仮面ライダーインテグラ   作:御成門バリカゲ

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#59 愚風

《Winning・Stigma》

 

 ウイニング・スティグマ。

 ”スティグマ”とは汚名や烙印を意味するが、フラストルの放つその技は皮肉にもスティグマの持つネガティブな意味にそぐう程の凶悪な印象を見せる。

 

 フラストルの拳から放たれた黒い粒子は鋭く尖り、ドリルの様に回転する。その脅威の貫通力でハンドラフム本体の腹部を貫通すると、先程まで伸びていた腕が全て消滅し、活動を停止した。

 

 フラストルに労いの言葉を掛けようとしたオイオノスだったが、目の前の光景を見て絶句する。

 大きく口を開いたフラストルがその場に残ったハンドの体を捕食し始めていたのだ。腕を千切り、腹を裂いてハンドの全てを平らげようとしているその醜悪な姿には、かつて仮面ライダーウイニングとして戦っていた面影は無かった。

 オイオノス―――金剛は直感的にこの状況を続けさせてはならないと察し、ボマーを呼んでフラストルへ攻撃を開始する。

 

「悪く思うな霧島君! これ以上食ったら…ハンド(その人)は帰ってこれなくなるッ!!」

 

《Pandora・Enigma》

 

 オイオノスは更なる強化によって暴走するフラストルを引き剥がす。

 

「Dia、コイツハ何ヲシテタンダ?」

「恐らく霧島君はフラストルの力に飲まれて暴走している。が…ラフムを食べようとするのは何だ……?」

 

 二人が会話していると、フラストルがいた方向からハンドラフムと同様の形状を成した無数の腕が伸びて来てボマーを掴む。

 

「Noooooooo!!」

「ボンバー!」

 

 パワーアームで腕を切り裂こうとするオイオノスだったが、腕が高速で縮んでいき、攻撃をかわされる。

 腕が縮んで行った先には、縮む途中で地面に叩き付けられた振動によりグロッキーに陥ったボンバーを鷲掴みにするフラストルの姿があった。

 

(食べたラフムの力を自分の物にしている…!?)

 

 オイオノスが驚愕している間にフラストルはボンバーの首と肩の間にある筋肉に噛み付こうとする。相棒を救出出来なかったオイオノスはフラストルの元へと走り出しながら己の迂闊さを呪った。

 

「ボンバァァァッ!!」

 

 友を傷付けてしまう事が確定した状況の中でオイオノスは絶叫する。が―――。

 

 

「――――ッッ!!」

 

 ボンバーを喰らおうとしていたフラストルの背後から爆炎が上がった。

 爆炎の奥に、バーンラフムが立っていた。

 

「……お前を傷付けるのは、生まれて初めてだったな…楓」

 

 バーンの瞳からは一筋の涙が零れていた。

 

 彼の元へと辿り着いたオイオノスはボンバーを回収しつつバーンの姿をまじまじと見る。

 

「君は…」

「バーンラフム、火島勇太郎です。あなたがたの事情は聞いていましたが…何で楓が、誰かの叫びを無視してこんな事を…してんですか」

「……」

 

「なぁ、どうしてだよ」

「楓!!」

 

 尚も捕食活動を再開しようとするフラストルへと問うバーンだったが、答えは返って来ない。

 

「どう言う事なんだよ楓!」

 

 フラストルは呆気に取られる二人の隙を突いて背中から無数の腕を生成し、拘束する。そしてその間にオイオノスからボンバーを奪い、その体を喰らい始める。

 

「やめろ…楓……やめてくれ」

「やめてくれぇぇぇ!!」

 

 親友の目の前で捕食を繰り返すフラストルの姿にバーンは涙を振り撒きながら心からの叫びを放つ。するとフラストルの動きが一瞬止まり、腕による拘束も緩む。

 

「今だッ!」

 

《Pandora・Dogma》

 

 電子音声と共にオイオノスが右人差し指を”一”を示す様に突き出す。

 

「カセット、ロープ!」

 

 右腕が変形し、鉤爪上のフックが付いたものとなる。大きく振りかぶってフラストルへ向け振るうと、フックがジェット噴射され、内蔵されていたロープが伸びていく。

 フックがフラストルの体に引っ掛かったのを確認すると、自動的にロープが引き戻され、その反動により高速でフラストルとオイオノスの距離が縮まる。

 

「済まない、荒療治だが…!」

 

 ここまでパンドラ・エニグマによって蓄積されて来たオイオノスのエネルギーを全て込めた拳の一撃がフラストルの頬に殴打される。

 オイオノスによる打撃によってフラストルは完全に意識を失い、その場に倒れ込む。楓としての姿を取り戻した彼の体をすかさず支えたオイオノスはバーンへと向き直す。

 

「火島君、本当にすまない」

「いえ、楓を止めてくれてありがとうございます」

「取り敢えず彼が大人しい内にバディに連れて行っちゃうか」

 

 楓からウェアラブレスを没収したオイオノスは変身を解除すると丁度到着した御剣家の護送車を見つける。

 

「おっ、流石我が妹。ハンドの護送用に車を手配してくれたみたいね、しかも霧島君も一緒に乗せていけるぜ」

 

 楓の暴走が収まった事でバーンは安堵し、変身を解除する。しかし、結局楓と何も会話出来ないままである事が心残りだった。

 

(楓、帰ったら、お前と沢山話したい…お前の話を聞きたい)

(だって、まだ、きっと…お互い知らない事があるだろ)

「…楓」

 

 勇太郎がその名を呼んだ瞬間、護送車が吹き飛んだ。

 

「―――!?」

 

 周囲の人々は唐突に発生した目の前の現象に脳の処理が追い付かず愕然としていたが、勇太郎と金剛は瞬く間に走り出していた。

 

「変身ッ!!」

 

 心の奥から湧き上がるその言葉を叫んだ勇太郎―――バーンラフムは落下してくる護送車をジャンプしながら受け止め、片手で炎を発射しその噴射によるエネルギー反作用でゆっくりと降下する。

 一方の金剛は先程も使用したロープアームを変身せずに使用し、逃げ遅れた御剣家の使用人ら、ハンドを拘束してそのまま引っ張る。彼らがいた場所に丁度護送車が降下していく。無事を確認してバーンは勇太郎の姿へと戻る。

 

「危なかったべ~」

 

 安堵する金剛に対して勇太郎は焦りながら辺りを見回す。先程から楓の姿が見えない。

 ラフムの視力を最大限に発揮し周囲を見ると、意識を取り戻したのか立ちすくむ楓の姿を捉えた、が。

 

「―――楓じゃない」

「何だ、お前」

 

 勇太郎の言葉に楓だと思わしき人物は目を覆って笑い始めた。その笑い声は楓とは思えない、薄気味悪い物であった。

 

「くくく…お前、霧島楓ンとこにいたガキ……ようやくご対面だな」

「お前…一体……」

 

 勇太郎は困惑しながら問い質すが、一拍置いて彼の正体に気付いた。

 

「…まさかッ!!」

「覚えていたか、そうだ、俺だよ…お前らの仇敵、全てを奪った張本人」

 

 あの日、霧島家と共に勇太郎を惨殺した、全ての終わりと始まりをもたらした最悪のラフム。

 

「俺は霧島楓にあの時”喰われた”。が…それがようやくコイツの体を奪ってここまで這い出て来れたぜ」

 

 そう言うと、楓の意識を奪った彼は大きく深呼吸をして、曇り始めた空を仰ぐ。

 

「俺は”ウインド”」

「本物の…風のラフム」


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