十二月五日、午後十五時四十六分。
御剣邸内研究室。
「ファインプレーだったわね、兄さん。まさかあの戦いの中でシャドーに発信機を付けてくれるなんて…お陰で彼の拠点が掴めそうだわ」
独り言を呟く藤村は発信機から得た地図情報をリアルタイムで映しながらライドシステムの修復作業を行っている。彼女の隣では千歳がアイアスシステムの調整を行っていた。
「金剛博士は体のほとんどが人のそれだったんですよね?」
「ええ、だからラフムの皆よりも治療に時間はかかるけどバディの医療班は優秀だからもうすぐ目を覚ます筈よ」
良かったです、と言いながら嬉々とする千歳に藤村はありがとう、とだけ返すとお互い自分の作業に没頭する。
金剛が倒れた今、千歳がアイアスシステムの設計を一任されている。大護の身体能力に耐え切れなかった部分を確認して出力の向上、装甲の位置調整が行われる。
「ところで千歳さん、もうすぐ官房長官の会見が始まるわ。一旦作業を止めて見に行きましょうか」
「でも…」
「社会情勢の把握も正義の味方のお仕事よ」
千歳は返す言葉も無い、と言う様に腰を上げる。
――
時を同じくして、御剣邸内訓練室。
昨日の戦闘を悔いた勇太郎らは自主的に戦闘訓練に励んでいた。ラフムが増えた事で戦う相手が増え、お互いが研鑽を重ねられる充実した訓練となっていた。
勇太郎、雷電、ボンバーは風露が教授する空手、柔道、拳法などの武術を今朝から何度も叩き込まれていた。
「さて、皆様。もうすぐ官房長官による会見が始まります。バディに関する内容なので皆さんで見ておきましょう」
「カンボウチョウカン?」
「Japan's political leader's… so to speak, right-hand man.」
”日本の政治のリーダーの…言わば右腕っすね”、そう告げる勇太郎による説明でボンバーが納得する。その様子に雷電は驚愕していた。
「火島先輩、英語出来るんすね」
「これでも俺、エリート学生で通ってるんでなガハハ」
「Butエレクトリックボーイ、I'mジャパニーズOKダカラ、心配シナクテモ大丈夫ダヨ!」
ボンバーと勇太郎、お互いに笑い合う二人の雰囲気に雷電は付いていけないので風露と共にロビーへ向かう。
――
午後四時、首相官邸、会見用ホール。
そこに現れた内閣官房長官は報道陣へ一礼し簡単な挨拶を済ませると、汗を拭き取りながらバディの現状について語り始めた。
「本来ならばこの場はバディの最高責任者である長良氏による発表が望ましかったのですが、それは叶いませんでした」
官房長官の不穏な一言に報道陣、及び会見の視聴者らは固唾を飲んだ。
「先日のバディ基地襲撃によって長良氏は行方不明となっており、現在もバディ、警察、自衛隊による捜査活動が
続いております」
「長良氏以外の職員の安否は確認されており、ラフム対抗の要であるバディ機動部隊の新型装備、いわゆる仮面ライダーも無事であります」
実際の所、ウイニングが敵の手に落ちている状態だが、その事実を世間に公表する訳にはいかない。政治家は嘘つきであると
嘘をつかねば守れない人の心もあるのだと、既に理解しているからだ。
「バディから避難した各職員は今別の拠点にて活動を継続しております。なお、その場所については敵の襲撃を避ける為秘匿しています」
「昨日発生した静岡市葵区御幸町ラフム襲撃についても、バディ機動隊が自衛隊、消防、救急と連携して被害を受けた町の復旧作業に従事しています。今後のバディは長良氏を含めた行方不明者の捜索を続け、これまで以上の力を以てラフム被害への対処、対策を行っていく所存です」
一通りの発表を終えると、官房長官は報道陣からの質問に次々と答えていく。
「ここまで様々な決定が行われていますがそれらの決定は誰が行っていますか?」
「計画の判断は我々も参加しています。また、長良氏に代わるバディの責任者はこれまで機動隊の戦術指揮を執り行っていた指揮官がが長官代理としてその席に座し、現在も戦闘時指示を行うと共に決定責任を委譲されています」
