#81 帰還
青年、霧島楓は家族と親友と共に殺害され、怪人ラフムとなってしまった。
大切な人を失った悲しみを背負いながら彼は対ラフム組織バディの支援により、仮面ライダーへと変身した。
しかし彼の深層心理内には自らを殺した仇敵、ウインドが潜んでおり精神が消耗した隙を狙って体を乗っ取られてしまった。
共に殺されラフムとなった親友、勇太郎の助けによりウインドに操られていた楓は復活し、自らに隠された真の力”インテグラ”の能力に覚醒し家族、親友、自らの仇を取らんとウインドを打ち倒したのだった。
――
十二月六日、午前九時ニ十分。
鹿児島県鹿児島市有村町。
桜島の沿岸に位置する崖岸にアガルタ、シャングリラは逃避していた。
「この辺にいればバレずに済む、かな」
先の戦闘で疲労していたアガルタは息を切らしながら周囲の安全を確認すると、着用していたオーバーサイズのパーカーの内側から小型のショルダーバッグを取り出した。
「”ティアマト”は無事な様だね」
「うん、後はティアマトを復活させられる能力を持ったラフムを探さないとだけど…」
シャングリラは少し俯いてから過去にティアマト本人から告げられた言葉を思い出す。
”今から五十年後の十二月十日、その日まで僕は君達には会えない。それまでどうか僕の願いを継いで欲しい”
”あとは任せたよ、バミューダ……”
まるで母が子供に言い聞かせる様な、爽やかで優しい声。彼とはもう既に長い間再開を果たしていないが彼の美しい声色を忘れる事は無い。
「探そう、アガルタ。僕らがティアマトを助け、人を幸せにしていくんだ」
シャングリラは決意のこもった口調で語り掛けると、かつて長良長官から受けた叱責を思い出した。
(”人殺し”…か)
「…確かに僕らは人殺しだね」
「グリくん?」
彼の呟きに疑問を抱くアガルタだったが、すぐに彼の言わんとする事を理解して言葉を返す。
「長良っちに言われた事、だよね」
「そう…僕らは人を殺して来た。でもそれは全部人類が生存する為だろう。今僕らがどんな罵声を浴びようと未来を守るんだ」
「私も、この世界が全部無くなるのは許せない。長良っちが何を考えているか分からないけど、この方法以上に良いやり方なんて存在しないよ」
「アンタらが何を考えてるかは図りかねるが、とにかく俺を楽しませてくれるなら応援するぜ」
木陰から皮肉めいた口調の男が語り掛ける。会話に水を差されたシャングリラ、アガルタはその声の主に勘付き、一様に顔をしかめる。
「シャドー……」
「アジトになんかあった時はここだと言っていたからな。遅くなったが合流させて貰う」
「ところでウイくんは?」
黒木があ、と呟くと少し顎を掻いてから不敵な笑みを浮かべた。
「アイツぁライダーに負けたな。最期は見ちゃ無いがさぞ無様なモンだったろーよ、ハハ」
「シャドー…仮にもウインドは君を友と呼び何度も君を守っていたんだぞ…さっきだって彼が姿を消したのは君を逃がす為だったんじゃ無いのか?」
「あ? 人類の敵さんのお前らまで友情だの何だのとほざくのか? やめてくれよ、他者は利用するモンだろ」
「下衆め……」
シャングリラがシャドーに掴みかかるが、アガルタがそれを制止する。
「待って、シャドーちゃんが今ここにいるって事は”進化”に成功したって事じゃんね?」
アガルタの指摘によってシャングリラが気付くと、黒木から手を離す。
「それで、シャドーちゃんが新しく手に入れた能力は一体何だったん?」
「俺が手に入れた能力は…」
崖岸に波が打ち付け、彼らの声がかき消される。が、黒木の能力の詳細はハッキリと仲間に伝わっていた。
「…マ?」
「なるほどね、それがあればティアマトは復活出来そうだ」
「ヒヒ…任せておけ」
黒木が不敵な笑みを浮かべると、その姿を新生したラフムの姿へと変え始める。
――
午前十時三分。
御剣邸。
”桜島決戦”終了後、救出された長良長官は心身の安否確認を終え少しくたびれた様子で吹雪の執務室へ赴いていた。
「お久し振りです、吹雪様」
「衡壱―――衡壱さん」
吹雪は無事そうな長官の姿を見て瞳から涙を溢れさせた。
「あぁ、いえ、申し訳ございません。取り乱してしまいましたわ…貴方に大事が無くて本当に良かっ―――」
長官は吹雪を力強く抱きしめた。
「吹雪、もう一度君に会えて本当に良かった…」
「衡壱さん……」
吹雪も想いに応える様に長官の背中に触れる。
だが、お互いにこの強い気持ちが遂げる事は無いと理解していた。
吹雪の幼い体で恋などは出来ないのだと、言わずとも分かっていた。
吹雪が鼻をすすって目をこすると、長官へ気丈に微笑む。
「ええ、分かっていますわ。私達が成した罪への罰……死ぬまでこの責を果たしますわ」
「衡壱。最善を尽くしましょう」
「……お任せ下さい。吹雪様」
――
「霧島楓、本日よりバディに復帰いたします!」
同刻、御剣邸内研究室。
先の戦闘で重傷を負い現在も治療中の兄に代わり作業を続ける藤村が直立する楓へと体を向ける。
「霧島君…えっと、久し振りね」
「お久しぶりです! 藤村さんも変わらない様で良かったです」
四日程しか空いていない筈だが、とても長く感じる。
お互い何気なく言葉を交わすがそれぞれの変化を感じていた。
「このしばらく沢山の事があって…私の兄さんが見つかったわ」
「勇太郎から聞きました、無事で良かったです」
胸を撫で下ろす楓の姿に藤村は肩の荷が下りた気がした。
「貴方もね、霧島君」
「こちらも火島君から話を聞いたけれど、本当に大変だったのね」
いやぁ、と頭を掻いて楓は照れるが、藤村は茶化さずに楓を評価する。
「霧島君は少し変わったわね」
「…そうですか?」
「ええ、今までずっと抱えていた重みと言うか、そう言う凝り固まった余裕の無さみたいな物を感じないわ」
楓がラフムとなった直後から彼を見て来た藤村には何か感じる物があったのか、今の楓を見て安心感を覚えていた。
「それで、霧島君の真の力…”インテグラ”に関しての話なのだけれど」
唐突に神妙な面持ちをする藤村に楓は少し緊張しながらも頷く。
「火島君の話の限り、物理法則を超越した現象がいくつもみられたと言うのだけれど、それらについて少し話を聞きたいわ」
「特に貴方が発生させた新たなイートリッジ…ライドシステムとは単に物質を転送させる機能である筈なのに、貴方はそれを一体どこから転送させたと言うの?」
「それはですね―――」
「私から説明しよう」
楓の発言を遮る様に長官が現れる。
ライドシステムを超えた現象について何故長官が説明出来るのか、と怪訝な表情を向ける藤村に長官は眉を八の字にして苦笑いする。
「そんな怖い顔しないでくれ、詳細は皆が揃ってから話そう」
長官が笑うと二人を応接間へ案内する。