仮面ライダーインテグラ   作:虎ノ門ブチアナ

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#60 深層

 十月六日、午後七時二十八分。

 東京都文京区本郷。

 

 ウインドはティアマトにラフムへの覚醒を見込まれた殺し屋であった。

 その強大な力の活用法としてティアマトからの依頼を受けるウインドの仕事を、組織は”選定”と呼んでいた。

 選定とは、人を殺害し、その中にラフムがいれば高額な報酬でティアマトに協力を依頼する作業を指していたが、ウインドは人を殺害したという事実を隠す様な組織の言い回しが気に食わなかった。殺しは殺し、正当化はされない。それこそが彼の信条であった。

 そんな信条を買った数人の舎弟を従えてウインドは、今後邪魔となる政府関係者の暗殺を行っていた。これは気の狂った大幹部連中の様に万に一つのラフム誕生には賭けず、ティアマトにとっての利潤を高める事こそが報酬を貰うなりの義理であると考えた上の行動である。

 

 その日のターゲットは政務担当首相秘書官、即ち総理大臣の秘書であった。

 ターゲットである霧島は、家族には前職であった記者と職業を誤魔化す事で政府絡みの事件に巻き込まれない様にしていたものの、そんな事はウインドにとってはお構い無しだった。

 二人の舎弟を引き連れ、怪物の姿を晒した彼らは平穏な家庭と共に住宅を土足で踏み荒らす。

 護衛が何人かいたが、ラフムの力を以てすれば一瞬で殺害した。

 邪魔者も、ターゲットも、構わず殺す。目撃した若者らも殺す。そうするればいつもの様に依頼は完了する、筈だった。

 

 信じてもいなかった”万に一つ”が、目の前で巻き起こった。

 霧島家の住人の一人が、確実に殺した筈の青年が立ち上がっていたのだ。

 家族を殺された者の執念は計り知れない事を経験上直感していたウインドは距離を置いて自らの操る爆風で彼の動きを止めようとした。だが、怪物の姿へと成り果てた青年にそんな攻撃は意味を為さなかった。舎弟らは死に損ないだと彼へと攻撃を仕掛けてしまい、ウインドが制止する暇も無く不用意に近付いた舎弟らは、瞬く間に体を引き裂かれていた。

 

「どうして皆を殺したんだ……」

 

 禍々しい程の憎悪と怒りが混じった声色でそう呟いた青年だった怪物(もの)は、そう問い掛けるが、答えは求めていなかった。

 反撃をしようと更に爆風を与えて風圧で彼の体を引き裂くが、瞬間的に裂傷を回復させた彼には小細工など利かず、瞬きの内に全身を殴打されていた。痛みと苦しみで意識が遠のいていく。

 

――

 

 気が付くとウインドは自身の全てを青年に”喰われていた”。

 何も見ていなかったのにそう断言出来るのは、彼の深層意識に自身の精神が結び付いた事で彼の記憶や認知と接続され、青年―――霧島楓の見て来たモノ全てを閲覧出来る様になっていた。

 楓の情報を元にウインドはここから出られる可能性がある事、そして、彼の精神を(むしば)み操る事さえ出来ると考えた。

 

 加えて、楓はウインドの有していた風の性質を我が物とし、風の能力を持ったラフムとして扱われている。風は自分の専売特許であったとそう思っていたウインドにとってはこれ以上無い不快な状況であった。

 楓から風の力を取り戻す、その決意こそがウインドの計画への強い後押しになったと言っても過言では無かった。

 

 それからの行動は自ずと決まっていた。楓の深層心理に潜む事となったウインドは”彼の秘められた本能”として楓の暴走を誘導し、精神の衰弱を狙って常に彼の心を疲弊させていった。

 時に楓の中に住まう怪物として、時にフラストルによって引き出された隠されし闘争本能として、彼の精神に干渉し、彼の心の隙を伺った。

 

 しかし、彼の計画の大きな障壁となる問題が一つあった。彼の精神に直接語り掛けて来る存在が他にもいた事だった。

 その存在の干渉によりウインドは、ラフム事変の際に楓は昏睡状態であったにも関わらず行動を起こせなかった。結果、楓が体を回復させ黒木を撃破するまで指を咥えて眺めているしか無かった。もしこのまま彼の精神に干渉が出来なくなってしまえば今までの計画は全て水泡に帰す。

