仮面ライダーインテグラ   作:虎ノ門ブチアナ

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#30 憧憬

「相談、ですか……」

 

 十一月二十八日、午後二時四十八分。東京都台東区にある和菓子屋の個室。

 

 勇太郎を連れ出し間食に誘った長官は、勇太郎の仮面ライダーとしての任について相談をしたいと言い放った。

 今まで勇太郎との接触があまり無かった長官から相談を持ち出されると言う状況の異質さに勇太郎は少し困惑していた。

 

「今まで話をする機会の無かった私からの話だ、戸惑うのも無理は無い。しかし、君がやろうとしているのは”人類を守るヒーロー”だ。君がヒーロー、仮面ライダーとなるに値するかをバディ長官として見定めなくてはならない。私に務まるかは判断しかねるがね。勿論君がバーンラフムとして戦っていてくれていたのは理解しているし、私もその行為を認可していた」

 

 長官は水を一口含んで喉を潤わせると再度口を開く。

 

「が、君にそれら功績があるからと私自身が君の事を知らずに戦わせる事は出来ないと感じたんだ。じゃなきゃ……君の気持ちに気付けない」

 

 長官は出されていた水をもう一口飲み込むと一息ついた。

 

「気持ち…ですか。もしかして楓の時はアイツの気持ちを尊重出来なかった、って事ですか?」

「その通りだよ、火島君―――おっと、お菓子が来てしまった。少し頂いてから話そう」

 

 やっと運ばれて来た二人分の栗ぜんざいに目を光らせながらそう提案する長官に勇太郎も同意し、一口食してから会話を再開した。

 

「こうやって、霧島君ともお菓子を食べながら話を交わすべきだった…私が彼との関係を怠ってしまったから彼が傷付いてでも戦い続ける自棄的な正義感を察知出来なかったんだ……だから、火島君。これから皆の期待と不安を一身に背負う君がどんな気持ちで仮面ライダーになろうとしているのか知りたいんだ」

 

「ぜんざい美味しいっすね! 特にこの栗なんすけどこう…甘くてホクホクで……あ、話は聴いてましたよ!」

 

 食べる事に夢中になっていた勇太郎が恥ずかしそうに弁明すると、長官は美味しいからね、と擁護する。

 

「それで、その俺の気持ちってトコなんですけど…俺は単純に楓が憧れだったから、です。ヒーローに憧れて、誰かを守れる様になりたいって願う、子供っぽいけど良くある事ですよね? 俺にとってはそのヒーローは楓なんです」

「―――でもそのヒーローは倒れてしまっただろう?」

 

 冷酷な表現だった。勇太郎の憧れの的だった楓は先の戦いで負傷し今も目覚めない。

 

「君が霧島君を憧れとして、彼の背を追う様なら…君は彼の様に倒れてしまうだろう。火島君が今倒れてしまったらもうラフムへの対抗手段は町一つ焼き払う事位だ」

 

 勇太郎が鳩に豆鉄砲を食らった様な表情で固まり、しばらくすると大きな溜息をついた。

 

「そう……ですよね、そうでした。あー確かに! 楓みたいな仮面ライダーじゃあ、アイツみたいにブッ倒れちまいますね」

 

 憑き物が落ちた様に勇太郎が笑うと、新たな目標を考え唸る。

 

「だったら俺は……皆を安心させられる様な仮面ライダーになってみせます! 人々を、そして俺自身も守れる位強いライダーになる!」

 

 その言葉を聞いた長官は、静かに頷く。

 

「どうしてそこまでしてこの世界を守りたいと……思えるんだい?」

 

「そりゃあ……この世界ってチビッ子が苦しんでたり、人同士の争いが続いているけど、それを憂う優しい人がいるじゃないですか。その優しさで何か出来る訳では無いけど、その優しさがちょっとでも残っているから俺はこの世界が好きなんです」

 

 勇太郎が店を見渡す。そして、甘い菓子に舌鼓(したつづみ)を打つ人々を見て笑う。

 

「俺はこの世界に残る誰かの優しさを守りたいんです…楓は本当に優しかった。だから俺はアイツの優しさを守りたかったんです」

 

 勇太郎がぜんざいを口に放り込む。粗方話し終わって少し落ち着いたらしい。

 

「分かった。君になら、仮面ライダーを、ヒーローを任せられる」

「任せて下さい! これからもライダーとして頑張りますっ!」

 

――

 

 バディに戻った二人は、先程の和菓子屋で盛り上がっていた。

 意気揚々と話しながら本部へと入場すると、そこには内閣府査察官、黒木が壁に寄りかかって腕を組みながら立っていた。

 

「どうも、黒木査察官殿。本日も浮かない顔でどうかされましたか?」

「どうもこうも、この状況において外出しての休憩とは。良い御身分ですね、と」

 

 適当に挨拶する長官を睨み付けて言葉を返す黒木に長官は気圧(けお)される。一方の勇太郎は黒木の態度に難色を示す。

 

「あなたは…えーと……」

「内閣府からあなた方バディの動向について調査する為にと遣わされた査察官の黒木、と申します」

「黒木さん、すか。別に俺達はただ休憩する為に外出した訳じゃありません。俺のライダーとしての資格を問う為に落ち着ける場所を用意してくれたんです」

「そうですか。ではバディの面接室でも、長官が好きな様に部屋を使えば良かったじゃないですか」

 

 言葉に詰まった勇太郎が奥歯を噛み締める。と、長官が後頭部に手を当てて困った様な顔で微笑む。

 

「いやー、和菓子屋行ってましてね、そこの栗ぜんざいが食べたくって。だからバディの部屋も使いませんでした。非常に申し訳ない」

「全く。それら経費も税金から捻出される事を理解して頂きたいですよ、まぁ”好都合ですけど”」

「好都合?」

「いえ、こちらの事です。それより火島さん、研究室はどこでしょう? まだこの施設に慣れなくて」

 

 眼鏡を上げて不敵な笑みを見せる黒木に勇太郎は溜息をつきながらも研究室へと案内する。

 

「それじゃあ長官、今日は本当にありがとうございました! 美味しい経験沢山出来たっす!!」

 

 手を振って別れる勇太郎に長官も手を振り返す。彼らの行く方向とは逆へと体を向けて歩み出す。

 

(総理お墨付きの虎の子査察官か……さて、どうその猫かぶりを剥がすか)

 

 口元に手を当て、長官は思惑を巡らせると再び黒木へと視線を投げる。

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