十一月二十九日、午後二時十九分。
バディ本部。
「暁、来てくれますかね」
「さあね、彼としては敵だから、私達」
研究室にて、昨日暁雷電と出会った大護の問いに藤村は素っ気無く返す。
「やっぱりアイツがどうするか、分からねぇよな…だからこそアイツを知らなきゃならねぇ」
「ええ。暁君を信じてあげられるのはきっと私達だけだから、何とかしてあげたいわよね」
そう言うと藤村は椅子からゆっくりと腰を上げて、出かける準備を始める。
「私も行くわ。女性の方が話をしやすい所はあると思うわ」
「心強いぜ先生、俺や長官みたいなデカイ野郎が行っても中々上手く行かないだろうし」
「こんにちわ、デカイ野郎ですよ」
大護と藤村が後ろからの声に驚き、その場から一歩引きさがる。彼らと同行する長官がジョークのつもりで登場したが、彼らの反応に申し訳無さそうに頭を掻く。
「あはは、驚かせてしまったか、すまないすまない。私も今回は一緒に行かせてもらう。例え徒労でも行かない選択肢は無いからね」
「は、はあ…。あの長官、さっきの俺の言葉は…その……」
「気にしてないよ。私の長身はちょっぴり自慢だからね。さぁ、とにかく病院へ行こうか。暁君に私達の気持ちを伝えるんだ」
長官の言葉に二人が頷くと、駐車場へと移動する。
「ところで火島君はどこかしら? 一度手傷を負わされた相手だし来ないかも知れないけど―――」
「ああ、火島ならあそこに」
大護が指差した先には、彼専用のライドサイクロンにまたがった勇太郎がライトを照らしながら待っていた。
「みんな遅いっすよ。俺だけでも行こうかと思っちまった位ですよ」
やる気に満ちた勇太郎を前に、三人は一瞬呆気に取られたが、しようが無さそうに微笑むと、バディ所有のワゴンへ乗り込む。
戦闘時にも使うインカムを勇太郎が装着すると、指揮車両との接続を確認する。
「火島君、以前暁君と戦闘をして、彼の攻撃で貴方と霧島君がやられてしまった訳だけど、それでも火島君は彼と話をしに行くの?」
藤村の問いに勇太郎は少し唸ったが、屈託の無い笑顔を指揮車両の藤村らに向けると、ゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「……確かにそうだったけど、俺じゃないとアイツの苦しみを分かってやれないかもって思ったんです。ラフムになっちまった苦悩は、今は俺とアイツと、楓だけが共有出来る話ですし―――それに知ってますよ? 楓がアイツを助けようとしてたの。俺は楓みたいな優しいヒーローになりたいし、楓のやりたかった事を受け継ぐ為に仮面ライダーになったんです。だったら俺はアイツを助ける使命があるんです」
勇太郎は決意を口にすると共に、バイクを走らせる。それを追う様に指揮車両も発進する。
――
午後二時五十八分。
一行が響と楓の入院している都立赤羽医療病院に着くと、そこには既に雷電がベンチに座って待っていた。
「待った?」
勇太郎がひょうきんな態度で問うと、雷電が立ち上がり、勇太郎を睨み付ける。
「今来た所だ……」
「こんな威圧的な待ち合わせ、生まれてから、どころか死んでからも初めてだぜ」
口を引きつらせながらも不敵な笑みを浮かべる勇太郎から視線を離した雷電は、再びベンチに座ると、すまなかった、と言葉を漏らした。
「俺は、俺の仕事の為にお前らを傷付けた。俺がやってる事が悪で、お前らが正義なのは分かってる。悪い事はやっちゃいけない、それが当然な事なのは俺も分かってる! それでも、俺は…家族を助ける為に手段を選ばなかったんだ!」
「選ばなかった、じゃなくて、選べなかった、だろう」
長官が皆より前に出て、雷電に強く語りかける。
「私がここに来た理由は、ただ君に悪事をやめて貰おうと懇願しに来た訳じゃない。君に正式に仕事を依頼しに来たんだ」
「仕事、の依頼?」
「手段を選ばないと言うのならば、悪事から手を切って、正義の味方として、家族を助けたって良いじゃないか」
的を得ない雷電に、長官はタブレット端末を取り出して表計算アプリケーションを立ち上げると、様々な金額の書かれた表を彼に見せた。
「これはまあ目安だが、君の求める額で取引をしよう。バディは国の医療機関と連携して先端医療とも通じている。どういう意味か分かるかな?」
