十二月二日、午前十時五十二分。
バディ本部にバミューダが侵入してから二十分余りが経過し、ライダーからの通信が途絶えた藤村、機動隊の面々は、作戦通り駐車場で待機していた。
「全く現状が把握出来ない……長官ともライダー達とも未だ通信不可能、侵入したラフムもこちらには来ていないし、上では何がどうなっているのかしら……」
気を揉む藤村に、大護は拳と平手を打ち合わせて立ち上がる。
「俺、上に戻って様子を見て来ます!」
「駄目よ武蔵君、現状ここの守備は貴方達機動隊に任せる他無いのよ。特に貴方がここから離れれば、ラフム三体に対抗出来る手段は大幅に削られるわ」
納得した大護は、手にした自動小銃に力を込め事態の進展を待つ。
すると、指揮車両に雷電から連絡が入る。
「こちら霹靂、暁だ…ラフムとの戦闘になって今まで気ィ失ってた……俺のライドツールも破壊されちまって、ウイニングとバーンは何故かピクリとも動かねぇ。多分敵の能力だ」
「それと、すまねぇ、ラフムは見失った…今からそっちに合流する」
そこまで伝えると、雷電からの連絡が途切れた。その情報から藤村が眉間にしわを寄せる。
「今の話から推測すると……仮面ライダーは全滅し、ラフムらは既に移動を開始している―――」
「嘘だろ…」
ライダーが満身創痍であると言う話に機動隊員ら、同行していたオペレーター陣が不安そうな表情を藤村へ向ける。が、藤村と大護はその情報にめげず、皆を鼓舞していく。
「つまりここを守れるのは俺達だけだ! 今はどこにいるか分からねぇラフムだが、俺達がやらなきゃならねぇ! 力は仮面ライダーに劣るかも知れねぇが、俺達には絆と心と、先生達の指示がある! やるこたぁ楓がいなかった頃と同じだ、昔の様に撃退を目標とした作戦を展開するぞ!」
「ラフムの目的は恐らく他のラフムと、黒木が使用していた変身端末の奪還が有力よ! ここから一旦下降してすぐの研究室に向かいましょう!」
絶望的な事実の中でも戦う意志を崩さない二人の勇気が、ここにいる人間達の心を昂らせる。
まだ人は負けない。その強い生存と協調の思いが、一人一人の力を確かに高めていた。
―――しかし。
彼らの気合も虚しく、バミューダは開けた空間である駐車場を警戒し、迂回した上で最下層の拘束室へと到達していたのだった。
――
バディ本部、特別拘束室。
厳重に閉じられていた筈の扉がこじ開けられ、バミューダが侵入する。
彼らは拘束された黒木を発見すると共に、その場にもう一人いる事を確認した。
「バディ長官、長良衡壱だな。何故ここにいる?」
そう問いかけるのはラフムの姿となったユートピアであった。にも関わらず、長官は依然として微笑みながら答える。
「一網打尽、って事さ」
「君達がここに来るのは分かっていた。後はここに集まった全員を排除するのみだよ」
ティアマト大幹部級のラフム三体を相手にして余裕の表情を見せる長官にユートピアは警戒する。
「アガルタ、シャングリラ、挑発に乗るな。奴は何か秘策を用意しているらしい……」
一方の長官は腕時計を確認すると、大きく息を吐いた。
”―――現在残っているバディ職員全員に通達する。本施設はこれより爆破による全施設の強制封鎖を行う。ただちに退避せよ―――”
けたたましいサイレンと共に繰り返される長官によるそのアナウンスは、たった今長官が作動させたものでは無く、録音によるものであった。
(緊急時のためにあらかじめこの音声を…そしてここを爆破する気なのか?)
