仮面ライダーインテグラ   作:虎ノ門ブチアナ

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#2 交戦

 バディ地下三階。駐車場。

 藤村、その他バディ機動隊と共に楓はそこへ案内される。

 

「霧島君、このバイクを使って。免許あるのは自宅の押収品から確認済みよ。ナビゲーションもしてくれるから」

 

 そう言って藤村は目の前のバイクを指差す。

 

「って霧島君今免許持ってたっけ?」

 

 そんな事今は良いでしょ! と藤村の問いに楓は反論する。

 現在楓は入院服のまま、ラフムに追われる前に持っていた物の行方等いざ知らず、と言った様相を呈していた。

 藤村と楓が焦燥していると、後ろからオイ! と楓を呼ぶ声が聞こえた。

 そちらへ楓が振り向くと、彼が元々持っていたリュックサックを持った機動隊員が立っていた。

 

「お前のリュックと財布。どうせ”先生”が置いていくだろうと思ってな」

 

 気だるそうに楓に荷物を渡すと、また会おうぜ、と言葉を残してバイクに搭乗し出撃してしまった。

 

「何だったんだ……?」

 

 呆然と立ち尽くす楓に他の機動隊員が出撃を促す。

 一秒の猶予も許されない状況である事をそれは物語っていた。それにやっとではあるが気付いた楓は先程手渡されたリュックを背負い、財布をリュックに突っ込んだ。

 

「霧島君、これを」

 

 藤村がさっきはゴメン! と言いつつ持って来たのは、指示を連絡する為のインカムだった。

 

「それ、付けておいてね。こちらから指示を出すから」

 

 それを聞いて楓は即座にインカムを装着する。

 藤村は隣に駐車されていたワゴン車に乗車すると、瞬く間に行ってしまった。楓も置いて行かれない様準備を済ませ発進する。

 

 暗いトンネルを進み続けると、やがて機動隊は通常の道路と繋がる地下道に出る。光の広がる先に出るとそこは見覚えのある風景だった。

 

「ここって、東京タワーの目の前!?」

 

 楓が辺りを見回していると、インカムを通じて先程の機動隊員の声が聞こえる。

 

「バディの基地から伸びる道、”レイライン”は日本各地に通じている。今回の目的地は港区だからな…急ぐぞ!」

 

 機動隊員の走る前の方向を見ると、彼がこちらに注意しながらバイクを走らせているのが伺える。何より親切な人だなあ、と楓は思いながらも、自らのやるべき事に思いを巡らせる。

 

(とにかく、急ごう……)

 

――

 

「ーーーーーッ!!」

 

 東京都港区、竹芝埠頭。午前九時三十五分。

 ようやく楓らが到着すると、彼らの目の前には凄惨な光景が広がっていた。

 人々の死体が辺り一面に転がり、その中央には堅牢な岩の様な異形、ロックラフムが佇み、雄叫びをあげていた。

 

(これが、ラフム!?)

 

 楓がバイクから降りて地に這う。惨状を目の当たりにした途端に恐怖、そして吐き気が彼を襲った。

 

「ううぅッ! ううぐぅ…」 

「クソッタレ! こんな時に何してやがるこのガキ! テメエのやる事分かってんのか!?」

 

 嘔吐する楓に一人の機動隊員が愚痴を溢す。が、その一秒後には彼の命は儚く散っていた。

 

「クソがッ! 全員銃口をラフムに!」

 

 先の機動隊員、もとい機動隊長が指示をすると、隊員らが小銃をロックラフムめがけ乱射する。

 が、その強固な体に傷一つ付かずにいる。体制を立て直したロックラフムは目の前にいた機動隊員を襲う。

 しかし未だ楓は動けない。その様子に藤村も叱責する。

 

「立ち上がりなさい霧島君! 何であなたがそこにいるのか思い出して!」

 

 が、楓は目の前の状況にただ怯える事しか出来なかった。

 彼からすれば、少し前までただの人間、この日本で争いに縁の無い生活を送っていたのだ。それがいきなりこんな場所にいるとは、自分の選択とは思えない状況だった。

 今思えば、自分は争い事なんてしないんだったと考えを巡らせる。

 自分は今まで何を気張っていたのか、何故”みんなを守る”と虚栄を張ったのか。何もかも思い出せない。頭が真っ白だった。

 目を見開いたままうずくまる楓に、一発。重い打撃が加わった。

 吹き飛ばされながら前を見ると、ロックラフムが拳を振り上げていた。

 そうか、だから飛んでいる。だから…”顎が抉れている”。

 

 人間における致命傷を負った楓は遥か後方に身を投げられ、体をぶつける。その衝撃で手足の骨が砕ける。

 薄れていく意識の中で、目に映ったのは、ロックラフムの次の標的。先程楓を助けてくれた機動隊長である青年。彼はロックラフムに首を掴まれ、うっ血により顔面を赤くしている。

 

「ぐッ!」

 

 青年は苦しくとも息を吸い込み、楓の名を再び呼ぶ。

 

「霧島ァ!! コイツを、倒せェ! お前にしか出来ねェンだ…よ!!」

 

 咆哮の様にそう叫ぶと彼は体の力を失い、さっきまでロックラフムの腕を引き離そうとしていた手が垂れ下がる。

 

 その光景、言葉に楓の脳裏に過去の記憶がよぎる。

 

 

「勇太郎!」

「楓!」

 

 あの日、ラフムに襲われたあの日。ラフムに襲われている友人に手を伸ばす楓。その手は、友人には届かなかった。目の前で殺戮される友人の伸ばしていた右腕は、噛み砕かれて地に落ちる。

 ―――あの時掴めなかった腕。誰も助けられなかった弱い自分。

 理不尽に人を殺すラフム。そしてそれらを生み出すティアマト。

 

 (…許せないッ!!)

