十一月三十日。午後九時五十分。東京都練馬区江古田。
藤村金剛らがいたとされる雑居ビルにバディ機動隊と藤村が到着した頃にはそこはもぬけの殻だった。
カメラなどの撮影機材が残されており、まだ録画がされていた。
「このビデオカメラ、まだ録られてるぞ。俺達が来るまでの一部始終を残してるかも知れん!」
藤村と武蔵が機材を操作し、映像を確かめる。そこには金剛と共に、雷電の姿があった。藤村は金剛の姿を見ると、眉をしかめて一言呟こうとしたが、大護が先に口を開く。
「こいつぁ…暁はさっきの映像撮影に関与していた訳か。つまり俺達を騙してたってんですか?」
「ええ、そうね……でも、暁君がそんな演技派に見える?」
「……分かってますって。暁、アイツが流しまくった涙は、嘘じゃねえ」
と、機動隊が機材と共に放置されていたパソコンを見つけ、開かれたままの地図サイトのピンを指差す。
「メッセージもあります。”フジムラコンゴウと俺はここにいる。バーンを狙う”と……」
そのピンが示す座標は、JR西荻窪駅前。
「信じて良いんですか?」
「ここは調べ終わった。だったらどの道行くしか無い場所だ、急げ!」
機動隊らの疑念に揺らぐ事無く大護が言い放つと、必要なデータや物品を回収してその場をすぐに離れる。
藤村が指揮車両に戻ると、勇太郎へ連絡する。
「連絡遅れてごめんなさい! 今から西荻窪へ向かうわ! そっちは!?」
「藤村さんが仕込んでくれた”サイクロンフォーム”で飛行しながら西荻窪向かってます! 今中野区上空なのでもうすぐ着きますぜ!」
「アレ使ってくれたのね、そしたらハンドル上部のレバーから機銃を操作出来るわ! 仮面ライダーのアーマーと同期して照準が表示されるからそれに従ってアントを掃討可能よ!」
あざっす! と勇太郎が軽々しい返事をすると、インカム越しに耳をつんざく様な銃撃音が聞こえて来る。
どうやら中野区にもアントが大量発生しているらしい。
「うおおおおおおおッ!!」
勇太郎はライドサイクロンに備え付けられていた機銃を放って、人々に襲い掛かる兵隊アントを掃討する。すると、その中に一際目立つ女性型のアントがいる事に気付いた。
最初に出現した女王と同じ姿をしたラフムの存在に、勇太郎は再び藤村に接続する。
「中野区で女王個体を発見! 荻窪のが移動したのかと―――」
「いえ、西荻窪の女王は動いていないわ! 依然アントを生み出してて人は踏み込めないわ!」
「―――は? そんな、アイツは確かに女王じゃ……」
「もしかして……女王自身が女王を生み出してるって言うの!?」
勇太郎、そして藤村の顔面が青ざめる。連鎖的に女王が生まれている可能性に、この東京の絶望的な未来を想像してしまう。
「……いや、絶対にやらせませんよ。今生きている人を絶対に守り抜く。それが、俺が仮面ライダーである理由なんだッ!」
機銃を使って女王を排除する。兵隊と同程度の耐久性であるが故に、これが本体では無い事は容易に理解出来た。
ライドサイクロンの速度を上げ、空を駆け抜ける。先程とは打って変わってタイヤの摩擦を受けない為にその速度の上昇は
午前九時五十五分。
圧倒的な速度のまま中野区を抜け、杉並区、西荻窪駅へと到着する。
ライドサイクロンの脚部、足の底面から噴出されるジェットで逆噴射を行い、無事着地すると、ハンドル左上に飛び出ているレバーのスイッチを押す。するとメカの左肩部からミサイルが発射され、駅に所狭しと群がっているアントを吹き飛ばす。
「出てこい女王様よォ!! こんな人殺しをして何が楽しいんだ! あぁ!?」
目の前に広がる惨たらしい光景に勇太郎の言動も荒くなる。それもそうだろう。目の前に横たわる救えなかった命は、誰かの助けを求めていたかの様に大きく口を開けて事切れているのだ。
たった一時間でこれだけの犠牲が出てしまった苦しみを堪えながら女王アントの捜索を始める。
と、駅構内から金属のぶつかり合う音が聞こえてくる。その音は段々大きくなり、出口へ近付いて来ている。
