楓と勇太郎は久々に二人で大学へ通学していた。一週間前生徒に撮影されたラフム、そしてライダーに変身した映像はネットに公開された分は全て削除され、ハッカーらの尽力によって生徒らのスマホに残っていた撮影データも全て消去されていた。その為例の件は証拠を持たない都市伝説と化してしまった。
仮面ライダーやラフムの存在は今後政府によって公開されるので問題無いが、その変身者である楓達の個人情報が漏洩してしまった場合、この大学に通う人々がティアマトに狙われるのは想像に容易い。
それを回避する為にも今、情報を漏らす訳には行かないのである。
だが、大学の生徒らは確かに双の目で彼らの”姿”を見たのだ。当然ながら人の記憶は改竄出来ない。故にあの時の事を覚えている者が多くいたのだ。
その為にラフムやライダーの事を言及する輩がいる事を誰もが懸念したが、大学に行く事を選択したのは楓だった。
その理由は、簡潔に言うなら一般人の疑念を晴らす為。そして、二人の通学と同時に総理からのラフム、そしてバディに関する記者会見となる。そして、その会見を開く場所として二人の通う東城大学の講堂を使うのだ。
この件に関して藤村は難色を示したがそれに関して総理から直々の指令があった為に無く無く承諾せざるを得なかった。
「―――お前らが例のヒーローなんだってな!」
授業の合間、楓と勇太郎の前に現れた生徒がふと言う。ネットでは二人が怪物と戦うヒーローとして噂になっていた。無論その一部始終を見ていた彼らは二人を囲んで質問攻めにする。困った楓は頭をかいた後、何かを思い付いたのか紙にペンで”以後説明します”と書いて置いておく。そうして突っ伏していると、何かを察した様に皆が離れて行く。恐らく気を遣っているのだろうが、やはり畏怖もあるのだろう。
「寂しいのか、楓?」
「ううん。ただ、僕らの事を皆は誤解していると思って…僕のラフム、御茶ノ水で暴走したんだけど、あの時の姿を皆は敵だと思ってるし」
そうか、と勇太郎が呟く。
「楓、まさか皆を騙してるかも、なんて思ってないよな?」
「ぎくっ」
図星だった。楓は自分の正体を他人に隠す事に引け目を感じていた。無二の親友である勇太郎にはお見通しだった様で擬音を口に出す程に焦っていた。
「…あはは、その通りだね。僕嘘とかつけないタイプだからさ…いつか僕がラフム、怪物である事が皆にバレたらどうしようって思っちゃって」
眉を八の字にして楓は笑顔を取り繕う。その笑顔が楓自身にとって気持ちの良い物では無い事はすぐに理解出来る。だからこそ勇太郎は彼を支えようと真っ先に考える。
「大丈夫だ。俺達が正義の味方である限り、俺達の味方になる正義がある筈だ。それを信じていればきっと皆と分かりあえるぜ!」
「勇太郎……」
少しクサいな、と楓は思ったが勇太郎が自分に気を遣っている事は分かった。
「ありがとう、勇太郎」
渡がにかっと歯をむき出しにして笑う。勇太郎も一緒に笑う。
――
大学の講堂。多くの記者や見物の生徒、職員がごった返す中、総理、そして防衛大臣が会見の席にやって来る。
今回発表される内容は”昨今話題とされる不明生態について”とされている。たったそれだけの情報で総理自らの発表となるので無論日本全てはおろか海外からも注目の集まる会見である。裏方に待機している楓と勇太郎は緊張から、用意されたパイプ椅子の上で体育座りをして膝を抱え震えている。
「俺人の前とか苦手なんだよー!」
「僕だって! テレビにも出た事無いのに!」
二人が震えている内に会見は始まった。総理の口から語られたのは、ラフムと、それらを生み出すティアマトの存在。そして、ティアマトと立ち向かう正義のヒーロー。
「我々の日常の裏で人の生命を脅かす悪が存在していました。そして、悪ある所に正義があるのです。そう、それこそが正義のヒーロー、仮面ライダーです」
総理がそう言うと、事前に用意されていた画像やデータが講堂の舞台に映し出される。その姿こそネットで噂されていた謎の仮面だった。
記者らが感嘆の声と共にフラッシュを焚く。今まで隠されていた真実に言い様の無い情動を覚えるのは誰であろうと同じだ。
