十二月一日。
昨日のアントラフム・藤村金剛ことシャドーラフムによる東京都広域異形成体集団テロは、政府により「11.30 ラフム事変」と呼称され、バディと協力してのラフム対策強化と、ティアマト及びラフムの撲滅が国務として掲げられた。
現在確認されている死者は三十七人、行方不明者二十三人、重傷者含めた怪我人は六百四十二人となった。この数は、今までラフム被害を他人事だと感じていた国民を震撼させるものであった。怪物の恐怖はすぐ近くにある、その思考は仮面ライダーによる救済を更に求める事となった。それら助けを呼ぶ声は、”どこにでもいる大学生”が背負うには余りにも重すぎた。
「それで、僕は神様を名乗る青年に出会って、この力を―――」
「オカルトじみて私には理解し難い話ね。多少記憶や意識の混濁の可能性があるから精神鑑定をお勧めするわ」
「そんなぁ……」
バディ研究室。
ボルテックス誕生の経緯を楓、千歳から問い質す藤村であったが、その経緯の信憑性の低さから余り取り合わないでいたが、確かに物理法則を無視した現象が発生している事実に頭を抱えていた。
「さっき火島君にもボルテックスを使用して貰ったけど、一部装甲の干渉以外は問題無く使用出来たわ。でもあの増加装甲はどこから生み出されているのか、未だ特定出来ていないけど、内部スクリプトを調査すれば恐らく割り出せるでしょうね」
「コードネーム・シャドーラフムが腕に巻いていた端末の内部情報ももうすぐ特定出来るけど、何よりこの端末で変身する場合の能力上昇と精神的負荷は目を見張るものがあるわね…シャドーは非常に強力であった事が把握出来るけど、それを打ち破ったボルテックスは、更に凄まじい力を有している筈よ―――私達が作ろうとしていたボルテックスを何倍も上回ってね」
パソコンを手早く操作しながら様々な調査をしている藤村に、楓は固唾を飲み込むしか無かった。
「霧島君、ちょっと良いかい?」
研究室の入り口から楓を呼ぶ声がする。その声の主はバディ長官、長良衡壱の物であった。
長官は、会見に次ぐ会見の只中、未だ会見と首相官邸への召集を控えるままに楓を呼んだのであった。
「どうしたんですか、長官?」
「いや何、君とあまり話せていなかったからさ」
「そうでしょうか?」
楓はかつて長官と交わした契約を思い出す。世界の人々を守るというバディの存在意義を語る長官の言葉を信じ、楓はバディの仮面ライダーとして戦うと”契約”した。
その記憶は楓の脳に鮮明に残っており、長官との会話は今戦っている理由に少なからず影響を与えている。
「僕は長官と話した事、忘れてませんよ。あの日話が出来たから、僕は仮面ライダーとして戦えているんです」
「そうか、ありがとう。……でも」
「君はこの戦いに責任を負い過ぎている」
――
バディより伸びるビル、その地上十九階の屋上。
組織の所在を秘匿する為のダミーとして建てられたこのビルは、街に紛れてここにバディがある事は知られていない。
屋上へと場所を移した長官と楓は、街の光景を眺めながら会話を進める。
「ここは風が気持ち良いね。霧島君、今の君には何が見える?」
「―――ええ、前と変わらず、家族連れも、カップルも、色んな人が見えます」
ラフム特有のずば抜けた視力により街の喧騒を眺める楓の表情は、以前よりも凛々しく、憂いが消えていた。
「霧島君、この短期間で随分変わったね」
「はは、そうですかね……確かに」
「前は、普通の家族が羨ましかったんです。僕は大事な家族を、失ってしまったから」
「でも今は、勇太郎が帰って来て、暁君を説得して、それと……」
楓が言葉を詰まらせる。雷電との戦いの後、彼が辿り着いた空間―――。
「不思議な夢を見たんです。笑わないで聞いて下さいね」
「僕、神様を名乗る青年に会いました」
それを聞いた長官の顔色が変わる。目を見開いて冷や汗を垂らす。
