仮面ライダーインテグラ   作:虎ノ門ブチアナ

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#82 粒子

 御剣邸内、応接間。

 

 長官に案内されるがままに応接間にやって来た楓は優雅に紅茶を飲む吹雪と対面した。

 

「初めまして、仮面ライダーウイニング…霧島楓」

「あなたが、もしかして御剣吹雪様!?」

 

 彼女の幼い容姿に楓は驚愕する。話に聞いてはいたがやはりこの場所とのミスマッチに頭が混乱していた。

 

「彼女の姿は確かに少女だけれど、長官が不在の間にその代わりとして完璧に任務をこなしていたわ」

「えっ、へー、すごー……」

 

 全く実感が湧かずに感嘆する楓だったが、先に言うべき事がある事を思い出した。

 

「あの、御剣様!」

「吹雪で結構ですわ」

「…吹雪様、前に勇太郎を助けてくれた事、本当に感謝しています。ありがとうございましたッ!!」

 

 深々と礼をする楓に吹雪を紅茶を飲み干すと立ち上がって言葉を掛ける。

 

「確かに勇太郎を救出したのは私達ですが、彼が再起したのは貴方の力ですわ、楓」

「貴方が生きていたから、戦っていたから、勇太郎は貴方の為にと生きて戦う事を決意したのです」

 

「結局勇太郎を救ったのは、楓だったのですから」

 

 朗らかに微笑む吹雪に、楓は少し感激していた、と同時にどんどん心が癒されていく感覚を覚えた。

 

(え~何何~!? 吹雪様と話していると心がほんわかしてくる~? 失礼だけれどまるで田舎のおばあちゃんと話してるみたいだ……)

「…楓」

「えっあっはハイ」

「聞いていた話よりも、とても穏やかですね。今までの戦いの中で心の中にあった(くさび)が抜かれた様な印象を覚えますわ」

 

 そう言われると、と楓は自らの変化を意識する。

 生まれて初めて親友と喧嘩をして、自分の心を縛り付けた大悪党を打ち倒した。

 確かに自分の心に刺さっていたモノを引き抜けた様な晴れ晴れしい気持ちがあった。

 

「それは勇太郎のお陰です」

「つまり僕達は―――」

「互いに支え合ってる、って事だな」

 

 応接間の戸を開け、勇太郎が入室すると共に楓の言葉に続く。

 急に現れ楓は驚くが、勇太郎は満面の笑みで親友の背中を叩いた。

 

「君達は桜島で再開と対峙を経て、少し成長したみたいだね」

 

 長官が二人の笑顔を見て安らいだ表情を浮かべる。

 仮面ライダーとして戦う彼らの心情に寄り添い、支えたいと考えていた長官は、ようやく肩の荷が下りたと言った雰囲気の楓と勇太郎に喜びを感じていた。

 

「かつての君達はどこか責任感やお互いへの気持ちでいっぱいであった様に思えたけれど、今は少し…かなり違うみたいだね」

 

「…そうですか? 僕と勇太郎、何か変わった事なんて…」

「いいや変わったぞ! お前ちょっと俺に遠慮無くなったな! 戻って来る時だって俺にカイロ寄越してくんなかっただろ!」

「そんなの自分で取ってよ! 勇太郎だって僕の分のお茶()がなかったじゃん!」

 

 人目をはばからずに言い争いを始める二人に、藤村は呆れ、吹雪を思わず笑い声を漏らす。

 

「ああ、変わったね」

 

 長官が満面の笑みを見せると、眼鏡を掛け直して口を開く。

 

「それじゃあ気を取り直して本題に入ろうか」

 

 本題―――それは、ライドシステムの正体。

 今まで様々な状況下で起こった物質の創生。

 

 藤村金剛が発明した後、その詳細を伏されたままに使用されて来た未知のテクノロジー。

 

「あの…雷電と大護さんは?」

「彼らには後で説明する。今は彼らにしか出来ない事をやって貰いたくてね」

 

 大護は千歳と共にアイアスの量産化を担当、雷電はサンダーボルテックスの安定化訓練を行っていた。加えて二人はライドシステムについて興味を示していなかった為優先度が低くなったのだ。

 なお、勇太郎と藤村は興味があった事、その知性が役に立つだろうと言う判断により招かれたのだ。

 

「長官、ライドシステムは兄と私で共同開発したものです。そこに私の知らない事実がある、と仰るのですか?」

 

 藤村が若干興奮気味に問うと、長官が少し口をつぐんだ。

 兄が開発したシステムについて全容を聞かされずにいた事は彼女にとって不服と言う他に無かった。

 尊敬はしているが、自分では兄の才能に追い付けない様な気がして悔しかった。

 

「そうだね、今回の説明は君の為にある様な物だ。待たせて済まなかった」

 

――

 

 ―――物質転送機構、ライドシステム。

 否、それは金剛がある事実を秘匿する為に考案されたカバーストーリーであった。

 

 

 十二年前。岐阜県飛騨市神岡町。

 学生時代の金剛は神岡にて自己改良した素粒子観測装置を用いて宇宙から飛来する暗黒物質の解明に努めていた。その矢先に彼はある発見をした。

 現在の科学理論において物質を構成する最小単位とされる素粒子よりも質量が低く、かつ素粒子を含む観測可能な全ての物質に変容しうる汎用性を持った粒子状の物体を観測したのだ。

 

