仮面ライダーインテグラ   作:虎ノ門ブチアナ

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#66 悪意

 午後十七時ニ十分、静岡市葵区御幸町。

 ライダーらの到着を確認したウインドは慌てながら避難者に紛れ街を奔走する。

 

「やっべぇやべぇ…アイツら来んの早すぎだろ、見つからねぇ様にさっさとズラカらねぇと…」

「まぁ黒木もこっちに向かってるみてぇだし任せるか」

 

 そう言いつつも脱出を試みようと急ぐウインドは道中で車に乗り込もうとしている男性を見付けるとすぐさま駆け寄る。

 

「すみません、バディです! ここから先は車両で混雑している為通ろうとすると止められてしまいます! ここは僕達に任せて徒歩での避難をお願いします!」

「おお、あんたテレビで見た事あるよ、仮面ライダーな。頼む! 頑張ってくれよ!」

「はい! あなたもここからすぐに逃げて下さい!」

 

 そう言って男性を車から遠ざけると、鍵が掛かったままの車へ乗り込みエンジンを起動する。

 

「チョロいもんだぜ、霧島は有名人だもんなぁ、アイツの皮被れば大抵言う事聞いてくれるぜ」

 

 ウインドは楓の姿で醜い笑みを浮かべると、そのまま車に乗って街から脱出する。勿論先程の混雑情報は嘘である。

 車を入手した事で長距離移動手段を確保したウインドはそのまま国道1号線から南方向へ進み、目前に見える駿河大橋へと向かう。―――が。

 

 

 大きな衝撃と共に車体が揺れ、以後動かなくなった。異常に気付いたウインドはすぐさま車から降りると、飛行するバイクにまたがったバーンがこちらへと突っ込んで来ていた。

 

「!! ちくしょおおおおッ!!」

 

 全力の絶叫と共にウインドラフムへと変貌すると、風の性質によって強力な突風を生み出し、バーンの突撃を間一髪で防ぐ。

 

「何でここにいんだよ、仮面ライダー!!」

「そりゃあよ、お前の中(そこ)に楓がいっからだ!!」

 

 怒り心頭のバーンは自らの拳と平手をぶつけ合わせて組むと、全身から炎を噴出させる。

 

「しつこいぜオメーら…だが今回も逃げさせて貰うぜ」

 

 同じ性質を持っていた楓のウイニングラフムに似て非なる禍々しい姿の異形は胸の前で腕を交差させた後、それを振りかざす様にX型の軌道と共に突風を巻き起こす。今までとは比べ物にならないその風を受けバーンとバットは後方へ吹き飛ばされる。

 彼らが土埃を掻き分けながらウインドの姿を追うが、目の前の光景を目の当たりにし、彼の追跡が困難であると悟った。

 先程の風の力によって駿河大橋は大きく分断され、ラフムの跳躍力を以てしても飛び越えられない程の距離に及ぶ崩落を起こしていた。

 

「ちくしょう、風露さん! ライドサイクロンで奴を追います!」

「ですが、当のサイクロンが見当たりません!!」

 

 思わずバーンがは!? と声を上げてしまう。確かに先程まで付近に置いてあった筈のライドサイクロンがどこにも無い。辺りを見回していると、頭上から機械の部品が降り始めていた。

 

「! …まさか」

 

 バーンとバットが上空を見上げると、ウインドの突風によって打ち上げられたサイクロン二台が落下して来ていた。ウインドはあの瞬間に橋を破壊する事に加え、若干弱い力で二人を吹き飛ばし、その力をブラフにする事で更なる強風でサイクロンを遥か上空へと破壊しながら打ち上げていた事に気付かせなかった。

 あまりの器用さにバーンは気味が悪いとさえ思った。

 ライドサイクロンはその耐衝撃性によって通常は100m程上空から落下しても無事な程の強靭さを誇るが、ウインドはそのスペックの高さを楓の意識から認知していた。故に風を器用に操作して細かい部品を分解して脆くしてから衝撃で破壊する事で自分の逃亡をより確実な物とした。

 

「アイツを追えねぇのかよ……楓、楓…」

 

 自らの無力さに打ちひしがれる勇太郎だったが、混乱する状況は彼に悔恨する時間すら与えなかった。

 今度は雷電から連絡が来る。

 

