仮面ライダーインテグラ   作:虎ノ門ブチアナ

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#26 敗北

「サンダー、何故ライダーは急に優しくなったと思う? 自分の思い通りに事が運ぶ時、人には余裕が生まれるからだ。駄目だぜサンダー、お前の妹を助けられるのはティアマトだけだろ?」

 

 止まる事無くサンダーを惑わせる藤村金剛。先程までの威圧感を失ったサンダーは体を小刻みに震わせていた。

 

「それに……お前がティアマトを裏切ると言ったならどうなるか、分かるな」

 

 その言葉を聞いたサンダーは更に肩を震わせ、ライダーへと拳を向ける。

 

 

「おい…アンタ本当に藤村金剛、なのか? アンタは人を守る為にこのライドシステムを作ったんじゃ無いのか!?」

 

 楓が腰に巻いたままのロインクロスを揺さぶりながら叫び、問う。その悲痛な疑問を嘲笑う様に口角を上げ、藤村は言葉を重ねる。

 

「知らないな、そんな立派な(こころざし)なんて。俺はただこの世界と人間が壊れるのが見たいだけだ」

 

 その言葉に楓は我を忘れ、藤村へと接近する。が、その間にサンダーが立ち塞がり、行く手を阻む。

 

「良い子だサンダー。バーンは良いからお前はそのヒーロー気取りをブッ潰せ。妹さんの為にな」

 

 藤村がそう告げると、再び霧状になり消える。

 

「待てクソ野郎ッ!!」

 

 楓が普段からは想像もつかない程の罵声を浴びせるが、藤村は意に介さない。そして、楓―――ライダーが戦うべき敵は彼では無かった。

 藤村に言われた通りにサンダーがライダーへと攻撃を仕掛ける。

 サンダーはその名の通り、雷撃によってライダーの全身を痺れさせる。言う事を聞かなくなった体を動かそうとする度に体に亀裂が走る様な痛みが続く。が、ライダーは諦めない。この病院で眠る患者の為に。そして連れ去られんとする勇太郎の為に。

 

「まだ僕は倒れられない……守りたい人がいるんだッ!!」

「お前一体何なんだ? 急に声を荒げたり守るっつったり…」

 

 その叫びにサンダーが狼狽えるが、拳を強く握り、言葉を返す。

 

「仮面ライダー、お前は守るっつったが、お前が誰かを守る事で犠牲になる命があるんだよ! お前を倒さなきゃ響は…響は死ぬ! 自分が死んだ方がマシに思える程守りたい人が俺にだっている! ……そうか、お前にだっているんだよな」

 

 サンダーの身の上とライダーが重なり、一瞬心が揺らぐ。だが、力と暴論でその心を捻じ伏せる。その証としてサンダーは本来の能力を披露する。

 腰布を剥ぎ、捨てる。その腰にはライダーと同じベルト、ロインクロスが巻かれていた。

 

「それは―――ロインクロス!? サンダー、お前もライドシステムで……!?」

「藤村金剛から受け取った物だ。もとよりラフムの力を制御出来なかった俺がティアマトのラフムとして戦う為の鎧だと言った…仮面ライダー。お前と同じ力でお前を倒す!」

「だったらサンダー。僕は君と同じ力で君を助ける!」

 

 サンダーが呆気に取られる。まさか倒すのでは無く助けるだと? その疑問を目の前の敵への集中によりかき消そうとするが、戸惑ってしまう。だが、そんな世迷言(よまいごと)で人が助けられる程甘くないと、そう自分に言い聞かせ、サンダーはブートトリガーを3回引く。

 

《Thunder…Impact!!》

 

 サンダー、雷の力の最大解放。先程までとは比べ物にならない電光を身に纏い、腰を落とす。それは跳躍の構えであった。

 それに合わせ、ライダーもブートトリガーを3回引き、風の力を身に纏う。

 

《Winning…Impact!!》

 

 二人の叫びがこだまし、同時に空へと飛び立ちお互いの脚をぶつけ合う。

 風と雷。それぞれの力の交差は、かつての屏風絵”風神雷神図”を思わせた。

 

「君がもう誰かを傷付けなくて良い様に……君を倒すッ!」

「矛盾した偽善を並べるな、ライダー!! お前が俺を倒せば―――人が死ぬんだぞッ!」

 

 その言葉にライダーは動揺し、サンダー最大威力の一撃を真っ向から受ける。

 電撃により麻痺した体ではまともに着地出来ず、体から落下する。が、ライダーはまだ立ち上がる。

 

「本当に俺を助けたいなら―――俺に倒されろッ!」

 

《Thunder・Crush》

 

 二度目の能力解放。最大解放後の連続しての解放はロインクロス及びライドシステムの規定された能力行使の限界に至り、ライドツール破損の危険がある。もしもこれによりサンダーのロインクロスが破壊されてしまえば、彼は制御不能のラフムの力を使う他無くなる。

