十二月四日、午後十七時四十一分。
強大な力を以て霹靂らを戦闘不能状態まで陥れた最強の仇敵、シャドー。
彼の目の前に遂に降り立つは”人類の人類による、人類の為”の戦士。
対ラフム型汎人用武装機構”アイアスシステム”、そのプロトタイプであった。
神の力に拠らず戦った英雄の名を冠した仮面ライダープロトアイアスはシャドーの不気味な顔面を指差した。
「名乗っとくぜ、俺は仮面ライダーアイアス…今からお前をブッ倒す、ただの人間だ」
プロトアイアスの乱入に戸惑うシャドーであったが、自らの力を過信する彼は走り出す。
今までと同じ様に影に潜んで敵の背後を狙う手法で早速プロトアイアスの後ろを取る。
が、その動きは既に見切られていた。
背後からの接近を感知したアイアスシステムは視界に仮想空間を表示するARコンソールによって”
プロトアイアスによる振り向き様のフックパンチによってシャドーはまるでその場に収まったかの様に真っ向から一撃を受ける。
「ぐぉるぁッ!!」
シャドーはプロトアイアスの重い一発によって瓦礫に激突しながら吹き飛ばされる。それはアイアスシステムの強さと言うより大護本人の強さによる物だった。
大護のパンチに耐え切れなかったプロトアイアスの右腕は煙を機能低下を起こした。
「先生、右腕がお釈迦になったぞ」
「アイアスシステムが武蔵君に耐え切れていない…噓でしょ、と言いたい所だけど要改善ね」
ともかく今はシャドーの撃破が優先である。プロトアイアスは右腕を出来るだけ使用しない様にしてシャドーを更に追い詰める。
シャドーは影への潜行と浮上を繰り返して攪乱させるが、哀れな事にそれらも見切られていた。
《Ajax・2》
アイアス・ツー、アイアスの腰に装着されたロインクロスと似て非なるベルトに装填されたブートトリガーを二回引く事で起動する能力の開放状態であり、ライドシステムにおけるクラッシュ、フラストルにおけるスティグマに相応する。
能力を解放した事で力を増した左腕から放たれる渾身のストレートパンチは、本来想定されていた筈のスペックを大きく凌駕した超強力な殴打によってシャドーの腹部を貫いた。
「~~~ッ!!」
言葉にならない叫びを上げるシャドーの姿にアイアスは勝利を確信した。だが、違和感があった。
これ程の攻撃を受けてもその場でふらつくだけで倒れず、気絶もしない。
あまりにも高すぎる耐久力にアイアスは恐ろしさを感じると共に不信感を抱く。
「根性っつーにはちょっと違う感じがするぜ…黒木! お前のその耐久力、どうやって手に入れた!?」
「知らねーよ、本当だ! 俺がまだ終わんねえと思う程、体が応えやがんだよ」
確かに、シャドー自身も自らの打たれ強さに驚いている様だった。
何にせよ、どのみち彼らには一つの道しか残されていなかった。
倒すか、立ち続けるか。
《Ajax・3》
アイアス・スリーまで解放したアイアスは左右の腕が機能停止したと示すアラートを尻目に身動きをほとんど取らなくなったシャドーへと走る。
(腕がイカれて装甲の防御力も下がっちまってる…ここで終わらすぞ!)
