仮面ライダーフラストル・ウイニングフォーム。
楓の心理を反映させた、真に純粋なる力の戦士。
変身端末、ウェアラブレスの能力により楓の元来持つ欲求、本能がありのままに引き出された結果、彼の心にあった憎悪や破壊衝動を活発にさせてしまい、その溢れ出る闘気は仮面ライダーと素直に呼ぶにはひどく醜い物であった。
まだ一歩も動いていない筈のフラストルから感じ取れる狂気は、今までずっと楓の傍にいた勇太郎を震撼させていた。
(あの時と同じだ…この感じ……中学生の時と…)
フラストルを目撃したバーンは、自分が楓に恐怖を抱いていた事を思い出す。
楓を理解したつもりでいたが、その実彼は思いがけない行動をする時があった。
不良を暴力で制圧する、ラフムへの怒りで暴走する、己の身を顧みず戦う―――。
本当は霧島楓を理解なんてしていなかったのでは無いか、そんな疑念が自らの心に投げ掛けられ、今まで親友として楓と共にいた時間が白紙に戻っていく様に感じた。
(俺は、楓を知らなかったのか…知ろうとしてあげられなかったのか…それとも)
(アイツの奥底にあるあんなに大きな感情から、目を背けていたのか?)
(……俺は、アイツの心の中の闇を見ようとしなかったんだ)
(友達失格だ)
バーンラフムから人間の姿へと戻った勇太郎の目からは大粒の涙が零れ落ちていた。友として楓の心に寄り添えなかった不甲斐なさ、彼の内面を見ようとしていなかった自分の弱さを認識して、悔しくなった。
「楓…こんなになるまで俺は何もしてやれなかったんだな……ごめん、ごめんよ」
「お前はいっつも傷付いて、それでも、誰かを守るために、戦ってくれたんだよな? それなのに俺は―――」
「違うよ」
激情を露わにする勇太郎とは対照的に、フラストルへと変貌した楓は冷酷に言い放った。その突然の言葉に勇太郎はえ? と思わず呆気に取られた声を出した。
「違うよ勇太郎。僕はね、本当は誰かを守りたくて戦っていた訳じゃ無かったんだ」
「僕は自分の苛立ちを他人にぶつけて発散していただけなんだよ」
フラストルから放出される黒い粒子が風力を強め、勇太郎がよろけ始める。
「それは本当なのか、楓ッ!?」
「この気持ちは、この苦しみは、きっとそう言う事なんだよ。皆が悪だと思う奴らを利用して、暴力で自分を満足させて、名声も得る…それだけの事だったんだ」
「誰だってそうだろ? 良い事したってどこかで自己満足になっちまう」
「―――君は違うだろ!?」
風が更に強まり、勇太郎の体が浮き上がり始める。
「勇太郎は良いよ、何でも出来て、その力を人の為に使おうと思えているんだ…僕は、僕は…誰かのヒーローには……仮面ライダーには、なれない」
楓の名前を勇太郎は叫ぶが、その声は風切り音に遮られ、そのまま勇太郎は風に流され吹き飛ばされていく。
フラストルの放つ力が辺りの瓦礫を飛散させ、黒木が腕で砕きながら弾く。
「あーあ…仮面ライダー! なんてカッコ良くヒーロー気取ってた真意がそれか? マジで滑稽だな」
禍々しい力に飲み込まれたフラストルを黒木は嘲笑する。
「確かに、笑えるよね…僕は正義のヒーローになりきれなかったんだから」
「ああ、もう爆笑モンだぜ! お前は結局そこら辺のチンピラと変わんねぇ、力を振りかざしたいだけの弱虫なんだよ!」
「そりゃそうだ、だけど……」
その瞬間、フラストルを包んでいた粒子が集束していき、全ての力がフラストルの物となる。先程まで一帯を覆っていた気味の悪さが一瞬にして解消された事が、むしろ黒木を驚愕させた。精神に負荷を来たす程の邪悪な思念を、フラストル―――霧島楓が余す事無く吸収した事を意味していたからだ。
「だけど……お前を倒せればそれでいい」
完全に油断していた。今まで唸るばかりでその力に振り回されていたフラストルが、勇太郎がいなくなった途端に全てを掌握し、力の限りの疾走で黒木へと襲い掛かったのだ。全く予想もしていなかった攻撃開始に黒木はラフムの姿になる間も無く防御の為に突き出した左腕を奪われていた。
「ッ! うぁぁぅッ!!」
「テメェェッ! テメェェェェッ!!」
その痛みは人間と変わらない。人間の痛覚とは敏感な物で、指を切っただけでもそれなりの痛みと強烈な不快感が襲う。それが腕部の欠損となっては、その痛みは想像を絶する物であろう。黒木は痛みの余り涙を流しながら返り血に塗れたフラストルへ恨みの言葉を吐き散らかす。
「痛い? 痛いよな? ハハハ」
ゆっくりと黒木へ近づいたフラストルが彼の頭を踏み付ける。足を少し動かしながら黒木の羞恥を煽る様に踏み回す。
「お前が殺して来た人はもっと痛かった。もっと辛かった」
「言われの無い不幸が人の命を奪うなんて、あってはならないのに……お前はどうして皆を殺した!? 任務だからか! 人類の為になるからだと言うのか!?」
一度黒木から足をどけてからフラストルは問い質す。人間の姿を留めていた彼の体は傷だらけで、傍から見れば怪物が人を襲っている様にしか見えなかった。その光景を想像しながら黒木は痛みを堪えながら口角を上げて不気味な笑みを溢す。
「―――俺が人を殺すのは任務でも使命でもねぇさ、楽しいからだよ」
「お前なら分かってくれると思って教えるけどよ…お前も同じだろ、お前は自分が傷付けた相手が悪だからって理由で正当化してるだけで何も違わねぇんだよ」
「お前と俺は変わらねぇ! 自分のゴキゲンを取る為に人をブッ倒して発散してるんだって事だ!」
違う、とフラストルが呟く。禍々しい形相で黒木を見つめると、ウェアラブレスのグリップを一回押し込む。
《Winning・Enigma》
フラストルの全身から黒い粒子が放出され、黒木を包み渦巻く。その”粒子の旋風”が黒木の体内に入ると、全身から血が噴き出る。
人を蝕むフラストルの力を纏わせた風は全身の血圧を異常な程上昇させ、それによって血液を噴出させたのだ。
瀕死の重傷を負う黒木は残された力を全て賭して姿を変貌させていく。
フラストルの物に似た黒い粒子が全身の鋭角な装甲を構築し、頭頂部に光輪を携える。光を反射しない程に黒い顔から白い歯が浮かび上がり、異様な程に口角を吊り上げ、笑う。
シャドーラフム。”影”の力を内包した光と対を成す異形の怪物。凶悪な姿から見受けられる出で立ちは、黒木の残虐性を表現している様だった。
先程失った筈の左腕は回復しており、手を開閉しながら動きを確認する。
「それじゃあ本気で行こうぜ……霧島楓ェ!」
(勇太郎はさっきの風で安全な所まで誘導できたか…だったら、見せられるか…)
「…今の僕の思いの丈をッ!!」
――
バディ本部跡、瓦礫の中に埋もれていたシャングリラが目覚めると、バラバラになっていた筈の体が修復されている事に気付く。そして、それがティアマトの人間による処置である事も同時に理解した。
先に目覚めた彼は瓦礫を少しどかして外の様子を見ると、シャドーと見た事の無い戦士が相対している様を目撃した。自分と同様にその場に倒れている大幹部らと長良を見ると、成程、と呟いた。
「かなり癪だが、シャドーを救出するべき、か」