仮面ライダーインテグラ   作:虎ノ門ブチアナ

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#12 灼熱

 あの日届かなかった手。助けられなかった命。

 転校ばかりで誰とも馴染めなかった楓の、唯一の親友。この場所に留まる事になったと聞けば彼は喜んでくれた。同じ大学に行けると聞けば肩を抱いて笑った。

 両親共に行方不明になった勇太郎は、仕事に追われる親戚に預けられた。それから勇太郎は頻繁に楓の家に来ていた。夕食を共にする事も多かった。まさかそれがこんな悲劇に巻き込まれるとは思わなかった。

 

 目の前で噛み砕かれる勇太郎の姿を思い出す。だが、彼は今、目の前にいる。

 

「勇太郎、死んだんじゃ……」

「あー。お前なら分かるだろ、ラフムに殺された人間の中で悪運の強い奴が辿る道」

 

 オレンジのパーカーの男、楓の親友、火島勇太郎はにっと笑ってそう言うと、懐からイ―トリッジを取り出す。

 

《Burn》

 

 イ―トリッジを起動させると、赤い粒子を全身にまとう。

 まさか、と目を丸くして呟く楓の予想通り、勇太郎は―――。

 

「ラフム!?」

 

 赤茶色の甲殻に包まれた、一本角のカブトムシ型ラフム。

 逃げていた周りの人々も、敵ラフムでさえ彼の方に釘付けになる。

 場が騒然となる。いきなり現れた級友が、いきなりラフムになった。この状況に対応出来る者などここにはいなかった。やっとバディの機動隊が到着するが、二体のラフムの出現に困惑する。

 が、この場において唯一動揺もせず、混乱もしていない人物が”一人”、そこにはいた。

 

「堂々登場、待たせたな楓!!」

 

 そう、勇太郎その人である。彼は敵の不意を突いて攻撃を食らわせる。豪快な蹴りが蛇型ラフム、只今の呼称によって”スネークラフム”と名付けられた敵を襲う。出遅れて回避出来なかったスネークは”勇太郎ラフム”の蹴りが直撃する。それによってバランスを崩すと、それを皮切りにして勇太郎ラフムの猛攻が始まる。

 スネークのよろけた方向へ勇太郎ラフムが回り込んで一撃、そして反対の方向へよろけたらそちらへ回り込んで一撃、とその攻撃をとめど無く繰り返す。まるで格闘ゲームの様な攻めでスネークを翻弄する楓は目を見張るが、到着した武蔵の声を聞いてはっと我に返る。

 

「楓、何やってんだ! 早く変身しろ!」

「でも人が…」

 

 写真撮影で残る人々を見回しながら楓が言うが、武蔵はものともせず答える。

 

「ラフムから人を守るのが先だろッ!」

 

 その言葉に楓は本当に守るべきモノに気付かされ、決意を固めた表情で頷く。

 

《Account・Winning》

 

 ロインクロスを装着、起動音が鳴る。

 

《Winning》

 

 イートリッジを起動させ、ロインクロスに装填。ベルトの横にセットされているブートトリガーを顔の横に掲げる。

 

「もう迷わない……変身!!」

 

 ブートトリガーをロインクロスにセットして引き金を引く。

 

《Change・Winning》

 

 ロインクロスから発生した粒子が楓の身を包み強化装甲を形成する。そして楓は、仮面ライダーに変身する。と、ライダーの決意を鼓舞する様に突風が発生する。

 楓が変身したその姿に周りの野次馬がどよめく。

 やはりか、と武蔵が呟く。このままでは避難の済んでいない人々の混乱を招いてしまう。が、それよりも

優先すべき事が山積みだ。

 

 ライダーがスネークと勇太郎の戦いに加わる。何とか勇太郎の猛攻をかわして間合いを取ったスネークに蹴りを見舞って勇太郎の横に並ぶ。

 

「おっ、楓! その姿が噂のヒーロー、仮面ライダーか!」

 

 何故勇太郎がライダーを知っているのか、それら彼の事について問い質したい事は沢山あるが、それよりも楓は、スネークに意識を向ける。

 

「何だか良く分かんないけど…君が本当に勇太郎なら、協力してくれ」

 

 勇太郎はぐっと親指を上げる。ラフムに表情は無いが、微笑んでいる様にも見えた。

 それを了解と取り、楓もサムズアップをする。

 

