十二月二日、午前十時半。
その日、バディ本部が陥落した。
ティアマト大幹部”バミューダ”によりバディ本部の位置が特定され、侵入されてしまったのだ。
たった三人の男女に地上階の警備員らは殺害されたが、彼らが最後に指令室へと連絡した為に状況が発覚。蟻の巣状に構成されているバディ本部は各フロアの通路を区画化しており、一区画毎に閉鎖出来る様になっている。
地上階から近い階層にいる職員らが避難した後に区画を閉鎖、監視カメラに搭載された小型射撃マシンによる自動追尾で侵入者を排除する。しかしバミューダらは全ての銃弾をカメラが捕捉出来ない速度で跳ね返し、監視カメラを破壊していく。
彼らが侵攻していく状況を見つめるバディ長官、長良衡壱はバディ本部の全指揮を執りながら、各部へと連絡を取る。長官の指令により上板橋に移動していたライダーらはあと一分でこちらへ戻って来るが、それまでの間被害を最小限に抑え、バミューダの侵攻を食い止めなければならない。
「バディの一般職員は迅速に退避! 待機中の機動隊は駐車場にて侵入者を迎え撃ってくれ! 研究員は保護中の被害者を連れてその場から最適な経路にて避難を! 現在破壊されてるか侵入者が突入すると思われる経路は赤く表示されている!」
バディ本部の通路に示されている地図は、全て液晶表示されており、指令室の管制により移動可能な部分が逐次更新され、全ての地図に共有される。そのシステムも今回の様に侵入者が現れた場合の保険であったが、本当に侵入されるとは誰もが予想だにしていなかった。…長官以外は。
「ライダー到着を確認次第私も指令室を離れ退避し、この指令室の機能を凍結する!」
そう言い残すと指令室からバディ本部の操作系統に全てロックを掛け、パスワードを知っている職員しか操作出来ない様に細工する。
(あれはやはり平弐の部下か……勝手に行動するなって聞いてないのか? ともかく彼らの目的は恐らく黒木と例のティアマト製変身端末の奪還か)
「長官! 仮面ライダー及び機動・指揮隊帰還しました!」
藤村の報告を受け、長官は安堵し頬が緩む。
「お帰り皆、現状は報告にある通りだ。今の編成からライダーのみを分裂させて駐車場へ向かい機動隊と合流! ライダーはそのまま本部入口から突入、侵入者を追い、現状持てる最大戦力で撃退に努めてくれ! もしその場での撃退が難航する場合は即時駐車場へと誘導してくれ! 駐車場区画を防衛する様に立ち回ればそちらにおびき寄せられる筈だ!」
長官の指示を了解した一行は作戦通りに行動、その様子を確認した長官は指令室の全機能を停止させ、避難用エレベーターを避難経路の逆、地下階へと進ませる。その行き先は本部最深―――特別拘束室。
黒木が収容されている、通常の保護室よりも厳重な拘束がなされている言わば”都心の監獄”。ここで黒木は聴取の機会も与えられず、視界を遮られた状態で拘束されている。
長官が近付く足音を聞くと、黒木は獣の様な叫びを上げ、拘束を引きちぎらんと引っ張る。
「誰だーーーッ!! いや誰でも良いッッ! 早く俺を解放しろッ!! ブッ殺すぞォォォッ!!」
「いやぁ物騒だね、ますますここにいて貰わなくちゃ」
「テメェ…なんだ? お前からヤベェ物を感じるッ! 何なんだよ!?」
「あー…ほら、私ですよ黒木査察官殿。まさか視界を遮られた事で感覚が研ぎ澄まされるとは…以前お会いした時は私をただの長官ってだけの男だとお思いでしたでしょうに」
「長良かッ!? お前が、あの長良だと!?」
黒木が息を荒げて汗を垂らす。視覚を遮断された彼は残った感覚を頼りに脱出する方法を探る中で第六感とも表現出来る様な超感覚に目覚めていた。
