仮面ライダーインテグラ   作:虎ノ門ブチアナ

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#86 儀式

「なるほど…アプスさんはそんな大変な事があったんですね」

 

 楓が腕を組みながら理解しているのか理解していないのか定かでは無い返事をする。

 

「次は私の話に移るよ。アプス様と出会った時の話をしよう」

 

――

 

 一九四四年、十月二十四日。

 午後十五時。

 シブヤン海上。

 

「敵機攻撃着弾! 被害甚だ―――」

「被害状況を伝えろッ!! どこがやら―――」

 

 耳をつんざく爆音と共に艦内にいた士官が吹き飛ばされていく。

 辺りから海水が漏れ出し、血液と混ざって足元を濡らす。

 

 この艦は終わりだと、そう告げる様に次々と破壊と死が行き交う。

 

 

 いずれ自分もこのまま海の藻屑になるのだと、下士官の一人、長良衡壱は絶望のまま沈む戦艦と運命を共にしようとしていた。

 

「兄さん! もうじき退艦命令が出る、そうすれば他の艦に移乗出来る筈だ!」

 

 何の因果か、上官が面白がったのか、同じ艦に配属されていた弟、平弐が叫びながら兄を引っ張る。

 

「生き残るんだ! 何があっても!」

 

 血に塗れ、煙に巻かれてもなお生きようともがき続ける平弐の姿に衡壱は生気を取り戻し、互いに肩を組んで壁をつたいながら戦艦の上部へと向かう。

 しかし、近付いて来た敵戦闘機の空襲により、彼らのいた場所の付近が爆破した。

 その衝撃で二人はフィリピンの海へ放り出され、肩を組んだままに落下した。

 

 もう助からない、そう覚悟し衡壱の意識は遠のいた。

 

――

 

 衡壱は気が付くと砂浜の上にいた。遠くから爆撃の音が未だ聞こえる。

 周囲を見渡しても先程までいた艦は姿を捉えられず、既に没したのだと絶望を抱えながら傍にいた弟を起こす。

 

「起きろ、平弐。俺達、何とか生きてるみたいだぞ」

「? …あの状況から?」

 

 平弐も混乱しながら体を起こし、辺りを見回して顔を曇らせる。

 

「兄さん、武蔵は」

「分からん、しかしまだ大丈夫だろう。あん(ふね)は強いからな」

 

 とにかくここで突っ立っている訳にもいかない、と二人はゆっくりと腰を上げ、乗り上げられた島の散策を始めようとした。

 

「お、おめーら生きてたのか、良かった助けたの損しなくって」

 

 付近の林からおよそここの住民では無いだろう外国人が出て来た。

 

「食料を取って来たから食ってくれ」

「あの…」

「量はあるから遠慮すんな、好き嫌いもすんなよ」

「そうじゃなくって」

 

「あなたが助けてくれたんですか?」

 

 困惑の中眉をしかめて平弐が問う。外国人の男はそうだ、と答えるとバナナの房を平弐に投げ渡すと、自らも持って来た房の中から一本を取って食べ始める。

 

「どうやって助けたのかはまぁ聞くな。お前らにはやって欲しい事があってな」

「何故俺達なんだ?」

 

 衡壱が続けて問うと、男は食べ終わったバナナの皮を投げ捨てると、林の中へ入っていく。

 

「ついて来い」

 

 長良兄弟は顔を突き合わせると、不信に思いながらも男に同行する事にした。

 

「…ところで、あなたのお名前は?」

 

 平弐が問うと、男は顎に手を当てて唸り始めた。

 

「そうだな、名乗りたくないな」

 

 な、と衡壱が衝撃と苛立ちを混ぜた声を漏らす。

 

「あぁ、気を悪くするなよ。今名乗ると面倒な事があるんだよ。とりあえず呼び名は必要だからな…」

 

 更に男は唸ると、何かを閃いた様に二人へと振り向いた。

 

「シー・ディーと呼んでくれ」

「なんだそれ、本名のアルファベットか?」

「ジョン・ディーってヤツがいるんだが、あれの海版的な? ソレだソレ」

 

 彼の発言の真意は全く掴めなかったが、名前が無いよりは良いと考え、彼をシー・ディーと呼ぶ事にした。

 

――

 

「一旦休むか」

 

 シー・ディーがそう告げる頃には辺りは真っ暗になっており、衡壱と平弐は疲労困憊していた。

 

「俺達は一体何キロメートル歩かされたんだ…?」

「まぁそう言うな、これも全てお前らの為でもあるんだ」

「そうは言うが、一体何をしようとしているんだ、アンタは」

 

 仲間の安否も分からないままここまで連れて来られた衡壱はひどく憔悴していた。平弐も同様に落ち着かない様子で不安に満ちた顔をシー・ディーに向ける。

 

「そうだな、これからやってもらうのは―――」

 

