僕は僕が嫌いだ。
あの日、大切な人を守れなかった弱い僕が嫌いだ。
あれは、勇太郎に出会うより前だったか、守れなかった人がいた。
そんな大事なコトを忘れていたんだ。
いや、ずっと…思い出さない様にしていたのかも知れない。思い出したら自分の弱さに耐え切れなくなるかも知れなかったから。
―――小学一年生、冬。
あの時は僕は幼かった、でも、それを言い訳にしたくない。あの日、僕は死んででもお姉さんを守るべきだったんだって、ずっと後悔し続けていた。誰にも言わなかったけど…。
僕が大好きだったお姉さんは僕と一緒に遊んでくれていたけど、それが周囲との不和による物であったと、今になってようやく気付いた。お姉さんは当時の僕でも分かる程、皆から敬遠されていたのに。
お姉さんは優しくて頭も良かったけど、いつも誰かの為になる事を考えていて、だから身の丈に合わない期待をされて、失敗して、見放されていた。
そんなお姉さんの姿があまりにも不憫で、でも、誠実で、本当に憧れていたんだ。だからお姉さんの優しさが環境に否定されていくのが許せなかった。お姉さんを可哀想だと思っていたんだ。
素敵なお姉さん、貴方の慈しみが無駄にならない様に、僕だけはお姉さんの優しさに応えたかった。
(―――これが楓の深層心理、なのか…)
(にしても、”お姉さん”って、初めて聞いたぞ…楓はやっぱり俺に話してない事が沢山あったんだな)
(…悔しいが、それよりも今はアイツの事を知るのが先だ)
でも、彼女の苦しみを僕は消す事が出来なかった。
実はお姉さんは家族から虐待を受けていた。
人から見えない所に傷があって、僕は気付けなかった。でも、どこかにサインはあった筈なんだ。それが分からなかった事が今でも悔しい…僕は、僕は、僕は……。
結局お姉さんは僕に何も言わずに親戚の所へ預けられてしまったと言う。この話も街の噂で聞いただけだった。それが本当に辛かった。僕はお姉さんの力になれていなかった、彼女から言葉も返されない程に僕は頼りにされていなかったんだと痛感した。自分の弱さに絶望した。
とにかく、それから僕はしばらく普通の子供として過ごしていた…少しお節介気質なのは変わらなかったけれど。
そして小学六年の頃、勇太郎に出会った。勇太郎は、唯一僕がまだ守れている存在なんだ、だからこれからも一緒にいたい。その為にはこんな気持ち、知ってもらっちゃダメなんだ。
(”こんな気持ち”? 一体どんな気持ちなんだよ?)
(教えてくれ楓、俺はお前の全部を受け止めるつもりでここに来たんだ)
僕は―――。
こんなに弱い僕なんかが―――。
勇太郎に嫉妬していたんだ。
僕には無い賢さを、逞しさを、優しさを持っていた勇太郎が、
”また100点か、すごいぞ火島!”
”勇太郎がまたシュートを決めたぞ! エースストライカー様万歳!”
”火島君にこの手紙を渡して欲しいの”
ずっと羨ましかった。
かつてあんなに酷い目に合っていたのを知っているのに、勇太郎の様な才能があれば良いのにとずっと思っていた。昔はその理由が分からなくて気味が悪かったけれど、今なら分かる。
勇太郎程の才能があればあの時お姉さんを助けられたんじゃないかと思ったんだ。僕は自分の弱さにかこつけて他人の能力を欲しがる卑しい人間だった事に気付いてしまったんだ。
でも、誰かに求めたって力はやって来る物じゃない。とにかく僕は自分にとって強い自分に”変身”出来る様に日々を生きて来た。運動は出来ないけど誰かの荷物を持ってあげるんだ。勉強は出来ないけど誰かの相談には乗ってあげるんだ。あまり人と打ち解けられないけど辛い時は一緒にいてあげるんだ。
勇太郎が痛がっている時は、その痛みを失くしてあげるのが、強い僕だろ?
