「あれは、鎧……?」
驚愕する雷電に、金剛が機械を操作しながら語りかける。
「サンダー、お前の力を制御する、お前の為の鎧だ」
「俺の、為の、力……」
鎧のヒロイックな出で立ちに、自分が装着するのかと雷電が困惑しながら鎧を凝視する。
「こんなオモチャみたいなモノでどうやって俺の力を制御するって言うんだ?」
「暁君の能力をコイツ自身の稼働エネルギーにする事で余剰エネルギーを減らし、君が扱いやすい様に鎧側で制御する。その為の操作装置ももう完成しているんじゃ」
博士がそう言うと、大きめのアタッシュケースを持って来て雷電に手渡す。
雷電がケースを開けると、中にはベルト状の機械と拳銃の持ち手と引き金のみの様なアイテムが収まっていた。
「コイツはライドツール、この鎧を転送し装着する為の装備じゃ。その中にある暁君の力を凝縮した端末、エネルギーカートリッジを生成でき次第、君はもうその鎧を使えるぞ」
「コイツを使ってどうすんだよ」
「―――ティアマトとして人間を、殺せ」
金剛が表情の見えない冷たい仮面の内側から呟いた。
その一言に雷電は驚きを隠せずにいた。
「どう言う事だ…!?」
「俺達はティアマトだろ。ティアマトは人を殺してラフムを増やすのが目的だ」
それを聞いた雷電は金剛に掴みかかり、追及する。
「俺を騙そうとしてたのか!? 俺を良い様に使って人殺しをさせようってのか!? こんな鎧を用意して何のつもりか知らねえが、俺が力を制御出来るってのも嘘なんだろッ!?」
「やめろ藤村君! 彼自身に殺害などさせる訳にはいかないじゃろうが」
博士が二人を引き剝がすと、雷電にゆっくりと状況を説明する。
「雷電君にはティアマトの幹部としてラフムの動向を監視して、行き過ぎた行為、非人道的な
妹の話題が出た途端、雷電の目の色が変わる。
「それでは雷電君、ラフムの監視者としての仕事を君に依頼する」
博士の言い放った内容に雷電は押し黙ると今度は、だったら、と口を開いた。
「まず前金で五百万。俺の生活費で月二十万、妹の治療費で一千万は貰う。人殺しの依頼には安い方だろ」
雷電の提案を聞くと、博士は金剛に視線を送ると、金剛がもう一つアタッシュケースを取り出し、雷電の足元に投げる。雷電がアタッシュケースを受け取り、恐る恐る開けると、中には大量の札束が入っていた。
「その中には七百万円程は入っているじゃろう。君の要求じゃが月は五十万、治療費は月百万で一年契約でどうじゃ」
博士のプランに雷電は納得しああ、と頷く。すると金剛がもう一つ条件を追加する。
「更に、だ。その一年間の契約が終了しお前の妹が治せたら、お前はティアマトの人間として一生働いて貰うぞ。あぁ、月の支払いはその時の要求には従おう」
「…分かった。響が元気になるなら俺はどうでも良い。その鎧で、俺は任務を全うするだけだ。ただし約束は守れ。もし破る様だったら、そこの博士とお前……鎧野郎。お前を殺してやる」
それを聞いて金剛は大きな笑い声を上げる。仮面の下の表情はきっと口が大きく吊り上がっている事だろう。その笑いに雷電は不気味さを感じ、眉をしかめる。
「サンダー。お前こそ約束は違えるなよ。もしこの一年以内に組織を裏切ろう物なら、お前だけじゃない。妹の命も無いぜ」
契約を取り決め、雷電は鎧の戦士、サンダーラフムとしての活動を始めた。いきなりの幹部としての高待遇に監視対象のラフムらは鬱憤を吐き散らかしていた。その罵詈雑言にサンダーも怒りを蓄える。
サンダーが監視するラフムは基本ビルダー個体だった。この社会で
七月十三日、午前一時二十分。その日もラフムの監視役として任に就いていた。
ラフムとしての活動が夜間や人気の無い場所の場合、バディや御剣家に感知される事も少なく、活動には適していた。昼間の行動を起こす様なラフムはオリジン個体か、これから先現れる仮面ライダーの小手調べとして利用される雑兵位である。