「先輩、ウインドは!?」

「すまねぇ、逃げられた。そっちはどうだ?」

「ヤバい、黒木は正直三人じゃどうにもならねぇ、願わくばこっちに戻って来て欲しいっす!!」

 

 それを聞いたバーンは御幸町方向へと一目散に走り出す。

 

「勇太郎様、ライドサイクロンが無い状態でどうするおつもりですか?」

「フロッグフォームでアイツらのとこまで行くんすよ! 風露さんは飛べたりしませんか!?」

 

 バットが頷くと背中から翼を展開し、目標地点へと先行する。

 

「流石だぜ師匠!」

 

《Frog》

《Form・Change・Frog》

 

 勇太郎はバーン・フロッグフォームへと変身を完了すると全力の跳躍力で街を飛び抜けていく。

 

「ウインドの分まで黒木をブン殴ってやるッ!!」

 

――

 

勇太郎らがシャドーの元へ向かう一方、霹靂らシャドー交戦班は敵対するシャドーラフムの強さに圧倒されていた。

 

「どうしたよ仮面ライダー、そんなモンなのかよヒーローってのはァ!?」

 

 シャドーの性質によって瓦礫の影の中を行き来して相手の死角からの攻撃を続ける。

 死角を利用する姑息な手に気付いたオイオノスは敢えて背中を見せて隙を作りながら油断させた所を襲撃する。

 

「姑息には姑息だヨ!」

「カセット、スイング!」

 

 右手指をピースする様に立てたオイオノスの右腕が可変し、トゲの付いた鉄球となる。ロープで繋がれたスイングアームを伸ばす事無くシャドーへと殴り付けると、不意を突かれた彼はその場で転がる。

 

「ぐおおお!!」

「お前のやって来た事の報復だ! 我慢しなさい!!」

 

 痛みに悶えるシャドーの耳に入ったその声に彼の動きが止まった。急に痛みを訴える声を止めた彼の異様さにオイオノスらは警戒する。

 

「お前…藤村金剛、か……」

「…そうだが、なんだよ!?」

「……藤村金剛…ハハ」

 

 かつてシャドーは自らを藤村金剛と名乗り行動していた。それが何か特別な意味を持つ事、その名を持つ本人と今相対している事。それらが尋常では無い状況になりつつあるのは想像に容易い。

 悪い予感を覚えた雷電はサンダーフォームの持つ雷の性質を最大解放する。

 

《Thunder…Impact!!》

 

「みんな逃げろ!」

 

 雷を地面へと放出し、シャドーに最大電圧の攻撃を食らわせる。通常のラフムならばあまりにも強力な感電によってすぐさま気絶するだろう。

 しかし、シャドーは霹靂最大威力の攻撃を以てしても倒れない。何故ここまでの力を持っているのか、そうシャドーに問いかける様な顔を全員が見せていた。

 

「俺の強さに驚きかよ、カス共」

「強さの理由はつまり”執念”」

 

「藤村金剛…お前が俺の夢をブッ壊したんだよ。お前があの時武蔵の兵器開発プロジェクトに参加しなけりゃ俺は…俺は……」

「俺はもっと人間をブッ殺せる兵器を作れたのによォォォォォォォォ!!!!」

 

 シャドーの絶叫が戦慄を呼ぶ。

 黒木(こいつ)はただ殺戮の事しか考えてない。理由なき悪意に金剛は怖気が立った。先日目の当たりにしたラフムによる人的被害、悲しみと死だけが残る最悪の空間を思い出す。

 

「どうしてそんな奴に…そんな奴に藤村博士の名前を使われなくちゃいけねぇんだよ!?」

「そりゃ報復だろ、藤村金剛が人類にとって最悪の人間だって事にしたかったんだよムカつくからさ」

 

 黒木の言葉の一つ一つが雷電、そして金剛の心に(くさび)を打つ様に刺さっていく。

 ―――ウェアラブレスは装着者の本能を刺激する。それは勿論オイオノスにおいても同じであった。ラフムとしての力が一部に集約されている為にフラストル程意識が持っていかれる事は無いが、強い感情を増幅させていくのは明らかだった。

 そして今、金剛の感情は強くなっていき、本能のままに言葉が溢れ出る。

 

「シャドーラフム……お前を殺したい気持ちでいっぱいだ」

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