強い僕になるんだ。そうだ。これで僕は誰が見たって強い僕だ。
―――人を完膚なきまでに殴り付けて恐怖で縛り付けるのが僕の強さだったのか。
勇太郎を殴っていた人達を僕が殴っていた。これが僕の変身したかった僕の姿だったのかと、ただ呆れてしまった。でも、こんなに虚しい気持ちになっているのに、反面、こうも思えた。
”痛みを知らない人間に痛みを教えてあげたんだ”と。それは優越感だった。
人に暴力を振るっておいて僕は満足していた。それは自分が弱くないと自分自身に唯一証明出来る方法だったから、安心してしまった。
自分を弱い者だと定義付けているのは自分なのに、自分は弱くないんだと他罰的な形で主張する、自己矛盾の塊。その気持ち悪い思考は、父さんと母さんを失ってからもっと強くなっていった。
人を守ると言う気持ちに偽りは無かったけど、それ以外の邪念は誰にも打ち明けなかった。こんな事を言っても理解されないと思っていたから。
あんなに後悔した筈なのに僕は何も学んでなくて、結局力及ばず家族を守れなかった、そんな自分への憎しみがラフムになった時に更に込み上げた。
醜い怪物になって、家族の命を奪われて、親友と別離して、ようやく手に入れた強力な力。この力がもう少し早くあれば、と後悔して、ラフムと戦うのが本当は怖くて、自分が怪物になってしまった事も未だ受け入れられなくて、ずっと暗い海の底にいる様な恐怖感と孤独感に苛まれていた。
(楓…お前はずっとこんなに、苦しんでたのか)
(それなのに何一つ教えてくれなかったんだな)
「なんで言ってくれなかったんだ」
―――声。
勇太郎の、声。
「…勇太郎」
「迎えに来たぜ、楓」
「僕の心を、見たのか?」
「ああ、聴こえてきたぜ、お前の苦しみ。もう溜め込むんじゃねぇ、吐き出せ、辛いならスッキリさせようぜ、俺がついてるんだ」
「勇太郎、君には、君だけには―――」
「知られたくなかった!!」
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「ぐっ…! 楓!」
「…ふざけんな馬鹿野郎ッ!」
「勇太郎…」
「そんだけの苦しみを、気持ちを、どうして隠して来ちまったんだよ! 気に入らねぇよ楓! 俺にすらずっと黙りこくって良い子ちゃんの仮面被ってたのが気に入らねぇ!! 親友だと思ってたのに!」
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「お前は! ずっとそんなに思いをグルグルと巡らせてたのに、今までどんな気持ちで俺と一緒にいたんだよ!? 俺は、俺を助けてくれたお前にいつか恩返しがしたくてずっと一緒にいたんだぜ、それなのに、何もさせてくれねぇと来やがった…クソッタレ! いっつも俺が助けられてばっかで不公平だ!」
「違うでしょ! 勇太郎はいつも僕の助けになってたじゃないか!!」
「俺が納得出来ねぇんだよ」
「どうすりゃ納得するのさ!?」
「お前の悩みも辛さも、全部ここで吐き出せ! じゃなきゃ納得しねぇからなぁぁ!!」
「そんな事言ったって!! 僕は! ずっとムシャクシャして、気持ちが抑えられないんだぁぁ!」
「だったらその気持ちを拳にしちまうんだよ!!」
「勇太郎は何言ってんだよ!?」
「俺とお前、生まれて初めての大ゲンカと洒落込むのさッ!」
「言葉に出来ない気持ちをぶつけるなら一番手っ取り早いと、思うぜ!!」
「勇太郎の、馬鹿ーーーッ!!」
讌薙?蠢?ア。縺ォ蜍?、ェ驛弱?蟷イ貂峨′襍キ縺薙j縲√◎縺ョ鞫ゥ謫ヲ縺碁剞逡後↓驕斐@縺溘◎縺ョ迸ャ髢薙?∝ソ??荳也阜縺悟牡繧後◆縲―――
―――独りだけの世界に、他者が加わった。
この世界は楓だけのモノでは無く、勇太郎と共有する対話の空間と相成った。
まるで宇宙の様に曖昧だったその場所には既に大地が生まれ、荒野の只中に二人は立っていた。
彼らの腰にはいつの間にかロインクロスが形成され、いつでも変身出来る準備は整っていた。
「ケンカの前に一つ言っておくな」
《Account・Burn》
《Account・Winning》
「高校生ン時にお前の大事にしてた心理学辞典折っちまったの、パパさんじゃなくて俺なんだわ」
「そっか、じゃ僕からも一つ」
《Winning》
《Burn》
「同じ頃だったよね、君のバイク模型壊しちゃったの母さんじゃなくって僕なんだよ」
《Change…》
「うおおおおおおおおおお!!!!!!」
仮面ライダーウイニングとバーン。戦士としての矜持をかなぐり捨てた二人の