「それでどうなったの?」
楓が嬉々としながら勇太郎に問う。その姿はまるで絵本を読み聞かされている子供の様だった。そして、一方の勇太郎は含みを持たせて物語風に語る姿はまるで読み聞かせる老夫だ。
だが、説明している実情はそう言う程穏やかではない。
ラフムに襲われて離れ離れになった楓と勇太郎。楓はバディで仮面ライダーとして戦っていた。が、その頃勇太郎はティアマトに拉致されていたところを、謎のタキシードと少女に救われた。
一体彼らが何者なのか、そして勇太郎はどうしていたのか。楓は自らの親友の知られざるエピソードに無論興味が湧いた。
「しゃーねーなー、続きから話すぜ」
勇太郎は息を大きく吐くと、再び語り始める。
――
「バーン? なんだよソレ」
「あなたがラフムとして新生した名です。バーンラフム。それがあなたの”正義の仮面”」
少女の言う”正義の仮面”。そんな洒落た言い方に勇太郎はあまり好色を示さなかったが、彼女の言わんとする事は分かった。
勇太郎自身は怪物になったが、それでも誰かの為に、正義の為に戦えると言う事だろう。
怪物と言う仮面を以て怪物と戦えと、そう言いたいのだと勇太郎は察し、改めて自分の置かれた状況を考える。
「……俺が怪物、ラフムになったのには何か意味があるのか?」
「ラフムを生み出し、殺人を繰り返す組織、ティアマト。彼らはあなたのスペックを見込んで怪物に仕立て上げ、自らの強力な傀儡として暴れさせるつもりでした。ですがあなたは我々と共にいる、そしてその意志をあなたの物としている」
タキシードがそう告げると勇太郎が握っている端末、イ―トリッジを指差す。
「そのイ―トリッジを起動した時、イ―トリッジがあなたに戦う力をもたらします」
それを聞いて神妙な面持ちで勇太郎はイ―トリッジを見つめる。
「俺が…戦う?」
さっぱり分からない。楓一家との
「俺には無理だ。いきなり戦えなんて言われたって…俺にはもう守るモノなんて無いし」
あの時殺害された親友の事を思い出す。本当に大切な存在はもういない。
「あなたにとって守るべき人、ですか……あの時一緒にいた青年ですか?」
「! 知っているのか!?」
思わずその場で飛び起きて勇太郎は少女の肩を掴んだ。
「あの時俺と一緒にいた、楓を…知っているのか!?」
少女は神妙な面持ちで頷くと、楓の状況を説明する。
「彼は今ラフムと戦う戦士、仮面ライダーとなってその使命に燃えています。そして、申し遅れましたが私達は彼ら、対異形部隊バディの協力者……」
「”
勇太郎は楓が生きていた事にこれ以上と無い喜びを覚える。さらに今目の前の少女らが楓の協力者と知れば、彼の行動は早かった。
「アンタ達が本当に楓に協力しているなら、俺を楓に会わせられるんだな?」
「勿論ですわ。ただ、霧島楓…ウイニングは現在ラフムとの戦闘任務を行っています。そしてあなたはラフム。この意味がお分かりでしょうか」
少女の問いに勇太郎は慄いた。彼女の言葉が意味する事とはつまり―――。
「俺も楓に倒される、って事だな?」
筆舌し難い痛烈な表情で答えた勇太郎に、少女は呆気に取られた様な顔を浮かべた後、ふふ、と微笑む。
「何がおかしいッ!?」
「いえ、私の言い方が悪かったのですわ。申し訳ありません。先程の言葉の意味、ラフムでありながら自我を保つあなたは、ウイニングの助けになれる、と言う事ですわ」
それを聞いた勇太郎は開いた口が塞がらない。確かに、協力出来るなら嬉しいが、まさか自分がラフムである事が許されるのか、と考えを巡らせる。
「俺はラフム、の筈だろ? 何で協力出来るんだよ?」
「それは―――」
