《Change・Burn・Frustration》
ウェアラブレスによって変身したフラストル・バーンフォームは今まで以上の力を持った炎を放ち、ウインドの風と混ざり合って辺りを燃やし始める。
想像を絶する火力に勇太郎は危機感を覚えるが、それよりも楓の意識が戻るまでウインドを食い止めなければいけないと言う使命感が先行していた。
「火遊びも程々にしろよ…!」
ウインドは竜巻を複数発生させて周辺の火の方向を操作してフラストルに浴びせる。が、フラストルは諸共せずにウインドに突撃する。
「何が火遊びだ! お前は、人の命で遊んでた癖に!!」
炎を全身に纏ったフラストルに組み付かれた上に正論を突かれたウインドは苦悶の声を上げる。命からがらフラストルを引き剝がした彼は倒れていた黒木の元へと駆け寄る。
「ほざいてろ火島! 俺はこのまま逃げさせて貰うぜ」
暴風によってフラストルの行動を阻みながらウインドは黒木を肩に担ぐと、風の力を駆使して体を浮かべる。
そのままウインドは難を逃れるかの様に思えたが、その瞬間、事態は急変した。
担がれていた黒木が目を覚まし、それと同時に黒い粒子を纏ってラフムの姿を構築し始めたのだ。
「黒木? 寝起き早々やる気満々か? 話を省くがここは逃げるぞ―――」
黒い
するとウインドは体の自由が利かなくなったのか全身を硬直させて落下する。
目の前で起きた出来事にフラストルは混乱する。
「な、何が起こった…?」
「俺の力で”コイツを分裂した”」
分裂、彼の発した言葉の意味についてフラストルが考察している内にウインドは苦しみながら悶え始める。
「分裂、一体どう言う事だ…それに黒木! アンタなんでいきなり目覚めたんだ!?」
「ラフムとしての進化が完了したのさ。それより、俺はここで帰るぜ…お披露目はもっと派手にやりたいからな」
「待て! 仲間のウインドを置いていくのかよ!」
「ハハ、出た~、アイツは仲間じゃないのか!? ってヤツ! ヒーローはそれ言わないと死ぬのかよ?」
「ウインドは利用するだけの仲さ、進化しちまったらもう用済みだし俺の”分裂”で霧島の体ごとズタズタのバラバラにしてやりたかったが、どうも違う形に作用したらしい」
そう言うと靄に包まれたままの黒木は手を振りながら影の中に潜んで姿をくらませた。
不完全燃焼のままフラストルは悶え続けるウインドの様子を警戒していると、途端、彼を中心にして爆発する様に粒子が溢れ出した。
「な、一体なんなんだ!?」
虹色に輝く粒子を払いのけながらフラストルが先程ウインドのいた場所を見ると、三人の人影がある事に気付いた。
「…楓!」
「勇太郎、なんだか凄い粒子で何も見えないけど何とかなったみたいだね!」
粒子の中から聞こえる楓の声にフラストルは安堵すると、途端に体の力が抜け、変身を解除した。その物音を聞きつけて楓が勇太郎に駆け寄ると、静かに笑顔を向けた。
「勇太郎、ここまで本当にありがとう。ここからは任せて」
(アプスさん…あなたに言われた通りにこの力、使ってみます)
――
楓は自身の深層心理にて勇太郎と別れた後、神の世界に誘われていた。
「ここは、神の世界…」
楓が辺りを見回すと、案の定この世界の神―――アプスが立っていた。
「霧島楓…この短い間に強くなったな」
「強くなった…?」
ああ、と相槌を打つとアプスは海を越えた先の方向を指し示した。
その先には様々な色の光が収束し、一点の極彩色の光が生まれていた。
「何ですかアレ」
「あれこそが、貴様の魂から神界へと流れていた、
「まことなる、力」
それを聞いた時、楓は無意識に光へと手を伸ばしていた。アプスはその様子を感慨深げに見つめる。
砂浜から水平線の先まで、人の手では届かない筈の距離であったにも関わらず、気付けば光は楓の手中に収まっていた。
「貴様は私に言われた通りに、強くなったのだ。もう全てを知っても惑う事は無い。今貴様にその力―――」
「―――”インテグララフム”の性質を伝授しよう」
極彩色の光を両手で抱える楓ははい、と高らかに叫ぶと、アプスから光へと視線を移す。
「その光はお前がウイニングとしての力を行使する際余剰になっていた本来の力だ。それを手から体全体へと吸収させるイメージをするんだ」
「難しい事言いますね……でも、何だか元から僕の体の一部だったみたいに、スッと、入っていく」
目の前で起こっている出来事に楓は驚くが、それが自分にとって当然の事なのだと理解出来た。
「光を吸収すればする程、多くの情報が入って来て、でも、それが当たり前の様に受け入れられる…迷いも不安も無い、ただ、これが自分にとって良いコトなんだって、分かります」
「そうだ、それこそが
光を吸収し終えた楓はアプスに諭される前に彼の発言を続ける。
「この世の
「ああ、その力でティアマトの野望を砕け」
そう告げると、アプスは楓の肩を叩くと、少しだけ微笑んだ。
「まずは、今までの様にウインドを深層心理から操作して黒木陽炎に接触させろ。ヤツの性質なら貴様が取り込んだ人間が全員分裂するだろう。そこからは形勢逆転だ」
「インテグララフムの本領を見せてやれ……楓!」
「はい、神様!」
「ふ、これから貴様は更にこちらへ来る様になるだろう。もっと気安く呼んでくれて良い、アプスとな」
楓は軽く頷くと、意識が遠のいていくのを感じ始めた。
「もうすぐ僕も戻ります…それじゃあ、アプスさん」
「勝って来ます」
自信満々に言い放った楓に、ウインドに精神を弄ばれていた頃の面影は無い。ただ、自分の思いのままに戦い、悪を打ち砕く強い意志に溢れていた。
アプスが数十年待ち続けた最強の戦士がここに爆誕した。
――
「ウインドは僕が倒す。勇太郎は傷付いている人々と石井さんを保護して離れていて」
勇太郎が自分も戦うと進言しようとしたが、ウェアラブレスの力は思った以上に負荷が強く、まだ頭が揺さぶられている様な感覚が残っていた。ここは楓に任せ、合流した恵介と共に負傷、及び心肺停止したD部隊員を抱えて引き下がる。
いつの間にか虹色の粒子は晴れ、その場にはウインドと楓が残っていた。
「まさか俺が自分の体を取り戻すとはな…少し不服だがまぁ良い、お前を直接ズタズタに切り裂けるんだからな」
余裕の笑みを溢すウインドに楓は一笑すると、勇太郎を呼んだ。
「勇太郎! 僕のライドツール、ウェアラブレスも一緒にちょうだい!」
「そうだったな、にしても良く持って来たのが分かったな…」
勇太郎から投げ渡されたライドツールを装着すると楓は鼻と口の間を人差し指で擦る。
《Account・Winning》
《Account・Frustration》
ラフムの姿へと変貌したウインドは楓へと睨みを利かせると、腰を落として戦闘態勢を取る。
「俺に吸収されていた筈の風の力が戻ってるって事は霧島、お前はもう風の力を使えねえんじゃねぇのか?」
「それはどうかな」
「僕の真の力、インテグラはただ相手の力を喰らって吸収する物じゃない」
楓はそう告げると、大きく息を吸い、それと共にどこからともなく現れた虹色の粒子を体に集める。
その姿は、あまりにも神々しく、その場にいた全員が息を呑んだ。
真の力を解放し、楓の瞳が虹色に変わる。
―――インテグラの反撃が、始まる。