バディ本部、研究室。
そこではバディ技術顧問兼医療・戦闘指揮官、藤村榛名が日夜ラフムと仮面ライダーの研究を行っている。今日も普段と変わらず、仮面ライダーの装備の開発を行っていた、が。
「っはよーございまーす」
気の抜けた勇太郎の挨拶が研究室に響く。それに続いて楓も控えめに挨拶をする。と、二人は実験室に立ち込める煙の臭いと鼓膜を破りそうな程の金属の切断音に驚嘆する。
「二人共おはよう。朝からごめんなさいね。今日は少し装備の開発でつまづいちゃってね」
真っ黒になった藤村が煙の中から出て来る。実験室の奥は工房になっており、装備の製作も彼女が担っているのだ。が、そこもそれほど広いスペースでは無いので様々な道具や開発途中の物が散乱している。
「あれって、仮面ライダーの鎧ですよね!? あれも藤村さんが作ってたんですか!?」
工房から見える開発途中のアーマーを指差し勇太郎が問う。それに答える様に藤村が煙で咳込みつつも頷く。
今まで多くの窮地を救った仮面ライダーのフォーム。それらの性質を鎧として発現させるそれらのアーマーの凄まじさは変身者の楓が良く知る所である。
「今まで当然の様に使っていたけれど、藤村さんの力あってこそだったんですね……いつもありがとうございます」
楓が深々と礼をするが、藤村がいいっていいって、と手を振りながら謙遜する。
「確かにこのアーマーを開発したのは私だけど、それらの元となるイートリッジ、そして仮面ライダーの能力の多くを支える超技術、ライドシステムを開発したのは私じゃないのよ」
勇太郎は狐につままれた様な顔をしているが、楓がかつて藤村が言っていた事を思い出す。このライドシステムの開発者、そしてバディの前技術顧問…藤村の兄。
「お兄さんですよね、そこら辺の開発って」
「そうそう、良く覚えていたわね霧島君。私ね、技術顧問として研究とか開発をしている時はいつも”兄さんならどうするんだろう”って考えているのよ。いつも何を考えているのかあんまり分からなかったけど、やってる事はいつも正しくて、格好良かった。だから私は兄さんと同じ仕事をしようって決めたの」
「今日時間ある? 折角だから昔話でも聞いてくれるかしら? 今じゃどこにいるのかさえ謎な兄さんのお話」
楓と勇太郎はお互いの予定を確認した後、静かに頷いて近くにあった椅子に座す。
「暇です!」
唱和した二人に微笑みながら藤村も自らのデスクの椅子に座る。
「私の兄さん、藤村
――
藤村の兄、金剛がいなくなった日―――去年の四月頃。
当時、バディがまだ国から認められた組織では無かった。御剣家からの限りある資源の中で金剛と藤村はライドシステムの最終調整を行っていた。
人類が未だ戦う事の出来ない敵であるラフムに対抗する手段である武装の完成。それが彼らの命題であった。
「やっと出来た、エレメンタルカートリッジ! とは言ってもラフムの成分はクッソ入手困難だからただの空っぽの端末だけどな!」
嬉々としながら完成したブランクイートリッジを頬ずりしているこの男こそが藤村金剛。中学一年生の頃から物質の長距離間転送技術の発明に勤しんでいた彼は、僅か十五年の期間でその技術を確立させてしまった。
それこそが”ライドシステム”。生命以外の物質を転送させるその機構の誕生によって対ラフム用武装の転送、装着が従来とは比較にならない程容易になった。
藤村兄妹がこのバディに寄与する様になったのはこれより少し前の事だった。技術の悪用を防ぐ為に誰にも気付かれない様にライドシステムの開発に勤しんでいた彼らの自宅に、突如御剣家と名乗る一派が訪問してきたのだ。どこからライドシステムの情報が流れたのか定かでは無いが、オンライン下での作業もあったのでそこを嗅ぎ付けられたのだろう。
