久しぶりの大学。あんな事があってからだとやはり気落ちする部分が楓にはあった。
東京都文京区に位置する国立東城大学。そこの教育学部に楓は通っている。が。
同じ大学、学部に通っていた親友、
彼は楓の親友であり、人々から尊敬される人格者だった。
頭脳明晰、運動神経抜群。彼程にこの言葉が似合う人間はいないだろうとまで称されていた。
そんな勇太郎が死んだと言うのだ、一緒にいた楓への視線が冷たい。
数日前に楓の自宅へ勇太郎が訪問し、楓を残して皆死亡した、そんな噂がどこからか出回った様で、生徒は勿論教授からも楓は白い目で見られた。
一週間の間ずっとそんな調子だったので楓は気を落としながら過ごしていたので週末の時間が出来た時にバディの基地へと向かった。自分にはここしかないと。
「こんにちは」
楓は軽々と藤村の実験室へ入る。そこにいた藤村がやっ、と気持ちの良い挨拶をする。
「早速変身の練習? 精が出るわね」
「いえそんな……大学が居づらかっただけです」
謙遜とは違う、楓の気苦労を察して藤村が彼の背中をバン、と叩く。
「どうせ耳の早い連中が君に心の無い事を言うのでしょう? 君が悪くない事は私達が良く知っているから。君は人知れず悪と戦うヒーロー、そう思っていれば良いのよ」
藤村の言葉に楓は救われた心地がした。だから楓は彼女らの為に尽くす。
「ええ、だから僕が出来る事をします」
楓がそう言うとよろしい、と藤村がイートリッジを楓に渡す。
「ともかくコイツをどう起動させるか、ね…”兄さん”ならどうしたかしら」
藤村の発言にお兄さん? と楓が聞き返す。
「うん。私には兄がいて―――」
と藤村が言い掛けたその瞬間、バディの管内全域に緊急警報が鳴り響く。
「ラフム出現! 場所は神奈川県川崎市中原区井田1丁目井田公園! 機動隊は直ちに現場に急行せよ!!」
緊迫したアナウンスが聞こえると楓はすぐに実験室を後にする。すると道すがら武蔵と出会う。
「川崎か…急ぐぞ!」
武蔵が機動隊を牽引しつつ楓に促す。楓を含めた機動隊が全員出動する。
十月十二日、午後十三時二十分に出現した今回のラフムはその姿と跳躍する特性から”フロッグラフム”と名付けられた。
と言うより、”相手が名乗った”と言った方が正しかった。
指揮車両で後を追う藤村から聞いたその情報に楓は驚愕した。まさか自分以外の意思を持ったラフムがいたのか、と。
確かに楓の例が存在しているので意思のあるラフムがいないとは限らないが、思う所では非常に”やりづらい”のである。
自分と同じ境遇であるラフムに対して自分は肩入れしてしまうのではと考える。
「ところで藤村さん、被害状況は?」
「被害状況…負傷者が九人、死者が三人。うち二人の犠牲者がバディの機動隊員よ」
そうですか、と楓が答えるとバイクの速度を上げる。
(……相手は人殺しだ。どんな奴であろうと、絶対に倒す!)
楓は戸惑う自分の心に言い聞かせ、覚悟を決めて井田へと走った。
――
神奈川県川崎市、井田公園。
フロッグと称された意思を持つラフムが人々を襲っていると、銃撃がフロッグの頭部に直撃する。
「そこまでだラフム!」
雄々しく叫んだ楓が変わった形状をした銃で再度フロッグを撃つ。
その銃の名は”ライドツール・バレットナックル”。
敵への攻撃アイテムであり、引き金に当たるパーツである”ライドツール・ブートトリガー”こそが強化装甲を転送する為の起動キーでもある。
「やれやれ、やっと来たか、ウイニング」
その時、フロッグが人間の言葉を発した。その光景に目の前にいた楓や機動隊員が驚愕する。
「そんな驚く事無いんだぜ? そこのウイニングだって喋れんのによ。まぁいいや、無駄口叩く前に…テメェを叩くッ!」
フロッグがその言葉を皮切りに楓へ迫る。
一瞬で間合いを詰められた楓は成す術も無く体を反転させて放たれたフロッグの蹴りを思い切り腹部に食らう。
「うあぁっ!!」
武蔵らが口々に楓の名前を呼ぶ。それを聞いて楓が大丈夫、と体を起こす。
「やっぱ”選ばれたヤツ”は違うねぇ、良い根性だぜ」
フロッグの意味深な言葉に耳を貸さず、楓はフロッグを睨む。
「…変身!」
楓が叫ぶと全身を粒子が包み、ウイニングラフムに変身する。
「おお、流石だぜウイニング! イートリッジを使用せずラフムに変身するなんて」
ウイニングを指差してフロッグが興奮する。その様子にウイニングははあ? と答える。
「まさか知らないのか? お前の事」
「知らない! そんなの、どうでも良い!」
そう言ってウイニングが跳躍する。それに負けじとフロッグも足を縮め、伸ばす事で空へと大きく跳んだ。
「こんのおおおおおお!」
