十二月三日、午前九時二十分。
御剣邸、応接間。
「おはようございます。
吹雪がそう語ると、そこに集められた藤村、大護、雷電、勇太郎は返事の代わりに相槌を打った。
「私達の当面の活動はバディと同様にラフムからの防衛を行いつつ、行方不明の衡壱、ウイニングの捜索です」
「使用人らの情報から衡壱はティアマトの幹部ら―――バミューダにより拉致された可能性がありますわね」
吹雪が手元にある藤村のレポートを読むと、推測を語った。彼女の開いているレポートは、昨日藤村がこちらに到着してから早急に書かれた物だった。そこにはライダーの戦闘時録られた映像と音声から得た情報が可能な限り詰め込まれていた。
「ウイニングは―――」
「そっちには載ってない筈です。録音録画の機能もあったライドツールはブッ壊れてしまいましたから」
勇太郎が伝えると、続けて楓の状況について知っている事を全て話した。
自分と共にライドツールを破損し、イートリッジのみその場で修復した事、
研究室に保管されていたウェアラブレスを楓が持ち出した事、
それを使い楓が”仮面ライダーフラストル”となり、黒木と交戦していた事。
「そう……霧島君がウェアラブレスを…」
敵から押収したそのアイテムの調査を主導していた藤村は口元に手を当て、深刻な表情を浮かべる。
「一刻も早く彼を見つけ出さないと、彼の精神が危険だわ」
「ええ、話には聞いてますけど、アレは人の欲求や本能を刺激してしまう物、でしたね」
「その通りよ、早急にウェアラブレスの廃棄をしないと」
彼女らの話を聞いて吹雪が頷くと、藤村のレポートを閉じ、勇太郎と目を合わせる。
「ウイニングの捜索はバーンが担当しますわ。ウェアラブレスを用いた戦士―――フラストルの制御の為にメンタルケアを主としたサポートを行って頂きます」
「それじゃあ俺達は今まで通りラフムの対処を行えば良いんだな」
雷電が返すと、吹雪は頷く。が、大護が挙手した後にその予定に異を唱える。
「ライダーじゃない俺がその予定に組み込まれてるかは分からないんスけど…俺にはやらなきゃなんねー事があるんすわ」
「俺の親父に会いたいんです」
えぇ、と吹雪が答え再びレポートをめくる。そこの考察節に書かれた課題の内容を見ると、武蔵博士に関する文章を発見する。
「武蔵博士が、貴方のお父様でしたか」
「知ってるんですか?」
「かつてよりあの方はライドシステムの技術奪取を目論んでいたと調査済みですの。先程仰っていたフラストルの力はバディが介在していない技術故、彼が開発した物である可能性が高い…とレポートにも書いてありましたわね」
「ええ、その為調査も兼ねて私も同行したいと考えています」
藤村は武蔵への同行を提案する。一方の武蔵はまさかついてくるとは思いもよらず驚いた顔を見せるが、自分が護衛出来る状況で敵地であろう場所に行くのは合理的と考え、同意する。
「お二人の気持ちは分かりましたわ、調査を許可します。その際の人員は5名以内に抑えて頂けると幸いです」
「そんなに人は持って行きゃあしませんぜ」
吹雪が頷くと、勇太郎らの今後の行動についてまとめる。
勇太郎は楓、長官の捜索と救出。
大護、藤村は雷電からの情報を元に武蔵博士のラボへの調査。
雷電及びバディ機動隊、御剣家使用人の一部はラフム撃退を行う。
「それでは、それぞれの行動を開始して下さい。ああ…サンダーは―――」
「一つ良いか、御剣当主」
雷電が吹雪の言葉に割って入る。
「ラフムの名前で呼ばれるのはあまり好きじゃねぇんだ。出来れば皆の事も名前で呼んでやってくれ…」
「…そうでしたわ、私ったら…皆様が戦士として戦う責任の為新たに与えられた名で呼んでおりましたが、必要はございませんね。配慮が足りておりませんでした」