と、楓と勇太郎の携帯がけたたましく鳴り出す。バディからの連絡だ。二人が同時に電話に出ると、本部に待機していた職員からの緊急発令がかかる。
この大学にラフムが接近していると言うのだ。しかも敵は二体。同じ姿をした二体のラフムはジェミニラフムと呼称された。
電話を切ると楓は即座に自分達の荷物からライドツールを取り出す。インカムを装着し本部との連絡状態を維持する。
「それで、敵の到着予想は!?」
「現在が午後十六時十八分、敵の到着まであと三分です!」
それを聞いた楓が了解、と一言呟くと勇太郎と共に講堂に集まった人々を避難させ始める。多くの人が集まる中での避難である為三分でどこまで避難出来るか不安だったが、同時に到着していたバディ機動隊の誘導で何とか避難が済んだ。そして、それと同時に敵の影がこちらへ飛来してくる。
フクロウの意匠のある二体のラフム、ジェミニAとジェミニBと仮呼称された敵が講堂の舞台目掛け着地する。機動隊らがラフムを迎撃している内に二人も舞台に上る。
「来たかラフムさんよぉ! 行くぜ楓!」
「分かった!」
《Account・Winning》
《Winning》
勇太郎が身構え、楓は装着したロインクロスに起動済みのイ―トリッジを装填する。ブートトリガーを引き抜き大きく息を吸う。
「変身!」
《Change・Winning》
楓を包み込む粒子が強化装甲を形成し、緑の戦士が姿を現した。
「正義を叫びライドする仮面の戦士! その名をまさしく…仮面ライダー!!」
ライダーがラフムを指差し高らかに叫ぶ。
「俺も負けてらんねえな!」
勇太郎が力み始めると、ライダーが彼の肩を軽く叩く。
「変身だよ変身。自分の力を解放して変化するから変身だ」
「変身? ああ、良いねソレ! 掛け声か……変身!」
《Burn》
イ―トリッジを起動させ、その体をラフムの姿に変貌させる。
「変身かぁ…何だか勇気が湧いて来るぜ、その言葉!」
二人が構えると、一斉にラフムへ立ち向かう。それと同時に機動隊が援護の手を更に強める。
一方のジェミニラフム二体も二人を迎え撃つ。肩から生える翼を広げ、羽を射出する。ジェミニAとBのコンビネーションでライダーとバーンを囲む様に羽が展開される。
「全包囲攻撃か! こっちもコンビネーションで行くぞ!」
バーンが体に炎を纏わせると、手の平に収束させ、放射する。
《Winning・Attack》
一方ライダーはブートトリガーを一回引いてその力を解放する。体中から放出する風のエネルギーをバーンの炎へ向けて打ち放つ。すると炎は風を受けてその力を増し、二人を中心にして燃え盛る竜巻が発生する。その炎によって全包囲に張り巡らせられた羽が燃やし尽くされる。
炎は羽を燃やした後、さらにラフムへ向かい、二体を一気に攻撃する。
高火力の炎を食らったラフムは逆上し、フクロウの鳴き声を低くした様な異様な咆哮を上げ、二人に凄まじいスピードで接近する。
ライダーは片方のA個体、バーンはもう片方のB個体に分断され戦闘を開始する。
二体のラフムの空中からの攻撃、そしてそのスピードを活かした撹乱によって翻弄されてしまう。
「何の、これ位ウイニングの力で!」
《Winning・Crush》
二回ブートトリガーを引く事で起動する二段階目の解放。足に風の力を纏わせて大きく跳躍する。そして、ジェミニA目掛けて上空からの力強いキックを見舞う。その攻撃が炸裂し、ジェミニAが爆散する。
かの様に見えたが、爆発の煙の中からジェミニBの力を受けて復活するAが垣間見える。完全に復活し煙の中から姿を現したジェミニが咆哮を上げる。
「な、回復するだとォ!?」
「倒した筈なのに…どうすれば良いんだ―――!?」
作戦を模索するライダーだったが、講堂の席の間に人が隠れているのが見えた。どうやら撮影をしていて逃げ遅れたらしい。
「大護さん、講堂の座席に逃げ遅れた人が!」
「何!?」
ライダー装甲内部の連絡機器で機動隊長である武蔵に伝える。が、武蔵が保護するよりも早くジェミニBが人の存在に気付いてそちらへ飛翔する。
「うわあああああ!!」
民間人の絶叫とラフムの雄叫びが講堂に響いた。