ウイニングボルテックスに変身完了し、拳に力を溜めるが、その姿をシャングリラは嘲笑う。
「君、その姿で生身の僕らをまさか、殴るのかい?」
人間の見た目である彼らに対して拳を振るう事にウイニングは躊躇う。それを理解した上でバミューダは人間の姿のまま行動していたのだ。
「もしかしたら僕らはただの人間で、同時に潜伏しているラフムが君達を欺いてるかも知れない。だとしたら君達が僕らを攻撃した時、普通の人間を誤って攻撃した責任をバディが背負う事になるね」
余裕の表情でライダーを見つめるシャングリラだったが、その眼前にはウイニングが迫っていた。
「―――関係ない」
一言、そう呟くウイニングに、バーンは全身が震え上がる程の恐怖を感じた。
「やめろ楓ッ!!」
バーンの呼ぶ声も虚しく、ウイニングには届かない。無慈悲に伸ばしたその腕がシャングリラの左足に伸びる。その手が彼に触れたその瞬間、ボルテックスの能力による電流が全身に流れ、怪人の姿を取っていなかったシャングリラは為す術も無く失神する。
ラフムである疑いがあるとは言え、生身の人間に攻撃したウイニング―――楓にバーン―――勇太郎は狼狽える。
「楓……お前自分が何したのか分かってんのか!?」
「分かってるよ、勇太郎。相手がただの人である可能性があるって事でしょ…だから心臓や脳から遠い場所を狙って感電させた、まだ慣れない力で加減が出来てるか分からないけど相手はどの道ティアマトの配下だ…しょうがないだろ」
そう言い残してウイニングは続いてアガルタとユートピアを狙う。
彼が呟いたその言論は正しいのかも知れない。実際バミューダを対処しなければ黒木が解放され、日本は更なる危機に直面する事になるだろう。それを防ぐ為には生身で煽り立てる彼らを倒す必要がある。が、それを実行するウイニングの心境に、バーンは一抹の不安を抱えていた。
楓は以前より、自らの信じる正義を貫くばかりに暴走を働く事が多々あった。学校においては不良らと喧嘩をし、過剰とも考えられる暴力で悪漢らをねじ伏せて来た。彼らの行動に眉をひそめていた大人は楓の行動を勇気と評価し、彼に規律の節制を委ねていた。その行動は無責任に他ならず、真に悪を制すべき大人の役割を放棄し自分達にとって都合の良い力に任せてしまう怠惰な判断だった。そのせいで楓は増長した。
単に増長と言っても、温厚な楓は暴力が正しい選択では無いと理解し、計画性のある問題解決を重んじていた。だが、責任感によって彼の倫理観は衰弱し、手段を選ばなくなる。その結果が仮面ライダーとしての戦いに大きく表出している。その使命感と悪逆への憎悪が彼を暴走させ、時にヒーローとしての像を保てなくなり、ラフムとしての姿を晒し民間人に恐怖を与える事もあった。
彼の抱く仮面ライダー―――人を守る者としての脆弱性に、友としてバーンは苦悩していた。
(楓が心配だが…今は任せるしか無いのか……)
現状彼らを最小限の攻撃で戦闘不能に出来るのはボルテックスと、同様の能力を持つサンダーのみである。サンダーを霹靂から借り受けるにはバミューダに対して隙を見せ過ぎる上、倒れたままの霹靂を変身解除させるのは危険である。故に、ボルテックスの力を纏うウイニングにこの場を任せる他無かった。
一方、ウイニングは引き続きバミューダと交戦する。ウイングボルテックスが持つ敏捷性でアガルタの触手をかわし、彼女へと迫る。アガルタはユートピアだけでも守らんと触手の何本かを彼の防御に当てていた。その為霹靂と対敵していた時と比べて襲い掛かる触手が少ない。ウイニングは難なくアガルタを気絶させ、残るユートピアへ視線を向ける。が―――。
ユートピアは金色の粒子を纏い、その姿をラフム本来の物へと変貌させていた。
金色に輝く、全身に円錐状の家屋を模した棘を生やした狼男。