ともあれ、彼らの技術は個人の楽しみで終わる筈がバディの一員として世界を守る仕事になってしまったのだ。藤村の方は両親への説明が難航し、先が思いやれると言った心持ちだったが、金剛はと言うと、ヒーロー気取りで喜んで作業を始めたのだった。
「―――確かに私達の作る物が世界を救うだなんて言われたら協力を断る気にはなれないけど……技術だけで例の怪物を倒す力になるとは言い切れないわよね、兄さん」
「ああ、その通り。例え強い武器を作ってもそれを使える人がいなけりゃ無用の長物よ。だが、俺には分かるぜ。俺達の作る物を上手く扱ってくれる本物の”ヒーロー”が現れるってな」
何故なのかは分からないが、金剛のその自信に藤村は鼓舞される。その気持ちのままにライドシステムの調整を続ける。
「兄さんがそう言うのなら、きっとそうなるわね」
二人が笑い合っていると、けたたましいサイレンがバディの基地内に響く。
「―――ラフムだ」
金剛はそう呟くと研究所を飛び出して指揮車両に急ぐ。金剛は戦闘の指揮を、藤村は今後に繋がる研究を、お互いの仕事を分担しながら行う。
それから一時間後、普段は鍵が掛けられている金剛の机が開いている事に気が付き、嫌な気配を感じた藤村が研究室を出ると、丁度ここへ走って来た職員に呼び止められる。
「榛名さん…金剛さんを含めた機動隊複数名が、ラフムと共に消失しました!」
午後三時十五分。栃木県日光市日向、日向温泉付近の鬼怒川の河原にてその戦闘は行われていた。
周囲を煙と灰だけの空間にしてしまう程の爆発力を起こす敵、ボマーラフムによって指揮車両ごと一帯の機動隊が爆破に巻き込まれたのだ。
遺体はおろか、遺留品すら残さない事から、高い爆発力による消滅、と言うよりもその場から一同が消失したと考える方が最適と判断された。そして目標であったボマーも消失し、またもやラフムの討伐とは至らなかった。
想像を絶するその報告に、藤村は膝から崩れ落ちた。
――
「―――あの時、私も一緒に行けば良かったのに、って思ってしまったわ。けれど、人類に希望を繋ぐ役目として兄さんは私をバディに残したのよ…兄さんは何故かこの日の事が分かってたみたいに、私にメモを残しておいてくれていたわ」
そう言うと藤村が元々金剛がいた筈の机からその時のメモを取り出した。
"やっほー榛名ちゃん! お前がこのメモを見る頃には俺はもうこの世にはいないだろう。
って一度言ってみたかったんだよなぁ!
安心しろ榛名。多分だが俺は大丈夫だ。お前が大丈夫だって思ってると大丈夫な確率が40パーは上がるぜ!
だけど、長い間俺は戻れない。もしかしたら戻ってこないかもなワケじゃん。だからこそ、俺は俺のやるべき事をやったから、後をお前に託す。お前はこのバディでお前のやるべき事をやり尽くしてから後に託せ。俺達の力を受けたヒーローと共に、この日本の未来を世界が羨むモノにしてやってくれ、頼んだぞ!
p.s. パソコンのハードディスクは問答無用で処分してくれ”
そう綴られていた。
「それを見たらなんだか悲しむってよりも、頑張るぞ! って気持ちになったの、だから私は私のやるべき事を模索しながら兄さんの帰りを待ってるのよ」
メモを仕舞って藤村は二人の方を向いて微笑む。
「兄さんは私に、そして人類に大きな希望を残していってくれた。私はそれを受け継いで、兄さんが守ろうとしたこの世界を守ってみせるわ、このライドシステムでね!」
藤村が拳を掲げると、楓と勇太郎も声を上げて拳を高く上げる。
「世界を守る為に、現在開発中の物があるのよ、見てて…特に、火島君にはね」
突然指名された勇太郎がとぼけた顔をしながら藤村の持って来た物に目を移す。
彼女が持って来たのは、もう一つの”ロインクロス”だった。