(今日のラフムはブレード、刀の怪物か。ティアマトに恐れをなして手を引こうとした反社会勢力の人間を一人残らず殺す、ラフムの覚醒者がいたら仲間として引き入れる、か)
案の定人殺しに加担させられ、複雑な雷電であったが、社会的な悪であるが故、その断末魔から耳を遠ざける。
行動開始から十三分。血塗れになったブレードラフムが人間の姿に戻りながら拠点の入口から出て来た。この場所のいわゆる組長である男の死体を引きずって来ると、雷電に見える様に投げ捨てる。
「ブレード、お前の任務の完了を確認した。警察とあの厄介な
「おーいーーー。サンダーーー。俺まだ殺し足りねえよおお」
間延びした口調で叫ぶブレードにサンダーは彼の胸を叩く。
「俺達の目的は達成した。予定以上の殺傷は俺の駆除対象だ」
「かーんけーいねーよーーーーーーーー」
「な?」
ブレードが気味の悪い笑みを浮かべると、丁度現れてしまった通行人に目を付ける。
恐らく残業で終電を逃したのであろうOLが疲れた様子で歩いて来る。やがて目の前の惨状に気付くと、声を失ってその場に倒れ込む。
「こんにちはーーお姉さーん。お金ちょーだーい」
「やめろブレード! 金なら俺のをくれてやるから一般人に危害を出すな!」
雷電の制止に、ブレードは舌打ちをするとOLに背を向けて歩き始める。
「あーーーやっぱ足りないねー」
ブレードは再び振り返り、ラフムの姿に変貌すると、OLの喉を手を変化させた刀で突き刺す。刀を引き抜くと、呼吸が出来なくなったOLが苦しみながら体をねじらせる。
死ぬに死ねない地獄の様な体験をしたOLは体を刀で何度も串刺しにされ、ようやくその命を終えた。
これがたった一瞬の出来事。たった一瞬で、何の罪の無い人が苦しんで死んだ。
彼女を殺したブレードと、止められなかったサンダー。雷電は罪悪感と憎しみに苛まれ、気付いた時にはブレードの体を跡形も無く解体し、一パーツずつ炭になるまでその電力で焼き払っていた。
ラフムの回復力は凄まじいもので、怪物の姿でいれば体は人間の姿に戻りながら復活するらしい。
”駆除”されたブレードの力は粒子となってあらかじめ博士から持たされていたブランクイートリッジに格納される。
この胸の内から湧き上がる怒り、怒り、怒り。
雷電は自らの感情を声に乗せて叫ぶ。
――
そして時は今に至る。
博士が何とか完成させた”ブレード”の鎧。雷電はそれを見に来ていた。
「来おったか、雷電。新しい装備が出来てるぞ!」
「ありがとうな、博士。いつも助かってる」
博士は、いつの間にかティアマトの中で孤独感を覚えていた雷電の唯一慕う相手となっていた。
雷電の事を気遣い、言葉をかけてくれる博士の優しさは、雷電にとっては本当の親の様な心地だった。
「今まで俺の見て来た大人ってのは俺を面倒だと思って突き放す奴ばかりだった。どうして博士は俺にそんな優しいんだよ」
「そりゃな雷電、わしが優しいんじゃない。お前が会ってきた人間がたまたま阿呆だっただけじゃ」
「世界は広い。この世界にはお前が信頼出来る様な優しい仲間がきっと出来るじゃろう。そう言う奴らを見つけたら、お前はこんな場所とっとと出ていくべきじゃろう」
信頼出来る、優しい仲間? 雷電が的を得ないといった表情を浮かべると、博士は豪快に笑う。
「そうか……博士がそう言うのなら、きっとそうなんだろうな。でも、俺はティアマトの人間だ」
雷電がそう言い放つと、博士からブレードのイートリッジを受け取り、またどこかへとバイクを走らせる。
「うーん……雷電、アイツも若いのー。あのバディの仮面ライダー……彼らが雷電の助けになって欲しいがの」
博士は首を傾げると、走り去る雷電の姿を消えるまで見送った。