バディ基地、取調室。恋人を助ける為にラフムと化した男、淡路島を誘い、そして数々のラフムを生み出した黒い鎧。淡路島はその黒い鎧を、バディ技術顧問、藤村榛名の兄、”藤村金剛”と呼んだのだった。
「……今、藤村、金剛って言いました……!?」
「ああ。名前を呼ぶのも怖気が立つぜあの鎧…あいつはそう名乗ったんだ。俺にイートリッジを渡す前にな」
「もしかしてライダー、お前はその名前を知ってるのか?」
「そこは守秘義務があるので言えません。ですが一つ聞かせて下さい、それは本当に黒い鎧が名乗ったんですね?」
淡路島が頷く。
まさかあの藤村の兄がそんな悪魔めいた事をするとは思えない。話に聞いた藤村金剛と言う人物は、朗らかで、かつ正義を重んじる性格のイメージがあった。そんな彼がティアマトの一員として動く事には違和感しか無い。
「―――その件はもう良いです。淡路島さんが貰ったティアマトの資料の概要とバスに乗車する時の事から教えて下さい」
「ああ。あの資料、パンフレットだったか。俺の自宅はどうせ割れてるだろうから好きに探してくれ。テーブルの上にでも置かれている筈だ。ここからはうろ覚えだから資料の詳細はガサ入れた方が分かるだろう」
皮肉めいた口調だが、淡路島は今頭に残っている情報を洗いざらい話し出した。
――
ティアマトの資料は、まるで最新を謳った学校の様なポップなデザインで描かれたパンフレットだった。
福利厚生、構成員の役職、昇給制度まで書かれており、全体的に明るい印象を持たせる物であった。
ただ一つの項を除いては。
その仕事内容、ティアマトがどの様な組織であるかがまず表紙を開いた先に書かれていた。
”我々ティアマトは、来る外宇宙からの侵略から人類を守る為の進化を促す組織です”と、そう書かれていた。
いきなりな宇宙の話に淡路島は困惑した。こんなの年末のオカルト番組でもやらないだろ、と心の中で呟きながらページをめくり続ける。突飛な文章で目を引くのは良くある事だろう。
続いて記されていたのが、サイトのURLだった。それはどうやらティアマトで行う仕事の内容を伝える動画らしい。大手の動画配信サービスのリンクから飛ぶ事に違和感を感じたが、四の五の言っていられる状況ではない。そのままURLを携帯に打ち込み、動画を見る。
気が付くと淡路島はバスの座席と思わしき椅子に座っていた。手に持っていた筈の携帯は無く、腕時計を見ると、午前の七時をさしていた。
あの動画を見てから時間が飛んだように記憶が無くなっていた。それに、このバスは恐らくティアマトの物だろう。運転席は窓ガラス越しに閉鎖されており、自分の様に辺りを見回して動揺している人が散見される。スーツ姿のままの中年や、やたらやせ細った少年などが見られ、異様な雰囲気の中でバスが進んでいく。
風景からして東京を抜けた所だっただろうか。バスの天井から催眠ガスと思われる物が噴霧され、体に力が入らなくなっていく。シートベルトをしていなかった中年はそのままバスの通路に倒れ込むが、そのままバスが走り続ける。淡路島が老人を助けようとするが、バスに揺られ、体を椅子に打ち付けるとその衝撃で眠ってしまった。
目を覚ますと淡路島は結束バンドで手を後ろに縛られていた。
「……ここはどこだ!」
思わず淡路島が叫ぶと、バスの中に黒い鎧―――金剛が入って来る。
「ここがティアマトの拠点だ。ここで何をやるのかは、お前らは既に分かっている筈だ」
金剛がそう言うと咳払いし、何かの合言葉を言う。それが何と言ったのかは淡路島には思い出せなくなっていたが、それを聞いた瞬間、体が勝手に動き出した。これが一種の洗脳に近い力で操られている事は分かっていた。だが、体は制止を無視してバスから降り、勝手に拠点の中にあるホールの様な広い空間に足を運んでいた。
そこに設置されたテーブルの上には、各人一個づつのイートリッジが用意されていた。
「ラフムを創ると言う部分においては我々は
笑い声を漏らしながらそう高々に言い放つ金剛の言葉が淡路島の脳裏に焼き付く。それは恐怖と後悔がそうさせたのだろうか。覚えが良い方では決して無かったが、あの高笑いを忘れる事は絶対にしないと心に誓った。
しかし、体は自らのコントロール下には無く、金剛の言っていた通り、ペイルのイートリッジを起動させると自らの手首に当てた。
《Pale》
「ぐッ……!う、うあああ……」
思わず声が漏れる。体の中が沸騰しているかの様に熱く湧き上がる。体内から破裂しそうな痛みを伴いながら、淡路島の姿がみるみるうちに変貌していった。
まるで魚の様な容姿の手足が見える。その場に”自分の姿を見てみろ”と言わんばかりに置かれた姿見を覗くと、その姿は、人であった頃の面影など残さない、ただの怪物に成り果てていた。
絶望のあまり言葉も出なかったが、体の自由は戻って来た。そのまま後ろに立つ金剛を襲おうかと振り向いた時だった。
隣にいたやせ細った少年が、バズーカの様な手から砲弾を金剛に放っていた。
「よくも騙したなッ! 僕の体を、母さんからもらった心臓を返せェェェェェ!!」
爆風で辺りの壁が吹き飛び、塵と煙が舞って辺りが見えなくなる。未だにバズーカを発射する爆音がけたたましく響いていたが、その音が急に止まった。
「お前ら、この組織への反逆はやめとけ。たった今ラフムになった程度の力じゃ俺に勝つ事は絶対に有り得ない。それと、その怪物の姿だが再びイートリッジ、さっきの端末を体に当てれば人間の姿に戻れるから安心しろ。そしてお前らのやるべき事を遂行しろ」
煙が晴れると先程の少年だったラフムは、首だけとなり金剛の手に収まっていた。
翌日、金剛が生き残った淡路島達にニュースを見せた。一家変死事件として取り上げられたそのニュースには、失踪していた長男としてあのやせ細った少年の写真が載せられていた。その写真で見る彼は、淡路島には、とても勇敢で、誰かの為に戦える強さを持った目に見えた。
――
「俺は怖くなった、自分が死ぬのが。だから恋人の為、自分の為、戦って来た。なんとか人殺しをしない様にな…だがもう限界だ。俺はずっと自分が怪物になったのが怖かったのに、それでもそれを武器にしなくちゃ生きられなかったんだ」
そう言うと、強面の淡路島からは想像出来ない様な悲痛な表情で涙を流し始めた。
「助けてくれ仮面ライダー……俺はもう戦いたくない。ただ幸せに暮らしたかっただけなんだよ……」
「―――分かりました。僕にはあなたみたいに人の目を見たって性格なんて見えませんが、一つだけ見える物がありす。あなたは本当に僕に助けを求めている。任せてください……淡路島さん。僕は、ヒーロー、”仮面ライダー”ですから」
勇ましく楓が答えてみせると、携帯に連絡が入る。藤村からのメッセージ。
”ペイルの恋人さんがいる病院にラフムが出現!”の文章を読み、職員らに任せ席を外す。
「ラフムか? ライダー」
淡路島の問いに楓は黙って彼を見る。
「絶対に勝てよ、ヒーロー」
楓は黙ったままその場を後にする。
(アイツの目…推測するに俺に関する事だな…だとしたら、サンダーが遂に動くか……)
淡路島が天井を見上げると、溜息をついた。