「金剛が取り付けて下さった発信機によりシャドーラフムが現在駐留している地点が発見されました」
「その地点とは、鹿児島県…桜島」
桜島。巨大な活火山の麓に都市が位置する地である。
発信機が示す地点は山中であり、人目に付かない場所であった。
「ただし発信機の情報も正確とは言えないわ。黒木に気付かれて全く関係の無い場所に取り付けられてしまった可能性もあるわね」
藤村の懸念に勇太郎はだとしても、と返す。
「これしか手掛かりが無いんだ、行くっきゃねーっすよ」
「そうね…準備に取り掛かりましょう」
――
それからのバディの動きは迅速だった。
アイアスの完成を主目的としたライドシステムの改修。
警察と自衛隊と連携しながらラフムとの戦闘を装っての近隣住民避難。
多岐に渡る作戦プランの構築。
逃亡ルートを割り出しつつそれらの封鎖。
彼らに逃げ場所を与えないと言う執念が強い連帯感を生み、今まで以上の底力を見せていた。
十二月五日、午後二十一時三十九分。
御剣邸内、当主自室。
「ここにいる多くの人がそれぞれラフム、ティアマトに対して強い想いを抱いている様ですわね」
「ああ、あんな奴らを闊歩させちゃあいけねえって、皆そう思ってる筈っすよ」
紅茶を啜る吹雪をよそに紅茶を飲み干した勇太郎が断言する。
「ところでどうして俺を呼び出したんですか?」
「ウインドの事ですわ」
ウインドの名を聞いて勇太郎の目の色が変わった。親友の体を奪って勝手を働く悪逆非道の姿を勇太郎は一秒たりとも忘れた事は無かった。
「アイツもいるんですよね?」
「ええ。恐らく」
「御幸町にはウインドだけで無くて黒木も来ていた、これは奴らが一緒に行動していた、あるいは連絡を取り合ってそこに集まっていたと考えるのが自然っすよね。ただ奴らが最後に逃亡した場所は結構離れていた」
「しかしウインドは本州から南下している傾向にあったと。つまり何らかの目的で南部を目指していたと推察されますがその可能性としてアジトのある桜島に向かっていたとしたら辻褄が合う…ですね?」
勇太郎の考察に吹雪は頷く。
「逃亡した場所に差異はあったとしてもその後合流は可能ですわ。発信機によればシャドーは破壊された駿河大橋の隣にある安倍川橋を通過して国道一号線に合流、付近のホームセンターで立ち止まった後車に乗って移動したとされていますわ。これは勇太郎達との対敵後にウインドが向かった方角と一致しています。恐らくここでウインドは黒木が乗って来た車へと乗り換えたのでしょう」
「…当たりだな」
そこにウインドがいる。その確信が勇太郎を更に奮い立たせる。
「ウインドとの因縁は承知しておりますので、
「ああ、任せといて下さい、必ず楓を取り戻します!」
――
同時刻、桜島、ティアマト拠点。
「ねーウイくん、そろそろ長良っちに会って欲しいんだけど~?」
ティアマト大幹部が一人、アガルタに呼ばれてもウインドはただずっと車内で横になるシャドーの元にいた。
謎の発光と共に苦しみ続けるシャドーの傍に付いて甲斐甲斐しく世話をしていた。
「こっちに戻ってからずっとシャドーの様子がおかしいんだよ! コイツは俺の信条を分かってくれる”ダチ”なんだよッ!」
「ん~、だからさ、それは”進化の兆し”なんだよ。ラフムが次の段階へと進む為の通過儀礼、ほっといてもダイジョーブな奴だってば」
「だと言っても……」
「ウイくんが長良っちに会えばアイツを苦しめられるんよ、そしたら、シャドーっちもメチャ喜ぶんだってば」
「……」
ばつが悪そうにウインドが眉間にしわを寄せながら車から離れその場を後にする。
「やっと来たよ、ウイくん。ユーくんは”来い”しか言わないし、グリちゃんはやる気無いからやっぱアタシが行くハメになっちゃったんだよ?」
「面目無い、アガルタ」
ユートピアの謝罪をよそにアガルタは長官の元へと歩み寄る。
「と、言う訳で! ウチの幹部、ウインドラフムを紹介するよ~!!」
紹介に預かったウインドがゆっくりと前へ進み長官へと微笑み掛ける。
「初めまして、じゃねーのかな、