「そうかしこまらないでくれよ、俺達なら全員、戦う覚悟は整ってる」
吹雪が皆の顔を見渡すと、全員が雄々しい眼差しを向けていた。
「勇太郎、雷電、大護、榛名。どうかご武運を」
――
午前十時八分。
御剣邸地下駐車場。
これより目的地へと向かう大護、藤村を雷電と勇太郎が見送る。
雷電から受け取った武蔵博士の居場所が指揮車両内のナビに送信され、運転を務める使用人がいつでも発車できる事を告げると藤村が先行して乗り込む。
「その…武蔵先輩」
雷電が大護を呼び止めると、少し視線を反らした後にゆっくりと口を開いた。
「武蔵博士は、アンタにとっては憎いかもしれねぇが…俺にとっては、家族がいなくなって、あんな組織に入った後も俺の事を見ていてくれたただ一人の人なんだ。だから…あまり手荒な事は……」
「しねーよ」
はっきりと言い切る大護に、雷電は目を見開いて視線を向けた。大護と武蔵博士との確執はかつて聞き及んだが、彼は家族を捨ててティアマトに従属した父親を許したのだろうか。
「…アンタは博士が憎いんじゃ……」
「憎くはねぇさ。アイツのやった事は許されねぇが、力だけじゃ解決しねぇだろ?」
「それに、雷電。お前と同じだ…アイツは、俺の親父だ…信じてやりたいんだよ」
押し黙る雷電の頭を、大護は軽く叩いた。
「任せろ、必ず連れて帰ってやる」
大護は不敵に微笑むと、藤村を追って指揮車両へと乗り込み、間も無く発進する。
指揮車両の姿が見えなくなるまで見送った二人はお互いの任務成功を祈りつつそれぞれの持ち場へと戻る。
――
十二月三日、午後十一時十六分。
楓は気付くと民家と思わしき場所の敷布団で眠っていた。
左腕の軽さに気付いて確認すると、イートリッジが装填されたままのウェアラブレスが枕元に置いてある事に気付き、素早く回収すると物音に気付いた為か
「あら、ようやく起きたねぇ」
安堵する様に言葉を放った老婦は楓の顔を見て微笑む。一方の状況を飲み込めない楓は今までの事を可能な限り思い出す。
黒木と戦闘した後、彼を追って楓は自らの足でここまで来たが、遠距離用の移動手段を確保していたティアマトに追い付ける訳が無く、この近くで力尽きて倒れてしまったのだろう。
「……ご心配お掛けしました。僕は大丈夫なのでお構いなく」
そう呟くと楓はその場を離れようとすると、老婦に制された。
「まだいて良いのよ? あんただいぶ疲れていた様だし」
「僕には倒さなくちゃいけない相手がいるんです」
老婦は楓の持つ端末に視線を移すと、心配そうな面持ちで楓の顔を見る。
「あんたが仮面ライダーなのは分かってるよ。でも、腹が減っては戦は出来ぬと昔から言うでしょうが」
そう言うと老婦は隣の部屋から皿に並べられた食事の中からおにぎりを楓に渡す。
「食っていきな」
「でも」
「食っていきな」
老婦の語気が高まるが、そこには優しさも感じた。その厚意は無下にしてはならないと訴えかける良心に従い、楓はいただきます、と一礼した後おにぎりを頬張った。
「美味いかい?」
「はい…美味しい……母の事を、思い出します」
今は亡き楓の母。彼女が生前作ってくれたおにぎりが、いつも楓を支えてくれていた。
そこには勇太郎もいて、父もいた。もう戻らない思い出、ラフムによって消えた幸せ。
あの日の惨劇さえなければ今でもずっと、母のおにぎりを食べられたかも知れないと考えると、自然と涙が零れて来た。
「アンタ…辛い事が、あったんだね」
「しばらく休みな。そんくらいの時間、あったっていいじゃないか」
老婦の優しい言葉に楓は、甘えてしまった。
例え現実から逃避する行動だったとしても―――。