 その危険性を知っていながらサンダーは戦う。

 

――

 

 三ヶ月程前。とある兄妹と、その”家族”を、怪物が襲った。

 逃げようとした家族と、妹を守った兄は死亡。そしてその妹は全身の帯電と麻痺により、植物人間と化した。

 妹を助けられなかった悔恨を背負った兄はラフムとなり、愛する妹を治す術を探し続けた。

 また妹と幸せな日々を過ごす為に。

 力を解放し続けるサンダーの脳裏に走ったその記憶が、闘志を更に高めていく。

 

――

 

「響を……助ける為にッ! 俺はーーーッ!!」

 

 サンダーを包む雷は次第にその体さえも蝕み始める。装甲が裂け、体勢も安定しない。それでもライダーめがけてその脚を伸ばし、再びキックを決めようとする。それに対して受けて立つ様にライダーがブートトリガーに手をかける。

 

《Winning…Impact!!》

 

「なッ、もう一度最大解放だと!?」

 

 サンダーが躊躇った能力の連続最大解放。その力を使ってしまえばライドシステムの機能停止はおろか、自らの体にさえ多大な負荷をかける事になる。ライドシステムのサポートを受けて身体能力を向上させている部分も多い故に、上限を超えた能力解放をしてしまえば制御装置は暴走し、身体能力の向上効果は体への負担を顧みなくなる。

 

 その結果、ライダーの振り上げた右足は膝関節を逆に曲げ、砕ける。軸にしていた左足は各関節から回転を続け、捻じれ、骨を跡形も無く断ち切らせる。噴出した骨と血飛沫と共にライダーが崩れ落ちる。

 全身全霊のライダーキックによって発生した風の力の応酬は、サンダーの蹴りとぶつかり合い、大きな衝撃を生み出す。それにより攻撃を帳消しにされたサンダーは地上に落下し、能力解放を続けたライドシステムの制御機能として変身が解除される。

 サンダーへと変貌していた少年は、血の滲んだ学生服の埃を払い、ライダーを見つめる。

 彼と同時に変身が解除されていた楓は、下半身の原型を留めず、目を見開いたまま倒れていた。恐らく意識を失っているだろうが、その眼光の鋭さに、今にも動き出しそうな殺気を感じた。

 

「…何が助けるだ……獲物を殺す眼をしてるクセに」

 

 サンダーは淡路島程人の目で内面を見抜ける訳では無いが、多くの人の目や表情で心を読み取って来た経験から、楓の眼差しの意図を読む。だが、現状はそんな事はどうでも良かった。かすれた声で金剛を呼び付けると、指名を受けた藤村が一瞬でその姿を現した。

 

「ふむ、ライダーの討伐を確認した。それじゃあ次はバーンだな」

 

 金剛がそう言って病院へと歩を進めようとすると、異常な程の殺気を感じて動きを止める。否、身動きが取れなくなっていたのだ。その殺気により本能が、体を強張らせているのを感じる。それと同様にサンダーにもそのオーラが強く心と体を縛り付ける。

 

 その殺気の主は、楓だった。もう動かず、意識の無い筈の楓から、底知れぬ程の行かせまいとする意志と、金剛へと向けられた殺意に近い憎悪の感情が、滲み出ている。

 こんな狂気を放つヤツが果たしてこの国を守るヒーローなのか、と金剛の頭に(よぎ)る。そしてそれ以上に、今バーンに近づく事への忌避感が募る。

 

「バーンはまたいつかだ。とにかく戻るぞサンダー」

 

 心拍が上がったままそうサンダーに告げると、彼の肩に触れ、サンダー諸共霧と化して姿を消す。その頃には、楓の不気味なオーラも消失していた。

 

――

 

「楓っ! 楓ーッ!!」

 

 サンダーによる攻撃の後、目を覚ました勇太郎は状況を聞きつけ、楓がストレッチャーで運び込まれている所を追いかける。

 サンダーを迎え撃つ為に重症を負った彼の無惨な姿を見て勇太郎が泣き叫ぶ。その姿を見ていると、嫌でも昔の事を思い出してしまう。

 

 二人が中学生だった頃、集団でいじめられていた勇太郎を庇い、全員と喧嘩をして加害者全員と共に救急車で運ばれていく楓の姿。何故自分の為にそこまでしたのか後で問うと、楓はこう言った。

 

「人の痛みを知って欲しかったんだ」

 

 その当時は楓に感謝するばかりだったが、今になって思うと、何だか違和感が残る。

 

(人の痛みを身を以て知って貰う為に自分が痛い思いをしてどうすんだよ…そうやって誰かの為に戦ってりゃ、自分だって絶対に痛い癖に、お前はどうしてそうまでして……)

 

 緊急治療室に運び込まれる楓を見送りながら、勇太郎は泣き崩れる。

 

(戦おうとするんだよ……)

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