仮面ライダーインテグラ   作:虎ノ門ブチアナ

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仮面ライダーズ
#50 凶兆


 十二月二日、午後十五時五分。

 バディ本部が崩壊した瓦礫の中で、勇太郎は青空を見上げながら目を覚ました。先程バディ本部の自爆と謎の光に巻き込まれて吹き飛ばされた事を思い出す。

 崩壊が収まり辺りは何の物音もせず、閑静な廃墟に溜息が一つ聞こえる。

 

「俺は…生きてんのか……楓は……」

「…!」

 

 近くにいた筈の楓がいない。全身の打撲で痛む体を引きずりながら辺りを見回すと、楓が立っていたであろう場所は丸々崩落していた。

 勇太郎はじわじわと現状を理解し、焦燥と手の震えを抑えながら楓の名前を叫ぶ。

 

「楓ーっ! どこだー! 近くにいるんだろーッ!?」

 

 言葉は返って来ない。

 きっと彼も自分と同じ様に気を失っているのだろうと考え、まずは自分の回復を待ち、それから本格的に捜索しようと判断した。

 連絡用のインカムはおろか、ライドツールも破損し、通信や変身が不可能な状態で、まずは付近にいた筈の楓の安全を確認する事を優先する。先程流れた避難指示のアナウンスから施設に残っていたであろう、雷電を含めた自分達以外の人員の避難は完了していると考えると、少しだけ気持ちが楽になった。

 

「あのユートピア、だっけか。アイツの動きを止める能力を他の職員達に使っていなければ避難は順調に進んだだろ…今俺の体が動かせるって事は多分アイツは巻き込まれ、能力が強制的に解除されたってか」

 

 言葉を口に出す事で体の自由を確認すると、再び息をつき、体を休めて回復を促す。

 すると、近くから瓦礫を踏み付ける足音が聞こえて来た。

 

「楓ッ!?」

 

 勇太郎が大声で問うと、急に体を起こした反動で体制を崩しその場から転がり落ちる。足音は速度を増しながら勇太郎の方へと近づいていき、音が止む頃には転がって来た勇太郎の体をその足音の主が支えていた。

 

「お久し振りです、勇太郎様」

 

 先程の足音の主は、かつて御剣家で勇太郎を訓練した言わば師匠、風露(ふうろ)であった。

 

「風露、さん? 何故ここに?」

「今回の事態を受け御剣家が総動員で救助に当たっているのです。無論私もこちらで行方不明者の捜索をしていたのですが、あなただけでも見つかって良かった」

「…じゃあ、楓は!?」

「見つかっていません」

 

 風露が首を横に振る。非情な現実に勇太郎は悲しみを隠せないが、とにかく楓が無事である事を信じた。雷電と戦った時も危険な状態から生還し、新たな力を手に入れて復活した。奇跡の様な光景であったが、楓ならきっと今度も大丈夫だろうと言う不確定的な信頼がいつも頭の中によぎるのだ。

 

「俺も捜索活動を手伝います…これでもラフムですから体は丈夫なんですよ」

 

 勇太郎は風露に支えられていた体をしっかりと持ち直し、まとわりつく埃を払う。

 

「風露さん、捜索を続けましょう」

 

 勇太郎が歩き出し、それに風露が頷く。と、急な地響きと共に体のバランスが崩れる。

 爆発の影響で不安定になっていた瓦礫の積み重なりが崩壊し始めていたのだった。

 

「マズい! 風露さん、一旦ここを離れ―――」

 

 退避を提案しようとした勇太郎だったが、言葉を終えない内に足場が崩落し、そのまま落下する。勇太郎を助けようとした風露だったが、伸ばした手は彼の元へは届かず、止む無く風露のみで退避した。

 

(勇太郎様……どうかご無事で)

 

 心の中で無事を祈ると、風露は安全な場所から崩落した現場を見つめる。今動いた所で再び崩落が起きてしまい更に彼らに危険が迫る事は明白であった。

 今はただ待機するのみ。もどかしさを押し殺しながら風露は勇太郎の帰りを待った。

 

――

 

「…いてて……」

 

