「本日十時半時頃、バディ本部にラフムらが侵入し、施設が破壊されました。本部に残っていた筈のバディ職員、そして、仮面ライダーまでもが行方不明となっています…。現在自衛隊による捜索作業が継続されていますが、未だ誰も発見されていません」
十二月二日正午十二時十分。
東城大学、写真サークル室。
緊急ニュースの様子を映していたテレビを消すと、河森は溜息をついてから境を見る。
「境、ネットの様子はどうだ……」
「お察しね、みんなバディ全員が脱出したと予想して非難してるわよ。状況を説明する責任があるだとか、仮面ライダー不在でラフムをどう倒すのか、とか」
「確かに状況を話す必要があるのはそうだな…」
河森がブラインドを少し開いて窓を覗くと、大学の入り口には多くのマスコミが殺到していた。
「皆真実を知りたがっている、あそこで何があったのか、バディの人達はどこに行ったのか、そして…仮面ライダーは、これからもラフムを倒してくれるのか」
「今までだって仮面ライダーは私達を助けてくれたじゃない!」
「自分を直接助けてくれる訳じゃなきゃ人はライダーを信じ切れないのかもな。今だってラフムに襲われた人や犠牲者家族がライダーは非力だと発信しているし」
「でも、いるといないとじゃ全然結果は違う訳でしょ」
「自分や身内が救われなきゃ、意味は無いんだろうな」
熱くなる境を諭す様に河森が言うが、境の怒りは収まらない。
「一旦落ち着け、境。仮面ライダー…あいつらなら拠点が無くとも多くの人を助けてくれる筈だ。俺達はあいつらの為に出来る事を考えていくだけだ」
「今の私達に何が出来るのよ?」
「そうだな……」
河森が外の喧騒を再び見ると、サークル室を後にする。
「どこ行くのよ?」
「俺達写真サーは東大の情報屋だ、そんな俺らの言葉ならマスコミを聞いてくれると思ってな」
「まさか…門前の記者陣に突っ込む気!? …河森にしては面白い事考えんじゃん!!」
嬉々としながら言い放つと境も河森に同行し、門へと走る。
――
東城大学、正門―――通称「青門」。そこに集ったマスコミは、政府関係機関の依頼を受けての取材では無く、単なる野次馬精神でここまで来た者達である。
「写真サーの河森と境! こっちは面倒だから来るなよ」
群がるマスコミの対応に追われる教員の一人が河森らを見つけ、近付かない様に指示するが、二人は教員に一礼すると群衆へと突撃する。
マスコミは河森を発見すると、次々と彼の元へと集まる。かつて会見に現れた彼のライダーを賛辞する言葉は多くの人の心に残っている。
「バディの現状について何かご存じでしょうか!?」
「仮面ライダーとの関係は!?」
「あの会見はヤラセなんですか!?」
「バディの崩壊についてコメントを!」
次々と繰り出される記者らの質問に河森が耳を傷めながらも、高らかに叫んだ。
「仮面ライダーは! 今まで皆を助けて来ただろ!!」
その場が静まると、何の質問の答えにもなっていない事に河森が気付くが、どうでも良いと考えた。
多くの人が仮面ライダーに、人類の希望に疑念を抱いている。自分の言葉が届くかは分からないが、気持ちは全て吐き出したいと思った。
「仮面ライダーは、政府がラフムのことを公表する前から、ずっと戦い続けていた…皆の平和を守る為、あんなに恐ろしい怪物から逃げなかった…」
「ウイニングは戦いで大ケガを負っていた筈なのに、それでも戻って来てくれて、あのアントラフムを倒してくれた!」
「きっと皆応援していただろう、あの会見の時の様に!」
いつかの会見の時、ローズラフムと交戦するウイニングの姿を手に汗握って見つめていた事は記者らにとっても記憶に新しかった。河森の言葉であの時の思いが呼び起こされる。
「今は動向も見えず、何も答えてくれなくて怖いかも知れない…俺だってどうなるのか分からなくて怖い。それでも、仮面ライダーを信じて欲しい! 根拠ならある!」
「その根拠は?」
