仮面ライダーインテグラ   作:虎ノ門ブチアナ

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#53 敗走

 十二月二日、午後十五時半。

 ティアマト大幹部の襲撃に伴い自爆し、廃墟と化したバディ本部でシャドーラフム、黒木陽炎と楓が相対する。

 楓は己の持つ邪念…人を守るためでは無く、怪物を倒す事で自らの衝動を発散させているという本心に気付き、その獰猛な精神を陽炎の打倒の為に行使すると決めたのだった。英雄たる仮面ライダーでは無く、ただ悪を殲滅する怪物、フラストルとして。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 フラストルの力が高まり、天を仰いで叫ぶと、シャドーへと猛攻を仕掛ける。その速度はウイニングボルテックス時よりも劣るが、攻撃に見境が無くなった分、打撃の力は上がっていた。

 が、シャドーも押し負けてはいない。理性を取り払った分攻撃のテンポが単純になったフラストルの拳をさばいて受け流す。

 

「新しいオモチャで強くなったつもりかウイニング? 馬鹿になった様にしか見えねーけどな!?」

 

 拳が流された事によってがら空きになったフラストルの左肋骨をシャドーの鉄拳が見舞う。中指の関節部を突き出す事で先端が鋭角になり、打突力が増す。その凶悪なパンチを食らったフラストルは肋骨部を押さえてうずくまる。

 

「”アバラが二、三本いったか”って漫画とかで良く言うけどよォ、あれってそんな冷静にいってられない程痛ぇらしいな、特にフレイルチェスト…肋骨の破折で呼吸時に激痛が伴う状態なんか格別に辛ぇってよ」

 

 先程痛手を負わせられた屈辱を晴らす様にシャドーは笑う。が、目を覆って大笑いしている内に、フラストルは彼の背後に回り、羽交い絞めにした。シャドーが振り向いた先に見えたフラストルの顔面は、口部に若干亀裂が入っておりそれが笑っている様にも見えた。

 

「―――!」

 

 本能的にシャドーが危機を察知した頃には時既に遅し、フラストルの力が最大まで高まり、雄叫びを上げながら口部の亀裂を広げていった。

 

「オオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

 フラストルの口が、開いた。

 

 

 今まで拘束の様に閉ざされていたフラストルの口部裏には、生物、特にヒトを思わせる剥き出しの白い歯と歯肉が存在していた。大量の唾液を分泌させるフラストルの口が更に大きく開くと、シャドーの首元、僧帽筋に当たる部分に噛み付いた。その衝撃は激痛よりも、自身の力が吸収されている事にあった。

 フラストルはシャドーの肉をかじる事で、シャドーの持つラフムとしての力を文字通り喰らったのだ。

 

「何、すんだよッ!」

 

 フラストルの顔面を手の甲で殴り付け距離を取ったシャドーは、未知の脱力感に襲われながらもフラストルを睨み続ける。

 

(アイツさっきバーンを吹き飛ばしてたが、こんな戦い見せられないってコトかよ)

 

 シャドーの力を食し、笑みを溢すフラストルに、もう仮面ライダーの面影は無かった。

 

「…最高だな、霧島楓! 霧島楓ェ! もうお前はヒーローなんかじゃ無い、俺の肉を欲して、暴れて、キモイ歯見せつけてニヤニヤ笑ってるお前は、もう仮面ライダーでもなんでもねぇ!」

「ただの、怪物だッ!」

 

 シャドーの宣言を聞いたフラストルから笑みが消える。が、それは絶望に打ちひしがれている表情では無かった。

 

「もう、良いんだ」

「良いんだよ、僕はもう」

「仮面ライダーじゃなくっても」

「お前を倒せるなら」

 

《Winning・Dogma》

 

 ウェアラブレスのグリップを3回押した最大解放状態。独断的な説、宗教における信条を重んじる態度を意味する語句であるが、この力におけるドグマとは、欲望に支配された我を貫く強大な武力を表している。

 

 シャドーの力、具体的にはその能力を手にしたウイニングは瓦礫の影へと姿を消し、影から影へと移りながらシャドーへと近付いていく。力を奪われたシャドーは回避不可能と判断し、今までに無い焦燥と絶望を感じた。

 

「―――死ねよ、悪党」

 

 シャドーへ向けた最後の言葉と共に、フラストルが膝を曲げたまま足を突き出し、回し蹴りの体制を取る。

 全身を回転させてその遠心力で強烈な蹴りを繰り出す。ウイニングの風力、そしてシャドーの持つ能力である視認妨害を使い回避が限り無く不可能な状態でその一撃を食らわせた―――筈だった。

 

 シャングリララフム、ティアマト三大幹部の一人である彼が、シャドーを庇いフラストルの必殺攻撃を受けていたのだ。

 エイドによって治療を受けていた他の幹部らよりも早く目覚めた彼は現状を把握した瞬間、シャドーが打倒される様子を容易に想像出来た。ここでシャドーを失うのはティアマトにとって良くない事であると感じたシャングリラは咄嗟の判断で彼の前に出ていたのだった。

 

 フラストルによる全力の一撃を受けたシャングリラは撃破には至らずとも、人の姿へと戻ってしまう。

 

「くっ、そおぉ…大幹部の僕がここまでやられるとはね…ウイニングが強化をしてくるとは……」

 

 息を荒げながらシャングリラがシャドーの方を見ると、彼は人の姿である黒木へと戻り、口からこぼれる血を手で拭って笑っていた。

 

「へっへ、助かっちまったぜシャングリラ…この恩はいつか返すかもな」

(こんな奴、ホントは助けたくなかったよマジで…早く報いを受けてくれないかな)

 

 心の中で悪態をつくシャングリラをよそに、黒木がその場から離れようとする。それに気付いたシャングリラは彼を呼び止めると、瓦礫の奥にいる大幹部ら、そして共に治療されていた長良長官を担ぐ。

 

「長良衡壱は恐らく敵との交渉材料になるだろう、皆も連れてアジトに行くぞ!」

 

 シャングリラが少年の風貌からは見受けられない力で長官とアガルタを肩に担ぐと、ユートピアを黒木に担がせてその場から退散する。

 

「待てぇぇぇぇぇ!!!」

 

 その怒号が、二人の足を止めた。

 だが、能力の最大解放を行ったフラストル、楓の力は果てようとしており、声を張って彼らを呼び止める事しか出来なかった。

 

「お前らはそうやってずっと…自分を正当化しながら、人を殺すのか!?」

「この人殺しめッ!」

「……」

 

 先程長官からも同じ事を言われたシャングリラの息が詰まる。自分達が罪の無い人を殺している事実は、しっかりと胸に刻み込まれている。

 何を口にしようとしたのだろうか、分からないままにシャングリラが言葉を返そうとする。と、頭上から冷やかな雫が落ちる。

 急に強く振り出した雨が体を伝い、濡らしていく。その雨がシャングリラの意識をこちらへと戻す。

 

「そうだ…あの人が約束してくれたんだ、人類の明日を、地球の存亡を」

「悪いね、ウイニング。シャドーに関しては用済みになったら君達の元へ突き出すよ。だけど、我々ティアマトの理想は、”彼”の望みは、絶対に譲れないよ」

 

 そう言うとシャングリラは黒木と共に大幹部らと長官を抱えてその場を去る。フラストルはその大口を開けながら咆哮し、雨に打たれ続けた。

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