 

 過去の自分のラフムへの怒りと、今の自分の悲しみが同じ言葉を以て重なり合う。

 そして今思う、過去の弱者への決別、そして変身。

 もう誰も失わない強い自分になる為に。

 体が瞬く間に再生し、先程まで失せていた顎を震わせ、叫ぶ。

 

「変身ッ!!」

 

 楓のその掛け声が響くと、彼の体を砂粒の様な粒子が覆い被さり、隆起した筋肉の様な形を作り出す。

 先程までの傷も全て癒え、内部から輝く緑色の光と共に砂が弾け飛び異形の姿が組成される。

 

 深緑の体と白濁色の翅を携えた蜻蛉(とんぼ)に似た異形。

 コードネーム、「ウイニングラフム」。

 

 まさしく”変身”した彼はその変身と共にロックラフムの腕に拳を炸裂させた。

 それに怯んだロックラフムは青年を離す。隙を逃さずウイニングラフムはロックラフムの右胸に蹴りを加えて距離を取り、青年を抱えて跳躍する。

 

「無事ですか?」

 

 ああ、と答えた青年は楓の姿を見て少し微笑んだ。

 

「変身、か。まるで違うな、さっきと比べて。それがお前の”強さ”だ。気を張って、ヤツを倒せ…。絶対だぞ……」

 

「はい!!」

 

 ウイニングラフムは背中のから生える四枚の(はね)を広げて少し浮遊しつつ

着地する。戦闘していた場所から少し離れた安全な場所に青年を運んで休ませる。

 

「後は自分で救援をお願いして下さい。この状態だとインカムが使えないので」

 

 おう、と青年が答えたのを確認すると、すぐに立ち上がる。

 

「あと、ボロボロの所悪いんですけど藤村さんに(こと)つてを。僕の今の呼称に”ラフムはいらない”って」

「…任せろ」

 

 青年がそう答える頃にはウイニングの姿は無かった。

 

――

 

 戦場に舞い戻ったウイニングをロックラフムが待ち構える。

 

「ラフムめ……!」

 

 ウイニングがラフムの口に当たる部分を噛み締めて呟いた。

 

「うおおおおお!!」

 

 その咆哮と共にロックラフムめがけて彼は助走を付けたパンチを見舞う。が、その体には傷が付かない。ロックラフムはまるで笑っているかの様に口角を上げた。

 

「なっ! 効かない!?」

 

 ウイニングが焦りと共に口漏らすとロックラフムの攻撃がウイニングを狙う。しかし彼はその攻撃をいとも容易くかわす。

 

「体が軽い…これがラフムの力か!それにあのラフム、動きが鈍重でかわしやすい」

 

 ロックラフムの大きな隙を突いて更に攻撃を加える。だが今までと同じく攻撃は中々通らない。

 

「この岩石野郎…ッ! そろそろ砕けろ!!」

 

半ば自暴自棄になりながらもロックラフムに蹴りを与える。すると、その蹴られた部分が裂け、出血を始めた。

 

「!? …何だ、たった一発で鎧が砕けた?」

 

 ウイニングが突然の事に唖然としていると、憤怒したロックラフムが重厚な拳をウイニングの顔面に叩き付ける。

 

「ぐあっ!」

 

 顔の左半分を粉砕されたが、ウイニングは諸共せずに再生させる。それと同時に、先程のロックラフムの裂傷に関して考えを連ねる。

 

(―――あのラフムが傷付いた場所…僕がさっき蹴った右胸だ!)

 

 再びロックラフムがウイニングめがけ突進してくる。

 

「ヤツに蹴りは効く! 今がチャンスだッ!!」

 

 走って来るまま、先程の傷の部分がガラ空きになっているロックラフムの右胸に渾身のキックを蹴り込む。ひび割れた傷の部分を足がくさびの様に貫通しロックラフムの断末魔が轟く。

 

「ーーーーーーッッ!!!」

 

 その瞬間、ロックラフムは粒子となって吹き飛ぶ。そして飛び散った粒子が収束し、元の人間の姿へと変わる。

 

「……終わった、のか」

 

 ウイニングも粒子を霧散させた後に楓の姿へ戻る。

 いつの間にか楓の背後にはバディの車両が停車し、楓の活躍を機動隊員や職員が目の当たりにしていた。

 彼らに気付いた楓は、後ろを振り向いて、親指を突き出す。サムズアップ。戦闘終了の合図の様にそのジェスチャーを送ると、満面の笑みのまま楓は倒れた。

 そこにワゴン車で状況確認と指揮を行っていた藤村が飛び出して来て楓を抱き抱える。

 

「お疲れ様、霧島君。多くの人の命は奪われた…けど、君のお陰でもっと多くの人の命が救われたのよ」

 

 そして、勝利を知った職員達はラフムを初めて倒すと言う功績に歓喜したのだった。

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