火島勇太郎―――仮面ライダーバーンが現地に到着した時に見た光景は、地獄絵図そのものだった。
風露をはじめとした部隊員らが全員倒れていた。
そしてその中心に立っていたのは、親友、霧島楓の体を奪った仇敵、ウインドラフム。
彼はその場に降り立つ勇太郎を見て、口元を緩ませる。
状況を察知したバーンは藤村に救護部隊と護衛用に手の空いている戦闘部隊の派遣を要請する。
「遅かったな、バーン。おかげさまでここにいる奴らはほとんど殺しちまった。お前のオトモダチの手でな」
「憎いか? 憎いよな? だが、俺はコイツの深層心理まで浸食し、離れる事は出来ない。例え今お前がオレをブッ飛ばしても一生霧島楓と一緒なんだよ」
「それに、コイツが人を殺しちまった事実は消えねえ。俺がやったとかそんなのはコイツ自身の気持ちにゃ関係無いのさ、あぁ辛ぇよなぁ、仮面ライダーの名前が聞いて呆れるぜ」
飄々とバーンを煽り立てるウインドに、彼は拳を震わせる。
「…出て来い、楓。まだそこにいんだろ?」
「こんな沼の底のドス黒いヘドロすら敵わねぇ程の邪悪に負けるなよ、なぁ」
「楓!!」
バーンの叫びをウインドは嘲笑う。
「ハッ、もう楓は心を閉ざしちまったよ、罪の意識でな…俺の意識に抵抗する術はもう残ってねぇんだよ」
そう吐き散らかすと更に笑いが込み上げて来たのか、人の神経を逆撫でする高笑いを始める。
まるで勝利を確信したかの様に笑い続けるウインドに、バーンは遂に動き出した。
「楓ッ! 辛いのは分かる! けど、俺は、お前と話がしたいんだよ! じゃなきゃ……俺は、お前の力に、なれないじゃ、ねぇかよ……」
ウインドの肩を掴みながらバーンは言葉を重ねながら涙を流し始めた。仮面の内側から聞こえるすすり泣く声が彼の隠し切れない悲しみを感じさせる。
「あはは、泣き落としかよ? 友情だな」
「でもなぁ、そんな言葉も意味無いんだよ! 霧島はでてこねぇんだからよ―――」
相変わらず嘲笑するウインドだったが、途端、脳が震える様な感覚が彼を襲う。これは自分の意識が奪われる瞬間のそれだった。が、今の楓は確実に自分の体を取り戻す程の気概を持っていない。
一体自分の中で何が起こっているのか分からないままに意識が遠のいていく。
「……楓なのか?」
「…勇太郎」
何故彼がそこにいるのかは定かでは無いが、そこに立っているの確かに楓だった。
勇太郎が変身を解除する。
「楓! 無事か!?」
「僕は、君と話す資格なんて無いんだ」
「そんな、俺はお前にどんな事があってもお前の味方だ!」
そう言って肩に手を置く勇太郎を楓は拒絶する。
「ウインドに体を奪われる度に僕は自分の心の中の深い部分を見て来た。自分の知らなかった醜い部分までも」
「だから分かるんだ、僕は君に好かれる様な人間じゃない。ヒーローなんてもっての外だったんだよ」
「だったら、本当のお前ってのを教えてくれよ!」
「君に、嫌われたくないんだ」
そう答えてしまう自分に楓は更に自分を嫌いになる。
「俺が、お前を嫌いになる訳無いだろ?」
微笑みかける勇太郎に、楓は涙を溢す。
と、楓が頭を抱えてうずくまる。
「またウインドか!?」
「多分、違う」
意識の混濁が収まったのか、落ち着いた様子で立ち上がる。
「楓…? いや、ウインドなのか?」
「あー…めっちゃ悪い、どっちでもねーんだ」
は? と勇太郎が目を丸くする。
「俺は石井恵介、以前コイツに取り込まれたラフムだ」
「そのおかげで体の自由は利かねえが、霧島の心に触れてお前らに手を貸したくなった」
そう語ると、楓の体を借りて恵介は話を続ける。
「俺は母ちゃんの為に金が欲しくてラフムになっちまったが、結局上手くいかなかった。火島、それに霧島も、親友の為にって行動する割には相手とちゃんと話をしないのが俺としちゃもどかしくてたまらねーぜ」
「何も話さねーで自分の気持ちで動いたって相手の為になんかこれっぽっちもならねーぞ」
恵介の言葉に勇太郎はハッとする。
「嫌われたくない? そうやって相手と言葉を交わすのを怖がって、相手の気持ちなんか理解出来る訳ねーんだよ。本当に相手を想って助けてやりたいなら、バシッと言葉をぶつけて、お互い気持ちにカタを付けろ」
「だ、誰だかは良く知らねぇが、アンタは俺達の事を良く知ってるみてぇだな…ありがとうよ」
勇太郎は少し笑うと、決心が付いたのか顔付きが凛々しくなる。
「そうと決まれば楓と話がしたい。えっと、変われるか?」
「やはり無理だな、霧島は心を閉ざして表に出たがらない。さっきは俺の後押しでウインドを引きずり降ろして霧島を出してやったが、そうも上手くいかねーな」
「じゃあどうすりゃ良いんだ…」
「俺がお前を取り込んで深層心理に連れて行く」
簡単に言い切った恵介だが、勇太郎は突然の進言に少し動揺する。
「取り込むって、どう…」
「少し痛いかも知れねーが、大事なヤツの為ならどーって事無いだろ。な?」
息を吞んでから勇太郎が頷く。
「じゃあ行くぜ…」
恵介が力むと、その体を虹色の粒子が纏い始める。肌で感じるその迫力に勇太郎は気圧される。
「なんだ、それはラフムの力なのか!?」
「ああ、この体でいる限りはコイツのラフムとしての力も間借り出来るからな、俺とは比べ物にならない本当の意味でのバケモノだぜ、コイツぁ」
ウイニングとは全くもって異なる性質を予感させるそれが、楓の力である事に勇太郎は違和感を覚える。
「本当にそれが、楓の力なのかよ!?」
「そうだ。まぁずっとウインドから取り込んだ風の力だけ使ってたみたいだから信じられないのも当然か。だが、これこそが、この神にも近い力こそが、霧島楓の力の本質だ」
「とにもかくにも、全ては考えるより…感じろだ」
そう言い放つと恵介が変貌した虹色のラフムから無数の手が伸びて勇太郎を掴み、体の中央に開いたブラックホールの様な穴へと押し込んだ。
「うおおわああああッ!!」
暗闇へと吸い込まれていった勇太郎は、すぐに視界を奪われ、体の浮遊感に悶える。
と、暗闇を進む中で頭の中に何度も情報が入って来た。
それが楓の心情である事はすぐに分かった。
「楓の…本当の気持ち」
「教えてくれ、全部」
「全てを知った上で、俺の気持ちもぶつけてやる!!」