ウイニングが拳を大きく振りかぶってフロッグの胸部にパンチを叩き込む。その反動でフロッグは地面へ強く激突し、土煙を巻き上げる。が、フロッグはすぐさま跳躍し、降下するウイニングの顔面を殴る。
「ぐあっ!」
「バーカ、空中は俺の方が上手だっつー、の!!」
勢いを付けて繰り出されたフロッグの回し蹴りはウイニングの顔面に更なるダメージを与え、地面に叩き付ける。
ウイニングはその場に倒れ込みながら立ち込める土煙を翅で吹き飛ばす。すると、目の前には飛び蹴りの体勢で急降下するフロッグの姿があった。避け切れなかったウイニングはフロッグのキックを真っ向から受けてしまう。
「があああああっっっ!!」
「俺の全体重を乗せたフロッグキック、大成功だぜ」
ウイニングを踏み台にして跳躍したフロッグは少し後ろに下がって体に大穴を開けたウイニングを見て高笑いを浮かべる。
「ハハハハ、ハハハハハ! ハハぐはぁっ!」
フロッグがよろめいた先にはバディの機動隊がフロッグに向けて弾幕を張っていた。フロッグは全身に弾丸が当たり、体のバランスを崩してその場に座り込む。
「ウイニングを援護しろ! 絶対にフロッグを近付けさせるな!」
機動隊はかの織田信長よろしく銃撃する隊員と装填する隊員のルーティングを作り、迎撃を続ける。
聞こえて来る銃撃音で気を失っていた楓が意識を取り戻す。その手の先には”ウイニング”のイートリッジが握られていた。どうやらフロッグの初撃でライドツールのアタッシュケースに収納していた物が散乱したらしい。
(イートリッジ? そうか、持ったまま出動したんだっけ…。それよりコレ、ウイニング…と書かれている?)
楓は疲弊しつつも、近くに転がっていたインカムとライドツールを手に取り藤村に連絡する。
「藤村さん…?」
「霧島君!? 無事なの!?」
「大丈夫です。それより、あの強化装甲の変身の仕方、結局教えて貰って無かったですよね」
まさか!? と藤村が問い質す。それに対して楓はイートリッジに成分が注入された事を伝える。その事を聞いた藤村は一拍置いて口を開く。
「…分かったわ、良く聞いてね」
――
一方その頃、機動隊はフロッグへの弾幕が切れて、窮地に立たされていた。
「さっきからウザかったんだよな、お前ら。ウイニングもどーせ虫の息だろ、まずはお前らから死ね―――」
「そこまでだ!」
丸腰になった機動隊に歩み寄るフロッグに言い放つのは、傷が少し残りながらも回復した楓だった。
「なッ!? ウイニング…!」
フロッグが怯んでいると、バディの指揮車両が楓の背後に止まる。
「霧島君、これを!」
指揮車両のドアを思い切り開けて出て来た藤村が楓にライドツール一式を揃えたアタッシュケースを投げる。
「ブートトリガーとバレットナックルは武装として渡せたけど他はそのまんまだったからね! 健闘を祈るよ!」
藤村はそれだけ伝えると指揮車両に戻り退避する。
「オイ、それってライドツール!?」
動揺するフロッグを尻目に楓はベルト型ライドツール・ロインクロスを腰に巻く。
するとロインクロスの装着時の電子音が鳴り響く。
《Account・Winning》
楓の装着したロインクロスが彼専用の物となった事を表す為か右下のパーツ、”クレストカラー”がウイニング仕様となる。
《Winning》
待機音が流れる中楓はロインクロスに先程生成したウイニングイートリッジを起動。差し込む。
「これが僕の……本当の…」
楓が目を閉じて呟く。その隙にフロッグがこちらへと走り出す。が、それにも動じずに楓は目を見開いた。
「―――変身ッ!!」
バレットナックルから取り出したブートトリガーをロインクロスにセットする。そして、ブートトリガーの引き金を強く引く。
《Change・Winning》
ウイニングイートリッジを差し込んだベルトは認識音声を響き渡らせる。
それと同時に発生するライドシステムが生み出す粒子。
楓の体にそれらの粒子が蒸着され、素体となるフレームボディを完成させると、凝固した粒子が緑の鎧の形を形成しフレームボディに合体する。
鎧に収納されていた仮面が顔の部分に装着され、変身完了する。
フロッグはその光景に慄きつつも立ち向かうが、変身後の冷却を兼ねたエネルギー排出に巻き込まれ、吹き飛ばされた。
「なっ!?」
吹き飛ばされた衝撃で遊具にぶつかり瓦礫まみれになったフロッグが目の前に佇む戦士の姿に大きく口を開ける。
「なんだ、ソレはッ!?」
フロッグの問いに楓は自身満々に答える。
「……正義を叫びライドする仮面の戦士! その名をまさしく…」
楓―――緑の鎧の戦士がマフラーをたなびかせながらフロッグに指を指してその名を叫ぶ。
「仮面ライダー!!」