 金剛はこの極小物質を”マルドゥック構成素”と名付け、世界に発表しようとした。しかしその発案は御剣家を名乗る世界の黒幕(フィクサー)に止められた。

 マルドゥック構成素はあまりに万能故、世界全体でこれにまつわる技術を求めた国家による争いの危険性があった。また、世界が全て同じモノで出来ていると言う事実をどれ程の人が納得出来るだろうか。

 藤村金剛の見つけてしまった世界の真実は、今の人類には早すぎる神域の知恵と言う他無いだろう。

 

 御剣家によって後にバディ基地となる地下施設に連れ去られた金剛は、バディの設立に勤しむ長官から今後起こるラフムの脅威を聞き、その知識をバディの為に使うと決めた。

 それからの彼の行動は早かった。マルドゥック構成素を実用する為に遠隔操作による物質の生成技術を開発した後、生成した物質をその場から消失、別地点にて再生成するシステムを完成させた。

 

 

「それがライドシステム……物質を転送させているのでは無く、この世界が同じ物質で構成されている事を利用してその場の物質を組み替えてまるで転送している様に見せているトリックだったのさ」

 

 説明し終えて一息ついた長官の顔を伺ってから藤村は溜息をついた。

 

「確かに物質の転送よりも辻褄が合う話ですね…言わばどこでもドアの哲学、まさか兄がそこまでのモノを発見していたなんて、私でもにわかには信じられません」

「無理は無いよ。霧島君には多少難解な話ではあっただろうが、この事実はかのアインシュタインが提唱した理論を覆してしまうのだから科学に造詣(ぞうけい)の深い人間なら頭がパンク寸前だろう」

 

 淡々と長官は述べるが、藤村は眉間にしわを寄せたままであった。楓は何の事かさっぱり分からず、勇太郎の顔を覗き込む。

 

「勇太郎は意味分かった?」

「ああ…う~ん、つまりは、この世の物は全部同じ物質で出来てて、金剛さんはこれを好きに組み替えられる―――要は、ここにあるテーブルを無限に作ったり消し去ったり出来るシステムを作っちまったんだな」

「それがライドシステム?」

 

 勇太郎が頷くと、楓は今までの現象を思い出す。

 

「例えば、僕が仮面ライダーに変身する時、どこからともなく鎧やインナーが装着されたのは…」

「その場にある大気や瓦礫を鎧やインナーに組み替えていたんだ」

 

「それと、ラフムには微力ながらマルドゥック構成素を操作する力がある様で、故に変貌時粒子を放出しながらラフムに姿を変えるんだ」

「あの光の粒子は全く気付かずに大気がラフムを構成する物質に変換されていたンスね」

 

 うんうんと勇太郎が腕を組んで頷くと、長官もそれを肯定する。

 

「つまりラフムもライドシステムと同じ仕組みを用いていた事になる」

「それじゃあ僕がダブル・イートリッジを生み出したのも…」

「インテグララフムが持つ強大なマルドゥック構成素の操作能力により君の望んだ物が作り出されたと言う原理だね」

 

「あと、楓がインテグララフムの力を使う時、目が虹色に見えたんですけど!」

「これは推測だけれど、インテグラの能力を解放する際に何らかの機能で虹彩内のメラニン色素がライドシステムの要領によって、遺伝子レベルで組み替えられてしまった事を意味しているんじゃ無いかしら」

 

 顎に手を当てながら返した藤村の言葉に勇太郎は手槌を打って理解する。

 

「なんか、詳しくは分からないんですけど、なんとなく分かりました」

「僕は取り敢えず自分の使っている力の秘密が分かっただけで後は大丈夫ですけど、藤村さんは…」

「私も、その理論を知ったからには病床の兄に代わって更なる技術の開拓に臨む所存です」

 

「意外と早く飲み込んでくれて良かった。何とか一つは秘密を明かせたね」

「一つ? 秘密…?」

 

 長官の言葉に藤村が(いぶか)しむ。

 

「ああ、何と言うか、申し上げづらいのだが、今までスムーズな計画実行の為皆に隠していた事が色々とあるんだ。今回の事だけに飽き足らず、色々とね……」

「しかしもうあまり時間が残されていない、今の内に出来るだけ君たちに誠実でいたいと思ったんだ。勝手な話だが、まだまだ驚いて貰うつもりだ」

 

 気難しい顔でそう伝えた長官に、楓が笑顔を向ける。

 

「僕は長官の言葉を信じています。怪物になった僕に、”勝利”と名付けて信頼してくれた長官を今度は僕が信頼します」

「お菓子ご馳走なりましたからね、義理は通しますぜ」

 

 楓と勇太郎の言葉、そして彼らと賛同する様に凛々しく微笑む藤村に長官は感謝の気持ちで胸を満たす。

 

「皆、ありが―――」

「十時三十一分、静岡県榛原郡川根本町にラフム出現! 現在出動可能な機動隊員は速やかに戦闘態勢に入り、現場へ急行して下さい!」

 

「久し振りの呼び出し、と言った感じだね…皆、よろしく頼む!」

「了解!!」

 

 楓、勇太郎、藤村は長官からの頼みに応じ、瞬時に出動準備に取り掛かる。

 

――

 

 同時刻、御剣邸内訓練室。

 

 霹靂に変身して雷のコントロールを行っていた雷電は先程のエマージェンシーコールを聞いて、呆然と立ち尽くしていた。

 

「そこって……」

 

 目的地は、雷電にとって家族との最後の思い出の場所だった。

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