これも嘘である。現在のバディの代表は御剣吹雪となっているが、幼い少女の見た目をした吹雪を紹介した所で混乱しか生まない上、御剣家は元より社会の裏に位置するいわゆる”フィクサー”なのだ。そんな集団について言及するのは日本そのもの揺るぎかねない。
「セキュリティは堅かった筈なのに何故バディ基地は襲撃されたのですか?」
「バディ関係者にラフムらの構成団体”ティアマト”の構成員が紛れ込んでいました。そこから情報が漏洩してしまったのが事実です。この失敗を受けて現在は職員全員を対象に内部調査を実施し内部セキュリティの強化を徹底しました。また、ネットワーク、搬入経路など外部セキュリティの再度構築、強化も並行して行いました」
以後も簡単な質疑応答を続け、会見の締めとして官房長官が最後に言葉を
それらの文言も原稿に書かれてはいたが、官房長官はその原稿を裏向きにして隠すと、ゆっくりと前を向いた。
「現在ラフムの活動は活発化しており、国民の皆様の不安は募るばかりです。実際の所私自身も明日の我が身が知れず恐怖しています。彼らがテロリズムによって政府関係者を狙ってくれば恐らく私も無事では済みません」
「しかし、非力な我々を守り、戦う存在がこの日本にはいます……。それはバディ、そして仮面ライダーなのです」
「ラフムに対抗し得ない我々の代わりにあの怪物に立ち向かう勇者とも言える姿を、私は誇りに思います」
「ですが、彼らにしか成し得ない事であるが故に彼らの失敗を糾弾する声が広がっています。彼らが守れなかった命も沢山ありました…誰もが無力だったと、虚無感が残りただただ悔しいと言う感情のみが残ります」
「しかし、その命に手を伸ばせなかった歯がゆさは彼らも同じな筈です。だからこそ、次は絶対に誰も傷付けさせない為にと今も戦っているのです。命の責任を背負ってまで」
官房長官の言葉は、ラフムに苦しむ日本全国に伝わり、重くのしかかっていた。
ラフムが表舞台に現れてからまだ三ヶ月程度しか経過していないが、それを感じさせない程にこの国の大地は、命は、心は蹂躙されていた。
国そのものが荒んでしまう程の、言わば”災害”。
対抗しうる手段の無い人々は常に不安と恐怖に飲まれ、いつ自分の住む町がラフムの餌食になるか分からない、ただ貪らられるのを待ち、迫る死にただ震えていた。
「仮面ライダーは、ラフムに何も出来ない我々の為に、全力で戦っています。そんな彼らに対して我々がすべき事は責任の追及やラフムと同じ力なのだと後ろ指を指す事では無い筈です」
「国民の皆様の気持ちがたった一つになる事は無いと存じますが、私は…ただ、仮面ライダーを信じたい」
「私がまた明日を迎えられる様にラフムと戦い続ける仮面ライダーを、信頼したいのです!」
信頼、その言葉が報道陣の心を突き動かす。
先日も官房長官同様に仮面ライダーの重要性を説く青年がいた。メディアは勝手に彼を”信頼の青年”と名付けたが、まさか官房長官まで信頼とそう言うとは思ってもみなかった。
「ラフムに対し非力な我々が出来る戦いとは、彼らを信じ、言葉と想いを以て支える事に他ならないでしょう!」
「どうか、国民の皆様…ラフムに怯えるのはもうやめにしましょう、仮面ライダーが、バディがラフムに勝利する事を願い、信頼していくのです」
――
「ここまで仰ってくれるのは嬉しいけれど…本人達にとっては重荷にならないかしら」
中継を見ていた藤村の心配をよそに勇太郎は不敵な笑みを浮かべていた。
「確かにプレッシャーは感じます。でも、俺達の戦いが認められていってるのが、何より嬉しい」
「きっとここに楓がいたら官房長官の言葉に喜んでくれると思いますよ」
「…そうね。私も、皆の支えとなる様に私の戦いをしていくわ」
「―――官房長官にここまでして頂いた事は非常に良かったみたいですわ」
モニターを見ていた一同の背後から吹雪が声を掛ける。
「これから開始する作戦の為に、市井の皆様方のバディへの不信感をより一層払拭させる必要がありましたの」
「吹雪様、その作戦って?」
勇太郎に吹雪は少し目を細めて呟いた。
「今度はこちらが仕掛ける番…ティアマトの拠点を襲撃します」