 スネークがこちらへ突進してくる。どうやら今回は喋らないラフム、墨田の言葉を借りるなら、”オリジン”と呼ばれる個体。

 スネークは己の肢体を伸ばし、まさしく蛇の様に体をうねらせて勇太郎に襲い掛かる。そのスピードは先程とは比べ物にならない速さだ。瞬く間に勇太郎に巻き付いて、体を締め付ける。

 

「ぐっ…」

「勇太郎!」

 

 体からぎりぎりと音を立てながら勇太郎が締め付けられる。ライダーは咄嗟にブートトリガーをロインクロスから外し、バレットナックルに装着する。こうして完成した武装状態のバレットナックルでスネークに銃撃する。だが、スネークの特殊な体表は弾丸を弾いてしまった。驚く間も無くライダーはバレットナックルの下部に据え付けられている刃でスネークを切り裂く。しかし歯が立たない。いくら刃を叩きつけても一切のダメージにならず、依然として勇太郎の体に自由は戻らない。

 と、いきなり勇太郎があっ、と声を漏らす。

 

「良い事思い付いた。楓、離れてろ」

 

 勇太郎がそう言うので、ライダーはその場から距離を置く。すると、勇太郎は腹の底から唸り声を上げ、拳を握り締める。勇太郎の体が震え出すと、彼の周りを陽炎が覆い始める。それを見て何かに気付いたライダーは、機動隊含め周囲の人々に退避する様促す。皆が離れた頃には勇太郎の体から炎が出始めていて、スネークも非常に苦しそうに唸っていた。

 

「蛇は変温生物、一旦熱くなるとどうにもならねぇ。これがラフムに通用するかは分かんなかったけどよ…中々効く様じゃねぇか」

「どんなものでも燃やされたらひとたまりも無いか!そらそうだ!」

 

 勇太郎は自身を燃えたぎらせながらスネークを皮肉る。そこまで言われてスネークは躍起になり、未だ勇太郎を絞め続ける。が、それも長く持たない。勇太郎の体の炎が彼の全身を覆うと、体を中心にして爆発が起こった。

 

「―――ッ!!」

 

 スネークが声にならない叫びと共に吹き飛ばされる。その規格外の熱量によって勇太郎に巻き付いていた面は真っ黒く焦げ付いている。が、この技を使った勇太郎のダメージも大きく、その場にしゃがみ込む。

 

「はぁ…はぁ…楓、後は頼んだぜ!」

「任せろ!」

 

 ライダーはバレットナックルに装着されているブートトリガーをもう一度ロインクロスにセットし、ブートトリガーの引き金を一回引く。

 

「とどめだ、最小限の力で討つ!」

《Winnig・Attack》

 

 もう一度ブートトリガーをバレットナックルに装着し、風を纏わせる。竜巻の様に螺旋を描いてバレットナックルの周りを回る風が先端を鋭利にさせ、ドリルの様な形を形成する。

 そして、ドリル状になった風をスネークに叩き付ける。螺旋はスネークに当たると同時に強い風を巻き起こして威力を増す。その一撃でスネークの体は粒子になって砕け散り、元の男性の姿を形成する。

 残存した粒子はやがて一点に集まり、イ―トリッジとなる。

 ライダーが変身を解除すると、周りから拍手喝采が聞こえて来る。

 

「良くやったぞ!」

「ヒーロー!」

 

 皆からの歓声を受けて、楓は照れながら会釈をする。と、同じく人間の姿に戻る勇太郎の方を向く。

 

「勇太郎……? 説明、してもらおうか」

 

 勇太郎は軽くオーケー、と返して自らが乗っていたバイクにまたがり、楓のバイクを指す。

 

「お前も乗ってんだろ、一緒に行こうぜ」

「…うん」

 

 何故あの時死んで、行方不明だった勇太郎が今こうやって目の前にいるのか。分からない事だらけだが、楓は満面の笑みを浮かべていた。それが幻かも知れないとしても、最高の親友とまた会えた事がたまらなく嬉しいのだ。

 まだ解くべき謎、打破すべき問題は山積みだが、勇太郎がいるなら、と楓は心の中で自らを奮い立たせ、バイクを発進させる。

 

――

 

「―――”バーン”がバディ本部と合流しましたか…」

 

 どこかとも知れない豪邸の居間にて、少女が紅茶を飲みながら呟く。彼女の付きと思われる男性がはっ、と相槌を打つ。

 少女は紅茶を皿に置くと、居間の窓から見える青空に視線を置く。

 少女の眼差しは、虚空を見る様で、何か違う物を見ている様だった。

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