#28 火炎
新名称・仮面ライダーウイニング、霧島楓の名誉の負傷から一週間。バディは新たな対ラフム体制の確保に向け動き出していた。
これまでのラフム被害を受けバディは犠牲者への鎮魂と共に、規模の拡大を行う運びとなった。
職員の増員、警察及び自衛隊から機動隊への異動、研究員の新規配属により、バディの技術と戦闘能力の向上が徹底的に行われる。まずは研究室の増員と研究費・装備製作費の増額案がバディ長官・長良衡壱より提出された。
防衛省・財務省をはじめとする政府各省庁は眉を寄せつつも致し方無いとする雰囲気があったが、国家予算を消費する事から批判の声も同時に上がった。それは内閣不信任決議案として国会議員らから提出されたが、その意見の大元にいるのが、内閣府査察官―――
彼はサンダー戦の直前よりバディの調査に訪れていた男であり、政府からの提供物の用途を調査していた。その結果、これ以上のバディからの要求は国家としての対応に負えないとし、バディ強化に反論した。
しかしその後人々を守ろうとするバディの意志に心を打たれ、強化案を承諾した各省庁の働きにより不信任決議案は否決。国からも今後のバディの活躍を期待される一方であった。
――
「どうやらバディはさらに規模を拡張するらしい。これ以上俺達の肩身を狭くする様な事はしないで欲しいのだがな」
都内の廃墟。黒い鎧―――藤村金剛はそこで長身で眼鏡の美女と密会していた。その女性は”アント”、蟻のイートリッジを左手に持ち、右の人差し指でその表面を撫でる。人の話を聞いているのか定かではないその態度に金剛は溜息をついた。
「そろそろあのバディを叩く必要がある。俺とサンダー、そしてアント。お前の三人で計画を進める」
アントがイートリッジを撫でる仕草をやめると、ようやく口を開いた。
「…そのサンダーはいないのね。この間あの仮面ライダーとドンパチやって深手を負ったみたいだけど?」
「サンダーなら体はあっと言う間に治してどこかをフラついている。勝手な事はして欲しくないんだがな……アイツはライドシステムを委任されているだけで器量は雑魚ビルダーとなんら変わらない。俺達の様な幹部に加わっている事さえ不思議な程だな」
「ガキの愚痴は分かったわよ。それでその計画は
「いいや、何も言ってないさ。面白くなくなるからな」
そう、とアントが返すと、二人はお互いの目を合わせ、高笑いを浮かべる。その高笑いは、彼らの企てる計画の恐ろしさを予感させていた。
――
ティアマトの暗躍が進む中そんな事を知る由も無く、勇太郎は楓の入院している病院を訪れていた。
未だ目を覚ます素振りを見せず、体中から電気を発生させている。
「まだどうすりゃ良いのか分からねぇけど、絶対に助けてやるからな…楓」
見舞いに訪れた勇太郎が窓に手を添えながら呟く。そして隣の治療室で同様に眠る少女に視線を移すと部屋の入口に書かれた彼女の名前を見る。
「
ウイニングとサンダーが戦闘していた際の会話は全て録音されている。そこから藤村はサンダー、
(藤村さんは家庭環境もサンダーの行動に影響があるっつってたか……どうにかしてアイツと話し合う機会が欲しいが、どうしたものか。また出て来た時にでもおしゃべりするか?)
勇太郎が溜息をついていると、携帯電話の呼び出し音が病院の廊下に響き渡る。勇太郎は焦って切ってしまおうかと携帯の画面を見ると、藤村からの着信である事に気付き、電話に出る。
「火島君、ラフムが出たわ。そっちに出向いて射出する時間は無いから直接向かって。座標は送信したわ」
「了解っす!」
電話が切れると、藤村から送られた目標の地点と敵の情報を確認する。
「楓、また来るからな…響ちゃんも、絶対に助ける方法を探してやる!」
――
十一月二十七日。午前十一時。
勇太郎仕様に赤いファイヤーパターンをプリントされ新調したライドサイクロンを走らせ、ラフムの暴れている場所へと向かう。
以前楓が入院していた病院の付近。アシッドに襲われた患者が住んでいる地域の為、彼らの心的外傷の程を考えると勇太郎ははらわたが煮えくり返りそうだった。
都内地下に整備されたバディ出動用巨大交通網”レイライン”を通り、瞬く間に到着する。古い民家での襲撃が起こり、火災が発生し消防隊も出場している。
「火島君! こっちよ!」
勇太郎を見つけた藤村からの指示を受け、現場に走る。そこからは絶える事無く銃声が鳴り響き、ラフムの叫び声と人々の断末魔が聞こえてくる。
まさしく阿鼻叫喚、地獄絵図。この悲劇を終わらせる為に勇太郎はバッグからライドツールを取り出し、装着する。
「火が強くなって来たぞ! みんな退け!」
バディ機動隊員らが強くなる火に退避せざるを得なくなって来ているが、隊長である大護ただ一人は構う事無く自動小銃をラフムに撃ち続ける。
「まだだ! 勇太郎が来るまで俺が抑える! お前らは民間人の避難と消火を!」
大護の銃撃によってラフムが怯み、その時間稼ぎによって勇太郎が到着する。
「武蔵さん、俺に炎は効かないんで後は任せて下さいッ!」
勇太郎の前に立ちはだかる敵―――ウッドラフム。木の性質を持つその怪物は、想定外の火炎に包まれ燃え続けている。しかし剛健な木の鎧が再生し続けている為に本体にダメージは無い。
「炎の敵か、俺みてーだな…初戦に相応しいって感じだぜ」
《Burn》
バーンのイートリッジを起動させ、予め装着していたベルト型アイテム、ロインクロスに装填する。ウイニングからは打って変わったベースによる起動待機音。少し驚きはあるが、藤村金剛の趣味を投影しているらしい。
「金剛さんも無事なら名作曲家になれるぜ…っと!」
ウッドラフムが枝状の手を伸ばし勇太郎へ攻撃を仕掛ける。が、それを寸前でかわしブートトリガーをバレットナックルから引き抜く。
「お見せしてやるぜ、俺の―――変身ッ!!」
《Change・Burn》
変身の音声。それと共に周囲を燃やす炎が勇太郎を中心に吸い込まれていき、彼のエネルギーと化していく。赤いスーツが形成され勇太郎の身を包む。
ライドシステムにより転送された鎧が装着され、仮面が降りて勇壮なヒーローの面となる。
炎が燃え立つ中、新たなヒーローが誕生した。
カブトムシの様に伸びた角。
彼の憧れを見つめる緑の瞳。
マフラーの無いシンプルな立ち姿。
ウイニングに近しいが炎の様な意匠が増えた鎧。
紅と橙で彩られた体躯。
「友の意志を受け継ぎこの鎧! 風を受けては燃え上がる! 正義を燃やしライドする仮面の戦士! その名をまさしく……」
ウッドが更に枝を伸ばすが、赤き戦士の炎が焼き尽くす。
「仮面ライダー…バーン!!」