長官が問うと、雷電は俯くと、拳を強く握り、泣きそうな声でゆっくりと口を開いて、言葉を紡いでいく。
「俺は…金なんて、良いんだ。ただ、響を…妹を、助けて……欲しい」
加えて雷電は固く握りしめた拳を自らの足に叩き付けた。
「クソ…でも、俺は、俺は! 何度も人殺しに、加担した……俺はもう、許されない……それなら、俺をいくらでも使って…妹を、必ず助けてくれ……!」
雷電は涙をこぼしながら懇願する。普通の少年が味わう事など決して無い罪の意識。自分の犯してしまった命の責任の取り方は分かる訳が無い。しかし自分の妹は助けたいと願う事のわがままさは、年若い雷電にも分かっていた。
「俺は勝手だ…誰かを殺して、誰かを傷付けて、なのに妹は助けたいなんて……!」
「―――お前は騙されてたんだよ、あのクソ野郎共にな」
雷電の吐露に勇太郎が口を挟む。その一言に雷電が勇太郎を見つめる。
「だがお前に罪が無い訳じゃないぜ。死んだ人は戻らねぇ。だから…だから、今生きてる人間は一人でも多く助けるんだ。お前が人を傷付けて来たなら…それ以上の人間を助けてみせろよ、暁雷電!」
「傷付けて来た以上に、助ける…だと」
雷電が復唱すると、大粒の涙がこぼれ始める。
「ああ、クソ、何だよコレ、涙が止まらねぇ……俺は、人を助けて良いのか? 人を、響を……」
その場にいる一行は全員笑顔で頷く。
「暁君、君にバディ長官としての依頼だ。内容は、ラフム被害に遭った人の救出。そして、だ」
そして、と雷電が呟くと長官は強く頷いてから話を続ける。
「君の罪が許されるまでここで働く事。あとついでに皆とティアマトを殲滅して貰おうかな。もうこれ以上君の様な被害者を生まない為にね」
長官が雷電にタブレット端末を手渡すと、雷電は服の袖で涙を拭きながら表を見る。
「……ティアマトの方が金払い良かったな」
「あ!? え!? そうなの!? 嘘!?」
長官が柄にも無く焦っている姿に藤村、大護、勇太郎は大笑いする。雷電もつられて微笑むと、タブレット端末をそのまま長官に返す。
「これで良い。このままが良い」
「分かった。すると契約成立になるが、良いかな?」
長官が手を差し出すと、雷電は強くその手を握る。
「本当にありがとう…悪より正義に加担して響を助けてやる。あと俺の人生を
契約の完了を確認した長官は一旦電話するからと席を外す。
「さーて、これからよろしくな、雷電!」
勇太郎が雷電の肩に腕を回し、気持ち悪い程の笑顔を向けると、雷電は眉をしかめて距離を取る。
「こら、火島君。暁君が委縮するわよ」
藤村が叱咤するが、雷電はそうじゃない、と藤村の述べる感情を否定する。
「俺は、アンタらの仲間を傷付けた。妹もそうだが…俺は自分の力で感電させて意識を奪ったら、あの雷を取り除けないんだ。そんな俺に、優しくしないでくれ」
「それならきっと大丈夫だ。お前ならきっといつかあの雷を取り除ける様になるし、楓だったら多分自力で起きるぞ」
「マジか?」
「ああ。お前の力については何とも言えねぇが、楓なら大丈夫だ」
「それなんだけど、言い忘れてたわ。実はバディで新しい技術担当を雇用したのよ。今日はまだ準備があって来れないけど、明日はここに来てくれるみたいだから、”彼女”から何か有力な意見が聞けるかもよ」
藤村の言葉の後、大護が何も言わずに雷電の頭を撫でる。すると、みたび雷電が涙を流し始める。
「お前、結構泣き虫だな」
大護が呆れつつも笑みを浮かべる。
――
同日。午後二時三十二分。東京都足立区北千住。
雷電の住まいとなっていた男の自宅に、児童相談所職員と警察が訪れた。
その傍らで同行していた御剣家の使用人が携帯で連絡をする。
「…ええ、やっと入り込めましたよ、ようやく。今までここを守るみたいにしていた悪徳警官共は排除出来ました。もう少し早い段階で行動出来たら良かったのですが……はい、そうですか。丁度いいタイミングでしたね」
今回はあの男は逮捕される事は無かったが、諸機関からのマークは付けられ、雷電の環境を改良する試みが始動した。
その報を受け、長官は少し微笑んで皆のいる病院へと戻っていく。