十二月三日、午後十二時二分。
御剣邸内、駐車場。
藤村の連絡を受けた勇太郎が射出の準備を始める。その様子を眺める雷電は奥歯を噛み締めながらインカム越しに千歳に問う。
「ライドツール、まだ直らないんですか」
「すみません、こればっかりは…大急ぎで作業しているのであと二日後には完成します」
「二日後…そうすか」
それだけ聞いてインカムを切ろうとする雷電だったが、千歳があの、と続けた為その手を止めた。
「役に立ててないんじゃないか、って思っちゃいますよね」
「私は、仮面ライダー…霧島さんに助けられてから恩返しがしたいって思って今ここにいます。でも、今の私は藤村さんのお手伝いしか出来なくて、ずっと歯痒い思いをしています」
「俺も…元々ティアマトとしてやってきたから、少しでも罪を償いたい…でも、俺は仮面ライダーにもラフムにもなれねぇ」
「でも暁さんは人よりも秀でた身体能力が残っているじゃないですか! 今は他のラフムが出現した時の為に待機しているだけです!」
「そう言う千歳さんだってライドツールを修復出来る頭脳があんじゃないすか! 今だって俺達の為に作業を続けてくれてるし!」
お互いがお互いの言いたい事を言い終わると、同時に笑い出してしまった。
「二人して同じ様な事言って、おかしな言い合いしてしまいましたね」
「っすね…」
「とにかく、暁さんも、多分私も…ここには必要なんですよ。それだけで十分だと、私は思います」
「はい……千歳さん、ありがとうございます。何だか焦りが吹っ切れたっす」
「それなら良かったです。霧島さんみたいに、少しでも誰かの気持ちに寄り添えたらって思ったらつい」
「気持ちが楽になりました。ホントありがとうございます」
感謝を告げると、雷電はインカムの通信を切って駐車場を後にする。
(俺は焦っていた…次こそ俺が戦うだって息巻いてた、けど―――力不足だ。だったら今の俺に出来る事は…いつか来る俺の戦いに備える事だろ!)
――
午後十二時五分。射出完了後早くも茅ヶ崎へ着陸したバーンラフムは上空からも見えていた周りの被害に蒼白していた。
ハンドの攻撃範囲半径五百メートルの建造物は粉々に破壊され、巻き込まれた人々の殆どが死傷者となっていたのだ。
ハンドの起こす粉塵によって出現中心地の様子は見えなかったが、ライドサイクロンを駆り生存者の救出を開始する。と、早速巻き込まれていたであろう老爺を発見した。
「バディ機動隊の者です! ここは危ないから避難誘導します!!」
人の姿へと戻った勇太郎が老爺の手を取って叫ぶと、老爺はその前に、と目の前の倉庫を指差した。
「あそこに逃げ遅れたワシの家族がいるんじゃ、余裕が無い中ですまんが、一緒に助けてくれ!」
「…分かりました、急ぎます!」
予備のヘルメットを老爺に渡しサイクロンの後部座席に座らせた勇太郎は倉庫へと急いで突入する。
「…ここって……」
「勇太郎!」
自分の名を叫ぶ声に視線を移すと、大護と藤村が駆け寄って来た。勇太郎は二人と合流する為降車しようとした途端、後ろの老爺の言葉に足を止めた。
「―――大護」
一目散にサイクロンから降車した老爺は大護の名を呼ぶと走って駆け寄った。
「大護? 家族が残っているとは言ってたがこの爺ちゃんが……」
「ええ、恐らくあの方が武蔵博士…武蔵君のお父様でありティアマトの研究者よ」
勇太郎の呟きへ藤村が言葉が返す。二人が見つめる親子の対面は、一般的な物とは少し違っていた。
「親父、か……ここにいた連中は戦いに出ちまったぜ」
「そうか、パンドラを
「だったら何だ、アンタをこの手でとっ捕まえられるまたと無い仕事だ。悪いか?」
「いや、こうなるのは分かっていた。今の状況さえ終わればワシをどの様にしてくれても構わん。ワシの研究は金剛に託してあるから今すぐ殺してくれても構わんぞ」
