”殺す”なんて言葉、容易く使って良い物では無い。
ましてや人の死を目の当たりにして命を軽んじる様な発言など、あってはならないだろう。
しかし、彼は、藤村金剛は口にした。
「お前を殺したい気持ちでいっぱいだ」
それはきっと金剛自身が隠していた本心。ウェアラブレス、フラストルの力は人の隠された気持ちを押し出す。
「あーあ、あの天才クンも
殺意を向けられた当の本人であるシャドーは余裕の笑みを浮かべると再び影に潜む。
「カセットッ! ドリルゥゥゥッ!!!」
右腕の手の平を突き出して”五”を表すと工具のピンバイスに似た細長いドリル状へと可変する。それにより周囲の瓦礫を破砕すると共に距離を置く事で周りに開けた空間を作り出す。これによりシャドーが入り込める影を絞り込んだ。
が、既にシャドーには無効であった。
「頭に血が昇るとバカになるの分かるぜ…」
「夜は暗いから、どこ行ったって影だろ」
今は夜間であり、加えて破壊活動により電灯は消え光源は月のみであった。
「全然見えてねーじゃんかよ金剛クン」
「何もかもよォ!!」
シャドーがオイオノスの背後を取る。
《Thunder・Attack》
霹靂の能力解放による雷光で周囲から影を奪う。
しかし、遅かった。
影から這い出たシャドーの鉄拳はオイオノスの後頭部を捉え、振りかざされていた。
頭部に与えられた衝撃は三半規管を刺激し、平衡感覚と共にオイオノスの意識を奪う。
「あれ、もっとバカになっちまうかな? まぁさっき殴られた分って事で」
倒れたオイオノスを足蹴にすると残ったボマー、霹靂を見つめる。
「よくもDiaを!」
友の負傷に激昂するボマーだったが、霹靂はそれを制止する。
「能力の相性は俺達が有利だった筈なのに現状不利になっちまってる…パワーで負けてんすよ」
「今の俺達じゃ、勝てない」
霹靂の判断にシャドーは拍手する。
「懸命だぜサンダー、今は大人しくしていろ、ウインドから脱出したと連絡があれば俺もここから離れるからよ。殺さないだけ有情だと思えよ?」
「…悪いな黒木。今の俺達じゃ勝てないってのは、さっきの話だ」
そう告げると霹靂はライドシステムによって手元にボルトリガーを呼び出していた。
「ボルテックスなら勝てるぜ」
《Voltex》
ボルトリガーから響き渡る機械音と共に霹靂はベルトに装填されているブートトリガーを外して、その部分へとボルトリガーを差し込む。そしてボルトリガーの引き金を引く事で強化形態へと変身する。
筈だった。
「ぐおッ!?」
激しい光と雷が霹靂を包み、雷の性質を持った彼ですら耐えられない程の感電を起こす。
苦しみに悶える霹靂が体全体である予感を感じ取る。
―――サンダーラフムへの変貌。
かつて西荻窪駅周辺にて起こしてしまった自分の力の暴走。そのトリガーは黒木によるサンダーイートリッジのエネルギーを直接与えられた事だった。
ダイレクトに注入されるサンダーの力に呼応して暴走を引き起こしてしまう事をようやく認識した雷電は身の危険を察知しながらも身動きを取れなくなっていた。
「何ガ起コッタ!?」
「ボンバー先輩…アンタの力でボルトリガーを爆破して…くれ」
苦しみに耐えながら指示する雷電の願いを聞き入れたボマーがその能力でボルトリガーとロインクロスの接合部を爆発させて無理やり外す。
ボルトリガーからの送電が無くなった事で楽になった霹靂だったが、その負荷によりライドシステムは機能低下し、戦闘不能になってしまった。
「あ~滑稽、頑張った結果逆にピンチになってるじゃないか、サンダー」
「俺をその名で呼ぶな!」
「今の内に沢山煽っとこ。お前はサンダーって名前を嫌うがお前自身の罪はいくら否定しても無くならないからな」
「人殺しの手助けをした、それで金も貰ってた、今更人の命を守ったって無意味なんだよ。命を奪った分今度は助けるとか言うが、それで今まで奪った命は戻ってくんのか?」
霹靂は何も言い返せない。そしてそれを良い事にシャドーは笑いながら彼の生き様を否定する。
「Shut up!!」
ボマーの怒号にシャドーは口をつぐませる。
「命ハ元ニハ戻ラナイ、ダカラ戦ウンダ! オ前ミタイナMather Fac〇erニ殺サレル前ニ!」
「人殺シガThunder Boyヲ笑ウナ!!」
ボマーの怒りに呼応して全身から粒子が飛散して体全体に大きな力を滾らせる。
それと同時にシャドーはかつて長官に言われた”人殺し”という言葉を思い出していた。あの時の長官から放たれたプレッシャーを思い出し、恐怖しつつもそれを認められない気持ちがぶつかって心が揺さぶられる。
「うるせぇ! 裏切者が正義の味方になんてなれると思うな!」
「Shut up! Dia's kindness in forgiving me for the mistakes I made, even when she saw her own lost right arm, changed me!」
「You will never understand! You will never know human kindness or the value of being alive!!」
粒子を撒き散らしながら走り出したボマーは全身を発光させるとシャドーに組み付く。
そして、一段と強い発光の後に大爆発を起こした。即ち自爆したのだ。
「…先輩」
雷電が爆風に吹き飛ばされながらも彼らがいた方向を見ると、決死の自爆により人間の姿へと戻ってしまったボンバーと、光によって逃げ場を失った為爆発の直撃を受けたシャドーが立っていた。
最初に倒れたのはボンバーだった。
「バカがよ、今の俺の執念舐めんな」
ここまでしても撃破出来ないシャドーの強さに霹靂は睨み付ける事しか出来ない。ここからどう巻き返すのか、全くもって検討が付かなかった。
「ここまで弱いとは思わなんだな、折角のチャンスだ、殺しちまうか」
気が変わったシャドーはそう言うとまず近くにいる金剛の首を掴む。
「まずは復讐でも果たしちゃうかな」
「やめろ…!」
声を捻り出す霹靂だったが、その声もシャドーには届かない。目の前で仲間が傷付けられる姿をこのまま見続けるしか無いのか、絶望しかかる霹靂に一通の報が届く。
「ごめんなさい、待たせたわ! 今そちらに救援が来るわ!」
藤村のアナウンスが途切れると、上空から音が聞こえて来る。
「コンテナ…?」
霹靂が見上げたそのコンテナは丁度良くシャドーの眼前に直撃すると、粉塵を立ち込めさせながら展開し始める。そしてその中から人影が現れる。
「暁…本当に済まない、遅くなったな」
バディ機動隊長・武蔵大護の声による連絡がコンテナの座標から届く。
「後は任せろ」
コンテナから現れ、シャドーに立ちはだかった人影は、大護―――新たな仮面ライダーであった。