「今となっては上下関係も無いから敬語なんて必要無い、か。ようやく気付いた様だね、黒木陽炎。今君を助けようとしている連中がここへ向かって来ているが、彼らを含めて君達を生かしてここから出すつもりは無いよ」
「ざけんなッ! 俺は早くここから出て……あのガキ共をブチ殺さなきゃいけねぇんだよォ!」
「だからそれが物騒だと言っているだろう。君達はこれから多くの人間を虐殺するだろう、”私以上にね”」
――
「見つけたぞ侵入者! 今すぐ行動を止めて大人しくするんだ!」
ライダーらがバミューダを発見し、ウイニングの言葉と共に臨戦態勢を取る。一方のバミューダは動揺する事無く隔壁の破壊活動を続けている。彼らは破壊の為に生身では無い”何か”を利用している様に見えるが、それが何なのかが全く見えない。手を全く動かさずに頑強である筈の隔壁を破壊する様は非常に不気味であった。
「お前ら、ラフムなんだよな!?」
怖気立ったバーンが質問すると、三人の男女がライダー達へと振り向くと、お互いの顔を見合わせてから、少年が代表して発言した。
「僕らはティアマト大幹部、バミューダ。大海を統べる神たるティアマトに付き従う三つの柱」
「この基地の地下にいる僕らの仲間―――」
「アイツは仲間なんかじゃない」
少年の言葉を遮って大男が口を挟む。それを聞いて少年は苦笑いしつつ話を戻す。
「シャドーラフム、黒木陽炎を奪還しに来たよ。ティアマトは人手不足だから彼みたいな人? 人でもその力が必要なんだ、サンダーも辞めちゃったしね」
少年が霹靂に視線を合わせる。彼の放つ禍々しい”気”に霹靂は強い威圧感を覚える。
「知った事じゃねぇよ、お前らの苦労なんて!」
「手厳しいね……あっそうだ、僕達自己紹介しないといけないか。礼儀礼儀」
「ふざけんなッ!」
頭に血が上った霹靂が少年へと拳を向ける。と、その瞬間、半透明の触手が霹靂に巻き付き、その動きを止める。
「っ!? 何だコレ!」
その触手の先には、少女が立っていた。今まで意図的に隠していた自らの能力を思わず出現させてしまった事を悔いてあちゃー、と声を漏らす。
「気にしないでよ、”アガルタ”。君のお陰で助かった。さて、自己紹介からだったね」
霹靂に巻き付いていた触手が彼を放り投げ、霹靂を壁に叩き付ける。その威力は凄まじく、頑強なラフムの体であっても骨折は免れられなかった。その様子を横目に少年は口を開く。
「僕の名は”シャングリラ”―――楽園そのものの性質を持ちしラフム」
「派手めな装いの彼女はアガルタ。彼女の持つ性質は理想郷だよ」
「最後に、コートを着た彼が”ユートピア”。彼も理想郷の性質を持つけど……僕は優しいから言っとくね。彼と戦うのはやめた方がいい」
三人の紹介を済ませると、学生服の少年、シャングリラは満足気な顔をする。だが、それを聞いたバディ一行は更に謎を深めていた。
「何だよその楽園だとか理想郷とかって……それは本当にラフムの持つ性質なのかよ?」
バーンの質問にアガルタは何も知らない人間を憐れむ様な表情を見せる。
「俺達が戦って来たラフムはどいつも生き物や機械、自然にあるものだっただろ! それなのにそいつは―――概念じゃねぇか」
「そう! 概念! バーン、君は聡明だからすぐに分かるだろうけど、ラフムにはそれぞれのカテゴリーとそれによる強さが存在するんだよ。バディではそんな事も教えてなかったの?」
シャングリラの嘲笑に霹靂は激昂するが、体が痛んで動かない。紹介も終わったからとバミューダらは再び破壊活動を再開するが、彼らの前にウイニングが立ち塞がる。
「何も知らなくったって良い……僕達はお前らラフムから皆を守る、その為にいるんだ!」
《Voltex》
《Change・Winning・Voltex》
「現状持てる最大戦力で、お前らを倒す!」