楓の深層心理の中で行われる親友との戦い。
それは今までお互いを思って言えていなかった数々の鬱憤を吐き出す場と化していた。
かつての些細な苛立ちが思い起こされ、怒りとなって目の前の相手にぶつけ合う。
《Change・Burn・Voltex》
《Change・Winning・Frustration》
「おらぁぁぁぁ!!」
「そりゃあああ!!」
バーンボルテックスの雷を纏った炎がフラストルを燃やすが、彼の風が炎をかき消し、バーンボルテックスの隙を突いて打撃を見舞う。
「勇太郎! 僕は、君の命を助けただけだ! それはここまで義理堅く付き合ってくれる程の事なのか!」
「”助けただけ”だと? お前が俺の為にしてくれた事はそれだけじゃない! お前は俺に生きてても良いと思える道をくれた! お前がいなきゃ手に入らなかった幸せをくれた! ずっと親に殴られて、誰かが不幸になる様を見続けて育った俺なんかじゃ絶対に得られなかった希望をお前は俺にくれたんだよ! お前と出会ったその瞬間からずっと、俺にとってお前はヒーローだった!」
「そんなお前が苦しんでる時に知らん顔出来る程俺はアホじゃねぇぞ!! 断じて
バーンボルテックスは全身に炎を纏ってフラストルを蹴り上げた。するとフラストルの装甲が断裂し、全身に亀裂が入り始める。
「それに! …俺はお前に憧れた! ヒーローになりたいと思った! だから、俺は、お前を助ける、ヒーローになるんだッ!」
「人を殴っといてヒーローになるってのは無いだろ!」
「だから殴られてんだよ! それにお互い様だろうがこの際!」
「確かに!!」
《Burn・Crush・Voltex》
「ケリをつけるぞ、楓!」
「言われなくても!!」
《Winning・Crush・Frustration》
バーンボルテックスの拳がフラストルの顔面へと渾身の一発を食らわせる。
フラストルの拳がバーンボルテックスの腹部に沈む。
両者の装甲が砕け、変身が解除される。
霧散する装甲の破片に包まれながら双方共その場に倒れ込んだ。
現実世界では無い為に肉体の疲労は起こらない筈だったが、何度も拳を交わし続けた二人は息を切らしていた。
「なんか…お互い文句言い切っちまったな…」
「後半は勇太郎が朝起きないとか、僕が風呂長いとか…訳分かんない事言ってた気がする…」
楓と勇太郎が同時に少し笑うと、幾ばくかの静寂の後に楓が口を開いた。
「君ばっかり皆から認められていって、どんどん幸せになっていくのが妬ましかった、でも君がどんな不幸を背負って来たかを知っていたから言えなかったんだ。きっと君を傷付けてしまうから」
再びの静寂の後、今度は勇太郎が口を開く。
「俺は、ずっとお前と対等になれないと思っていた。いつも俺のピンチにはお前が助けに来てくれて、俺の人生救ってくんだ。本当に嬉しかった。けど、いつお前に借りを返せるんだろうって不安になってた。でも、これでお互い様だな……借り、返せたかな」
うん、と楓が返す。
「辛い気持ち、やーっと吐き出せた。勇太郎のお陰だよ……お姉さんを助けられなかった、父さんも母さんも助けられなかった、そんな僕を勇太郎が受け止めてくれただけで僕は救われた」
「それ、ホントに救われてんのかよ?」
聞き慣れない声に二人は起き上がって辺りを見回す。と、スーツの男が気味の悪い笑みを浮かべながら立っていた。その出で立ちと楓の深層心理内に存在している事から、彼がウインドである事はすぐに分かった。
「この姿では初めましてになるか、お二人さん。それで、お前らが殴り合ってる間にお前の体の主導権を握る準備が整ったぜ」
ウインドがそう告げると、楓の深層心理に形成されていた世界が崩壊し、ガラスの破片の様な欠片が上部へと降り注ぐ。それと同時に全員の体が立つべき地上を失い、欠片と共に上部へと吸い込まれる様に浮遊する。
「霧島楓! どれだけ人に愚痴を溢したって今までの苦しみは何も変わらねぇ! どんだけ吐き出してもずっと背負って生きていくんだよ!!」