「霧島君…まさか彼は、アプスと名乗らなかったかい!?」
「え、ええ、そうですそうです、と言うか何でそれを……?」
長官は我に返ると、眼鏡をかけ直して咳払いをすると、彼に問い始める。
「そこで、何を見たんだい?」
「勇太郎が戦っている姿を見ました。そこで初めてアイツが仮面ライダーになったって知りました」
「成程……」
「霧島君、あそこでの出来事は全て真実だ」
「だけど君には、それ以上の事を教えられない」
「何でですか!?」
「今の君は、何でも背負ってしまおうとするからだよ」
楓は合点がいかない面持ちで長官を見る。見当もつかないといった顔の彼を見て、長官は神妙な面持ちで口を開く。
「君は、誰かの問題を解決する為なら自分が傷付こうが信頼を失おうが構わないとそう思っているでしょ」
「その考え方は、いつか自分の心を破壊してしまう」
「―――何が言いたいんですか」
「もっと周りを頼るべきだって事だよ。君が思っている以上に君の周囲は君の力になろうとしているんだからさ……火島君とか」
「とにかく、霧島君、君は仮面ライダーとは言えまだ年若い青年だ。辛いと思ったら逃げても良い。他の人に任せても良い。私達はその時の為にある。君だけが世界を守る力じゃないんだ」
「どうか我々の力を信じてくれ」
長官の顔は、普段じゃ想像出来ない程に険しく、辛そうに見えた。彼の言葉を楓は理解し切れていないが、これが長官の心からの言葉である事は痛い程に理解出来た。
と、長官は急に明るい表情になり、手槌を打った。
「そうだ、行こう霧島君! 暁君の事情聴取を切り上げて皆で集合写真撮ろう!」
「いきなりですか!? 暁君拘束対象ですし、長官これから会見ですよね!?」
「細かい事は良いから! これからバディは新たな体制のもと動き出すんだから、ここでは記念撮影が恒例なんだよ!」
長官に押されるまま二人はバディ本部へと戻る。
――
「―――それで俺が何故か手錠外されてここに連れて来られた訳か。悪いがここの長官はアホか?」
バディ本部。指令室。
バディの面々が一堂に会し、藤村がカメラを回す。
「バタバタし過ぎてて霧島君達の時は撮れなかったからね、折角だから暁君も撮ろうと思って」
目を輝かせながら説明する長官に雷電は溜息をついて諦める。
「それじゃあ撮るわよ!」
藤村がシャッターを切ると、急いで皆の中に混ざる。
「いっせーので……」
「バディ~~~~~~」
間抜けた掛け声と共に皆が笑い、写真が撮影される。長官に振り回されるばかりであったが、楓にとってはそれがとても良い思い出になると感じた。
――
十二月一日。午後五時。東京都杉並区荻窪。
未だボロボロのJR西荻窪駅を、学ランと学帽姿の少年が見上げていた。
「二人共派手にやってくれたよね」
彼がそう呟くと、背後から派手な色彩のスカジャンとパーカーを羽織った今時の少女と、コート姿で大柄の男性が歩いて来た。
「この廃墟、すっごい映えだけど、配信でここ来ちゃったら炎上案件よね」
「お前はまた動画か。程々にしろ、と言いたい所だが、いつも助かっているからな」
「あー! ユーちゃんまた素直な事言ってる! そんなんじゃアタシ落ちないからね!」
「口説くつもりは無いが」
二人が賑やかにしている姿を見て、少年は微笑む。
「ふふ、楽しいねえ。とっても楽しいね。この楽しい時間を、これからもずっと続けなくちゃ」
「故に俺達は……”ティアマト様”の為に戦うんだ」
「バディの界隈は何も分かってないからさ、アタシ達がやらなきゃ」
「うん、この世界の人々を、進化させるんだ」
三人がお互いを見合うと、少女がコホン、と咳払いをする。
「それじゃあ、まずはシャドーちゃんを助けに行こっか」
彼女の言葉に他の二人は頷き、その場を後にする。
彼らこそが、ティアマト大幹部、海神たるティアマトを守護する三つの矢―――バミューダ。