「霧島君…じゃない」
困惑する長官の表情をまじまじと観察しながらウインドは更に口角を上げる。
「そ、俺はウイニングラフムと呼ばれていた風の力の本来の持ち主。コイツの力は俺から間借りした偽物の力だったんだよ」
「…そこに霧島君はいないのか」
「ふふ、当然だろ…霧島楓はメンタルズタボロにやられて表に顔出しなんか出来ねぇさ」
焦燥が見て取れる長官の顔を見たウインドはどんどんと気分が高揚していっていた。
「”あなたのせいで僕はずっと戦わされて、傷付けて、傷付いたんだ…しんどいんですよ”」
楓の声色を似せて煽り立てるウインドに長官は今までの余裕が嘘だった様に顔を強張らせていく。
「君が霧島君で無いのなら、彼の心を代弁しないで頂きたいね」
「何言ってんだ? 俺とアイツはもう一心同体なんだ、俺の意志がアイツの意志になり、”アイツの意志が俺の意志になる”」
ウインドのその宣言に長官が目を見開いた。
「ウイニングの意志がお前に反映されるのか?」
「ユートピア!」
思わず口走ったユートピアをシャングリラが制す。
だが時すでに遅し。長官は今の失言にヒントを得ていた。
「今はウインド、君が主導権を握っている様だがその地位も霧島君次第で覆せる、と言う事だね?」
「今のは違う、言葉の綾だ!」
取り繕うウインドに長官は軽く笑みを溢す。
自分の失態とは言え、それを嘲笑う長官にウインドは激昂する。
「テメェ…!」
「やめろウインド、彼はティアマトの呼んだ賓客だ」
ユートピアが止めに入るもののウインドは聞く耳を持たず拳を振り上げる。
が、その手は次の行動を取らない。
「殴らないのかい?」
「…ああ、興醒めした」
「OK、確信したよ。ウインドラフム、君の中に強く居座っている霧島楓君の存在をね」
ウインドが舌打ちすると踵を返して部屋を出ようとする。
「待ってくれ霧島君」
「俺はアイツじゃねぇ!!」
長官の呼び止めに語気を高めて反論したウインドは怒りを露わにすると共にその場に留まった。
「クソ…頭痛がする…何なんだよホント」
「バーンと戦っても何とも無かったってのに……」
頭を抑えるウインドがその場にしゃがみながら長官を睨み付ける。
「そうか、心配してくれていたんだね、霧島君。どうもありがとう」
長官は少し微笑むと天井を方を見上げて顔をしかめた。
「火島君の言葉は、響かなかったかい?」
ウインドの頭痛は更に強まり、その場で膝をつきながら言葉を紡いでいった。
「アイツは、きっと今でも俺をヒーローか何かだと思ってる! だけど、”僕は”、そんな大層なモノじゃなかったんだ! 僕は自分の中の怒りや暴力に勝てなかったんですよ……」
一通り口走るとウインドは我に返って今起こった事を反芻する。まるで長官に諭される様にして心の奥底にいた霧島楓が這い出て来ている。
これを危険だと感じたユートピアは即刻ウインドを抱えて部屋から立ち去ろうとする。
「待って欲しいというのは、君に伝えたい事があるからなんだ」
「ウイニング、と言う君に名付けた名前の意味……」
「それは、君の存在が、きっと人類の”勝利”をもたらすのだと確信したからなんだ」
「アプスの意志では無く、私自身がそう思ったんだ! だから勝手にコードネームを与えたんだ」
「もしそれを重圧と思ってしまったのなら―――」
長官が言葉を終える前に扉は閉まっていた。ウインドは、楓は、もうその場にはいない。
「私は、私達は、霧島君に…いや、ただの青年に過度のプレッシャーを与えていたのだろうな」
”そんな事は無い”
自分の行いを悔恨する長官の脳裏に声が聴こえた。
声の主はアプス。神の世界を経由して言葉を届けていた。
長官が気付くと神の世界を表す砂浜に立っていた。
「霧島楓は強いぞ。奴は今、自らの力で”インテグラ”に辿り着こうとしている。ウインドが精神を蝕んでいる現状が更に奴の強い意志を加速させているのだ」
「…インテグラ?」
長官が問うと、アプスは砂浜の向こうにある光を指差す。
そこには何色もの光が一点を目指し収束していた。