楓を指差して嘲笑うウインドに勇太郎は何とか体を寄せると、彼の頬を思い切り殴り付ける。
「ぐぼぁ!」
「お前黙れよ! 誰だって後悔しながら生きていくんだ! 大事なのはそれを引きずる事じゃなくて、未来の糧にして”今までの事は何も無駄じゃなかった”と思える様に生きる事だ! 楓の両親を手に掛けた上にそれを罪とも思っちゃいないお前が分かった風な口を聞くな!」
勇太郎は更に楓へと体を向き直すと、親指を突き上げて笑う。
「楓! お前が助けられなかった人の為にする事はウインドの言葉を大人しく受け入れてこんなトコで縮こまってる事か!?」
「違うよ」
勇太郎の問い掛けに楓は笑顔と共に言葉を返した。それはフラストルに初めて変身し勇太郎と袂を分かつ事になったあの瞬間を思い出させた。だが、あの時とは楓の想いは正反対のものに変わっていた。
「いっつも傷付いて来たけど…傷付いて来たから、もうこれ以上傷付かない為に皆を守って、戦うコトだッ!」
崩壊する世界の中で、欠片と共に楓と勇太郎の今までの思い出と、いくつもの色の光が飛び散る。
「待ってて、勇太郎! 僕は必ずこの力をモノにして帰って来る!」
「力…?」
楓の意味深な言葉に勇太郎は疑問を投げ掛けるが、自信に溢れた楓の顔を見て、それ以上何も聞かずに笑い返して力を抜く。
すると体は更に上部へと浮上し、目の前が真っ白になる。
――
勇太郎が意識を取り戻すと同時に意識を取り戻し楓の体を奪ったであろうウインドが頭を抱えながら向かい合っていた。
「あー頭いて…と、それよりも、だ。バーン…よくも俺の最高の体に啓発けしかけてくれたな……」
「何を言ったって手遅れだぜウインド、楓のメンタルは完全に回復しちまったからな」
悔恨に顔を歪ませるウインドだったが、すぐに笑みを取り戻して勇太郎へと歩を進める。
「まだ終わりじゃねぇ、霧島の最大の親友であるお前を殺せばアイツはもっかいドン底だ!」
禍々しいラフムの姿へと変貌したウインドは突風を巻き起こすと、勇太郎を付近の木へと叩き付ける。
その威力により勇太郎は体を強張らせるが、幸いな事にライドサイクロンが近くに停められていた。
「そう言うのは出来る確証が出来てから言えよ」
《Account・Burn》
勇太郎は腰に巻いたままだったロインクロスを再起動させると、ホルダーからウイニングのイートリッジを取り出した。
《Change・Winning》
追撃するウインドの風をバーン・ウイニングフォームの風で相殺すると炎を混ぜ合わせてウインドに炎を浴びせる。
「ぐっ…クソ、俺が最初に出て来た時点でイートリッジを奪われてたか!?」
「ご明察だぜ、金剛さんがやってくれたんだよーーだ!」
《Winning・Crush》
バーンの炎の渦を纏った拳がウインドの腹部を貫く。
「…お前、親友の体なんだぞ?」
「そうか? 深層心理ではもっとひどい攻撃を食らわしたもんだぜ?」
「クソッタレ、人生初の大喧嘩で手加減も吹っ切れたってか、クソガキ共が!」
ウインドが即座に体を修復すると、先程とは比べ物にならない暴風を浴びせバーンの四肢をねじる。
「ぐぉあああああ!!」
そのまま地へと叩き付けられた勇太郎は強化アイテムであるボルトリガーを呼び出すが、応答しない。
(ボルトリガーが来ねぇ! …まさか雷電、使ったのか!?)
焦りも束の間、考える暇も与えず突風の刃が勇太郎を襲う。
(強化か……取り敢えず一緒に持って来たアレ、使うか)
攻撃をかわしながらバーンがサイクロン座席下のメットインスペースからウェアラブレスを取り出した。
その一瞬で彼の動きを補足したウインドによる突風の刃はサイクロンを輪切りにし、爆発させる。
爆発を回避したバーンは左腕にウェアラブレスを装着する。
《Account・Frustration》
(アイツが背負って来た痛みってのを、教えてくれよ…!)