唐突なアナウンス、もとい、爆破宣言にユートピアが更に警戒を強める。一方の長官は未だに笑みを崩さない。
「長良衡壱……お前は何を考えている!」
「ああ、君の能力は想定済みだ。当然対策として耳栓をしたまま僕らは会話している」
な、とユートピアが声を漏らす。彼の動揺を察した長官は成程、と呟くと加えて言葉を投げかける。
「君の能力は相手が直接聞いていなければ意味の無い能力である事が分かったよ。君の話す内容は分かっていたので会話の内容を認識した時点で君の思うがままになってしまうのでは無いかと肝を冷やしたが安心したよ」
「悪いが、私を倒したいのなら”神頼み”でもしなくちゃならないかな」
長官の煽り立てる様な口振りにアガルタとシャングリラは不機嫌そうな表情を見せる。
「ユーちゃん、アタシあの人嫌い」
「同感だ、ユートピア。僕らはティアマト大幹部、対してあちらは只の人。奴の詭弁に付き合う必要は無いよ」
「相手の出方の分からない戦いは好まないが、お前らの名誉まで踏みにじられるのは見るに堪えんからな…仕方が無い、行くぞ」
ユートピアがそう言うと、ユートピアとアガルタが一瞬で姿を消す。ラフムの力を行使する彼らは人間を超えた速度で移動し、ユートピアは奥に収容されている黒木の奪還、アガルタは長官への攻撃を開始した。
「だから私を倒すなら……」
長官がアガルタの触手を全てかわすと、彼女の触手は全てユートピアの方向を向いていた。制止する間も無く全てユートピアへの攻撃となり、彼の進路を阻んだ。
「神頼みしか無いってば」
瞬く間に長官に翻弄され、触手の攻撃を受けたユートピアが瓦礫の中から体を起こす。
「一体どうなっているんだ……」
と、収容室の直情から爆発音が轟く。遂にアナウンスにあった爆破が始まったらしい。
「私の狙いはこうだ、ここで君達の足止めをしてこの収容室を爆破粉砕、私諸共全員瓦礫の中で死んで貰う」
「例えラフムの姿を取って耐久性を増した君達でも、脱出は不可能だろう」
アガルタの攻撃をかわしながら長官が語ると、シャングリラは退路の確保を急ぐ。が、アガルタを上手く誘導して彼の行動を触手に防がせる。だがシャングリラは一矢報いらんと口を開いた。
「長良衡壱―――何故君は僕らの意志を理解しようとしない? 僕らは人類の進化を促しているんだ、ラフムといいう神の稚児の力を以て人を超え、新たな秩序を持った世界へとレベルアップする…そうして人々は神の加護を享受し平穏に過ごせると言うのに」
「ふざけるなッ! この人殺し共がッ!!」
長官の怒号がシャングリラを黙らせる。今まで温和かつ剽軽な態度を取っていた彼から出るその怒りは、ティアマト大幹部と自称する三人はおろか、ティアマトによる救助を甘んじて受けようと押し黙っていた黒木をも沈黙させた。
「君達は大義とそう語れば人の命を奪う事が許されると思っているのか? 君達が殺した人達はきっと、明日の予定を待ち望み、将来に胸を膨らませ、生きようと願っていただろう」
「それを踏みにじったんだよ、その意志とやらでね。もう戻りはしない命を奪った上で利己的で高圧的な自分達の考えを優先したんだよ」
収容室の天井が落ちる。長官が言葉を投げかけている内に施設の崩壊が始まっていた。出入口は既に破壊され、バミューダ、黒木、長官は脱出不可能の密室に閉じ込められた。
「僕を殺してくれても構わない、君たちの最後の殺人だ。ほら、やりなよ」
煽り立てる長官に怒りが頂点に達したシャングリラがその体をラフムの物に変貌させる。
宗教施設である僧院を彷彿とさせる角ばったブロックが幾重にも連なった様な形状の白い肉体は、ジェームズ・ヒルトンの著書「シャングリラ」に登場する僧院を思わせる。
シャングリラは自らの能力を披露するでも無く、ラフムの身体能力による力押しのみの突進であった。が、彼の怒りも虚しく、爆発の衝撃で崩れ落ちた天井の一部がその体を押し潰す。周囲の天井や壁もそこへ倒れ込み、シャングリラを覆っていく。
「これで扉は封鎖されたか…もうすぐここはバディ本部の基地そのものに押し潰されるだろう。私の築き上げた組織の施設を全て手放して君達を圧殺するんだからここで全て終わって欲しい物だよ」
「勝手を言うな長良! 貴様のせいで人類は―――」
「人類は滅んでしまうんだぞ!」
「戯けろ、殺人集団。尊い命の犠牲によって積み重ねられた進化によってこの星が守られた所で、何の価値がある? 例え肉体が強くなろうと、そこに心が伴わなければ争いも、滅びも、終わらないだろう」
ユートピアの言葉に反論している内にも施設は崩壊を続け、遂にお互いの姿を見失う。度々唸り声が聞こえるが、何度も瓦礫が体を突き刺しているのだろう。当の長官も、頭上へ降り注ぐ鉄骨やコンクリートを見上げ、言葉が詰まる。
(遂に”あの力”を使わざるを得んか…まだ彼らと心中する訳にはいかないからな)
粉塵の中長官は服の袖で口を覆いながら深く息を吸うと、目を閉じ、高らかに叫んだ。
「―――
その叫びと共に長官の体が光り輝くと、バディ本部の直上へと光が伸び、一筋の光が熱を伴いながら辺りを破壊する。
十二月二日、午前十一時三分。
バディ本部は、消滅した。