十二月六日、十時三十二分。
御剣邸内地下駐車場。
「ライダーの皆、射出準備は完了しているわ。目標地点へ向かって」
インカムから藤村のアナウンスを受けると、それぞれが指定の場所へと向かう。
が、雷電の様子が気になった勇太郎が彼の肩を叩く。
「雷電、確かあの場所って」
「俺の家族が殺された場所ッス」
「…メインは俺と楓が担当する。雷電はサブで待機していれば大丈夫だ」
勇太郎の言葉に雷電はウス、と素っ気無く返す。確かに彼の心に不安がある様だが、いつも通り冷静に対処をしてくれそうだと勇太郎は安堵する。
「それじゃあまた後でな!」
勇太郎が雷電の背中を軽く叩いて別れると、今度は楓の元へと連絡を送る。
「楓、お前のウイニングイートリッジ、壊れてたよな。変身は別のフォームを使うのか?」
ウインドラフムとの戦いで失われた”ウイニング”のイートリッジは、インテグララフムの力を取り戻した状態では完全な修復、再現は不可能だと勇太郎は考え、楓の身を案じる。しかし楓は何らかの算段が付いているのか何も気にしていなかった。
「インテグラは僕の願いに応えてくれる…例え僕がウイニングラフムじゃ無くなったとしても……」
楓がその手に力を込めると、瞬く間にウイニングイートリッジが出現する。
「お、行けそう」
「簡単に言ってくれるぜ……」
先程長官から説明されたマルドゥック構成素、それが楓の願いを受け新たにウイニングイートリッジを生成したらしい。インカムの向こうから聞こえる超常的な現象の発露をもう疑う事すら出来ない。
「とにかく、準備が出来たなら急ぐぞ!」
「オーケー!」
――
《Account・Winning》
《Account・Burn》
《Account・Thunder》
《アイアスシステム・ブート》
射出用の車両の元に集った四人の戦士が変身を開始する。
《Winning》
《Burn》
《Thunder》
《Palladion》
「変身!」
各人の叫びがこだますると、それぞれが手に持つイートリッジをベルトへ装填し、その姿をライダーへと変身させる。
《Change・Winning》《Burn》《Thunder》
《ネームド・Palladion》
《アクセプト・エキスパンション》
全員の変身が完了すると駐車場に用意された特殊車両内のライドサイクロンに乗り込み、発信許可を下す。
「発進軸固定、ブースターオン。ライドサイクロン、発進します!」
オペレーターのアナウンスの後、ライドサイクロンが空中へと射出される。
地下駐車場の天井へ接続された特殊車両から伸びる発進用レールを通り、地上の森林に隠された射出口より各マシンが飛び出す。以前までは反動推進エンジンを使用した射出だったものの、金剛の提案を元にした新規の改造により、地下階から電磁気力により射出する加速システムを採用した、さながらレールガンの様な射出形態を取る事が実現した。
これにより以前よりも早く、かつ噴煙を出さない隠密な状態での発進が可能となったのだ。
また、射出時に発生する摩擦、及びGに関してはライドサイクロン自体が作用させるライドシステムにより軽減、まさしく弾丸の様にライダーを打ち飛ばすのだ。
――
十時三十五分。
静岡県榛原郡川根本町。
大井川のほとりにライダーが到着する。
バット、ボマー両名は今回は別件の為参加出来なかったものの、現在確認された敵の規模からライダー四名でも問題無いと判断され今に至る。
続いて到着した機動隊員らは通報者の捜索を開始し、戦闘可能なライダーらはラフムの出現場所へと向かった。
が、霹靂がラフムを発見したその瞬間だった。
「…! どうしてお前が…ここに…いるぅぅぅぅッ!!!!」
途端、霹靂は激昂して戦闘を始めてしまったのだ。
「暁君!? 一旦落ち着いて!」
「うるさいッ!!」
普段は冷静に判断を下す慎重さを持った雷電が、藤村の制止を一蹴する程完全に我を忘れていた。
コードネーム、ブルラフム。
雷電の態度から、彼の猛攻を掻い潜る牛を模した姿の怪物が雷電の家族を殺害した仇である事は容易に想像出来た。
「に…しても、あのラフム、様子がおかしくねえか?」
戦闘の様子を伺うバーンが口元を押さえて同行していたに話しかける。
「雷電の攻撃に反撃をしねぇで全部食らってやがる。まるで雷電が自分に攻撃して来るのを受け入れてるみたいだ」
バーンの推測を聞いて、インテグラはブルラフムと霹靂の戦闘を今一度観察する。
「―――もしかして」
何かに気付いたウイニングが咄嗟にブルと霹靂の間に割って入る。
「暁君、待って!」
ウイニングが取った予想外の行動に、霹靂は歯止めが効かずそのままウイニングを殴ってしまった。
「ぇヴぉっ」
「―――!」
勢い良くウイニングを殴り付けてしまい、霹靂の動きがようやく止まった。
「霧島先輩! アンタ何して―――」
「コイツは君に攻撃しなかった! 何か思う所があるんじゃ無いのかッ!?」
霹靂の渾身の一発を食らってなおウイニングは叫ぶ。
「ブルラフム…アンタも暁君に伝えたい事があるんじゃ無いのかよ!?」
サンダーフォーム特有の電撃のせいかウイニングは立ち上がれずにいた。が、必死の思いで言葉を紡ぐ。
本当にブルラフムが暁雷電との因縁を覚えていて、かつ何か考えがあって攻撃を受け続けていたのか、その真意を確かめなくてはいけないと思ったから…。
「…このまま黙って死のうと思っていたが…一言だけ言いたい事があったな」
「ありがとう、ウイニング。私に時間をくれて」
ブルラフムがそう告げると、変貌を解いて人間の姿を見せる。
長身長髪で、全く身なりを整えていない女性が、千鳥足で雷電に近付く。
「お前の家族を殺したのは私だ。済まなかった」
あまりにも簡単にそう告げ、頭を下げる彼女に、霹靂は呼吸すら停止してしまった。
「―――」
「―――おま、おまえ、おまえそんな言葉を、伝えたかったのか」
霹靂の声が上ずる。自分の家族を目の前で殺害した犯人が謝罪している光景を受け入れる事は彼には出来なかった。
「謝れば許されるのか? 頭を下げれば流せるのか? 俺の家族を奪った事を認めといて、そんなんで良いと思ってんのか…?」
不意に霹靂が手を伸ばし、ブルの首を掴む。その手に段々と力が加わり、彼女を締め上げる。一方のブルは首の血流が止められ、意識が朦朧としながらも体に爪を立てながら耐え、反撃をしない。
「! 暁君!!」
「アンタは黙ってろ!」
止めようとするウイニングを突き飛ばし、霹靂は殺意を露わにする。
「俺は…コイツを許せない」