 焦燥の中、ウインドには楓に干渉する他の存在が離れるまで待つ事しか出来なかった。

 

 長い期間彼の中に潜む事を覚悟していたウインドだったが、思っていたよりも早くその好機は訪れた。

 楓の精神に干渉していた存在が、また別の存在による妨害を受け力を弱めたのだ。

 更に、フラストルの持つデメリットによって楓の思考能力が低下し、隠されていた本能としてウインドがその力を掌握するタイミングが急激に増大した。

 そして、ハンドとの戦闘において遂にウインドは楓の精神を奪った。

 自分を正義の味方だと信じて戦って来た青年の闘争本能を利用し、彼が望まない程の暴走を引き起こして彼を消耗させた。醜い戦い様こそが自分の本質だと彼に囁き続け、結果彼は自分の体を本能に明け渡したのだ。本能だと思っていたモノが精神に干渉して来た他者だと気付かずに。

 

――

 

「思ってたよりも短かったなぁ…ま、それだけ霧島楓の心は弱かったって事だろ」

 

 ようやく自分の意思で体を動かせる様になり清々しい気持ちで満たされたウインドは、楓の声でそう語った。

 本来ならば楓を装って行動する事で多くの混乱を招く事が出来たが、そうした利用法を失念してしまう程にウインドは体を渇望していたのだ。手指が自由に曲がる感覚の久しさにウインドは恍惚すら感じていた。

 

「確か霧島がバディに見つかった時、家族の遺体と俺の舎弟しか見つからなかっただろう? それはコイツが俺を喰っちまったからなのさ、舎弟共は運良く見逃してくれたみてぇでホッとしたぜ」

「喰った…? 楓が……お前みたいな下の下の下衆を?」

 

 悠長に解説するウインドに勇太郎が言葉を返す。彼がウインドを指して言った呼び名にウインド本人は溜息をつく。

 

「言ってくれるぜ、”勇太郎”?」

「楓の声で…俺を…」

 

「呼ぶなァァァァァァッッ!!」

 

 今まで見せた事の無い剣幕でウインドへと掴みかかろうとする勇太郎だったが、突如発生した気流によって返り討ちにあってしまった。

 

「この俺のアイデンティティ、風の力を取り戻せばこっちのモンだ。後はしばらくコイツの体で遊ばせて貰うとするか」

「待てッ! 楓を返せッ!」

「くくく…じゃあね、勇太郎」

 

 楓の声を真似るウインドに勇太郎は悲しみの余り全身から炎を放つ。しかしウインドは自らの風でそれを弾き、気流を使ってその場から高速で退避した。地面を何度も叩き付けて手から血を流し続ける勇太郎が再び空を仰ぎウインドの姿を探す頃には既に彼はどこかへと消えてしまっていた。

 その場で四つん這いになったまま呆然とする勇太郎を金剛が肩に担ぐ。

 

「ボンバー、勇太郎くんを連れて御剣家へ戻るぞ」

「Oh! windハドウスルンダヨ!?」

「今はヤツの場所が捕捉出来ない、御剣家使用人の皆様に任せて俺達は体制の立て直しに専念するぞ」

「勇太郎ノ起コシタfireハ!?」

「自然が鎮火してくれる」

 

 そう言って金剛が空を見上げると、水が滴って来た。雨が降り始めていた。

 ボンバーは眉を潜めて無残に破壊された街を見渡すと、目を背ける様に護送車両へ乗車する。勇太郎を担いだ金剛、使用人らが乗車し終えると、静かに発進させた。

 

 辺りはハンドの攻撃、ウインドの暴風によって元の見る影も無く破壊されており、到着した消防、救急、警察、自衛隊ら、バディ機動隊員による救出、捜索活動が行われていた。

 ブルーシートの上に並べられた遺体の傍で泣き崩れる人々の姿、車越しにでも聞こえて来る負傷者の痛みに悶える声、遺族らの苦しみと悲しみ、怒りが混じった心からの嘆きが金剛の目と耳にこびり付いた。長い月日を経てようやく出て来た外界は、金剛の力不足を直に突き付けている様で辛かった。

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