河森に同調する様に一人の記者が尋ねる。彼は先程までの河森を追求していた時とは違い、不安と期待に揺れる複雑な表情をしていた。気付けば、他の記者も似た面持ちで、河森の言葉に縋っている様だった。人の何かに頼るしか無い脆弱さを剥き出しにした様な姿に河森は少し恐れを感じた。だからこそ河森は仮面ライダーに希望を委ねる。彼らにとってはプレッシャーになるだろう。だけども、今、人々の不安を払うには彼らに託すしか無かった。
「根拠は、俺自身の信頼感とか友達だからとかじゃない。仮面ライダーは今までラフムと戦い、勝利して来た事だ。その中で犠牲者も多数出ただろうが、ライダーが戦っていなければその被害は更に深刻になっていた筈だ」
「ライダーには、信頼に足る結果がある。次も上手くいくかは分からないが、今までどんな苦難があっても立ち上がって来た。だから俺は信じる、あの強さを」
「皆、不安になっているだろうけど、どうか落ち着いて欲しい。きっと、仮面ライダーなら、バディなら、基地が無い位じゃへこたれない」
言い切った河森は、大きく息を吐くと、その場にしゃがみ込む。と、記者らが拍手をして彼を称える。
「今の話は全てカメラに収めた! 君はただの一般人だろうが、それでも、だからこそ、響く言葉がある筈だ!」
「ゆっくり休んでくれ、”信頼の青年”!」
信頼の青年? 河森はそのふざけた呼ばれ方に意義を申し立てたかったが、疲れてしまって言葉を返す気力も無かった。
境と教員らが河森に肩を貸すと、記者陣は足早にその場を離れていった。河森がインタビュー出来ない状態をある事を察し、まずは先程の彼の言葉を記事にする事を優先したのだ。
「お騒がせしました、大学の皆様!」
「二度と来んな!!」
教員らは憤りを露わにするが、河森の言葉を伝えてくれるなら今回は許してやる、とそれ以上記者らに言葉を浴びせはしなかった。
――
午後十七時四十三分。
御剣邸地下駐車場。
何台かの輸送車両が到着し、中から御剣家の使用人らと共に勇太郎が移送されて来た。勇太郎を含め多くのバディ職員がここへ運ばれて来たのはバディが崩壊した今仮面ライダーの所属は御剣家に移ると言う都合と、バディの報を聞き付けたメディアによる追求と捜索から身を守る為に所在が秘匿されているこの邸宅で保護しているのである。
ラフム特有の回復力で瞬く間に傷を完治させた勇太郎は使用人にバディを取り巻く現状について聞いていたが、大手メディアによる情報漏洩の抑止と、問題を重篤に受け止めない小規模メディアによる調査、そして日本政府による御剣家への追求、それらが同時に起こっていた。
「映画とかでやってる情報混乱とかって自分が当事者になると随分厄介な話に感じますね…はぁ」
勇太郎が冗談めいて答えるが、憂いた表情で溜息をついた。
楓がフラストルとしての姿を晒した時、自分の声が届かない所へ行ってしまったのだと、勇太郎は確信していた。彼と親友であるという事が自分の大きな原動力になっていた勇太郎の心は、楓との別れでひどく消耗していた。
勇太郎はあの時、楓は自分の呼びかけ弱さを乗り越えられると信じていたのだが―――。
”違うよ”
楓は、勇太郎が”期待”していたヒーローとしての姿を否定した。自分は誰かの為に戦っていたのでは無いと、己の心の醜さを説いた。
それを聞いた時、勇太郎は楓に悪を懲らしめる正義の味方としての在り方を押し付けて、彼の心中にある思いを知ろうとせずに自分が考えていただけの像で彼を見ていた事に気付いた。
(楓に全部の責任を押し付けた大人共と…
悔恨は募るばかりだが、案内されるままに御剣邸を進む。
「お久し振りです、バーン」
勇太郎を迎える吹雪に、彼は苦虫を噛み潰した様な表情を向ける。
「まだ何も整理出来ていませんわね…今日はお休み下さいませ、話は明日としますわ」
吹雪がそう伝えて
「楓は…見つかってないんですか」
「ええ。日も落ちて来たので捜索は困難になりましたわ。今は無理に動いて徒労に終わるよりも、明日に備えて休む事が大事だと思いますの」
「……ごもっともです、だけど…俺は一刻も早く、楓を…!」
そこまで言った所で言葉を押し込んだ勇太郎は、吹雪に頭を下げながら口を開いた。
「お嬢様、あなたに会ったその時から俺はずっと楓を助ける為に戦うと言い続けて来ました…それがこのザマ、俺は俺を許せてないんです」
「明日からの捜索、俺に行かせて下さい」