それがユートピアの、ラフムとしての姿であった。
「アガルタが時間稼ぎをしてくれたお陰で真の姿で戦えるな…一つ聞いておくが、ウイニング…俺達が本当にラフムだと気付いていたのか?」
「……気付いていなかった。お前がそう言うまでずっと、人間と戦っているつもりだった」
「嘘じゃないな、成程……すまなかった、騙す様な事をして」
「今更僕に謝ったところで、死んだ人は帰って来ないだろ」
ウイニングは体を小刻みに震わせながらボルトリガーの引き金を三回引く。
《Winning…ImpactVoltex》
ウイニングボルテックスの能力最大解放状態となり、体を金色に輝かせながらユートピアへと走る。が、一方のユートピアはウイニングの突進にただ立ち尽くすだけだった。
「―――仮面ライダー」
突然そう呟いたユートピアにバーンは警戒したが、時すでに遅し。ユートピアの呼び声に耳を傾けた時点でライダーらは彼の術中にあった。
「動くな」
再びユートピアが発したその言葉一つによって、ウイニングとバーンの動きは完全に停止した。
ユートピアが呼んだ者への命令は―――”絶対になる”。
「アガルタと違って普通のラフムは”本来の姿”を取り戻さなければ固有の能力を発揮出来ない。今回のこの作戦…やはりこの姿のままで襲撃した方が良かったのだろうが、アガルタはその能力の固有性を活かしたかったのだろう」
「彼らがここで固まっているのは己の能力にあぐらをかいた故だろう。それは作戦を容認した俺も同じか」
体が動かず、その場を後にするユートピアが視線から消える姿を見送る事しか出来ないウイニングは、今その身に起こった事を理解出来ず、ただ動かない体をどうにか動かそうと気張るのみであった。
加えて、先程まで失神していたバミューダの残り二人が起き上がり、ユートピアと共に去っていく。彼らは実際、人間ではなくラフムであった為、ウイニングの手加減による感電など諸共せず、既に体は不自由なく動く状態まで回復していた。
段々と聞こえなくなっていく靴音を耳に焼き付けながら、ウイニングは、楓は―――己の無力さを呪った。
――
バディ本部、特別拘束室。
長良長官の口から自分を助け出そうとしている人物の存在を知り、黒木は少し冷静さを取り戻していた。未だ獣の様に周囲を威嚇する黒木に、長官は自分の眼鏡を拭きながら問うた。
「ところで一つ聞いておきたかったのだが、君は何故藤村金剛の名を騙ったんだい? 君と彼に何の関係がある?」
「俺の事なんざ更々聞く気無かったんじゃねぇのかよ、じゃなきゃ今までここに来なかったのは何だったんだよ」
「焦らしてたのさ」
長官が黒木を嘲笑う様に言い放つと、黒木は雄叫びと共に体に力を溜める。
「無駄だよ、君を拘束している器具はラフムの能力を無効化出来るのさ」
(これも金剛君の発明だと言ったら多分彼は怒りの余り死んでしまうな)
「さて、君がどれだけ脱出を試みようと無駄なのは十分分かっただろう、そろそろ話してくれないか、君の事。私が今まで何も聞かなかったのは実際の所時間が取れなかったからなんだよ」
長官が大きく息を吐くと、怒り狂っていた黒木は、体の力を抜いて、呼吸を整える。
「絶対に答えねえぞ」
確固たる意志のこもった声色の黒木に長官は口をへの字に曲げる。
「そうか、それなら良い。はは、僕も君を馬鹿にし過ぎた様だ、そりゃあ拗ねて答えたくも無くなるよね」
「長良、お前はまたそうやって俺をおちょくるのか……ここから出た時真っ先に殺してやるよ」
「まだ君がここから出られると思っているのか―――」
その瞬間、拘束室の扉が破壊される音がする。
「やっぱりここにいたか、シャドーちゃん」
アガルタが黒木を発見し、手を振る。
黒木を収容する拘束室に、バミューダが到着した。