その音の主は、サンダーラフム―――暁雷電と藤村金剛。二人がぶつかり合い、周りの邪魔なアントを蹴散らしながら荻窪駅から現れた。
「雷電!? お前今まで何して……」
「ぐッ! ……藤村に呼び出されたから隙を突いてブッ倒そうと思ったら……東京中がこんな状況に!」
金剛に蹴飛ばされたサンダーがよろけつつも立ち上がり、バーン、勇太郎の問いに答える。
「携帯もアイツに破壊されてる……バーン、一緒に倒すぞ!」
「あ、ああ!」
目まぐるしく変わる状況にバーンは戸惑いながらも走り出す。と、一足遅れたサンダーに振り向いた瞬間、強い雷撃が走る。
言葉を放つ暇も無く攻撃されたバーンは、崩れる様に倒れる。
「フ、ハハ、ハハハ! 遂にやったか! サンダー!」
「お前を信じてくれた奴を裏切って、後ろからとは!」
サンダーは足でバーンを小突くと、意識が無い事を確認し、金剛の元に寄る。
「今は気を失っているが、いつ動き出すか分からない」
「そうかそうか、だったら早く回収しちまうぞ!」
サンダーの裏切りに興奮した金剛が嬉々としてバーンへと近付く。
「さぁて、お持ち帰りしたら洗脳でもしてやろうかな―――」
その瞬間だった。金剛の背中に斬撃が食らわせた。油断し切っていた彼に加えられたその攻撃は、サンダーの持つ武装・バレットナックルによる物だった。先程の戦いの演技にて、サンダーは金剛の背中に予め電流を仕込んでいた。バレットナックルの斬撃を通して電流を体内に流し込む。
「サン…ダー……?」
「言ったよな、藤村金剛。どちらが確実に響を治してくれるのか……」
倒れかかった金剛が、怒りに身を任せ立ち上がろうとしたその時、焼ける様に熱い何かが金剛を踏み付けた。
見上げると、先程倒された筈のバーンであった。
「いつ動き出すか分からない、とも言ったよな?」
サンダーが倒れたままの金剛の首を掴むと、高圧電流を流し続ける。金剛の絶叫が街に響き渡り、黒い鎧が煤け、更に黒光りする。
完全に戦闘不能に陥った金剛をサンダーが蹴ると、バーンへと振り向く。
「バーン……本当に済まなかった。雷撃は弱くしたつもりだったが、やはりコントロールは難しい」
「良いんだよ、雷電。お前は、最後に俺達を信じてくれた。それだけで十分だ」
「だが俺はまた誰かの犠牲を見過ごしてしまった。だから俺は……俺の責任を取る」
そう言うとサンダーは変身を解除し、勇太郎のインカムを寄越す様手を差し出す。それに応えてバーンも変身を解除、インカムを渡す。
「このインカムは付けたまま変身すればアーマーのパネルから操作が出来るぜ。藤村さんに繋がる様にチャンネルは回ってるから指示はそのまま聞け」
雷電が頷くと、藤村に連絡する。
「火島君? 今私達は中野駅だけど―――」
「―――暁だ。アントの女王は、今どこにいる」
藤村は一瞬え? と問うが、状況をすぐに飲み込んで地点を伝える。それを聞くと雷電はありがとう、と感謝の言葉を述べて、その方角へ向かう。
「アントの女王は、俺が倒す」
雷電の決意を決めた眼差しに、勇太郎は少し微笑んで見送る。責任感の強い少年の姿に、自分の親友を少し重ねてしまう。
―――が。
「雷電ッ! 後ろ!!」
勇太郎の叫びも空しく、雷電の背後に立つ、藤村金剛を止められなかった。
金剛は雷電の持つサンダーイートリッジを奪うと、起動させて雷電に当てる。
「ぐぁああああ!!」
「サンダーの力は繊細でな……オリジンの筈がイートリッジをくっつけたら暴走しちまうんだよ」
金剛が高笑いを浮かべながらその場を後にする。
「クソガキ共が生意気に俺を出し抜きやがって! お前らはそこで死ね!!」
金剛が影に消えると、雷電は全身を帯電させ、黄色の粒子が身を包む。粒子を纏った体は全長五メートル程に肥大化し、蜘蛛の様な八本足を生やす。
蜘蛛の頭部に相当する部分からは有機的な意匠を持ったサンダーの上半身が露出する。
「雷電……」
「オォォォォォッ!!!」
雷電の変わり果てた姿を勇太郎は悲哀な表情で見つめる。
だが、雷電も苦しんでいる事を思うと、全身から力が溢れて来る。
「雷電、絶対に助けてやるからな!!」