 勇太郎は転落した後、何とか軽傷のみで他の瓦礫へと着地していた。自分の無事に安堵すると、辺りを見回す。どうやらこの空間は元々バディ基地内の一室であったらしく、先の崩壊の影響で上階ごと天井が無くなり、見上げると青空が覗いていた。退廃的かつ幻想的な光景に勇太郎は恍惚を覚えるが、近付いてくる足音で我に返る。

 

「風露さん? いや―――」

 

 その足音の主は、紛れも無く楓だった。

 

「楓ッ!」

 

 勇太郎が驚異の瞬発力で彼の元へ駆け寄ると、楓は安心したかの様な微笑みを見せる。

 

「勇太郎…無事で良かった」

 

 親友の無事を確認した勇太郎は安心し、視線を落とす。と、楓は左手首から出血していた。

 

「楓! その傷、とにかく地上に出て治療を受けるぞ!」

「ああ、大丈夫だよ。ラフムだからすぐ治るし、それに、自分で付けたんだ」

 

 そう言って楓は視線を部屋の奥へと移す。その先には血が付着したウイニングイートリッジと、破損し砕けたウイニングイートリッジを含めたライドツール一式が机に置かれていた。どうやら勇太郎と同様に楓もアイテムを損傷した為にブランクイートリッジを使用してイートリッジのみ修復を終えたらしい。楓はその方法として以前成功した自傷行為を選んだのだった。

 

「自分で傷を作ってイートリッジ用のラフム成分を抽出したってか……ふざけんな!」

 

 勇太郎がその場の壁を叩き、破壊してしまう。我に返った勇太郎はまたも崩落してしまわないかと慌てながら無事を確認すると、安堵すると共に楓を睨んだ。

 

「そうやって自分を犠牲にして何考えてんだよ」

「ごめん、勇太郎。でもそのお陰でコイツが使える様になったんだ」

 

 そう言って楓は奥の機械を指差す。その方向を見た勇太郎はある物を目撃して驚愕する。

 それは、かつて黒木が使用して腕に装着するタイプの端末であった。

 

「コレって……!?」

 

 彼らがいた場所はバディの研究室であった。藤村が外出したままになっていた研究室は幸いにも自爆を免れ、一部の資料と共に調査中であった端末も残されていたのだった。

 

「あの後運良くここに落っこちて、研究室である事は分かったから残ってる物の回収を済ませておこうと思っていたんだけど、この端末と、調査途中の資料を見つけてね」

「コイツは、動かせる」

 

 そう言うと楓は端末に挿入されていた何本かのケーブルを引き抜くと、自身の左腕に装着する。

 

《Account・Frustration》

 

 端末から響く電子音は彼らが使用して来たライドツールよりも機械的で、低い音声であった。そのおどろおどろしい音と単語はこれから起きる事象を暗示する凶兆の様であった。

 

「フラストレーション…? それっていわゆる欲求不満な状態の事だよな…? 一体どう言う意味なんだよ」

「どうやらコレ―――タクティカル・ユーティリティ・ツール、”ウェアラブレス”は、装着者の本質的な欲求や本能を刺激する物らしい。資料によるとこの端末を解析した際に最初に発見されたテキストデータが説明書になっていたと。それで僕も大体の扱い方を知ったんだ」

 

 ちょっと待て、と勇太郎が口を挟む。

 

「それじゃあソイツを使えばお前は欲求とか本能が刺激されるって事だよな…そうなった時、楓はどうなるんだよ!?」

「多分、暴走する」

 

 楓は物憂げな表情でそう答えると、勇太郎の脳裏には今までの楓の行動がフラッシュバックしていた。

 彼は正義漢の余り行き過ぎた行動や言動を行う節が幾度かあった。それは今に始まった事では無く、子供の頃からずっとそうだった。そんな楓がウェアラブレスの力で暴走してしまえば、それがどの様な方向に向かうのかは想像も出来ない、いや、勇太郎は想像したくないと強く思った。

 

「やめろ楓! お前も分かってるんだろ!? そんな事をしたら自分がどうなるのか! それに今はもう戦闘は終了しているんだ、選択を急ぐ必要はねぇだろ!」

「…そうも言ってられないんだ」

 

 楓がそう呟いた矢先、外が騒がしくなって来た。周りで待機していた御剣家の言葉から、ラフムが出現したとの事だった。

 