少女がそこまで言い掛けて口を押さえる。が、勇太郎は微笑んで少女の肩に手を乗せる。
「心配するな。大体分かってる―――楓も、ラフムなんだろ?」
勇太郎が困った様な顔で肩をすくめる。
「なんか分かるんだよアイツの事。腐れ縁ってヤツか。それより楓が無事なら…生きてるなら…また会いたいんだ! アイツがどこかで頑張ってるなら一緒にいて支えてやりてえんだ!」
次第に彼の目から涙がこぼれて来る。イ―トリッジを強く握って、ベッドの上で正座を組んだ。
「楓の為なら俺は何だってする…だから、どうか楓に会わせてくれ!!」
勇太郎はその懇願と共に土下座する。それを見て少女はこく、と頷いてタキシードに何かを命じると
「承知致しました。私
「使用人?」
「私に仕えながらラフムを討つ者とお思い下さいませ。そして勇太郎。あなたは霧島楓のいるバディへの派遣としてここ、福岡県天神から東京まで行って貰います」
話があまりにもいきなり過ぎる、と突っ込みたい気持ちを抑え、勇太郎は彼女、吹雪の言葉に従った。
それからと言うもの、楓の力となるため、そして自らの力を理解する為の特訓が始まった。タキシード―――
「なあ
それは何故? と純粋な興味で風露が問う。すると勇太郎はにひっ、と右の口角を思い切り上げて笑った。
「楓を助けられるから、だよ」
そしていつしか勇太郎は師匠として教えを乞うてきた風露を負かす程に成長した。それを認めた吹雪の令によって楓の元へ向かう事になった。
――
「途中寄った横浜でラフムの記事を見てよー。それでまさかと思ってこっちまで急いで来た訳だ。無事で何よりだ」
聴取室。勇太郎が話を終えると、楓は腕で目を覆って咽び泣いていた。
「良かった、良かったよお! 勇太郎……」
「ああ。俺も、良かった。またお前に会えたんだからな」
二人はお互い机越しに向かい合うと、堅い握手を交わした。
「これからは俺も一緒だ、楓」
「心強いよ、勇太郎!」
と、聴取室の扉がノックされる、それから間も無く扉が開かれると、長官が入って来た。
「失礼するよ。君がバーンラフム…火島勇太郎君だね?」
勇太郎がああ、と首を縦に振ると、長官は微笑みを崩さず、用意されていた予備のパイプ椅子を取り出して腰掛けた。
「話は御剣家から聞いたよ。君を正式なバディのメンバーとして認めます。これからよろしくね、火島君」
そう言うと長官は勇太郎へ手を差し伸べる。
「ようこそ、Break Against DYsplasiamonster、バディへ。そしてこの握手は君がラフムと戦う戦士である事を承認する”契約”だ」
長官は先程とは打って変わって険しい表情で楓の時と同じ注訳をする。それに対し勇太郎は迷う事無く握手を交わす。
「俺はその為に来たんだ。今更そんな事言われなくったって万事OKだぜ、長官」
勇太郎が不敵な笑みを浮かべる。それに応える様に長官も微笑む。
――
事情聴取は終了し、勇太郎は解放されると同時にバディ職員用のマンションでの生活手続きが進められた。正式にバディの一員として認められた勇太郎はこれから新しい力として活躍していく事となる。
そしてこの慌ただしい一日の最後、再会した親友同士はマンションの屋上で夜空を見上げていた。
「僕達はこんな形で再会したけれど、また会えたんだ。あの時、全てを失ったと思っていたのにね」
「全くだな。奇跡としか言い様が無いぜ」
「これから、僕らはラフムと戦っていく事になる。もう僕達みたいな人を生み出しちゃいけないんだ」
勇太郎は何も言わず頷く。
二人の眼前に広がる夜景。様々な色の光。人の営み。
これを楓達は絶対に守らなくてはいけない。
新たな、そして懐かしき仲間と共に、楓は新たな戦いへの覚悟を決めた。