「うおらあああああッ!!」
アイアスが跳躍と共に態勢を変え、上空からシャドーへと足を突き出す。
それは即ち、重力と脚力の乗算、ドロップキックである。
シャドーは影と同化する事で難を逃れようとするが、体力の限界と共に能力の使用も封じられていた。逃げ場が無いままシャドーはアイアスによる蹴りで押し潰される。
あまりもの威力で周囲に粉塵が散り、瓦礫が撒き散らされていく。
変身を解除した雷電は、感電による体の重苦しさに耐えながら粉塵を掻き分け様子を見る。
と、視界の悪さに乗じて逃亡するシャドーの姿を目撃するが、影を潜行するシャドーには追い付けなかった。
「結局逃げられちまったか……」
雷電が肩を落とすと上空からバーン・フロッグフォームが着地し、それによる風で粉塵を払う。
「待たせた! シャドーは!?」
「逃げられちまった…ッス」
「一足遅かったか…!?」
バーンは機能停止したアイアスを見つけると困惑した様子を浮かべるが、アイアスからの通信を受けてようやく状況を飲み込む。
「武蔵だ、勇太郎。下ろしたての装備でもシャドーを倒せなかったみたいだな」
「ええ、結局ウインドも逃しちまって…戦果は
自力で立つ事すら出来なくなっていたアイアスをバーンが起こすと、藤村の指示に合わせて外部スイッチからアイアスの装甲を排除する。
「これで大分動きやすくなったな。後は街の避難確認とアイアスのパーツ回収を済ますぞ」
ここまでの状況を終了し、事後作業に入るバディ一行。彼らの心には敵を逃したと言う悔しさが残り続けた。
――
十二月四日、午後二十一時二十二分。
東京都千代田区永田町、首相官邸。
御剣家当主である吹雪は極秘裏に総理からの招集を受けていた。
「総理、今回のラフム追跡の件、失敗に終わってしまい誠に申し訳ございませんでした」
「お気になさらないで下さい。貴方がたがいなければもっと被害は大きくなっていたでしょう」
総理大臣である清瀬は吹雪に深々と礼をすると、紅茶を用意しつつ早速今回の要件について話を始める。
「現在バディ基地の襲撃によって多くの国民が不安を抱えております。これは早急に対処すべき問題であるでしょう」
「会見を開いてバディのこれまでの状況と今後の活動について説明すると共にライダーの信頼性を高める事で国民の不安を払拭したいと考えています、
吹雪は総理から差し出された紅茶を一口飲むと、柔和な微笑みを浮かべた。
「妥当な判断でしょう、なるべく早い開始を目指して準備を進めて下さい。原稿は明日には提出出来ますわ」
「かしこまりました、明日の四時開始を目処に官房長官と予定を調整致します」
「…清瀬総理」
紅茶の器を置いた吹雪に呼ばれ、少し緊張した面持ちで、は、と一言返事をした。
「このお茶…かつて頂いた時よりも美味しくなられましたね」
「ええ、貴方の為に最後に淹れたのは私が二十三の時でしたから」
「そうでしたか、もうそんなに経っていましたか」
「それに、紅茶に…いえ、貴方に淹れる紅茶に対して誰よりも厳しいご来賓が幾度もあったもので」
そう言うと総理ははにかんで少し俯いた。
「衡壱ですわね」
吹雪に告げられた名に総理は優しく頷く。
「あの方は本当に、吹雪様の事を考えていらっしゃいましたからね。お戻りを私もお待ちしております」
「ありがとうございます、総理」
紅茶を飲み終えた吹雪は立ち上がると総理に一礼する。
「ごちそうさまでした、原稿は後ほど官房長官宛てに送信させて頂きますわ。それでは外務省に少し立ち寄ってから帰りますわね」
「はい、気を付けてお帰り下さい。久方振りにお会い出来て嬉しかったです、吹雪様」
「お互い若かった頃を思い出しますからね」
吹雪がそう冗談を言うと二人は笑い合う。平和な時間を一通り嚙み締めた後吹雪はその場を後にする。
総理は彼女を見送った後、部屋のソファに深く腰掛けると大きな溜息をついた。
(―――御剣、吹雪様)
(長良長官と同じく、僕が若い時…四十五年前から全く姿がお変わりにならない)
(時が進む事の無いラフムの
「死ねば終わる僕とは違って、彼らの戦いはずっと続いている、と」
「…下っ端議員から総理になったって、僕は、貴方がたを幸せに出来ていないじゃないか……!!」
総理はただ一人、空を見上げて泣いていた。