「戦うってんならアイテムが無くてもラフムの姿で立ち向かったって良いじゃねぇか! 世間体を怖がるお前じゃねぇだろ!?」

「僕がこの力にこだわるのは姿の意味では無いんだ。こんな…こんなモノを使わざるを得ない程の敵が、出て来るんだ」

「何でお前がそんな事知って―――」

「もし僕が優しさを忘れてただ目の前の敵を倒すだけの、本当の意味での異形の怪物になったら、絶対に止めてよね…勇太郎。いいや……仮面ライダーバーン」

 

 勇太郎と言葉を交わさないまま楓は修復したウイニングイートリッジを持って外へと出て行く。彼の覚悟と気迫に圧倒されその歩みを止められなかった勇太郎は渋い顔をするが、すぐに顔を上げる。

 

(アイツをここで止められなかった事を、後悔はしねぇ。俺は楓の覚悟を信じる。そして、もしアイツがダメになったなら、今度こそ絶対に止めてやる!)

(俺は、皆を、そして楓を守るヒーロー、仮面ライダーバーンだ!!)

 

 新たな敵へ向かい、二人は歩き出した。

 

――

 

 楓が目を覚ます少し前、目を開けるとそこは以前にも見た砂浜であった。

 そこがかつて神と名乗る青年、アプスが神の世界と呼んだ場所である事を察した楓は、辺りを見回しアプスを探す。

 

「おーい! 神様ー!」

 

 楓が叫ぶと、空間に歪みが発生すると共にその中心からアプスが出現する。

 

「久しい、と言う程でも無いか、霧島楓」

「丁度良かった、神様…色々と聞きたい事があるんです」

「それは良く分かっているが、話は重要な部分から話していきたい。悪いが貴様の質問に答えるのはまだ先になる」

 

 そんなぁ、と残念がる楓を横目に、アプスは話を続ける。

 

「まず伝えなくてはいけないのは、これより起こる脅威に対抗出来るのは貴様しかいないと言う事だ。ティアマトは幹部級の構成員をライダー打倒に集中させ、敵を減らした上でティアマトのリーダーを復活させようと目論んでいる」

「ティアマトの…リーダー……」

「彼もそうだが、貴様が近々に対敵する脅威とは、先に貴様らが戦ったティアマト大幹部を含めた幹部構成員だ。これからの戦いは今までを遥かに凌駕し激化する」

 

 楓が固唾を飲む。

 

「恐れる事は無い…ラフムに対抗する手段が増えた中で何故貴様が選ばれたのか、それは貴様が彼らに勝ちうる力を秘めているからだ」

「…僕が、あの幹部達に?」

 

 先程ティアマト三大幹部の一人、ユートピアに敗北した事を思い出す。未だ力の至らない自分が彼らに勝利するイメージは湧かないが、アプスの発言も冗談や偽りには聞こえない。

 

「僕が持っている力と言ったら、ウイニングラフムとしての能力とかしか―――”ウイニング”だから、ですか?」

「ウイニング、”勝利”をもたらす力か…。衡壱も上手く名付けた物だな。だが、楓…お前の力の本質はウイニングではない」

 

 アプスの言葉の意味を掴めない楓を首を傾げる。

 

「そのウイニングと言うのはバディで名付けられたコードネームだ。本来の貴様の能力は―――」

 

 言葉を遮る様に大きな波音がする。驚いた楓が海を見ると、冷たい風が吹き荒れ、波浪がこちらへと近付いて来ていた。

 

「時間が無いか…すまない楓、他の神からの妨害が入った! とにかく、楓……貴様は、強くなれ! どんな手を使ってでも! 己の本能…本質……”インテグラ”の望むがままにッ!!」

 

 暴風と共にアプスの声が遠くなる。最後に彼が何と言いたかったのかは分からなかったが、ただ強くなる、それだけがこの世界を救うと、悪を打ち倒すのだと、楓は確信する。

 

――

 

 ―――喰らえ。

 ―――喰らえ。

 ―――全てを、統合するのだ。

 

 …全てを、統合する……。

 

――

 

 「―――喰らえ」

 

 楓が気が付くと、崩れかけたバディの一室にいる事に気付いた。それからはまるで何かに取り憑かれたかの様に辺りの資料や器具を手当たり次第に探って、ウェアラブレスの起動に漕ぎ着けたのだった。

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