そうかい、と呟いた大護は素早い手付きで老爺―――武蔵博士の首元へと手を突き出す。
「武蔵君ッ!!」
藤村が叫ぶ頃には、大護の手は武蔵博士の胸倉を掴んでいた。
「殺さねぇよ…こんな所じゃな。だが、俺とお袋を置いてどっか行っちまったアンタの罪は償って貰う」
「勿論じゃ、自分の重ねた罪は、自分が一番分かっておる」
武蔵博士の胸倉から手を離した大護は博士から視線を反らす。
この状況に心を痛めながらも藤村は勇太郎に指示を下す。
「ここで博士と共に潜伏していたラフム一体と…本物の藤村金剛と出会ったわ。説明は省くけど彼らはあそこで暴れているコードネーム、ハンドラフムと戦っている筈よ。私達は避難を済ませるから火島君は彼らに加勢して頂戴」
大きく頷いた勇太郎はハンドラフムの元へと向かう。が、サイクロンのハンドルに手を掛けた所で振り返って武蔵博士を呼ぶ。
「博士! バディにはアンタを待ってくれているヤツがいます! だから、生きて下さい!」
「それと大護さん! …アンタの家族、守ってやって下さい……俺達の分まで!!」
勇太郎はライドサイクロンに
――
時を同じくして、ハンドの元へと到着したオイオノスとボマーは、ハンドの動きを若干ながら食い止める者の姿を補足した。
左腕に取り付けられた端末からそれがフラストルである事は分かった。
「アレハ誰ガ…」
「多分霧島君だろうな、ウイニングの。とにかく加勢するぞ!」
フラストルの背後に迫ったハンドの腕をオイオノスが蹴り飛ばす。が、右腕の改造部分以外は人間程度の能力しか無いオイオノスの攻撃は弱く、弾き返された。
「ぶべぇぇぇ!」
唐突な戦士の乱入に戦い続けていたフラストルは困惑する。
「アンタら、一体何者だ!」
「俺達は加勢しに来た仲間って所だ」
「今アンタの攻撃が効かなかったのを見た、危険だから下がってて下さい!」
「俺はまぁアレだが、相棒は力になるぜ」
オイオノスが視線を移した先にいるボマーは手から放たれる爆発で何本も伸びる腕をまとめて爆破し切断している。
「ここは住宅街だ! 一人でも多くの手数で敵の手数を上回るぞ!!」
そう告げて何とかハンドの中心部へ向かうオイオノスを見てフラストルも彼を追い掛ける。
《Pandora・Enigma》
オイオノスが力を一段階解放させると、その全身を邪悪な力を秘めた粒子が包む。それと共に僅かだが強化され、先程まで弾き返されていた腕を受け止めていなせる程になっていた。
「この力…成程、速攻向きじゃねぇ」
そう呟くとオイオノスは再びウェアラブレスのグリップを押す。
《Pandora・Enigma》
再度行われる身体強化。遂に腕を跳ね返せる程の力を得たオイオノスだったが、度重なる強化はフラストルの持つ副作用を強めていく。
(脳がざわついて仕方がねぇ・・・俺が天才じゃなきゃ耐えられなかったぜ)
平静を保ちながらオイオノスは右手指を数字の”四”を示す様に親指以外の指を立てると高らかに叫ぶ。
「カセット、パワー!」
すると右腕が瞬く間に変形し、三日月状の刃が手の代わりに突き出される。鋭利なその刃、”パワーアーム”で腕を切り裂くと大振りなハンドサインでフラストルを手招く。
「俺とボンバーが道を作る! そっから君はハンドの中心部を狙え!」
フラストルが頷くと腕が迫る中を駆け抜ける。ボマーの爆発とオイオノスの斬撃が腕を食い止め、その間をくぐり抜けたフラストルがハンドの中心部、本体を捉えると、その大口を開け放ちながらウェアラブレスのグリップを二回押した。
《Winning・Stigma》
「うおおおおおおおッ!!」
獣の様な雄叫びと共に、フラストルの拳が振りかざされた。