 シー・ディーが説明しようとした矢先、林の奥から男性らの声が聞こえて来た。興奮した様子のその声は段々近付いて来ていた。

 

「!? 現地民か!」

「僕達がいると攻撃して来る、早く逃げよう!」

「…付いて来い!」

 

 シー・ディーの指示に従い全員で走る。

 休む暇も無く動かされる事に長良兄弟の不満は募るが、今は逃げる事で精一杯だった。

 

「まだ追って来るぞ!」

「あともう少しの辛抱だ、走れ!!」

 

 彼らが走り続けると、暗がりの中に小さい洞窟が見えて来た。

 

「お前らはそこに入ってろ! 俺は現地民を説得してから行くから息を潜めてるんだぜ?」

 

 そう言うとシー・ディーは暗さの余り洞窟を補足出来ていない二人を無理矢理押して近くにあった草で入口を隠した。

 

 

「一体ここは…」

「分からない、だが、アイツの言う事を信じるしか…無いな」

 

 光の無い洞窟の中で二人が静かに待っていると、外の声が聞こえなくなり、入口を隠していた草が取り除かれ光が差した。

 

「!?」

「あー驚くな、俺俺、シー・ディーさんだぜ」

 

 現地民との問答が何とかなったのか、シー・ディーは松明(たいまつ)を持って洞窟の中へ入っていく。

 

「入口は狭いが中は広いんだぜ、ココ。奥まで進んでいってくれ」

 

 言われるがまま長良兄弟が進むと、辺りが急に広くなり、一つの部屋の様になっていた。

 そこには数点の書物と化学実験用の器材らしきランプやフラスコが置かれていた。

 

「ここは…実験室?」

 

 平弐は学生時代に化学の研究室に立ち入っていた機会があった故か、それらの器材が何の為に使う物であるのか予想を付けていた。

 

「その通りだ、さて…改めて事情を説明するか」

 

 シー・ディーは書物を開くと、松明から部屋のランプへ火を移して場を明るくする。

 

「お前らにはある儀式を行い、人を超えて貰う」

「…今なんて言った?」

 

 衡壱が固まる。彼の発言の意図が全く読めなかった。

 

「海外から伝わって来た技術なんだが、それを使えば人は進化して他者を導き、より良い世界にしていけるって訳だ」

 

 そう説明するとさらに”儀式”の準備を進めていく。

 

「進化する…? どうして僕らなんですか?」

「ふむ…”素質”だろうか、まぁ俺にはそう言うのが分かるから助けたんだよ。世界をいいモノにして欲しいからな」

「この力を使えば、こんな世界を変えられるんですか?」

 

 平弐の問いにシー・ディーが頷く。

 

「…分かりました。その儀式を受けます」

「平弐ッ!!」

 

 衡壱が平弐の肩を力強く掴んで叫ぶ。良く分からない事に弟を巻き込む訳にはいかない。

 

「シー・ディー、助けてもらった義理はあるが、お前の言っている事は尋常とは言えない。その願いには乗れない」

「乗れないからどうするんだ? お前らはこの島から脱出する術も無い。外へ出ればまた現地民に襲われる訳だが…」

「俺らが逃げられない状況にしていた訳か…余りにも周到だな」

 

 怒りに身を任せて衡壱がシー・ディーの襟を掴む。

 

「恐怖、不安…分かるぜ、長良衡壱君」

「! シー・ディー…どうして俺の名前を知っている…!?」

 

 シー・ディーは不敵な笑みを浮かべると、何かを呟き始めた。

 

「e-nu-ma e-liš la na-bu-ú šá-ma-mu…」

「何を言っている…やめろ!」

 

 衡壱がシー・ディーを止めようとするが、急な頭の痛みに遮られ、体が動かなくなる。平弐も同様に震えながらうずくまる。

 

「šap-lish am-ma-tum šu-ma la zak-rat…ZU.AB-ma reš-tu-ú za-ru-šu-un…mu-um-mu ti-amat mu-al-li-da-at gim-ri-šú-un…A.MEŠ-šú-nu iš-te-niš i-ḫi-qu-ú-šú-un…gi-pa-ra la ki-is-su-ru su-sa-a la she-'u-ú…gi-pa-ra la ki-is-su-ru su-sa-a la she-'u-ú」

 

 シー・ディーの詠唱により、長良兄弟の体は人のカタチを失い、大爆発を起こした。

 

「おーおー、これが人を超え、ラフムを超えた神の概念を持ったラフム……神々(ディンギル)ラフムの力か」

 

 シー・ディーが爆発の中から出て来て拍手する。

 

「そしてもう一柱……ラフムの母、全ての人類を進化へ導く神の力…ティアマトラフム」

 

 洞窟を破壊し現れた二体の超巨大なラフムが辺りを破壊し尽くす。

 

「ハハ、愉快だな」

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