム”。

 そのコントラストに揺れる楓には、目の前の機関銃を持った蝶型ラフムが何なのか分からなくなっていた。

 敵も味方もラフム、怪人なのだ。もっと極端な戦いだったら良かったのに、と楓は思う。

 だから、楓は―――仮面ライダーは問う。

 

「おまえは―――”どっちだ”」

 

 フロッグのフィンを最大まで回転させて、加速しながら浮上する。段々と速度と高度を上げていき、遂には神田川から飛び上がって、蝶型ラフムの直上に到達する。

 その跳躍力に驚きつつラフムは真上のライダーに機関銃を向ける。その瞬間、機関銃を撃ち放つ。が、ライダーは全身の外装を開き、特殊な粘液を噴出させる。粘液は銃弾を滑らせて弾き、攻撃を無に帰す。

 

「おまえは―――”どっちだ”!!」

 

 先程と同じ質問をラフムに投げ掛ける。が、蝶型ラフムは依然として答えず、再び機関銃を発砲する。

 

「しゃべらないラフム…すぐに助けてやる…すぐに、すぐに!」

 

 ライダーは機関銃の攻撃を撃ち消しながら落下し、ラフムを神田川に自分ごと叩き落とす。そのままフィンを回転させ御茶ノ水方面へ神田川を進む。

 神田川の途中、川の橋の壁際にラフムをぶつけて、壁を破壊して削り上げる。

 

「―――ッ!!」

「ん?なんだ、今の音?」

 

 ラフムの叫びと打撃音が混ざった大きな音に気付いた人々は異変が何か起きたのかと口々に言い始める。その場にいた機動隊や警察は口を濁す。

 が、その瞬間だった。

 機動隊の弁解も虚しく、”ウイニング”がラフムを持ち上げながら神田川から聖橋に飛び上がって来た。その驚きのあまり声も上がらない群衆を前に、撃破したラフムをその場に放り投げて御茶ノ水駅へ近付く。

 ゆっくりと、しかししっかりとこちらへ近付いて来る異形を前に、御茶ノ水駅にいた人々が阿鼻叫喚の声を響かせる。駅周辺は逃げ惑う人や、ウイニングを撮影しようとする人で溢れ返る。居合わせた警察らも手に負えず、事態はさらに悪化する。

 この様子を見ていた藤村はすぐに御茶ノ水駅前まで指揮車両を走らせると一般の人々とウイニングの間に挟まる様に回り込んでウイニングを回収する。

 この一瞬の出来事に彼らは訳も分からなかったが、もうすぐで総武線が動き始めると言うアナウンスを聞いてその場を後にする。

 

 一方、指揮車両の中では、機動隊員、武蔵と暴走したウイニングが狭い空間の中で格闘を繰り広げていた。

 

「クソッ…先生アンタこんな無茶な事を!!」

 

 襲い掛かるウイニングを拘束しながら武蔵が叫ぶ。藤村はそれに対ししょうがないでしょ! と声を荒げて運転する。いつも指揮車両を運転している研究員にはあらかじめ降車してもらっている様だ。

 腕を大きく上げて飛びかかるウイニングの腹目掛けて武蔵渾身の拳を見舞う。これを食らって怯んだ隙にウイニングの股間を全力で蹴り上げる。

 

「ゴッ!? ガ―――」

 

 重い一撃が炸裂したウイニングは気を失い、楓の姿に戻る。

 

「へぇ、強力なラフムをたった二撃で。あなたもライダーの資格あるんじゃないかしら?」

「冗談はよして下さい、コイツ暴走してても手加減してやがった」

 

 武蔵が埃を払う様に手を打つ。

 

「…にしても、最悪な登場だったわね、霧島君」

 

 指揮車両に備え付けられた無線から蝶型のラフムだったであろう女性を保護したと情報が入る。

 

「とにかく帰りましょう、先生。霧島の事も気がかりだし」

「何故今までコントロール出来ていたラフムの力が暴走したのか…ね」

 

 神田川沿いを抜けて指揮車両はバディ基地へ帰る。

 

――

 

 神奈川県横浜市みなとみらい地区。

 象徴的な建造物である横浜ランドマークタワーの真下、オレンジのパーカーの男がスマホのSNSを見る。

 ”謎の怪物、お茶の水に現る!”と書かれた見出しを筆頭に様々な人のコメントが載せられている。

 UMAだとか、怪人だとか、宇宙人だとか、そう言った陳腐な情報を男は見続ける。と、その途中に画像がアップロードされている物を見つけて、画像を開く。

 緑色のマフラーの怪物。その姿を見て男は口を開けて呟く。

 

「―――楓!」

 

 男は寄りかかっていたバイクのエンジンをかけ、東京へ向け発進させる。

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